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日本酒ブームがソーシャルイノベーションの火付け役!? ──東北・酒蔵発の地域づくり(前編)

2016年01月29日



日本酒ブームがソーシャルイノベーションの火付け役!? ──東北・酒蔵発の地域づくり(前編) | あしたのコミュニティーラボ
米や水をはじめ、地域の恵みを凝縮した日本酒は、まさにその地域を代表するものだ。近年では日本酒ブームが起こり、その製造元である酒蔵にも注目が集まっている。吟醸酒や純米酒など特定名称酒の品質向上で、地方の小さな酒蔵の醸す地酒が新たなファンをもたらし、創業100年を超える老舗の酒蔵が地域の歴史と文化を体現するシンボルとして、観光スポットになる──。 では、地域住民や遠地に住むファンとつながっていくためには、どのような工夫が必要なのだろうか。

今回は、以前日本酒ラベルコレクションアプリ・クラカラの開発秘話でも紹介した「(*) 東北酒蔵街道」を盛り上げるべく開催される「酒蔵アイデアソン」を前に、“日本酒王国”と評される東北の八戸酒造、末廣酒造、鈴木酒造店長井蔵(いずれも東北酒蔵街道参加蔵元)を訪ね、日本酒を通じた地域活性化のヒントを探った。全2回でお届けする。

日本酒は地域にどんな還元ができるのか ──東北・酒蔵発の地域づくり(後編)

若い世代に日本酒をもっと知ってもらいたい

青森・八戸漁港の新井田川沿いに、地酒メーカーとしては珍しいレンガ造りの蔵がそびえている。「陸奥八仙」「陸奥男山」を醸す八戸酒造株式会社だ。初代が近江国(今の滋賀県)から陸奥の地に移り住んで米麹屋を創業以来240年の歴史を誇る老舗で、現社長が8代目、専務取締役の駒井秀介さんで9代目となる。
八戸酒造株式会社 専務取締役 駒井秀介さん八戸酒造株式会社 専務取締役 駒井秀介さん
創業ブランドの「陸奥男山」は、港町の漁師たちに昔から愛されてきた、男っぽい辛口の酒。「陸奥八仙」は1998年に立ち上げたブランドだが、秀介さんが蔵に戻り酒造りに携わりはじめた2003年に大きくリニューアルした。社長、杜氏、蔵人総出で全国100種類以上の人気銘柄を飲みくらべ、研究した。

「同世代の若い人たちに、もっと日本酒のおいしさを知ってもらいたかった。私自身、それほど酒が強いほうではないので、辛口よりは少し甘味のある芳醇な味わいのほうが、ひとくち飲んだ時のインパクトが強く、おいしさを感じます。とはいえ、最終的にはトータルバランスが大切。芳醇な味を持つブランドを基本に酒質設計の目標を決めて、普通酒から純米大吟醸までラインナップごとに商品コンセプトを位置づけました。その後、毎年話し合いながら品質を上げるよう努力しています」
八戸酒造八戸酒造でのイベントの様子。さながら音楽フェスのようだ(提供:八戸酒造株式会社)
八戸酒造は、独自の方法で日本酒好きの裾野を広げる取り組みを行っている。たとえば、八戸酒造を含む青森の14の酒蔵が集まり、青森市内のライブハウスで開催する「あおもり★ぽん酒deナイト」は今年で4年目。青森を中心に活躍する10名ほどの人気DJが集結し、音楽と日本酒で盛り上がるパーティーイベントだ。それぞれのDJ目当てに集まった若い人たちがここではじめて日本酒に親しむことも多く、日本酒を知ってもらう新たな機会の提供として興味深い。
八戸酒造八戸酒造の仕込みは大正時代に建てられた赤レンガの蔵で行われる
また、東京2回、地方2回と年に4回開催している蔵元の若手経営者有志主催の試飲イベントも、音楽をかけながらゆったりとした雰囲気づくりに務める。若い世代の日本酒ファンが着実に増えつつある手応えを駒井さんは感じている。

地域に根づく“横丁文化”の発信基地

駒井さんは、全国各地の試飲イベントで陸奥八仙や陸奥男山を「おいしい」と言ってくれたお客さんに、観光パンフレットを手渡しながら「ぜひ八戸青森へお越しください」と熱心にすすめる。陸奥八仙や陸奥男山を入口に、ウミネコ繁殖地の蕪島や種差海岸など日本有数の観光地や“横丁文化”を持つ八戸へ足を運ぶ人を増やしたい。銘柄がブランドとして浸透し、ひいては観光客を誘う。地域と密接に結びついた酒蔵として、それが目標の1つだ。

また、コミュニティーづくりにも力を入れている。8年前からの「がんじゃ自然酒倶楽部」の活動がその1つだ。「がんじゃ」とは地名で「蟹沢」。八戸では「蟹」を「がに」、「沢」のことを「じゃ」という。「がにじゃ」が「がんじゃ」に転じた。里山の自然と湧き水が残されている「蟹沢水源区域」で米づくりを体験しながら会員だけのオリジナル銘柄をつくる取り組みだ。5月の田植え祭りからはじまり、草取りや収穫祭、仕込み体験を経て、翌年4月に会員限定酒を配付する。会員は県内と首都圏が半数ずつで約180名。会員同士で結婚したカップルも1組いる。
八戸酒造赤レンガの蔵の前には漁港の入り口が広がる
そのほかにも、地元住民がボランティアガイドを務める酒蔵見学は随時受け付け、蔵のなかでアート鑑賞を行えるようにするなど、人を受け入れる体制を常に整えている。「酒蔵があることは知っていても、入ったことのない地元の方は少なくありません。地域文化の発信基地としての役割も酒蔵にはあると思っています」と駒井さんが話すように、大正年間に建造され、文化庁登録有形文化財、八戸市景観重要建造物に指定されている八戸酒造の6つの建物は、酒を飲まない人にとっても八戸のシンボルであり、利用価値の高い地域資源といえるだろう。

金賞受賞蔵数では全国トップを誇る東北

1970年代前半のピーク時には全酒類の30%近くを占めた日本酒の消費量は、現在約7%に落ち込んでいる。日本酒造組合東北支部長、福島県酒造組合会長を務める末廣酒造株式会社代表取締役社長、七代目の新城猪之吉さんは「昔でいう二級酒、つまり一般の人がふだんから親しんでいた大手の普通酒のマーケットが激減した」とその背景を説明する。しかしその一方で「地方の小さな酒蔵がつくる特定名称酒、特に吟醸酒、純米酒が伸びています。売上の数字は大きくないため、全体の消費量は減ったまま横ばいですが、客単価の高い酒が売れだし、年間1~3万本程度を製造する小さな酒蔵が生き延びられるようになったのです」。
新城猪之吉末廣酒造株式会社 代表取締役社長七代目の新城猪之吉さん
いうなれば日本酒業界は、いちはやく均一的な大量生産から多品種少量生産の時代へと移行していった。かつては安価で大量に出回る嗜好品にすぎなかった日本酒。しかし、各地域の酒蔵がそれぞれブランドの個性を競い合い、特別な機会に少しずつ楽しむ高級酒としての付加価値を高めるようになった。その裏には次代を担う若手経営者たちの酒質向上を目指す研鑽努力がある。

“日本酒王国”東北6県の酒蔵は個性豊かな吟醸酒や純米酒を発信し、首都圏を中心に注目を集め、目覚ましい躍進を遂げた。だが新城さんによれば、福島は県内の普通酒の需要が手堅く、県外へ打って出るのが遅れたという。

「県内出身の杜氏も育っていませんでした。福島の酒造りを変えなければ、と危機感を抱いた先代社長が呼びかけ、20年前に蔵人たちの研修機関“清酒アカデミー”を設立したのです。データをもとにわかりやすく指導することで酒造りの技術が向上し、高品質の吟醸酒や純米酒ができるようになりました。東北のなかでもあまり際立っていなかった福島が伸びることで、他県も刺激を受けてさらに伸びる。福島がレベルを上げることで東北全体がレベルアップしていくと考えています」
末廣酒造末廣酒造 嘉永蔵の奥には大吟醸「玄宰」がおよそ30年分並ぶ
全国新酒鑑評会でも、福島県は10年前に金賞受賞蔵数で1位になって以来、常連トップの新潟県と肩を並べる成績を収めてきた。平成26年度は福島県の金賞受賞蔵数が24で全国トップとなった。他地方と比べると、東北6県の総計では77蔵と、関東信越の56蔵を大きく引き離している。

福島の日本酒は東日本大震災の原発事故の影響を大きく受けたが、きわめて厳しい基準値の放射能検査を経て出荷されている。風評被害を跳ね返す勢いで美酒を醸す酒蔵が増えているのは、全国新酒鑑評会での健闘が何よりの証だ。

日本酒の消費量減という荒波を、コミュニティーづくりや新しい楽しみ方で乗り越えようとする各酒蔵。これは地域に古くからある、特定の酒蔵に限られたことなのだろうか。後編では、地域の中心として根づく観光酒蔵や、災害を乗り越え、新しい地で酒造りを行う酒蔵を訪問。酒蔵がいかに地域との結びつきをつくろうとしているか、その奮闘を追った。

(後編)日本酒は地域にどんな還元ができるのか ──東北・酒蔵発の地域づくりに続く

(*) “東北酒蔵街道”とは?
八戸酒造
東北の地域づくりを応援する「東北・夢の桜街道推進協議会」が推進する、秋からの新酒シーズンに合わせた酒蔵巡りで東北の交流人口増加を提唱する活動。日本有数の酒どころ東北の“酒蔵”を、秋からの新酒シーズンに紅葉・温泉地と絡めて巡る旅のスタイルで、東北復興支援の通年化を目指し、2015年10月から開始。東北6県で80の蔵元が参加。
東北・夢の桜街道推進協議会
東北酒蔵街道
酒蔵アイデアソン


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