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多様で固有のストーリーをつなげるということ ──「東北酒蔵街道」をヒントに考える(後編)

2016年03月10日



多様で固有のストーリーをつなげるということ ──「東北酒蔵街道」をヒントに考える(後編) | あしたのコミュニティーラボ
酒蔵と日本酒をテーマに、持続的な東北復興を後押しするプロジェクトの1つ「東北酒蔵街道」。参加酒蔵80先をその目で見た日本酒の専門家は、東北地域の現状と、本プロジェクトの価値をどのように感じているのか。また、「東北酒蔵街道は通過点の1つ」と語る主催者は、どんな展望を描いているのか。持続する課題解決の取り組みに向けた想いと、その可能性を考える。

(酒蔵アイデアソンの様子はこちら)〈酒蔵〉と〈日本酒〉は世界に訴求できる地域資源──「酒蔵アイデアソン」から考える(前編)

海外の旅行客を呼び込み、経済効果を“純増”に

東北・夢の桜街道を通じて地域活性策に取り組んできた、同推進協議会事務局長の宮坂不二生さんは、東北酒蔵街道もまた、「特定の地域に限らず東北全体の面的再生を目指すプラットフォーム」と話す。

東北・夢の桜街道に関しては、観光庁が台湾の地下鉄で車体・車内広告を展開しインバウンド誘客に結びつけた。東北酒蔵街道もインバウンドに照準を合わせる。「国内の旅行客だけに目を向けても、震災の記憶は風化するし、地方創生で他の地域にも目移りするなど、結局はゼロサムで継続的に東北を応援するのは難しい。しかし海外の旅行客を呼べば、そのぶんが純増。お土産が売れれば輸出にもなる」(宮坂さん)からだ。

宮坂不二生さん東北・夢の桜街道推進協議会事務局長の宮坂不二生さん

東北・夢の桜街道推進協議会のメンバーには官庁が名を連ねているが、経済産業省東北経済産業局もその1つ。東北酒蔵街道に参加した蔵元への取材同行や、酒蔵アイデアソンにも場所を提供するなど支援を惜しまない。同局産業振興課の林朋子さんは「観光は成長産業でもあります。桜街道や酒蔵街道プロジェクトの特長は、面的に、多様な業種の企業がビジネスとして取り組めるところ。特に、日本酒というテーマはファンも多く、さまざまなプレイヤーの共通コンセプトとなり得る可能性があり、産業振興の面でも魅力が大きい」と話している。

林朋子さん東北経済産業局の林朋子さん

東北酒蔵街道の立ち上げには、仙台国税局、日本酒造組合中央会の協力を得て、「①酒が買える②試飲できる③酒蔵見学できる」のうち最低1つを満たすことを条件に参加を募ったところ、東北6県80の酒蔵が東北酒蔵街道のプロジェクトに参画することになった。

酒蔵リスト
東北酒蔵街道の酒蔵リスト(提供:東北・夢の桜街道推進協議会)

参加酒蔵の情報は、実証中の日本酒コレクションアプリ「クラカラ」に加え、ホームページと、ナビゲーション機能などがついたアプリ「東北桜旅・酒蔵旅ナビ(開発支援:富士通ネットワークソリューションズ)」にて展開される予定で、今春には完成するという。

世界はまだ“Tohoku”と“Sake”を知らない

ホームページやアプリで公開される酒蔵の情報は、専門家による取材の賜物だ。2人で手分けして80の酒蔵すべてを取材したのが、食文化研究家・日本酒スタイリストで株式会社彩食絢美代表取締役の手島麻記子さんと、日本酒を通じて日本の文化や地域を世界に紹介する活動に取り組む株式会社コーポ・サチ代表取締役の平出淑恵さん。2人は酒蔵アイデアソンの審査委員も務めた。

手島麻記子さん「東北酒蔵街道」の参加酒蔵80先のうち半数近くの現地取材を行った、彩食絢美代表取締役の手島麻記子さん

手島さんは、国際交流基金のプロジェクトで、宮城県塩釜市、松島湾の対岸にある浦戸諸島・桂島の牡蠣養殖生産者らと、パリで牡蠣を使った宮城県の郷土料理を紹介したことがある。およそ50年近く前にフランス産の牡蠣が病気で壊滅しかかったとき、種ガキを送って助けたのが浦戸諸島の牡蠣生産者らだ。そして、東日本大震災の津波で被害を受けた宮城の牡蠣生産者らに真っ先に支援の手を差し伸べたのは、フランスの牡蠣生産者たちにほかならない。両者にはそんな交流があった。

しかし、同プロジェクトでパリ、ワルシャワ、ドルトムントを訪ねて気づいたのは、震災は知っていても “Tohoku” がどこかわからない人の多いこと。「復興の応援をしてほしいだけに留まらず、これを機会にもっときちんと東北を海外に発信しなければと痛感しました。地域の食文化とも関連して、東北の日本酒にスポットを当てる東北酒蔵街道は絶好の機会です」。

平出淑恵さん手島さんと手分けして「東北酒蔵街道」の参加酒蔵に現地取材を行った、コーポ・サチ代表の平出淑恵さん

カリフォルニア州でディズニーランドの次に観光客が多いのは、ワインの生産地ナパバレー。「グローバルマーケットで取り引きされるワインは、地域に大きな経済効果をもたらしている。同じ食中酒である日本酒でもそれができるはず」と話すのは、日本ソムリエ協会の理事にも就任した平出さん。世界最大規模のワインコンペティション“IWC”(International Wine Challenge)に日本酒部門を創設したり、経済紙に「Sakeから観光立国」を連載している平出さんによれば、2011年に佐賀県鹿島市の富久千代酒造「鍋島 大吟醸」がIWCのチャンピンに輝くと、鹿島市では酒蔵ツーリズムが盛んになったそうだ。

「日本酒にはワインのような大きな可能性があるものの、日本酒の輸出量は、まだまだ全生産量の2%に過ぎません。多くの酒蔵は小規模で独自の販路開拓は難しく、海外への発信力が弱い。東北酒蔵街道がすばらしいのは民間企業が協力してインバウンドの交流人口を増やす目標が明確なこと。実現は可能だと感じます」

“千差万別”な酒蔵を楽しみ、地元の人と触れ合う

37の酒蔵を取材した手島さんは「日本酒とは、これほどまでも多様性に富んだものなのか」と目を見張った。酒造りの哲学、酒蔵経営の方針、日本酒文化の捉え方。それぞれの酒蔵によって千差万別だった。

ある酒蔵では「酒造りにいちばん大切なのは水」。別の酒蔵では「水は水道水を濾過して使う。肝心なのは醸造技術」という答えが返ってきた。東北の酒蔵にはたいてい、主として首都圏に出荷する純米酒や吟醸酒など特定名称酒の他に、地元でふだん親しまれている普通酒のラインナップがある。手島さんは必ず普通酒もテイスティングさせてもらった。郷土料理に本当に合うのは、地元でしか味わえない普通酒であることが多い。とはいえ、なかには「これが本当に売れているんですか?」と聞き返したくなるものも。

「でもわたしは専門家として頭でっかちの基準にとらわれていることに気づきました。おいしさにも、まさしく多様性がある。それこそ東北酒蔵街道のいちばんの価値だと思います」

家族で小規模の酒造りだから、とても酒蔵見学までは手が回らない。それもまた酒蔵の多様性の1つ。東北酒蔵街道は「そんな個別の事情も訪れる人に発信できるプラットフォームであってほしい」と手島さんは願う。

平出さんも「結局のところ“酒蔵のあるまちに行こう”というのが東北酒蔵街道のポイント」と話す。酒蔵だけで完結するのではなく、周辺の宿泊施設に泊まり、飲食店に立ち寄り、土産物を買い、観光スポットも訪ねる。その道程で地元の人たちとも出会える。

佐浦の酒蔵「浦霞」のブランドで知られる株式会社佐浦の酒蔵(塩竈市)。地元・鹽竈(しおがま)神社の御神酒酒屋の1つとして、地元の人たちにもなじみの深い、まちのシンボルだ

「爆買いツアーも話題ですが、いま爆買いに熱中している人たちも、それに飽きたら東北地方に行き、豊かな自然と控えめで親切な人柄に触れたい、と思うようになるはず。人と触れ合い、気持ちの交流が深まればリピーターが増え、蔵元の銘柄が記憶に残り、自国で出会ったら迷わず手に取るでしょう。ワインツーリズムでワイナリーを訪問した人たちが、その訪問先のワインに愛着を持つというのはデータにも表れているんです」(平出さん)

収益を上げつつ、東北の地域課題をいかに解決するか

100年以上続く老舗の多い酒蔵には、地域の歴史と文化が営々と積み重ねられている。そのような積層が「酒蔵のなかにストックされ、今まで表に出し切れていなかった」。それが手島さんの感じた多様性の本質だ。

と同時に、多くの酒蔵では世代交代が進み、若い当主の酒質向上へ向けての研鑽努力により「この30年あまりで、日本酒の醸造技術は格段の進歩を遂げ、いま私たちは史上もっとも多様な味の日本酒を楽しんでいることも事実」(手島さん)。

八戸酒造福島県浪江町から山形県長井市に移転して酒造りを続ける鈴木酒造店のような酒蔵もある

長い歴史のなかで脈々と積み重ねられた、独特の風味が味わい深い日本酒。若い世代が切り拓いた新しい技術によって、これまでにはないコクや香りを手に入れた日本酒。日本酒文化の重層的な多様性を世界に発信するプラットフォームとして、東北酒蔵街道は機能するだろう。個々の酒蔵としても、単独での情報発信には限界がある。東北全域が連携して、日本酒文化を底上げしようとする東北酒蔵街道への期待は大きい。 

「酒蔵街道の次は、夏の“祭り街道”、冬の“雪見街道”を立ち上げ、『四季“感動”の東北往還道』として四季を通じて東北を盛り上げ、インバウンドのリピーターを増やしていきたい」と、協議会事務局長の宮坂さんは意気込んでいる。

「マンガやアニメのみならず、日本固有の伝統文化は普遍的な価値としてもっと海外にアピールできるはず。多くの民間企業が連携して取り組むからには、一定の収益を上げながら東北という地域社会の課題解決を成し遂げる必要があります。そして利益が得られたら東北に再投資してほしい。そうやって経済を循環させ、この運動を長く持続させていきたいのです」

〈酒蔵〉と〈日本酒〉は世界に訴求できる地域資源──「酒蔵アイデアソン」から考える(前編)


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