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企業とユーザーの気持ちをつなげる「デザインの原則」とは──電通・岸勇希さんの「コミュニケーションデザイン」(1)

2016年01月22日



企業とユーザーの気持ちをつなげる「デザインの原則」とは──電通・岸勇希さんの「コミュニケーションデザイン」(1) | あしたのコミュニティーラボ
トヨタ自動車が小型ハイブリッドカー「AQUA」の販売を開始したのは2011年のこと。翌2012年からプロモーションの一貫としてスタートしたのが、水辺の自然を豊かにするアクションプログラム「AQUA SOCIAL FES!!」だ。過去、あしたのコミュニティーラボでも取材したこの活動は、のべ427回のイベントで4万人以上の参加者を集めている(2015年10月時点)。2015年上半期新車販売台数でもトップに立つなどAQUAの好調な売れ行きにも貢献しているこのキャンペーンで、クリエーティブ・ディレクターを務めたのが株式会社電通の岸勇希さんだ。岸さんの唱える「人の気持ちをデザインする」ための“コミュニケーションデザイン”という考えからは、企業活動を通じてアプローチできる社会課題解決の可能性と課題が見えてくる。3回にわたりお届けする。

(2)社会課題解決のアクションも1つの“デザイン”の結果──電通・岸勇希さんの「コミュニケーションデザイン」
(3)モチベーションは、人類がコントロールすべき最大にして最強のエネルギー ──電通・岸勇希さんの「コミュニケーションデザイン」

社会貢献イベントが車のプロモーションにつながる?

── “水”をテーマとした一般参加型の環境保護活動として2012年にはじまった「AQUA SOCIAL FES!!」。今年で4年目を迎えたキャンペーンは、過去3年間、全国で427回のイベントを開催し、累計参加者は4万人を超えています。企画の背景には、どのような岸さんのお考えがあったのでしょうか?
株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 岸勇希さん株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター 岸勇希さん
「AQUA SOCIAL FES!!」は「コミュニケーションデザイン」という考え方をベースに設計されています。2004年に私が電通に入社して以来、ずっと体系化と実践を重ねてきた考え方です。

──「コミュニケーションデザイン」とはどんなものですか?

「クライアントの課題や社会課題に対し、広告に限定することなく、あらゆるコミュニケーションを駆使することで解決しよう」という考え方です。その進化を振り返ってみると、いくつかのフェーズがあったように思います。

そもそもは、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、そしてインターネットなど、さまざまなメディアから、課題に合わせて最適なメディアと表現を駆使することで、コミュニケーション効果を上げようという考え方でした。

広告業界では、“メディア・ニュートラル”とよばれたり、“ホリスティック(全体的・包括などの意味)・コミュニケーション”などともよばれています。コミュニケーションデザインのなかでは、もっとも広告的なアプローチで、いわば“コミュニケーションデザイン1.0”と言えます。

──「2.0」はどのような形に変化するのでしょう?

本質的な課題解決のためには、メディアだけでは解決できないことも多々あります。そもそもメディアを使うことは、コミュニケーション手段の1つでしかないわけで、メディアに囚われないことで、課題解決の方法は無限に広がっていきます。メディアにこだわらず、課題解決の方法をフラットかつニュートラルに設計・提案していくアプローチを「ソリューションニュートラル」と呼びました。これが“コミュニケーションデザイン2.0”だと考えています。「AQUA SOCIAL FES!!」はその一例ですね。

消費者は嬉しいが、メーカーには厳しい時代

──もはやメディアありきで考えるという、従来の広告的アプローチだけが課題解決の方法ではないということですね。ところで、岸さんのお立場から、企業の社会課題解決の意識は浸透していると感じますか?

日本ではまだまだな感じもしますが、世界レベルではかなり浸透してきていると思います。世界的なソリューションの祭典“カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル”などで世界の好事例を研究すると、ここ数年、企業コミュニケーションのなかに、社会をよりよくしてくための視点、アプローチというのが目立ってきています。

──どのような背景があるとお考えですか?

あくまで一般論ですが、世のなかが“ファンクションの時代からエモーションの時代”に変わってきているからだと考えています。もちろん商品カテゴリーによっては当てはまらない話ですが、先進国では特にこの傾向が見られます。

たとえば、何かしら商品を購入する際のことを想像してください。テレビとか家電なんかを例にしていただくと、わかりやすいかもしれません。

AとBの競合商品があるとします。かつて商品によって機能差が明確だった時代には、人はその機能差に魅力を感じて、選択しました。Aの方が「明確に映像が美しい」や、Bの方が「圧倒的に薄い」とか。USP(Unique Selling Proposition)などと言われました。しかし、良くも悪くも、世のなかは豊かになりました。過剰競争の末に、商品や機能に“飽和”が起こったわけです。
AとB、どちらの製品を選ぶのか、その要因に「エモーション」が寄与する時代(提供:岸勇希さん)AとB、どちらの製品を選ぶのか、その要因に「エモーション」が寄与する時代(提供:岸勇希さん)
今やAとB、どちらを買っても失敗はしません。これは生活者にとってはすばらしいことです。しかし悪く言えば、AでもBでも大差がなくなったわけで、売る側には大きな問題です。少し極端な物言いではありますが、世のなかが豊かになったことで、機能(ファンクション)では差がつかなくなったという話です。

こうなると重要になってくるのが、“エモーション”、つまり商品の背景にある、企業や経営者の“想い”になってくるわけです。同じような商品、大差のない商品ならば、どうせ買うなら応援してあげたい、好きな企業のモノを購入したい。そんな気持ちです。だからこそ企業は、商品のアピールだけではなく、社会課題解決への意識をコミュニケーションに持ち込むようになってきた。生活者に応援されたり、愛されたりすることが、これまで以上に重要になってきたわけです。

──なるほど。「AQUA SOCIAL FES!!」もそうした観点から、企業(トヨタ)の社会貢献活動が商品(AQUA)のプロモーションにつながっていたのですね。
2013年のAQUA SOCIAL FES!!の様子。体を動かし、学びながら環境保全活動を行う2013年のAQUA SOCIAL FES!!の様子。体を動かし、学びながら環境保全活動を行う(詳しくはこちら
商品のフィロソフィー(哲学)や企業の振る舞いが、商品の価値をさらに強くしていきます。「AQUA SOCIAL FES!!」は“世界一の低燃費”というアクアの持っているファクトを、さらにコミュニケーションにおいても体現するファクトになります。“応援できる車”というコンテキストをより丁寧につくるのが、われわれのすべきことだったわけです。

私たちがふだん触れているメディアは、「コミュニケーション方法」という枠のなかの一部分。クライアントの課題解決をするための方法として何が最適なのか、考えた結果が「AQUA SOCIAL FES!!」につながったと話す岸さん。そこにはどのような背景があるのだろうか。引き続き話を伺う。

(2)社会課題解決のアクションも1つの“デザイン”の結果──電通・岸勇希さんの「コミュニケーションデザイン」
(3)モチベーションは、人類がコントロールすべき最大にして最強のエネルギー ──電通・岸勇希さんの「コミュニケーションデザイン」

【関連リンク】
AQUA SOCIAL FES!!
電通 コミュニケーションデザイン事業紹介
コミュニケーションをデザインするための本

岸勇希(きし・ゆうき)

株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター


1977年名古屋生まれ。早稲田大学大学院国際情報通信研究科修了。2004年電通に入社し、中部支社雑誌部などを経て、06年10月から東京本社インタラクティブ・コミュニケーション局クリエーティブ室。08年から現職。圧倒的な「思考量」をベースに、トヨタ自動車「AQUA」や水素自動車「MIRAI」のキャンペーンをはじめ、商品開発や事業デザイン、人材育成プログラムなどに数多く携わる。カンヌ国際広告祭金賞、グッドデザイン賞など国内外で受賞多数。著書に『コミュニケーションをデザインするための本』(電通選書)。


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