Opinions
各界の専門分野を持つ有識者の方々から、社会を変えるイノベーションのヒントを学びます。

イノベーションの第1歩は私と仕事のつながりを取り戻すこと──SVP東京 理事 井上英之さんインタビュー(後編)

2016年02月18日



イノベーションの第1歩は私と仕事のつながりを取り戻すこと──SVP東京 理事 井上英之さんインタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
ソーシャルイノベーションを起こすための気運が日本でも盛り上がりを見せている。しかしそれは、本業とは結びつきづらい例も多いようだ。今回は、日本において“社会起業家”という概念を広げた井上英之さんに日本におけるソーシャルイノベーションの今を伺った。後編は、日頃の仕事からソーシャルイノベーションを生むための心得、今からできる「『自分』を知る」方法について。全2回の後編。 

社会貢献で燃え尽きないためのポイントは「私」にある──SVP東京 理事 井上英之さんインタビュー(前編)

「自分が何者か」を見出すことの重要性

──あらためて伺いますが、企業のなかで自分の仕事を社会課題に結びつけようとするとき、どのように第一歩を踏み出せばよいのでしょう?

井上 いきなりアウトプットとしての仕事の結果(“What”) を出そうとするのではなく、まずインプットとしての“Who”、つまり「私」を主語にするところからはじめることが大切です。

自分の物語を描いてみる。どんな人生を送ってきて、いま、何を感じ、どんなことが気になっているのか? 何が問題だと思っているのか。その物語には、他の人にも重なるものが必ずある。何より、ひとりの会社員として家族とのコミュニケーションが気になるとか、学生として1人の女性として気になることとか……。どんなテーマでも同じように思っている人は、世の中にはけっこういっぱいいる。絶対に1人ではない。誰かを代表しています。あなたという存在には、必ず「代表性」が潜んでいるんです。

たとえば、満員電車に揺られて通勤する会社員としての自分。その経験から出発し、最終的なビジョンやアウトカム(=成果)として世の中がどうなってほしいのか。それを実現するためにこんなプロジェクトをやってみよう、とアウトプットを考えていきます。

これをカタチにするのを「マイプロジェクト」と呼んでいます。どんなプロジェクトも、やってみるとプランどおりには進みません。そして、転んだりつまずいたりするのは「朗報」です。何かをやってみた証拠ですから勲章です。そこから学び、アウトカムを意識しながらどんどん変更していきます。どうしたら息子はやる気をだして、のびのびと才能を発揮するんだろう……とか。「私」にもとづき、アウトカムとしての「世の中」を目指して、手段としてのアウトプット(プロジェクト)のかたちは変更した分だけ進化していきます。
プロセス「こうなってほしい」というアウトカムを生み出すには、プロジェクトに挑戦して転び、そこから学び変更していくことが重要
そのプロセスで、AというプランがA+、A++に変わるごとに成長していく。そんな自分やプロジェクトを仲間たちとシェアをする。そのなかから実現したい未来を模索しながら、転んでも立ち上がって成長する、という作法が身についていきます。

──自分自身が何者であるか、ということから出発しないと、一足飛びに世の中とつながろうとしても「私—仕事—世の中」は線で結ばれないわけですね。

井上 僕は日本財団の国際フェローシッププログラムのフェローとして、2012~2014年の2年間、アメリカ・カリフォルニア州に滞在しました。2年目はドラッカースクール・オブ・マネジメント(以下、ドラッカースクール)というビジネススクールの訪問研究者として在籍しました。いまカリフォルニアをはじめ世界中の先進的なビジネスセクターで、イノベーションを起こす源泉として注目されているのが「マインドフルネス」という分野です。

これは、「いまの自分の状態を俯瞰して見て、自分自身に気づく作業」ですね。呼吸を整えたり、ゆっくり歩いたり、また、ゆっくりと噛んで食事をすることでスローダウンする。典型的には瞑想をしますが、これは急いでいるといつも気づかず自動反応で選択している無意識行動を、スピードを落とすことによって自ら気づいていく、というエクササイズになります。

たとえば、いつもどおりPCの前にいるが、じつは疲れていて「生産性が落ちている」と“気づく”ことによって、「少し外に出て散歩をする」など別の選択肢を生み出し、より創造的な自分にセルフマネジメントできる。
井上英之取材場所は日本有数の別荘地。井上さん自身もマインドフルネスを重要視している
疲れたままPCの刺激にだけ反応し、テンションだけで作業を続けても、単純作業は続くかもしれませんが創造性や生産性に悪影響があります。行き過ぎたマルチタスキングの弊害は、多くの研究があります。人間には「レジリエンス・ゾーン」といって、転んでもしなやかに立ち上がって続けていける神経系のゾーンがあります。

毎日が学園祭前日のような興奮や刺激ばかりで過覚醒の状態が続くと、ゾーンを超えてしまい生産性の低下など弊害があり、新しい状況にも対応できなくなります。そういう自分に“気づく”ことで別の行動の選択肢を生み出していく。

同様にそういう自分に気づけると、他者の気持ちもわかるようになる。自分に共感できることで、他者に共感できる。そのことで、逆に、多くの人たちの共感を得られるのです。正しいことを遂行しようとしても、人間は自分を守ろうと変化を嫌うため、変化に対する免疫反応を引き出し感情的な反発を生むことがよくあります。

こうした自分や他者の感情を理解する、これからのリーダーシップにとっても非常に重要な知性を「エモーショナル・インテリジェンス(EQ)」といいます。マインドフルネスやEQをはじめとした、脳神経科学や心理学などの研究からの重要なインプットが、ビジネススクールでも教えられています。自分自身とつながる、つまり、頭だけでなく、自分の感情や体に何がおきているのか気づいていることが、他者へのリーダーシップや、世の中に影響を与えていくのに重要なカギを握っていることがわかりはじめています。

社会起業やソーシャルイノベーションの領域でも、強い使命感はいいのですが、パッションとテンションだけで活動をつづけ燃え尽きてしまうケースがよくあります。僕自身もそうなりかけた経験があり、このままでは続かないと思って学びにいきました。健康管理に留まらず、ソーシャルイノベーションそのものへのインパクトがあり、研究や実践が広がりつつあります。

新しい目線で日常を見つめ直し、「感謝」を積み上げる

──企業のなかでは、どうしても日々の業務に忙殺され、短期的な数値目標の達成に追われ、アウトカムどころかアウトプットまでにも至らず頓挫してしまうケースが多いように見受けられるのですが。

井上 イノベーションをおこしていくには時間がかかり、プリウスの例のように、市場をつくるのに時間がかかるR&D的なことが多々ありますから、長めのタームのポートフォリオを組みたいですよね。日常業務の1割でもいいから、自分とつながったアウトカムに基づいて仕事をする感覚を持ち続けることが大切だと思います。それが仕事で難しい場合は、日常のなかに組み込んでみる。ふだんの暮らしのなかで、どんな些細なことでもいいから大事なものを見つけ出したいですね。

井上英之

昨年、持続可能性を学ぶ場として世界的に有名なシューマッハー・カレッジ*のプログラムに参加しました。ここでは、授業の前後にみんなで食事をつくったり掃除をしたり、日常のことを学生、スタッフ全員で行います。あたりまえにと思っていたことがいかに大切か気づき、感謝が生まれ、いろんなところに自分がつながりだす。
(*編集部注:イギリス南西部のトットネスにある、持続可能な暮らしのための変容を促す学びの場。1コース15名の少人数全寮制を取る大学院大学で、「arts, social justice, sustainability」を活動方針に掲げるダーティントン・ホール財団が運営する)

──いまの仕事を見直すことからはじめたほうが良さそうですね。

井上 新しい目で自分の職場を見られる、というのはとても重要です。「現在」と「体」がポジティビティにつながっていて、過去や未来と「頭」がネガティビティにつながっているんだそうです。

1人でいる時って、ふつう、過去の栄光よりも嫌な記憶のほうを思いだしますよね? 未来のことを考える時も、たいていは楽しみより不安に思考がゆきます。それなら、気持ちを「現在」に置いてみたらどうか。

ドラッカースクールでは「新しい目で日常を見てきなさい」という宿題が出されます。家の前の木が意外にきれいだった、住んでいるまちにこんなおもしろい場所があった。部屋の壁は意外と綺麗だった──。 新しい目で、「今」を見るといろんな気づきがある。子どもは体で感じ、今しか見ていないせいか基本的にポジティブな発見をよくしますよね。大人は頭を重視して、思考で過去や未来にフォーカスするために、欠点や不安をよく見つける。どうやら人間の体は、本来、ポジティブな方がデフォルトらしいです。

井上英之

前編で触れた株式会社日立製作所の研修でおもしろいと感じたのは、自分の物語を、アート表現をしてもらった結果、自分の会社が好きなことに気づいた人が多かったことです。頭で描く物語ではなく、絵やコラージュを通じた体感で表現をしてもらって、自分で観察します。小学校時代にPCをバラして遊んでいた。大学のときにアルバイト先で簡単なデータベースをつくってあげたら、とても喜ばれた。そんな経験があっていまの会社に入社したことを思い出し、新しい目で会社を見直してみると、普段は見過ごしている身のまわりのポジティブなリソースに数多く出会うんですね。

いま、みなさんがそれぞれ所属している会社の良いところって、きっとたくさんあるんだと思います。ドラッカースクールでは「毎日10個の感謝を書きなさい」という宿題も出ます。続けていると、どういうわけか「雨に、ありがとう」、「上司に叱られたことにありがとう」など、これまでネガティブだったものに対しても、違った目線が浮かび上がります。

こんなふうに、「私」からはじまった感謝が積みあがって、他者やこの世界への共感が広がり、新しいアイデアを試してみる機会も増えて、世の中にイノベーションの起きやすい環境が生まれていくといいですね!

社会貢献で燃え尽きないためのポイントは「私」にある──SVP東京 理事 井上英之さんインタビュー(前編)

井上英之

井上英之(いのうえ・ひでゆき)

INNO-Lab International 共同代表/慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘准教授


2001年よりNPO法人ETIC.にて、日本初の、若手向けソーシャルベンチャー向けプランコンテスト「STYLE」を開催するなど、社会起業家の育成・輩出に取り組む。03年、社会起業向け投資団体「ソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京」を設立。05年より、慶応大学SFCにて「社会起業論」などの、実務と理論を合わせた授業群を開発。09年、世界経済フォーラム「Young Global Leader」に選出。12~14年、日本財団国際フェローとして、米国スタンフォード大学、クレアモント大学院大学(P. Drucker School of Management) に客員研究員として滞在した。近年は、マインドフルネスとソーシャルイノベーションを組み合わせたリーダーシップ開発に取り組む。


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2018 あしたのコミュニティーラボ