高知発、産学官連携による「仕事創造アイデアソン」は何をもたらしたか? ──地域協働と産学官民連携の挑戦(前編)
「知識と体験の統合」のサイクルを回し続ける
高知大学に新設された地域協働学部では、1年生から3年生まで、高知県各地をフィールドとした600時間を超える実習科目が配置され、それらはすべて、目指す4つの人材像(前編参照)に紐づいている。
実習パートナーは地域に根づいた企業やコミュニティー組織、NPO法人などだ。地場産の逸品発信にこだわった「土佐せれくとしょっぷ てんこす」、原木椎茸やブルーベリーを栽培する観光施設「ゆとりすとパークおおとよ」、地域住民が担う交流と支え合いの拠点「香南市西川地区集落活動センター」等々……。
「“地域協働研究”が4年間にわたり通貫して組まれていて、学生は1年生から学年研究論文を書き、実習先の住民や地域のパートナーを招いた「地域協働型学習成果報告会」でプレゼンします。カリキュラム上の特長としては、講義科目と実習科目とゼミがすべて密接に連関していること。頭で得た知識と体で得た経験を統合するしくみで、事前学習→実践→振り返りのサイクルを回します。担当教員は学生の学びの進捗状況や講義と実習の連関を調整し合いながら常にプログラムの改善を図り続けるので、会議の頻度は他学部の比ではありません。レポートの多い学生も大変ですが、教員も大変です」と須藤さん。
高知大学 地域協働学部講師 須藤順さん
学部生には、
2年生…企画立案力を身につける
3年生…協働実践力を身につける
4年生…地域協働マネジメント力の統合・深化
と、学年ごとに明確な目標が設定されている。たとえば、1年生では、実習を通じて自分が理解した地域の印象や特徴を、新聞形式でまとめて地域の人たちにわかりやすく伝えるといった取り組みも予定されている。
学生は地域の“お助け隊”ではない。学生が地域での作業を通じて学ぶのと同時に、地域もまた学生のプレゼンや提案を通じて学んでほしい。その姿勢を堅持し、地域と大学が一方通行やもたれあいの関係に陥らないよう、細かく段階を踏んだ成果目標と評価指標を設定した。地域とうまくWin=Winの関係を取り結べるか、教員の力量も試されるのが地域協働学部の教育プログラムだ。
産学官民連携でイノベーション創出を目指す拠点
高知大学地域協働学部の発足と時を同じくして、高知県は産学官民連携センター「ココプラ」(高知県立大学永国寺キャンパス内)を開設した。今回の「仕事創造アイデアソン」もココプラが関わる事業の一環だ。
高知県に大企業は少ないが、アイデアソンに参加した6社のように独自の技術を持った中小企業がある。しかし中小企業の一社単独では、新規事業を起こすための研究開発や販路開拓に取り組むことはなかなか難しい。
「そこで、大学や研究機関の持つ知見を企業のものづくりに活かしたり、行政が企業の販路開拓などをサポートしたりするなど、産学官民の交流機会を設けることによってイノベーションの創出を促す拠点を目指しました」と開設の意図を語るのは、ココプラのプロジェクトマネージャー、片岡千保さん。
ココプラには高知大学、高知県立大学、高知工科大学、高知高専、高知学園短大の県内全5高等教育機関のコーディネイターが駐在し、企業からの共同研究などの相談に応じてふさわしい高等教育機関につなぐ窓口を設置している。また、毎週水曜日には各高等教育機関持ち回りで「大学等のシーズ・研究内容紹介」を実施し、毎月第3金曜日には県内の企業経営者が講師となり参加者と意見交換する「経営者トーク」、さらにはシンクタンクなどによる「イノベーションプロセスの基礎」「地域コ・クリエーション」といったテーマの連続講座を開くなど、産学官民がつながる機会と場を頻繁に用意している。
ココプラのオフィスはフリーアドレス。ここに高知県内全5高等教育機関のコーディネイターが駐在する
4年前から高知県がはじめている「土佐まるごとビジネスアカデミー(MBA)」も、ココプラが目指す産業振興につながる人材育成の一環。「高知県になかった働きながら学べる環境を産学官連携でつくろう」(片岡さん)との意図でスタートした、県内の研究者や経営者を講師に招くビジネススクールだ。
こうした知の拠点、交流の拠点、人材育成の拠点としての機能から芽生えたアイデアを事業化に結びつけることがココプラの最終的な目標となる。企画書作成の段階から助言し、専門家チームによるヒアリングを経て、熟成度の高いビジネスプランは県内外からの英知を結集したサポートチームによって磨き上げ、フィーシビリティスタディ(事業可能性の検証)をかけて事業化へ。この一連の過程をコーディネートして支援するのがココプラの役割だ。
“ここにぷらっと来てください”のココプラ
ココプラの名称はもともと“Kochi Regional Collaboration Platform”の略だったが、片岡さんによれば「英語だとなじみにくいので“ここはイノベーションを生み出すプラットフォーム”。それでもまだわかりにくいから“ここにぷらっと来てください”のココプラ」ということになっているそうだ。
あながち冗談でもなく、中小企業の経営者がぷらっと訪れるようになった。企業人が、何のツテもなくいきなり大学の門を叩くのは敷居が高いが、ココプラなら気軽に相談できる。たとえば「こんな仮説を立てたけれど一緒に検証してくれる先生はいませんか」というように。
商品開発からブランド化までトータルでサポートしてほしい、との案件も進行中だ。量販店のバイヤーとつなげて、マーケットインの発想でアドバイスを受けている。
逆に研究者から事業化のパートナー企業を求めるニーズもある。一例として、平成27年度文部科学大臣表彰科学技術賞を受賞した高知大学総合科学系生命環境医学部門の康峪梅(かん ゆうめい)教授の研究「環境浄化作用高性能鉄吸着剤の開発と応用」の連携先を探るべく、ココプラが相談窓口として動いている。
「アイデアをビジネスにつなげるメインのミッションははじまったばかりですが、みなさんが足を運んでいただき、一緒にディスカッションする気運や文化は醸成されつつあるのでは」と片岡さんは裾野が広がる手応えを感じている。
“高知ではアイデアが生まれやすい。起業したいのなら高知へ。高知にはおもしろい人たちが集まっているから、とりあえず高知へ行ってみようか”
そんな県にしていきたい、と片岡さんは言う。
ココプラ 高知県産学官民連携センター プロジェクトマネージャー 片岡千保さん
人と資源から組み立てる知の拠点づくり
高知県は、各高等教育機関を核にして、人と資源の面から知の拠点構想を進めている。先に述べた高知大学地域協働学部はまさに人から。学内に新たな学部を設け、地域協働リーダーの育成を担う。それに対しココプラは資源。各高等教育機関と地元企業が持っている、それぞれのリソースを組み合わせて新しいものを生み出すという役割を担った。
地域協働学部の須藤さんが話すように、資源があってもそれを活かす人材がいなければ意味は無い。逆もまた然り、人材ばかり潤沢でも、そこに資源・産業がなければ発展はないだろう。この両輪がそろってこそ、車は前に進み出す。
知の拠点になるのは高等教育機関だが、 “産学官民”とか“地域協働”とか、ありがちな漢字を並べてしまうと、いかにも堅苦しい。しかし高知には、ココプラが「ここにプラっと」という意味を持つように、もっとしなやかなノリで新しいことにみんなの力を合わせて挑んでみようという空気がある。太平洋に開いたおおらかな県民性にふさわしい取り組みが、高知で花開きつつあるようだ。
高知発、産学官連携による「仕事創造アイデアソン」は何をもたらしたか? ──地域協働と産学官民連携の挑戦(前編)
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高知県産学官民連携センター ココプラ