Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

260年受け継がれる伝統の技が、いまも必要とされる理由 ──染元平木屋が現在に伝える仕事と、これから

2015年12月28日



260年受け継がれる伝統の技が、いまも必要とされる理由 ──染元平木屋が現在に伝える仕事と、これから | あしたのコミュニティーラボ
石川県金沢市片町。ここに創業から約260年の老舗・染元平木屋がある。加賀藩御用達の染元としての歴史をもちながら、技術革新や効率性が追い求められる現代においても、昔ながらの技術や仕事は地域を越えて愛され続けている。そんな老舗に、昨年、若き跡取りが帰ってきた。最近では染物のまったく新たな体験を発掘し、これまでにない価値を創造する、「UXで考えてみるプロジェクト」(富士通グループとの共創プロジェクト)もスタート。伝統の名に甘んじず、イノベーティブな発想で新たなチャレンジに挑む、老舗の仕事観に迫る。

実家を離れ東京へ、東京から家業を見てわかったこと

染元平木屋の6代目当主は、染職人の平木有二さん。弟である豊男さんと2人で家業を切り盛りしていた折、東京の企業に勤めていた三男・良尚さんが実家に戻ってきた。2014年春のことだ。

染元平木屋 平木良尚さん
染元平木屋 平木良尚さん

「父から店を継いでほしいと言われたことは、実のところ一度もないんです。だけど兄弟間で跡継ぎをどうするのか、かねてから気にかけていました。京都工芸繊維大学に進学したのも、やがて家業を継ぐことになったときに多少なりとも勉強しておいたほうがいいと思ったから。しかし僕が就職活動をしていた頃、店が繁盛していたとは言いがたく、まずは外の世界を知っておこうと、いったんは東京の企業への就職を決めたんです」

6代目店主の父・有二さんの元で、染織加工の作業に没頭する平木良尚さん(左)
6代目店主の父・有二さんの元で、染織加工の作業に没頭する平木良尚さん(左)

良尚さんは京都工芸繊維大学大学院を修了後、2009年に株式会社富士通に入社した。かねてからアメリカンフットボールをやっていたこともあり、Xリーグ(社会人アメリカンフットボールリーグ)の富士通フロンティアーズに在籍したこともある。4年半の間、富士通に籍を置き、富士通を退職後、コンサルティング会社に転職。良尚さんが実家に戻る決意をしたのは、ちょうどその頃のことだという。

「コンサルタントとして働いているなかで、実家の商売の強みが何なのか、考えるようになったんです。家業を“ビジネス”として捉えたのはそのときがはじめてでした」

平木屋は、古くは加賀藩御用達の染元として、侍が着る加賀小紋があしらわれた裃(男子の正装として着られた和服の一種)を納めていた。その後、和服文化が衰退した明治期には、印染めののれん・旗・幕の注文を増やし、昭和期を迎え大量加工の時代がやってきても、その時流にあらがいながら丁寧なオーダーメイドで染色加工に対応してきた。260年におよぶ歴史を経てなお、今も地元の商店から懇意にされる存在なのだ。

一方で、良尚さんが家業をビジネスとして客観視して見えてきたのは、「新規顧客の開拓」というこれからの課題だった。

「平木屋のことを昔から知っている地元のお客さまは、おかげさまで今も注文し続けてくれていますが、そうした商店でも代替わりが進み、やがて注文も尽きてしまうでしょう。一方で世のなかには染め物のよさを知らない人がたくさんいて、そうした方々は注文するにしても何からお願いすればいいのかもわからないものです。260年以上で積み上げた信頼と実績がせっかくあるのだから、それを武器として携え、どうやって注文したらいいかわからない人にもきめ細かに対応ができる、そんなしくみを考えたいと思いました」

良尚さんが新規顧客の潜在ニーズを探る窓口に

良尚さんが加わり、3名体制となった現在の平木屋。6代目店主の有二さん(右)とその弟・豊男さん(中央)、2人のベテラン職人が長年切り盛りしてきた
良尚さんが加わり、3名体制となった現在の平木屋。6代目店主の有二さん(右)とその弟・豊男さん(中央)、2人のベテラン職人が長年切り盛りしてきた

コンサルティング会社を退職した良尚さんは2014年春から本格的に実家に戻り、家業に参加した。こうして3名体制による染元平木屋がスタートした。

まずは良尚さんの手によって、平木屋のホームページが制作された。ホームページからは誰でもオーダーできるようになっており、良尚さんは問い合わせフォームからデザインのもととなるイラスト・図版を受け取る窓口係にもなっている。

デザインソフトでしっかりとデザインされたものから、落書きのような状態のものまで、注文時に受け取る顧客のイメージはさまざま。たとえそれがどんな状態であっても、顧客の潜在的なニーズをくみ取りながら、良尚さんはデザインをかため、下図を起こしていくという。

良尚さんが立ち上げたサイトには、納品までの流れを理解できるページも。初心者にも相談しやすい配慮が感じられる
良尚さんが立ち上げたサイトには、納品までの流れを理解できるページも。初心者でも相談しやすい配慮が感じられる

注文時にヒアリングすることは、デザイン面の希望だけではない。

「日照、風、雨など、染め物の品質を左右する要素は実はたくさんあるんです。直射日光がよくあたる場所ならば、すぐに色あせてしまうから、色あせない特別な染料を選びます。その場合、色が限定されてしまうので状況に応じたアドバイスを送ります。また、たとえば店舗ののれんで細い字体で店名が描かれていれば、来店客に価格感が高い店だと感じさせる。業態、顧客層、価格感などにも合わせた提案が必要となります」

染物の色味や、字体を表す画像
力強い字体の旗から、色彩豊かな幕やのれんまで。目的・用途に応じて、オーダーメイドで生み出される商品は実にさまざまだ

下図完成後は、染職人である豊男さんと有二さんにバトンタッチする。しかし良尚さんも技術を身につけるため、忙しい仕事の合間をぬって、染色加工の練習をしている。仕上がった良尚さんの作品は、知人やお世話になった人にプレゼントしているそうだ。

良尚さんの作業風景
染物の準備工程である、下絵に沿ってのりを引く良尚さん。業務の傍ら、「作品づくり」に励むなど、技術の習得に余念がない

新たな顧客の層として「新規オープンする店舗の内装を受託しているデザイン事務所のような業態からも、のれんや幕のオーダーをいただくようになった」と良尚さん。こうして平木屋には北海道から九州まで広いエリアからの注文が来るようになり「父も口でほめてくれることはないですが、喜んでくれていると思いますよ」と、その成果を自己評価する。

ヒントは、染め物から感じ取れる“メッセージ性”

歴史を思わせる、染元平木屋の外観。屋内の薄明かりと屋号の入ったのれんが、老舗としての温かみを醸し出す
歴史を思わせる、染元平木屋の外観。屋内の薄明かりと屋号の入ったのれんが、老舗としての温かみを醸し出す

良尚さんはこれまでの活動について「新たな顧客を開拓し、染め物の魅力が伝わっていけば、染色加工の文化はこれからも必要とされ続けるはず」と自信をみなぎらせる。そこから良尚さんとの話は、伝統工芸の衰退について及んでいった。

染め物の魅力について「たとえば、職人が1枚1枚手でつくったのれんは、やはりプリント加工されたものとは全然違います」と良尚さん。

「人工物に対する嫌悪感がなんとなく世のなかには存在していて、機械でつくったものは『味気ない』。じゃあ反対はというと『味がある』ですが、その違いを言葉で説明するのは難しいけど、どういうものに『味がある』のか、人は感覚的に知っていると思う」

しかしそれでも私たちは「それなりでいいから」と、大量加工されたものを購入している。生活シーンで私たちを囲む品々のほとんどは、大量加工によって生まれたものだ。ならば、それと対局にある「手作業によって生まれる伝統工芸」は今の時代、求められていないのか。もちろん「そんなことはない」と良尚さんは考える。

「のれんをくぐったときに、『あれ? 今の感じいいな』と思ったことはないですか? 僕が思う染め物の魅力ってあの感覚。あの感覚があるから染め物はなくならない」

現代に活かされるのれんイメージ
染元平木屋がのれんを手がけた老舗すき焼き店。のれんのデザインによって、店の表情は大きく変わる。街並みや店構えとの調和や、“その店ならでは”のメッセージ性を可能にするのが、オーダーメイドの利点(提供:染元平木屋)

そして、平木屋で制作するのれん、幕、旗などはいずれも必ず人が集まるところに据えられることを挙げ、次のように続ける。

「たとえば新規オープンの飲食店なら、そうしたものを人前に出すことで、そこに集まる人たちに対して『ここはちょっと違うな』というアピールできるはずです。きちんとした染め物に、来店するお客さんに対するメッセージ性を込める。そのお店に集まるお客さんもそれを感じ取ってくれているから、染め物の文化は残っているんだと思いますよ」

良尚さんの話は、伝統工芸がこの世に生き続ける、活かされ続けるヒントといえるものだろう──。

UXを踏まえた伝統工芸の新しいかたちを模索する

ワークショップ風景
およそ30名が参加したワークショップの様子

平木屋では新たなチャレンジもはじまった。伝統工芸に富士通のUXデザインの方法論を盛り込む「UXで考えてみるプロジェクト──私たちの生活と伝統工芸の可能性──」が、2015年12月にスタート。「関係性をデザインする」ことを目的に、さまざまなプログラムを通じて、染物の新たな体験(モノ、コト、気持ち)を探っていくプロジェクトで、元富士通グループ社員である縁もあり、良尚さんはこのプロジェクトへの協力を決めた。ちなみに、プロジェクトを担当する岡田一志さんは、富士通時代の同期で、とくに仲のよかった1人だという。

12月3日には、プロジェクトのキックオフイベントでもある「UXで考える新しい伝統工芸」と題したワークショップが開催された。そこには富士通グループの社員のほか、良尚さんとゆかりのある地元の人物が集まり、若い夫婦や学生、外国人などによる多様な空間が生まれた。

ワークショップ空間に敷き詰められた染物の数々

そのイベントで良尚さんから披露されたエピソードに「ウェルカムのれん」の話がある。

幕末から明治期にかけて、北陸地方には、実家の紋を入れたのれんを嫁ぎ先の仏間の入口にかけるという婚姻風習があった。それがウェルカムのれんだ。もちろん、制作するとなればそれ相応の費用がかかる。しかし、過去に平木屋で染め物をオーダーした顧客の1人が、自身の結婚を機に再び平木屋に来店し、のれんをオーダーした。それが、それまでの常識を変えるものだった。のれんを両家・夫婦で3等分できるものにし、後に家で普段使いできる、いわば“現代風”のウェルカムのれんだ。

ウェルカムのれん
ワークショップで良尚さんが語った「ウェルカムのれん」(提供:染元平木屋)

「そんな提案を受けて平木屋で納めさせていただいたのですが、今思うとこれってUX(User experience)から生まれた、新しい染め物の可能性だと思うんです」

良尚さんはこの日の参加者にそう語り、このエピソードをヒントに、後のワークショップでは次なる染め物の可能性に向けて話し合いがなされた。

伝統工芸がUXを考えたときに生まれるものは何なのか。良尚さんはこれからも染め物の魅力の伝える語り部となりながら、新しい伝統工芸の可能性を模索していく。

「語り部」としての良尚さん
「語り部」としての良尚さん

あしたのコミュニティーラボでは、「プロジェクト」にて「UXで考えてみるプロジェクト—私たちの生活と伝統工芸の可能性—」がスタートしました。リアルタイムでプロジェクトの様子をお伝えしていきますので、どうぞお楽しみに!

【関連リンク】
UXで考えてみるプロジェクト


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2019 あしたのコミュニティーラボ