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社会課題は誰が解決するのか? 社会における企業の役割を考える──イベントレポート

2015年12月03日



社会課題は誰が解決するのか? 社会における企業の役割を考える──イベントレポート | あしたのコミュニティーラボ
さまざまな社会課題に挑戦する人たちと共創のプラットフォームづくりを目指す「あしたのコミュニティーラボ」。2015年10月13日、サイト開設3周年イベントを開催し、企業が社会課題にアプローチする方策をあらためて探りました。3名の実践者をパネラーに迎え、一足先に社会課題に挑む活動をヒントに、企業の力でソーシャルイノベーションを加速させるにはどうすればよいのか考えます。

あなたが楽しく立ち上がれば社会は変わる

株式会社富士通研究所R&D戦略本部 シニアマネージャー 岡田誠さん
株式会社富士通研究所R&D戦略本部 シニアマネージャー 岡田誠さん

イベントのモデレーターは、株式会社富士通研究所R&D戦略本部シニアマネージャーの岡田誠さんでした。2011年、国際大学GLOCOM、NPO法人認知症フレンドシップクラブとの3組織共同プロジェクト「認知症プロジェクト」を立ち上げ、現在はその活動を発展させた一般社団法人 認知症フレンドリージャパン・イニシアチブの代表理事の一人でもある岡田さん。イベントの冒頭で、日英企業が国境を超え高齢化社会について議論したプラットフォーム “Futures”の動画を紹介し、企業が多様なセクターと共創してソーシャルイノベーションに挑もうとするのは世界的な潮流であることを強調しました。

「共創」や「ソーシャルイノベーション」の重要性はわかっていても、企業のなかにいると、自分たちのビジネスと社会課題をどう結びつけたらよいのか、もやもやと霧が晴れない……。そんな思いを抱いている人は多いようです。「これまで社内にしか向いていなかった視線をどのように外の社会へと開いていくのか。また、未来のステークホルダーとの関係を、どこからどのようにして築いていけばよいのか。今日はみなさんとそれを考えてみたい」と岡田さんは語り、参加パネラー3名によるプレゼンテーションの時間に移りました。

パネラーは、地域の課題を技術で解決するコミュニティづくりを目指す一般社団法人Code for Japan代表理事の関治之さん、高知大学地域協働学部で地元企業を巻き込んだアクティブラーニングに取り組む須藤順さん、高齢者の見守りという社会課題と本業を掛け算し「まごころ宅急便」を実現したヤマト運輸株式会社の松本まゆみさんの3名です。

トップバッターの関さんは、Code for Japanの活動を紹介。「市民は陳情するだけ、企業は仕事を委託されるだけ」と、これまで行政と接点があるのは一部の人たちのみ。少子高齢化で税収が減り公共サービスが賄えないいま、これではもはや立ち行きません。「主体的な市民コミュニティと行政との協働があるべき姿」と関さんが指摘するとおり、行政と市民がより良い関係を築くためにも、安全で創造的な場づくりが欠かせませんでした。

一般社団法人Code for Japan 代表理事 関治之さん
一般社団法人Code for Japan 代表理事 関治之さん

Code for Japanで実践しているのは、アプリ開発やICTを活用したワークショップです。ICTの活用によって課題の当事者、デザイナーやエンジニアなどのクリエーター、起業家を行政とつなげてマッチングできます。たとえば、消防団員が雪で埋もれた消火栓を探せる消火栓マップ。保育園を地図から探せるアプリ。まち歩きをして地域の情報を集めるマッピングパーティー等々がこの場から誕生しています。

関さんいわく、重要なのは「楽しくやること」。楽しくなければ長続きしません。Code for Japanは、企業から人材を送り込んで自治体の変革を応援する「フェローシップ」と、市民コミュニティ活動への「ブリゲイド支援」の2本柱で事業を展開していて、ブリゲイド支援では、Code for Sapporoから Code for Okinawaまで全国32の地域に広がっています。「まずは市民がつくる。あなたが立ち上がらないと社会は変わらない」と、関さんはメッセージを送ります。

企業と地域がいい関係を築くには

2人目の登壇者・須藤順さんは、高知大学地域協働学部での実践から紹介してくれました。須藤さんが教鞭をとる地域協働学部は、行政・企業・市民────多様な主体と協働し課題解決に挑める人材育成が目標です。学生たちは、座学と実習を往還して地域づくりを学びます。専門科目の6割がアクティブラーニング。論文による進級判定もあり、のんびりしていたら1年生であっても留年してしまいます。医療や福祉のノウハウや価値観を企業のサービス開発へ応用するソーシャルケアデザイン、地域資源を活かすローカルベンチャー育成支援をはじめ、全国各地でのアイデアソンのサポートなど、須藤さんの活動は多岐にわたります。

高知大学地域協働学部 講師 須藤順さん
高知大学地域協働学部 講師 須藤順さん

企業と地域がいい関係を築くにはどうすればよいのでしょうか? それを須藤さんは「言葉や価値観、すべてが違うことを認識したうえで、コアメンバー間の仲間意識を醸成し支え合う。地域は理屈よりも感情で動くことを肝に銘ずべし。“What”と”How”より、 ”Why” を突き詰めることが肝心」とアドバイスを送ります。

須藤さんは、自身が大切にしている視点を教えてくれました。

「何よりも“自分ごと”でなければうまくいかないので、徹底して“わたし”にこだわること。多くのソーシャルイノベーターの活動の起点は身近な課題。目の前にいるこの人を助けたい。その思いがやがて、社会につながっていきます。声を発して共感する誰かを見つける。すべてはそこからはじまります」(須藤さん)

宅急便のドライバーが買物代行と独居高齢者の見守り

3人目の登壇者は、松本まゆみさん。岩手県でヤマト運輸のドライバー時代に起こった出来事が、松本さんの原体験です。いつも荷物が届くのを楽しみにしていたおばあちゃんが、3日後に孤独死していました。集配作業をするだけで、目の前にいた人の命を救えなかった……。わたしに何ができるのか。須藤さんが話したように、まさに“わたし”が原点でした。そんな体験をきっかけに松本さんが企画したのが、買物代行と独居高齢者の見守りを結びつけた「まごころ宅急便」です。

ヤマト運輸株式会社 岩手主管支店営業企画課課長 松本まゆみさん
ヤマト運輸株式会社 岩手主管支店営業企画課課長 松本まゆみさん

全国を網羅する物流ネットワークと、地域に身近なセールスドライバーによるサービスがヤマト運輸の武器です。「まごころ宅急便」では、地域スーパーの商品を配達し、見守り情報は社会福祉協議会へ伝えられます。一社単独ではなく、地元企業と行政を巻き込み、見守りネットワークと地域活性化を同時に成し遂げるのが「まごころ宅急便」のソーシャルビジネスモデルです。

岩手の過疎地域では路線バスを使った試みも。路線バスは高齢者にとって貴重な買物の足となっているため、廃線を招いては大変です。ヤマト運輸が路線バス会社と協働し、路線バスに宅急便の荷物を積み、一定の区間を走ることで、バス会社は路線を維持でき、ヤマト運輸は配送時間の短縮により集荷時間が延長できるなど、サービスの向上につながります。この取り組みはほかの地域にも広がりつつあります。

最後に「わたしは社内起業家でも何でもない、ただの一会社員」と松本さん。「けれども自社の物流ネットワークや対面配達のシステムは、一企業ではなく社会の財産。そうした各企業のもつ財産を持ち寄れば、この国を支えるしくみがきっとできる」と、力を込めました。昭和の時代を必死に支えてくれた人たちの孤独死など絶対にあってはならない。そんな思いを胸に、さまざまな企業と連携しながら目標を立てて奮闘しています。

本当に社会的価値があるなら、お金を払う人はいる

プレゼン後、イベント参加者は、3人の登壇者のテーマごとに4名1組のグループをつくり、質問や感想を3分間話し合い共有しました。そして会場から登壇者へ「モチベーションの源泉になっている原体験」はなにか、「社会課題に取り組む際の収益性」についてどう考えているかという質問が投げかけられました。

本当に社会的価値があるなら、お金を払う人はいる

エンジニアの関さんは、もともと、地域との関わりが希薄なほうだったといいます。しかし、自分に子どもが生まれたことをきっかけに、自治体の子育て支援策が市民へ届いていないことに気づいたそうです。「東日本大震災のボランティア活動でも避難所の情報をマップに落とそうとしたら行政の元データが利用できない。ICTでいくらでも改善できるのに」。そんなときCode for America を知り、日本でも立ち上げました。

須藤さんは、メディカル・ソーシャルワーカーとして社会人1年目で医療機関勤務をしたことが素地としては大きかったそうです。「同年齢の若者が余命1カ月。自分は恵まれているのに一歩を踏み出さないのは、やろうとしてもできない人に失礼ではないか」。そう考えたことが、原体験となりました。収益性については「本当に社会的価値があるのなら、必ずお金を払ってくれる人はいる。そこに届けられていないだけ」と須藤さん。「ソーシャルビジネスの場合、受益者負担のできないことが多いため、ユーザーとクライアントの棲み分けが大切」と補足しました。

「本当に社会的価値があるのなら、必ずお金を払ってくれる人はいる。そこに届けられていないだけ」

それを受けて「企業人として取り組むなら最初から黒字でなければできない」と明言するのは松本さん。「そもそも会社を説得するのは容易ではありません。本業と関係ないことはやめなさいとも言われました。そのとき支えになったのは社訓の1つである“運送行為は委託者の意思の延長と知るべし”。これをテコにプレゼンし、社長賞を獲得。お墨付きをもらいました」。

一方、収益性について関さんは「Code for Japanは“採算ありき”からは入りません」と強調します。安価でプロトタイプをつくり、それでうまくいきそうだったら持続可能になる算段を考える。組織の殻を脱いで当事者の課題を解決する手段を探ります。「企業で働く人に何か提案がありますか」とのファシリテーター・岡田さんの問いかけに、関さんは「週末にアイデアを出し合うのならそんなに大変じゃない。ぜひCode for Japanへおいでください!」と一歩を踏み出す誘いかけも忘れませんでした。

「週末にアイデアを出し合うのならそんなに大変じゃない。ぜひCode for Japanへおいでください!」

コラボレーションカードを使って“問い”を導き出す

今回のセッションでは、「企業が社会課題にアプローチするには?」という問いを、参加者同士でも深める時間を持ちました。そのためにコラボレーションに関するパターン・ランゲージをまとめた「コラボレーション・パターン・カード」を用いたワークショップを行いました。手順は以下のとおりです。

「つくり続ける強さ」「広がりの戦略」「ファンをつくる」「期待を超える」……といったヒントが書かれた40枚の「コラボレーションカード」をグループごとに机の上に広げます。

コラボレーション・パターン・カード

そして、次のようなプロセスでワークを進めました。

(1)各自これは大切と思うカードを3枚選んで付箋を貼る
(2)選んだカードを見せ合い、3枚×人数分のカードを、4つのフェーズに分けて順番をつける
(3)各フェーズごとにカードをTo Do(やるべきこと)と To Be(将来のあり方)に分ける

これらを踏まえて、次のようなテーマで、グループディスカッションを行いました。

(1)社会にインパクトを与えるために大切なのはどのフェーズ?
(2)To-Doリストにあるカードを具体的に実施するアイデアとは?
(3)やっぱりよくわからないことは?

コラボレーション・パターン・カード

「創造的破壊」はどう行うか

ワークショップの後半は、カードを用いて話をすることで生まれた疑問や問いを登壇者に質問としてぶつける時間。ここでは、その一部を紹介しましょう。

Q「カードにあった創造的破壊について。壊したあとどう再構築するのか。壊していいものといけないものをどう決めるのか?」

関さん:Code for Japanでは、ハッカソンなどを通じて初期段階でスクラップ&ビルドをします。ユーザーヒアリングをしつこく繰り返し、あらかじめ再構築しやすいようにつくりこむことが肝心。行政でいえば調達のしくみなど相当な力がないと壊せないものとは戦ってもしかたないので、“裏道を探す”のがポイントです。

須藤さん:“1人で壊そうとしない”ことです。フォローする仲間として、現場に入る人、間を行き来する人、外から必要なときだけ行く人、この3層が必要です。現場に近い人だけだと目が曇る。1人の価値観をすべて信用するのは危険です。見え方の違いを可視化し、壊される相手側にも配慮します。

松本さん:「まごころ宅急便」は自治体が組み上げる事業に沿ったもの。そのため、自分は基本的に「壊さない派」です。ただし継続的な取り組みができない局面に至ったときに、交渉してゼロベースから組み立て直したことがあります。

Q「仲間を増やすことについて。自分にしかわかっていないかもしれない思いをどう言語化してまわりを巻き込むか?」

関さん:言葉にする前にはじめてみる。行動して共感する仲間が2人集まれば動き出します。Code for Japanでは、興味がある人に集まってもらいワークショップを開催。なぜ参加したのか、みんなの思いを集めます。

須藤さん:(関さんの話を受けて)それをツール化したのが「マイ・プロジェクト※」です。マイ・プロジェクトでは、生まれてからいままでの自分の履歴を整理し、それについて互いに話し合います。聞かれなかったから話さなかったことが人にはたくさんある。メンバーの挑戦の背景やいま描いている夢・ビジョンを、仲間が深く知り合っていることで居場所が生まれ、これが挑戦するために必要な土台となる。この土台があることで一歩踏み出す勇気と安心感が生まれる。言語化による自己肯定の作業と一歩踏み出す実践を同時並行するのがマイ・プロジェクトの手法です。

※マイ・プロジェクト
「マイ・プロジェクト」(略して「マイプロ」)は慶応大学SFC井上英之研究室から始まった教育手法。メンバー1人ひとりが感じている生活・仕事の中での些細な疑問や違和感、問題意識に心を傾け、そこから生まれてくる想いからプロジェクトをつくる。そして、仲間同士で支え合いながらそれぞれの第一歩を共にアクションする。

松本さん:あえて仲間をつくろうとした覚えはない。4年間は1人でした。夢中で走って気がついたら全国のヤマト運輸に、わたしみたいに変なのがいっぱいいた。それを見て本社が動き、支社に降りてくるという逆の流れをたどりました。孤独死に遭遇しているドライバーは全国にたくさんいて、原点は同じ思いだったに違いありません。共感のさざ波がうねりになったのです。


パネラーの3名のみならず、ソーシャルイノベーターに共通しているのは、「自分ごと」の原体験から出発していることでした。誰かを助けたい。何かの役に立ちたい。こうなればいいのに──。個人的な強い思いと行動が1人、2人の共感を生み、じわじわと広がってゆくのでしょう。その出発点がたとえ企業のなかにいても必須なのは「まごころ宅急便」が例証しています。社会を変えるのは“わたしの一歩”から。参加者は、そんな思いを持ち帰ったはずです。


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