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高知発、「仕事創造アイデアソン」は何をもたらしたか? ──地域協働と産学官民連携の挑戦(前編)

2015年10月20日



高知発、「仕事創造アイデアソン」は何をもたらしたか? ──地域協働と産学官民連携の挑戦(前編) | あしたのコミュニティーラボ
高知県で学生と企業人が参加するアイデアソンが行われた。2015年4月に発足したばかりの高知大学地域協働学部と、高知県産学官民連携センターによる共催だ。高知では、多様な人々の知恵を結集しながら、社会課題の解決と新たな価値を創出する人材を育み、地域イノベーションを成し遂げようとしている。

大学×地元企業の共創で高知の未来を切り拓く ──地域協働と産学官民連携の挑戦(後編)

土佐の連携で世界共通の課題解決に挑む

高知のものづくりを盛り上げる。地元企業と学生とのつながりをつくる。イノベーションを連鎖させる。そんな目的のもと産学官連携の「仕事創造アイデアソン」(主催:高知大学地域協働学部・富士通株式会社/共催:高知県/協力:あしたのコミュニティーラボ)が8月24日、高知大学で開催された。

参加したのは高知の製造業6社と、高知県内外の学生、富士通グループの社員、県職員で、テーマは「自然災害との共生」。増加する避けようのない自然災害に対し、まちの持続可能性をどう保つか。自然の豊かさの一方で台風や南海トラフ大地震など自然の脅威にもさらされている高知から、世界共通の課題を考えてみた。小さくともキラリと光る高知の製造業の特殊技術を駆使して、自然災害に耐え得るイノベーティブなアイデアを生む、というのが趣旨だ。

参加企業の技術を用いて、テーマに対しアイデアを出し合う
参加企業の技術を用いて、テーマに対しアイデアを出し合う

高知大学地域協働学部講師・須藤順さん、NPO法人ミラツク代表理事・西村勇也さん、株式会社和える代表取締役・矢島里佳さんの話から、イノベーション創出と社会課題解決に関するヒントをインプットした後、参加者は三々五々、高知の製造業6社のブースをまわって、各社の技術説明を聞いた。いずれもニッチな領域で高いシェアを誇るオンリーワンメーカーだ。

参加企業
・宇治電化学工業株式会社…研磨剤、研磨システムの製造・開発
・株式会社SKK…クレーン船や浚渫(しゅんせつ)船の製造
・兼松エンジニアリング株式会社…強力吸引作業車、高圧洗浄車など特殊車両の製造・開発
・株式会社太陽…耕うん機の爪および爪軸の製造・開発
・ニッポン高度紙工業株式会社…コンデンサおよび電池用セパレータの製造・開発
・ひまわり乳業株式会社…地産の牛乳や乳製品の加工・製造

ワールドカフェ、アイデアカメラ、スピードストーミング、アイデアスケッチ。こうしたワーク手法を通じて1人ひとりがアイデアを生み出し、それを参加者全員のふるいにかけ、9つのアイデアに絞った。学生と企業人混合の約90分間のチームワークにより、使用場面を想定したプロトタイピングを駆使するそれぞれ独自のプレゼンでアイデアを競った結果、3チームが受賞した。

グランプリの栄誉に輝いたのは「太陽スーツ おばチャージ」チーム。”おばちゃん”をターゲットに定め、太陽光発電フィルムを装着した衣類で、日焼け防止と自己発電、シニア層新ファッションの一石三鳥を狙った。「おばちゃんパワーによるアピールで高齢化とエコとエネルギーという3つの課題に挑み、実現性も高い」(富士通地域新ビジネス推進統括部長(2015年8月当時)・渡辺豪千さん)ところが評価された。コント仕立てのパフォーマンスも満場の拍手喝采を受けた。

グランプリを受賞した「太陽スーツ おばチャージ」チームグランプリを受賞した「太陽スーツ おばチャージ」チーム

企業と学生が対等に連携する濃密な接点を

「仕事創造アイデアソン」に参加した6社のメンバーは全員、アイデアソン初体験。とりまとめ役を務めた宇治電化工業の川村進一さん(管理部次長)は各社が参加した共通の動機について「採用活動で学生との関係が希薄になってきたので、もっと濃密な関係を築くなかから採用に結びつけたい。学生と対等の立場でコラボレーションしながらアイデアを考えるアイデアソンは、さしあたって良いきっかけになるのでは」と、最初から期待があったと語る。

宇治電化学工業 管理部次長 川村慎一さん
宇治電化学工業 管理部次長 川村慎一さん

高知に限らず地方の中小企業の大卒採用事情は厳しい。特に、大都市の大手企業が採用意欲を高めている昨今では、もともと大企業志向の強い学生はそちらに流れやすく、地方の中小企業は「売り手市場」に苦戦を強いられている。

そうした現状を背景に、学生とのより濃密な接点を求める手立ての1つとしてアイデアソンを活用したい、というわけだ。兼松エンジニアリング株式会社の岩田幸徳さん(人事部主事)は「アウトプットに期待しての参加というよりも、自社を学生さんにもっとよく知ってもらうのが最大の目的」と話す。

リクルートスーツに身を固めた学生との間で、得てして上っ面の建前が行き交うだけの採用の現場では望むべくもない、企業と学生が胸襟を開き合って率直に交流し合える機会。川村さんのいう“濃密な関係”とはそのことを指している。

「しっかりとしたアイデアや意見をどんどん出してくださり、採用の場面ではなかなか見えてこない学生さんの“素”の部分がよくわかりました」と株式会社SKKの森山万里子さん(管理部管理課長)が言うように、各社とも手応えを感じたようだ。同時に企業側も、ニッポン高度紙工業株式会社の森下雅道さん(管理部人事課)が明かすように「どうしても採用となると一定の壁をつくりながら距離感を保ってお話ししますが、今日はのびのび自分を出せました」。グランプリ獲得の「太陽スーツ おばチャージ」チームのプレゼンでおばちゃんに扮し、ひょうきんな“素”を全面開示した森下さんの演技は爆笑を誘った。

「おばチャージ」のコスチュームを着た森下さん。「おばチャージ」チームはコント仕立てのプレゼンを行った「おばチャージ」のコスチュームを着た森下さん。「おばチャージ」チームはコント仕立てのプレゼンを行った

一方で、新たな価値を生み出す共創の場としても、参加各社は新鮮な刺激を受けたようだ。株式会社太陽の小島康裕さん(経営企画室課長)は「新事業の展開を目指す創発の取り組みを社内に根づかせるヒントになりました。スタッフのみなさんが今回のプログラムをどう設計したか、その裏側をぜひ知りたい」と望んでいる。ひまわり乳業株式会社の坂井稔幸さん(取締役管理本部長)は「さまざまな部署のメンバーを集めて、突拍子もない意見でもいいから何でも話し合う場を設けたい。そうすれば若手の斬新なアイデアを引き出せる会社になれるのでは」と思い至った。

とりまとめ役の川村さんはオブザーバーとして参加。ワークにはげむ各チームの様子を観察した。他人のアイデアを褒めまくれとファシリテーターが促し、審査員の講評でも良いところを拡張して讃える姿勢を目の当たりにして「“できないからやらない”発想で仕事をしてこなかったか、多くの良いところを見ずにわずかな悪いところをあげつらい、創造の芽を潰していたのではないか」とわが身を振り返る。

アイデアソン初参加は高知の地元企業に貴重な気づきをもたらした。

困難にへこたれない地域協働リーダーの育成

「仕事創造アイデアソン」を高知県・富士通と共催した高知大学地域協働学部は、2015年4月に発足した新設学部だ。1期生67人(女子7割)が、地域に深く入り込む実習と、知を受発信する教室での座学との往還によって“地域協働型産業人材”に成長すべく、実践的な学びに取り組んでいる。

「高知大学では10年ほど前から、祭りを手伝うなど地域における社会活動と学びを連結させるサービスラーニングを一部の先生方が実践しており、地域の中小企業や東京のベンチャー企業と連携したインターンシップ・プログラムも提供していました」と、新学部設立の背景を語るのは地域協働学部講師の須藤順さんだ。カリキュラム開発に携わった1人である。
高知大学 地域協働学部講師 須藤順さん高知大学 地域協働学部講師 須藤順さん

「そうした素地のうえで、散発的なボランティア活動ではなく、地域と深く連携した体系的な学びによる実践力を身につけ、地域で仕事を創出できる人材を輩出することがこの学部の目的です。それに伴い、教員の在り方も変革が求められています。地方の国立大学では今後、“教育か研究か”の古い図式を超え、教員が地域活動に関与し、教育や研究を通じて地域に対し何らかの付加価値を提供する役割を担わなければなりません」

目指すのは、次にある4つの人材像だ。

① 地域の農林水産資源を活かして起業する「6次産業人」
② 地域の人・モノ・組織をコーディネートして事業を創る「産業の地域協働リーダー」
③ 住民・企業と共に地域課題の解決に向けた政策形成をコーディネートする「行政の地域協働リーダー」
④ 住民・企業・行政と共に地域の暮らしを支える事業をプロデュースする「生活・文化の地域協働リーダー」

いずれも“リーダーの養成”というところが重要、と須藤さんは強調する。

「課題を発掘しアイデアを生むまでは誰でもできます。肝心なのは、多様な人を巻き込みながらへこたれずに前へ進む突破力を持ち続けられるかどうか。正解はないし、壁もたくさん立ちはだかるけれど、周囲を焚き付けてでも完遂する強い意志で困難に立ち向かえる。そんな人材を1人でも多く社会に送り出す必要があるのです」

地元企業、学校機関、富士通グループから参加したメンバーは「仕事創造アイデアソン」から大きな成果を受け取ったようだ。今回のイベント開催の背景には、2015年4月に発足したばかりの、高知大学地域協働学部と高知県産学官民連携センターの活動がある。新学部と産学官民連携センターの開設により、高知県が目指す未来とはどんなものか? 引き続き後編では、各々の取り組みについて話を伺っていく。

大学×地元企業の共創で高知の未来を切り拓く ──地域協働と産学官民連携の挑戦(後編)

関連リンク
高知大学 地域協働学部
宇治電化学工業株式会社
株式会社SKK
兼松エンジニアリング株式会社
株式会社太陽
ニッポン高度紙工業株式会社
ひまわり乳業株式会社


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