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社会貢献で燃え尽きないためのポイントは「私」にある──SVP東京 理事 井上英之さんインタビュー(前編) 

2016年02月18日



社会貢献で燃え尽きないためのポイントは「私」にある──SVP東京 理事 井上英之さんインタビュー(前編)  | あしたのコミュニティーラボ
あしたのコミュニティーラボでは、社会課題の解決を通じて新しい価値を生み出そうとする人々や、企業のなかでソーシャルイノベーションを起こそうとするビジネスパーソンの活動に注目してきた。この1年でさらにその気運が高まるなか、あらためて企業が社会課題に取り組む意義と方法を考えてみたい。企業人がソーシャルイノベーションの一翼を担う際の気持ちはどのように変わってきたのか、しくみづくりの要諦はどこにあるのか。10年以上前から社会起業家の育成と実践に取り組んできたパイオニア、井上英之さんに話を聞いた。

イノベーションの第1歩は私と仕事のつながりを取り戻すこと──SVP東京 理事 井上英之さんインタビュー(後編)

“私”が望む未来につなぐ道具として“仕事”を使う

──井上さんは、2002年に日本初のソーシャルビジネスをテーマとしたビジネスプランコンテスト「STYLE」を開催するなど、社会起業家の輩出を促す活動に早くから取り組んでこられました。昨今では、多くの企業がCSRの枠組みを越え本業と社会課題を結びつけようと模索しています。若いビジネスパーソンも仕事を通じてもっと社会とつながりたい、という欲求が高くなっているように思えるのですが、井上さんはこの変化をどのように捉えていますか。

井上 先見性を持った企業は、ソーシャルイノベーションに関連したテーマやビジョンを掲げはじめていますよね。本当にイノベーティブなプロダクトやサービスは社会的なインパクトを生み出すし、人々のライフスタイルも変える。「真のイノベーションは、社会に変化をもたらす」んですよね。そもそも、目の前の社会課題には新たなビジョンを生み出す、他ならぬ火種がひそみ、その先に大きな潜在的市場性がある。プリウスだって、社会課題を先取りしてハイブリットカーの市場をつくりました。先進的なビジネスパーソンやリーダーならそう考えていると思います。
井上英之特定非営利活動法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(SVP東京) 理事 井上英之さん
ただ、いくらトップがこうしたビジョンを掲げても、実際の現場では、社会課題をどう事業開発につなげたらいいのか、戸惑うことが多いのではないでしょうか?それは、なぜか?いま、職場のあちこちで、「私-仕事-世の中」をつなぐ、アライメントが分断されてしまっていることが、大きい。

この分断をつなぐことは、イノベーションを起こしていくうえで、欠かせないことです。「私」が日ごろから暮らすなかで、感じている心のさざ波や、気づいていることに大きなヒントがあるんです。まずは自分につながること、そこから、他者の気持ちも理解しやすくなる。結果として、他者や顧客の心情や背景がぐっと近づき、世界とつながる。そんな「私」が自ら望む未来を見つけ、それをつなぐ道具としていかに仕事を使えるか、と発想すると試行錯誤する幅が一気に広がります。

──社会課題を解決しようと行動しても、その行動の内容に「私—仕事—世の中」をつなぐラインが分断されているから、社会的にインパクトのある真のイノベーションが起きない、ということですか。

井上 会社に言われたので仕事している──。そこからはイノベーションは起きないですよね。愛着などない、売りたい商品でもないのに売っているのはしんどい。しだいに発想の幅が狭まり、困難があれば折れてしまう。他人にも、ましてやそんな自分にも共感できない。社会人なのに、世の中と断絶してしまう。本来、日本の働き方ってそうではなく、心をこめて仕事をして、お客さんの喜ぶ顔を見るのがうれしいみたいなところで、世の中とつながっていたはず……。

今、あちこちで、働くということが“割り切る”ことや、“自分を削ってまでがんばること”に振りすぎてしまい、働く意義や悦び、活力、しぶとさを感じにくくなってしまっている。このアライメントを意識していることが、より深いイノベーションや新しい経済のあり方を生み出す源泉となると考えています。
井上英之「私—仕事—世の中」がつながっている実感をもった仕事をデザインしなければ、世の中を変えるようなインパクトには届かないし、その前に「私」が燃え尽きてしまう
──逆に言えば、ソーシャルイノベーターと呼ばれる人たちは「私—仕事—世の中」が一直線につながっている、と。

井上 そうですね。スティーブ・ジョブスなどのビジネス分野のイノベーターも同じことだと思います。「私」はこんな「未来」がほしい。そのビジョンを実現する手段として、事業やプロジェクトをデザインする。どんな未来や世の中をつくりたいのか、そのビジョンの逆算で今の仕事を組み立てている。だから発想の幅も広く、新しい組み合わせが出てくるんですよね。優れたソーシャルイノベーターたちは、そういう発想で自分の事業を考えています。逆に、自分を置き去りにして、「世の中によいことを」と背負ってしまうと燃え尽きてしまう。

私の専門としている、社会起業やソーシャルイノベーション分野でも同じことで、本当にイノベーティブな仕事を行うには、「私」「仕事」「世の中」が1本の線でつながっていることが大切です。特に、社会の変化は、単発のイノベーションではなく継続してイノベーションを生み出していく必要があります。

だからこそ、常に自分の深い動機とつながっていること、そして、その仕事がどういうインパクトを生み出しているかについて、意識的であることが欠かせないんです。たとえば、何をすればどう人々のマインドが変わるのか。ビッグイシューという雑誌を売ることによって、ホームレスの人たちの収入になるばかりか、彼らが仕事を通じて自尊心を取り戻し、自立したいという気持ちに向かっていくといった意図的なデザインがそれにあたります。

つい最近、株式会社日立製作所において、30代を中心とした選抜者向けの研修をとある離島で開催しましたが、この研修におけるテーマはイノベーションを生み出す前に、「自分の仕事に、“私”という主語を取り戻す」ということでした。

今回、研修生と共に訪問したのは、革新的なまちづくりで知られる島根県海士町です。小さな島だからこそ、「私」の仕事を通じた島へのインパクトも実感しやすい。漁業や福祉などの自分の仕事を通じて自分たちの町の未来をつくろうとしている同年代に出会うなかで、イノベーションって大げさなことでなく、「私」の目の前にある日常に多くのヒントが溢れていることに気づいていく。
隠岐島前高校島留学など、独自の学習プロジェクトを推し進め、世界からも注目される海士町の隠岐島前高校
事業所から社員を送り出すとき、幹部の方が「君たち、島に入る前に会社の肩書きは置いていけ。1人の人間として、海士町に入ってほしい。そこで『私—仕事—世の中』のあるべき姿を考えた結果であれば、日立を辞めるという答えを導いたとしても仕方がないという覚悟もしている」とハッパをかけてくれています。「弊社」ではなく「私」から出発すること、その先に数多くの同じような他の「私」の持つニーズが待っている。あれほどの大企業が、今までとは違うやり方をしようと腹をくくっている印象を受け、うれしい驚きを感じました。

“社会起業家の挑戦に伴走する”という「機会の購入」

──個人会員である「パートナー」が、年10万円の資金提供をしてソーシャルベンチャーを支援するファイナンスのしくみ「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京」(米国本部の社会起業向け投資団体の日本版)を2005年に立ち上げられました。どんな意図があったのですか。

井上 ソーシャルベンチャーの市場をつくりたかったんです。その最初の表現がビジネスプランコンテスト「STYLE」でした。若い起業家のアイデアに成長の機会を提供し、祝福する。STYLEが、ロールモデルを見せ新たな文脈を発信していくアプローチなら、SVPは、経営基盤の支援(キャパシティ・ビルディング)を通じて、具体例を増やしていくアプローチです。ビジョンやロールモデルを示すことと、実際の支援ですそ野を広げていく。両方のベクトルが重なってはじめてムーブメントが起き、市場や生態系が広がると考えました。
STYLE・SVPのそれぞれの役割ソーシャルベンチャーが生まれる土壌づくりにおける、STYLE・SVPのそれぞれの役割
SVPでパートナーとなる方々の本業の職種は、コンサルタント会社、金融、IT、メディアなどさまざまです。資金提供だけでなく本業のスキルを使った支援をします。現在、プロボノと呼ばれている人たちの走りで、現在130人ほどのパートナーがいます。

10万円払ってボランティアしているわけで、考えるとちょっと不思議な話ですが(笑)、ただのボランティアでは、いつでも他のことを優先できますし、長続きしません。かといって、お金をもらうと通常の業務に近づいてしまい、わざわざ週末にやる意味が薄らぐ。

パートナーにとってはいわば、「機会の購入」であり、起業家たちの人生を賭けた挑戦に伴走できる。この機会を通じて自分の日々の仕事で培った経験やスキルが、どうすれば誰かの役に立ち、世の中につながっていくのか、その方法をまずは一部でも試行錯誤できるのです。

──この10年間で、投資先のソーシャルベンチャーやNPOと、パートナーの人たちは、どんなふうに変化してきましたか。

井上 双方とも大きく変わりました。SVPで投資をはじめる以前は、自分の扱うテーマ以外の知見や業界経験の多くないリーダーが多かったですし、また、事業やインパクトのスケール拡大に関して、意図しているリーダーや職員はあまり多くなかったように思います。最近は2つの変化を感じています。

第1に、病児保育に取り組むフローレンスの駒崎弘樹さんのように、立ち上げ当初からシステミックな解決策を打ち出し、大きな展開を意図する人たちが出てきたこと。第2に、“留職”プロジェクトに取り組むクロスフィールズの小沼大地さんのように、企業からソーシャルイノベーションの分野に飛び込んでくる人材が珍しくなくなってきたことです。
井上英之「この数年で、社会課題解決に取り組む個人の意識が大きく変わってきている」と井上さん
SVPにパートナーとして参加する人は、以前は留学経験がある等の経験もあり意識も高い、限られた人たちが週末に場を求めるような参加が多かったように思います。しかし、特に東日本大震災以降は、もっと一般にビジネスパーソンが「社会に役立つことをしたい」と、SVPに加入するようになっています。

投資先のリーダーや社会課題の現場に出会うことによって、自分の本業の持つ可能性やリーダーシップに気づきだしている。意義のあることに仲間と真剣に取り組み、悦びも感じる。最近ではこの経験を会社の他の社員にも持ち込めないかと、自分の職場で生かそうとする動きもあります。あるパートナーは、自分の金融系コンサルタント企業とSVPのコラボを実現し、社内でNPOへのサポートチームをつくる「社内SVPプロジェクト」をはじめ、社内制度として定着しつつあります。企業の側からも飽和した市場のなか、今いちど社会課題や個人の視点との接点から事業にも組織にも大きなヒントがあることに気づきはじめているのだと思います。

社会貢献で燃え尽きないためには、「私—仕事—世の中」のつながりを意識していることが大切、と井上さん。では、実行するためには、具体的にどんな毎日を過ごせばよいのか。後編では、日頃の仕事からソーシャルイノベーションを生むための、次なるステップに迫ります。

イノベーションの第1歩は私と仕事のつながりを取り戻すこと──SVP東京 理事 井上英之さんインタビュー(後編)へ続く

井上英之

井上英之(いのうえ・ひでゆき)

INNO-Lab International 共同代表/慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘准教授


2001年よりNPO法人ETIC.にて、日本初の、若手向けソーシャルベンチャー向けプランコンテスト「STYLE」を開催するなど、社会起業家の育成・輩出に取り組む。03年、社会起業向け投資団体「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京」を設立。05年より、慶応大学SFCにて「社会起業論」などの、実務と理論を合わせた授業群を開発。09年、世界経済フォーラム「Young Global Leader」に選出。12~14年、日本財団国際フェローとして、米国スタンフォード大学、クレアモント大学院大学(P. Drucker School of Management) に客員研究員として滞在した。近年は、マインドフルネスとソーシャルイノベーションを組み合わせたリーダーシップ開発に取り組む。


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