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社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

ソーシャルビジネスは現場体験からはじまる──リディラバ「R-SIC2015」潜入(前編)

2016年03月02日



ソーシャルビジネスは現場体験からはじまる──リディラバ「R-SIC2015」潜入(前編) | あしたのコミュニティーラボ
社会課題を事業として解決するのが、あたりまえの世のなかに──。そんな目的を掲げる一般社団法人リディラバ主催の「R-SIC」(Ridilover-Social Issue Conference)というカンファレンスがある。2015年度のR-SICは2016年1月、つくばで開催された。社会課題解決の現場で活動する当事者の話を聞き、参加者とともに現在と理想のギャップを洗い出すスタディツアーや、課題解決に向けて日々チャレンジするパイオニアたちのセッションなどのプログラムが準備されていた。濃密な時間を過ごす2日間、課題当事者とカンファレンス参加者はどんな気づきを得て、どんなアクションを促されたのか。前後編に分けてお届けする。

社会課題をもっと身近なものにするために──リディラバ「R-SIC2015」潜入(後編)

現場を共有し、協働の機会をつくり出す

2016年1月9日、3年目となる「R-SIC 2015」の開会のあいさつ。リディラバ代表理事の安部敏樹さんが参加者にカンファレンスの趣旨を説明する。
安部敏樹一般社団法人リディラバ 代表理事 安部敏樹さん
「今日の目的はまず、多くの社会課題に対して、解決策や共働の機会の創出を目指すことです。そして、社会的事業として継続性をもち、かつ雇用もつくりながら、事業として社会課題を解決しているトップランナーのノウハウを共有してほしい」

毎年アップデートされるプログラム。今年度の目玉は、初日の「スタディツアー」だ。社会課題の現場を訪れる一般向けのツアーとして、リディラバではこれまで150以上のテーマを取り上げ、3,000人以上を現場に送り出している。今年のR-SICでは過去3回ではじめて、プログラムにツアーが組み込まれた。この日用意されたツアーのテーマは以下の9つ。
プログラムツアー(取材を元に編集部作成)
事前に参加者の希望を聞き、チーム編成が行われた。「課題を共有し、協働の機会をつくり出す」ために、どのような仕掛けが設けられているのだろうか。取材チームは(2)の社会福祉(保育)ツアーに同行した。

保育の分野に立ちはだかる、待機児童問題と保育認可制度

社会福祉(保育)ツアーの受入先は、NPO法人つくばハーモニーが運営する「ラ・フェリーチェ保育園」。茨城県つくば市研究学園にある「認可外保育施設」だ。認可外保育施設の現場から見える社会課題とは何か、まずは整理しておこう。

子どもの保育を希望する人の多くは、「保育課」「子育て支援課」などの市区町村の担当窓口に出向くこととなる。窓口に出す申請書には希望する保育施設のほか、保護者の就労・求職状況も書き込み、「保育の必要性」の審査を受ける。保育所の割り当ては「児童を養育できない保護者」が優先されるため、希望するすべての人が「認可保育所」(保育士の数や施設の設備などで一定の保育基準を満たした保育所)に入所できるわけではない。
ラ・フェリーチェ保育園
ふだん保育が行われている場で園長から直接話を聞く

希望通りに入所できない状態こそが、社会問題として取りざたされる「待機児童」だ。全国の待機児童は約2万4,000人といわれている。

では、認可保育所を希望しながら入所できなかった児童は、どこに行けばいいのか。同じく国の認可を受ける「認定こども園」「地域型保育」という選択肢もあるが、もう1つ、施設型の保育を希望する児童の受け皿となるのが「認可外保育施設」だ。2014年に厚生労働省が発表したところによると、認可外保育施設入所者は全国で20万人を突破しているという。
保育施設システム保育施設は、大きく国の認可があるものと、そうでないものに分けられる(取材を元に編集部作成)
ただし、認可外であるため、施設は国からの財政支援を受けられない。保育料も認可保育に比べれば割高となり、保育士の待遇面も十分な給与を支払えないケースもある。

近年は認可外保育施設での児童死亡事故が多発したことも重なり、保護者は認可保育所に入所させたがる。こうして認可外保育施設に入所させながら認可保育所の“空き”を待つ人は多くなるのだが、認可園への入園を諦めて、自治体に入園希望申請をしない人も多く、こうした人は、待機児童としてカウントされない。つまり、潜在的な待機児童は「2万4,000人」よりも多く存在するといわれているのだ。

古い慣習をなくし、前例をつくってもらいたい

保育園の運営母体であるNPO法人つくばハーモニー理事長で、認定地域型保育施設責任者でもある髙橋晃雄さんは、こうした保育に関する基礎知識や保育ビジネスの将来性、保育士の労働問題、認可を受けることが困難な業界事情などをツアー参加者に説明した。

「認可保育園は、日曜や夜間に開園していないところがほとんどです。お店がどこも夜8時前には閉まってしまうような時代だったらそれでよかったのだけど、働き方が多様になったいま、それに対応できるサービスが必要でしょう。しかし業界の慣習的なことからいまだ競争が起こりにくく、利用者が選択しやすい多様なサービスが生まれていないのが実状なんです」
髙橋晃雄NPO法人つくばハーモニー 理事長 髙橋晃雄さん
認可外保育施設に通わせる保護者のなかには「土曜・祭日に利用できるところがいい」「自動車が運転できず、近くの認可保育所へ通わせられない」「送り迎えの時間外になるが認可保育所が対応していない」などの理由から、仕方なく認可外保育施設を選択しているケースもある。認可外保育の需要は確実にあり、髙橋さんはつくば市内の認可外保育施設に呼びかけ、つくば認可外保育施設協議会を2012年6月に設立。さらに、つくば市や市議会に働きかけ、業界全体を見た改善に努めている。

認可外保育施設にとってはライバルともなる「事業所内保育」(認可保育)にも、髙橋さんは「せっかく財政支援を受けられるようになったのだから、どんどんやればいい」と柔軟な考えを示す。ツアーの合間にその詳細を伺った。

「とはいえ、既存の事業所内保育施設は、児童を預かるだけの“託児所”化しています。前例がないからビジネスとして成立していません。ソーシャルビジネスに興味がある人たちが集まってくれるのであれば、将来、誰かがつくってくれるかもしれない。彼ら(ツアー参加者)には前例をつくってもらいたいですね。そのためには喜んでノウハウも提供します」

髙橋さんはこれまで自営業、新聞記者、町議会議員とさまざまな経歴を重ねてきた。「議員時代にクレームが多かったのが保育問題だった」と認定保育所の認定地域型保育施設責任者を経て、同園を設置・運営した。「理想の保育園をつくりたかった」と話す髙橋さんも、ソーシャルビジネスのトップランナーの1人。ツアー中、取材さながらに髙橋さんへ次々と質問を飛ばしてきたツアー参加者について「さすがみんな視点がいいね。『ああそうなんだ』で終わりでなくて、本質を知りたがっていた」と感心していた。

明確な課題設定が、事業の成功確率を高める

ツアーを終えた各グループの参加者は会議場に戻り、提示されたフレームをベースにグループ内でディスカッションを実施した。リディラバ代表・安部さんは「ここで結論を出してほしいわけじゃありません。より多くの意見を出し合いながら、相手の言葉を傾聴してほしい」と参加者に注意喚起した。

用意されたフレームは次のようなものだ。

〈ディスカッションで用意されたフレーム〉
1 まずは社会課題の「現状」と「理想」を考える
2 そこに生じている「ギャップ」こそが「課題」である
3 ギャップ(=課題)が生じる「原因」を考える
4 その「解決策」を考える

たとえば、保育園ツアーに参加したあるグループのディスカッション結果は、次のようなものだった。
ディスカッション結果 (取材を元に編集部作成)
およそ2時間のツアーから、参加者が、保育施設の抱える課題を立体的に感じ取れたことがよくわかる。
ディスカッション チームごとのディスカッションの様子。リディラバのスタッフも交え、熱い議論を交わしていた
R-SICの2日目には、ソーシャルビジネスのトレンドがわかるパネルディスカッションや講演、そしてソーシャルビジネスのインキュベーション&ピッチコンテスト「CROSS POINT」が開かれた。

開会あいさつにあったように、その登壇者はみな、社会性と事業性の両立させているトップランナーたち。安部さんいわく「社会性と事業性、それらを結ぶものがあるとすれば、僕は『課題設定がどれだけ明確かどうか』だと思います。登壇者はそれができている人ばかり。CROSS POINTの審査基準にもしているし、初日のディスカッションでもそれができるフレームにしました。課題設定が明確なほど、事業としての成功確率が高まるはずです」

社会課題の現場にビジネスパーソンが赴き、その課題を目の当たりにすることは社会課題解決にどんな意義をもっているのだろうか。後編では、リディラバ代表理事の安部敏樹さんに、R-SICという場のねらい、リディラバが目指すソーシャルビジネスの未来について、さらに話を伺った。

社会課題をもっと身近なものにするために──リディラバ「R-SIC2015」潜入(後編)


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