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“セルフアドボカシー”によって健常者と同じ競争の場へ ──東大先端研「DO-IT Japan」の挑戦(前編)

2015年10月28日



“セルフアドボカシー”によって健常者と同じ競争の場へ ──東大先端研「DO-IT Japan」の挑戦(前編) | あしたのコミュニティーラボ
全国から障害や病気を抱える小中学生や高校生、大学生を選抜し、進学や就労移行の支援を通じて、将来の社会のリーダーとなる人材養成を目指す──。東大先端研内で行われるDO-IT Japan(=Diversity、Opportunities、Internetworking and Technology)が行っているプログラムの内容だ。活動のスタートは2007年のこと。今では応募者数が十数倍となったその背景には、新たな法律の施行など国内で“障害者差別解消”の動きが活発になってきたことがリンクしている。その先にある“差別のない社会”とはどのような未来なのか。DO-IT Japanディレクターの東大先端研・近藤武夫さんに前後編で話を聞いた。(TOP画像 提供:DO-IT Japan 撮影:青木遥香)

多様な自己決定が尊重される社会を目指して ──東京大学先端科学技術研究センター「DO-IT Japan」(後編)

公平な競争の場を

障害者差別解消の動きは世界レベルで進行しつつある。

2006年12月「障害者の権利に関する条約」(通称・障害者権利条約)が国連総会で採択され、2008年5月に発効した。本条約の締約国は140カ国および欧州連合の国々。日本でも2007年9月に署名し、2014年1月、国連に批准書を寄託した。

こうした国際的な流れを汲み、国内でも「障害者差別解消」の制度改革が活発になりつつある。特に、2013年6月に制定された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称・障害者差別解消法)の施行は、目前(2016年4月)まで迫ってきている。

国際条約をベースとした「障害者差別解消法」では、行政機関、地方公共団体、民間事業者に対し、主に2つのことを禁止しているのが重要なポイントとなる。1つは、障害を理由とする「不当な差別的取扱い」の禁止。もう1つが、社会的障壁の除去を必要としている者に対する「合理的配慮の不提供」の禁止(民間業者は努力義務)だ。

「合理的配慮」とは?たとえば役所などで、障害によって窓口との意思疎通に困難な人がいた場合、その人から意思の表明があれば、役所側は、障害の特性に応じたコミュニケーション(点字、音声読み上げ、代筆、代読など)を提供することを指す。
「セルフアドボカシー」とは、そういった障害を自身で理解し、周辺に理解を促しながら生活に必要なサポートを障害者自らが主張する行動を指している。

内閣府『障害者差別解消法リーフレット』を参考に編集部にて作成

これからは、日常的な場面でこれまで以上に合理的配慮の提供を目にすることになるとともに、私たちも行動することになるだろう。

東京大学先端科学技術研究センター(以降先端研)准教授で、DO-IT Japanディレクターを務める近藤武夫さんは、DO-IT Japanが支援する「合理的配慮の促進」について、次のように説明する。
東京大学 先端科学技術研究センター准教授 DO-IT Japanディレクター 近藤武夫さん
東京大学 先端科学技術研究センター准教授 DO-IT Japanディレクター 近藤武夫さん

「“合理的配慮”というと、たとえばある文字の表示形式を変え、点字印刷のようにすることだけだと捉えられがちですが、本当は私たちが使う印刷物だって、情報が伝わるようにするための配慮の手段の1つに変わりないんです。海外では“Level the playing field(編集部注:公平な競争の場)”と言われますが、私たちは、障害者にテクノロジーという下駄を履かせているつもりはなく、周りの人と同じ状態で勝負ができる土俵を整えているだけ。それが“合理的配慮”の考え方です」
合理的配慮にはテクノロジーの導入が欠かせない(提供:DO-IT Japan 撮影:青木遥香)
合理的配慮にはテクノロジーの導入が欠かせない(提供:DO-IT Japan 撮影:青木遥香)

多様な困難に配慮のあるフェアな学びの環境を知る

障害には、身体障害、知的障害、発達障害などがあり、脳機能の発達が関係する「発達障害」には「学習障害」「注意欠陥/多動性障害」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」などがある。なかでも、学習障害には、印刷された文字を読む、文字を手書きする、計算するなど、それぞれのシーンでさまざまな困難がある。
DO-IT Japanのプログラムに参加した学生たち(提供:DO-IT Japan 撮影:青木遥香)
DO-IT Japanのプログラムに参加した学生たち(提供:DO-IT Japan 撮影:青木遥香)

そのような状態を放置すると、児童1人ではその状態を周りにアピールできないまま授業についていけなくなり、やがて不登校になるケースも多いという。DO-IT Japanでは、障害の種別に関わらず参加する子ども・学生を募り、補完するための代替手段(合理的配慮)としてのテクノロジー利用を普及・啓発する取り組みを行っている。

まず、DO-IT Japanの「スカラープログラム」は、年度別に開催され、夏季に「困難を助けるテクノロジーの活用を体験する宿泊プログラム」が実施されている。中高生、大学生のスカラー(参加者)は選抜制で、「学ぶことに対する強い希望」などを選考の基準としている。今年度からは小学生を対象とした「DO-IT Kids」プログラムも展開されている。最近は小学生の参加者が多いことから、こちらは登録制となっており、障害のある小学生であれば誰でも参加が可能となっている。
DO-IT Japanの「スカラープログラム」
DO-IT Japanの資料から編集部にて作成

また、中高生、大学生を対象としたスカラープログラムでは、一緒に参加する仲間たちや、メンターとの意見交換から、それぞれが必要する代替手段としてのテクノロジーを選択する。今年度は13名(中学生3名、高校生7名、大学生3名)のスカラーが夏期プログラムに参加した。また、これまでに参加した小学生スカラーのうち、中学校に進学した12名のジュニアスカラーも継続選抜されている。

今年の8月2日~5日で開催されたプログラムでは、多様なテーマが展開された。初日から2日目にかけてはオリエンテーションのほか、合理的配慮などに関するディスカッションやテーマ別に講義などが実施された。さらに、3日目には様々なICTツールを使い、それぞれが必要とするテクノロジーに触れる実習が開かれた。

加えて、積極的な情報発信も行っている。最終日には先端研で、一般公開のシンポジウムを開催。ここでは合意形成の具体例をもとに、合理的配慮のあり方について一般聴講者と考えていった。シンポジウムにはスカラーたちも参加し、自らの実体験から、学校や試験で適切な配慮を得ていくことについて議論が行われ、4日間の夏季プログラムは終了を迎えた。

自分の困難を説明し、適切な配慮を求めていく方法を知る

「これまで授業についていけなかったけれど、代替するものを知り使いこなせるようになることで、自分たちも学校での学びに参加できる。夏季プログラムを終え、参加者は単なる努力不足や能力不足ではなく、適切な勉強の方法を知らなかったことに学ぶことの困難さの本質があったと気づきます」と近藤さん。
一般公開のシンポジウムの様子。教育関係者だけでなく保護者、スカラーも参加できる(提供:DO-IT Japan 撮影:青木遥香)
一般公開のシンポジウムの様子。教育関係者だけでなく保護者、スカラーも参加できる
(提供:DO-IT Japan 撮影:青木遥香)

たとえば書字障害(文章を読み解くことに困難がある障害)のある子が「授業でワープロを使いたい」と進言したとしても、障害の詳細を知らない先生からすると「それでは他の子どもたちと不公平になるのではないか」と、なかなか理解が得られにくいのが実状だ。夏季プログラムを終えたスカラーは、それを可能な範囲で認めてもらえるよう、通学する学校や受験を希望する学校に自ら働きかけていく。

「スカラーは夏季プログラムを通し、自分にどのような困難があるのかを知り、それを代替するにはどういう方法があるのかを知ります。その配慮がいかに妥当で合理的であるか、客観的なエビデンスを通じて説明する方法についても学びます」

近藤さんはDO-IT Japanの存在意義について「『転ばぬ先の杖』ではなく、どうやって自ら立ち上がれるかを学ぶところ」と表現する。

「周囲が先回りして何もかも決めてしまっては、彼ら自身が何をやりたかったのかがわからなくなってしまう。あくまでもスタートラインは、彼ら自身が未来に何を実現したいと願うか。そこへの過程で、彼らは教室や試験の環境を整える取り組みに関わることになりますが、結果としてこれまで前例のなかった配慮を彼らが次々に更新していってくれています」

障害のある若者たちが自ら活躍のフィールドを生みだす力をつくり出す場「DO-IT Japan」。そこでは自らの困難を客観的に理解し、テクノロジーを使い乗り越えていくサイクルが脈々とつくり上げられていた。後編では、このような場がなぜ起こったのか、それによって生み出される「自立」とはどのような状態なのか、その背景から今後の展望を探る。

多様な自己決定が尊重される社会を目指して ──東京大学先端科学技術研究センター「DO-IT Japan」(後編)

関連リンク
DO IT-Japan
東京大学 先端科学技術研究センター
厚生労働省の定義する、教育における合理的配慮


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