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「カッコいい!」から福祉を変える──NPO法人ピープルデザイン研究所 須藤シンジさん(前編)

2016年04月05日



「カッコいい!」から福祉を変える──NPO法人ピープルデザイン研究所 須藤シンジさん(前編) | あしたのコミュニティーラボ
若者が集まるオシャレなセレクトショップの一角にあるスニーカー。手足の不自由な人たちが「履きやすい」商品だったら「福祉」への印象はどう変わるだろうか──。 わくわくするようなコンテンツを媒介に、マイノリティとマジョリティの間を隔てる“心のバリア”を溶かしていく。国内外で「ピープルデザイン」という考えを広めようと活動を行うピープルデザイン研究所の須藤シンジさんに、社会課題解決にマーケティングの視点を取り入れ、健常者側から新たなアプローチを試みるねらいを伺った。前後編でお届けする。

多様性への見えない壁を「気持ちのデザイン」で超える──NPO法人ピープルデザイン研究所 須藤シンジさん(後編)

見えない「心のバリア」をフリーにしたい

──著書「意識をデザインする仕事」にもありましたが、須藤さんは20年前、ご子息が出生時に脳性マヒを患っていたことをきっかけに独立し、福祉の分野で次々と新しい試みを実現しています。どんなことに課題を見出して、どのように変えたいと考えたのですか。

須藤 次男の出生をきっかけに、図らずも障害者の家族であり行政サービスの受け手という環境に身を置く状況になりました。

その当時は小売サービス業界で仕事中心の生活。仕事中心でバリバリ働いていましたが、たまたま休日だったときに、息子が自力で立ち上がったのを間近で見て独立を決めました。脳性マヒは一生歩くことができない可能性のある病気です。そんななかで立ち上がった息子に驚くとともに、成長するなかで、一生に一度しかない瞬間がもっとたくさん生まれてくるはず、それに立ち会うためにもっと家族との時間を大切にしたいと思ったんです。

その一方、親として息子の未来に思いを馳せたとき、大きく2つ、感じることがありました。

須藤シンジさん

1つは、息子ないし息子と同じような境遇に置かれている人たちが将来自立して生活するうえで、現行の福祉制度や社会制度そのものは解決策にならない、と実感したこと。これから少子高齢化で人口が減る一方の社会で大きくシステムが変わらなければ、彼が自立している未来は見出せないと感じたんです。

また、20年前、福祉の世界で叫ばれていたキーワードが“物理的なバリア”に主眼が置かれた「バリアフリー」という言葉です。

しかし、本当にそれだけが問題なのかと自問しました。さらに突き詰めていくと、健常者に代表されるマジョリティ(社会的多数派)と、障害者のみならずマイノリティ(社会的少数派)と呼ばれている人たちの間には、目に見えない“心のバリア”が立ちはだかっていることのほうが私には大きな問題に感じられました。このバリアを溶かすことこそ、息子の自立につながるのではないか。これが2つ目に感じたことです。

──“心のバリア”はどんなふうに表れているのでしょうか?

須藤 たとえば駅のホームで車椅子の人を補助し、電車に乗せているのは駅員のみなさんです。まわりの乗客たちが手を貸す光景はあまり見かけません。ヨーロッパ諸国の都市では、ごく当たり前にあることなのに。日本では、マジョリティとしての健常者の空間を「オンステージ」とし、障害者などマイノリティの空間を「オフステージ」とする意識が潜在的に強い気がしてなりません。互いの空間にそれぞれ踏み込まないのが“心のバリア”ができる要因なのではないでしょうか。
ピープルデザインピープルデザインの活動モデル。オフステージの身近なチャレンジから徐々にその規模を大きくしていく(写真提供:NPO法人ピープルデザイン研究所)
それが醸成される背景には学校教育もあります。小学校から健常者と障害者の教室が分かれている。2006年に学校教育法が改正され「特殊学級」から「特別支援学級」と表現はソフトになりましたが、分離されたままなのは変わりません。もちろん他の主要先進国でも重度の障害者は特別のクラスで教育を受けます。たとえば英国では、サポーターがついて基本的に健常者の子どもたちと混ざり合い、両者が共生していくやり方を採用しています。

ファッションを媒介に健常者の若者に「福祉」を伝える

──“心のバリア”を溶かしていく手立てとしてファッションに着目されました。前職の小売サービス業界で積み重ねたノウハウが生きたのですか。

須藤 健常者と障害者が楽しく混ざり合うことに慣れればだんだんと心のバリアも溶けていくはずです。その突破口としてファッションはいいと思いました。事業企画、仕入れ、売場づくり、販売促進に至るまで何でもやらせてもらいましたから、福祉の領域でそのスキルを使ってみよう、と。

ここからはマーケティングの話になります。「誰に何をどう売るか」、心のバリアを溶かし、障害のあるなしに関わらず誰もが同じオンステージで、混ざり合える状況をつくるには、固定概念から自由な若い世代にメッセージを送る必要があると考えました。

健常者の若者には、まちで困っている人を見かけたら気軽に声をかけ、手を貸そうよ、と。ハンディを抱えた若者には、勇気をふるい街へ出て楽しいことをしようよ、と。福祉の現場を担う年配者ではなく、未来を担う次世代に価値観を伝えるのが、急がば回れだと思ったのです。

須藤シンジさん

若者が興味を持つのはファッション。メッセージを伝える媒体として最適です。当時の最先端だったセレクトショップで、ファションに敏感な多くの若者たちに「カッコいい!」「ヤバい!」「かわいい!」と手に取ってもらえるデザインのアイテム。しかしよく見るとその裏には、障害者の使いやすい配慮や工夫が施されている。そんな商品はまだ世のなかに存在していませんでした。

──そうしたコンセプトでできあがったのが、アシックスとコラボしたスニーカー「プロコート・ネクスタイド・AR」などをはじめとする商品群ですね。

須藤 これらのメッセージプロジェクトには長い時間がかかります。持続可能な活動資金を捻出しなければなりません。そこで考えたのが、あくまでも一般のマーケティングの思考でライセンスビジネスのロイヤリティを獲得するスキームです。開発企画をディレクションしたうえで、最終製品には「Nextidevolution(読み:ネクスタイドエヴォリューション)」という僕らのロゴマークをつけてもらう。その代わりに、メーカーからは商品企画料とブランドロイヤリティとしてのギャランティをいただく。

契約の前提はあくまで相手先企業の売上を伸ばしていくという提案なのです。一定以上の売上を上げるのと同時に、ノンペイドのパブリシティを実現させることで露出を増やしていくというプロモーションも欠かせません。“心のバリアをフリー”をメッセージ、伝える対象としては、障害者ではなく、むしろマジョリティたる次世代の若者達に設定し、あえて、最新のファッションアイテムとして販売しているのが特徴です。
NextidevolutionNextidevolutionで制作したスニーカー(写真提供:Nextidevolution)
また、人気店のバイヤーに実績も知名度もない僕らの商品を買いつけてもらう方法は1つしかありません。「彼らが注目するクリエイターやデザイナーに協力してもらうこと」です。世界的なDJ、デザイナーとしてニューヨークを拠点に活動していたジェフ・ステイプル*にプランを話したところ、大いに共感してくれました。クリエイティブ・ディレクターにジェフを迎え、次男に試し履きをしてもらいながら何度も試作を重ねて完成したスニーカーは、渋谷やニューヨークの人気ショップで展開。多くのファッション誌が取り上げたこともあり、販売から2週間で5,000足の販売を達成したのです。

一方で、“混ざり合う”メッセージ性にこだわり、福祉機器専門店から仕入れの問い合わせがあってもあえてお断りしました。ハンディのある若者自身がまちのショップに出向き手に取り、選んでほしかった。現に、車椅子のバスケットボールチームが足回りをこのスニーカーで揃えるなど、オンステージでの混ざり合いのきっかけになりました。

*ジェフ・ステイプル
グラフィックデザイナーやDJなどN.Y.を拠点にマルチに活躍するクリエイター。1997年に立ち上げたストリートデザイナーブランド「Staple」やセレクトショップ「reedspace」の運営、自身が主宰する“STAPLE DESIGN”で高級ブランドやビッグカンパニーとコラボレーションを行っている。

常識だと思っている「意識」を超えるためにどんな仕掛けが必要なのか──。須藤さんのファッションを通じたアクションは、今までの常識をファッションやデザインを利用することで変えていく。若者に限らず多くの年代に響くに違いない。後編は、モノからコトを超え、まちづくりへと視点を上げる須藤さんの根底にある「思い」を聞いた。

多様性への見えない壁を「気持ちのデザイン」で超える──NPO法人ピープルデザイン研究所 須藤シンジさん(後編)

須藤シンジさん

須藤シンジ(すどう・しんじ)

NPO法人 ピープルデザイン研究所 代表理事
有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エヴォリューション 代表


大学卒業後大手流通企業に入社。次男が脳性麻痺で出生し、自身が能動的に起こせる活動の切り口を模索。2000年に独立し、有限会社フジヤマストアを設立。2002年にソーシャルプロジェクト/ネクスタイド・エヴォリューションを開始。「ピープルデザイン」という新たな概念を立ち上げ、障害の有無を問わずハイセンスに着こなせるアイテムや、各種イベントをプロデュース。2012年にはNPO法人ピープルデザイン研究所を創設し、代表理事に就任。


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