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「とりあえず移住してみた」からはじまる、地方創生のロールモデル──福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクト(後編)

2016年04月22日



「とりあえず移住してみた」からはじまる、地方創生のロールモデル──福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクト(後編) | あしたのコミュニティーラボ
事前合宿参加者のうち、15名が昨年10月からの移住生活を体験した。移住メンバーには長期移住・短期移住との違いこそあるが、「自分たちの生活に必要なものは、自分たちで見つけ、自分たちでつくる」ということに変わりはない。そんな彼らがここで何を実現しようとしているのか。引き続き、提案者の若新雄純さんと、地方創生戦略室の運営メンバーに話をうかがった。

【前編】鯖江の移住事業から見えた、オープンイノベーションの起こし方 ──福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクト

移住者の積極的な地域へのコミット

移住生活がはじまった昨年10月以降、鯖江市が「ゆるい移住」プロジェクトのなかでプログラムとして用意したのは、月1回の定例ワークショップのみ。しかしそれも「初回こそJK課や高年大学(地元の生涯学習施設)との意見交換の場になりましたが、その後は移住メンバーが市民や職員の方とどんどん交流していってしまうので、もはや形骸化している(笑)」(若新さん)。

ある移住メンバーは、自ら率先して団地にある自転車置き場を整理・清掃。別のメンバーは、鳥獣被害に見舞われるコミュニティーでの対策活動に誘われ、積極的に活動。まちのいろいろなコミュニティーに顔を出し、移住生活をブログで報告するメンバーもいる。移住メンバーは、地域に自然と溶け込む存在になっていった。

事前合宿が開催された当初は、「ゆるい移住」プロジェクト終了後の定住までを考えているメンバーは皆無だったが、時が経つにつれてプロジェクトを終えた4月以降も継続して移住を希望するメンバーが7名も現れたのは、前編でも伝えたとおりだ。

地方創生モデルづくりに行政が求められた行動変容

今後も継続して実験的なプロジェクトを行う予定の鯖江市。では、鯖江市行政がある意味“ぶっとんだ”移住事業に取り組めたのはなぜなのか。

背景には若者人口の減少がある。鯖江市の人口は約6万9,000人。福井県内では唯一、人口が増加しているが、若い世代(20代)に限ると人口はマイナス傾向にある。20代前半で県外に出て行く人が多いのだ。そんな実態に苦悩していた牧野百男鯖江市長にもたらされたアイデアが、「ゆるい移住」プロジェクトだった。

「市長には“横展開できる地方創生モデルを生み出したい”、そんな思いがあったと思います。しかし、革新的な移住政策を創出するには、どこかの自治体がリスク覚悟でやらないといけない」(地方創生戦略室室長・齋藤さん)

地方創生戦略室室長・齋藤さん

未だかつてない地方創生モデルの創出のため、齋藤さんら行政側はリスク覚悟の行動変容が求められた。先述した「参加者をどこまでも信頼すること」がそれである。

「『ゆるい移住』はJK課同様、『市民が主役になるまち』の文化をつくることが大きなテーマです。そのためには、ふだんは提供する側にある自治体が、どこまで柔軟になれるかが肝になりました。その点で、鯖江市からはその覚悟を感じた」(若新さん)。

鯖江市職員にそれができたのは、牧野市長が当初からそんな若新さんの思いを汲んでいたからだ。「市長はたとえ最終的には移住者が増えなくても、体験をやるだけでも大成功、と言ってくれていた。その言葉があったから、職員もこの事業に挑戦しやすくなったのだと思います」(齋藤さん)。

求めていた生活が、たまたま鯖江にあった

取材日の夜、移住メンバーの生活ものぞいてみた。元コンサル会社勤務、元プロ野球選手、元パティシエなど、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが暮らしていた。

彼らがどんな生活を送っているのか、関心を示す自治体・企業の関係者が後を絶たない。メンバーはそんな人たちのため、自分たちが住む3LDKの部屋を「オープン団地」と称し、さまざまな人たちに生活空間を開放している。食べ物・飲み物は各自持参がルール。取材チームもそんな「オープン団地」にお邪魔し、酒を酌み交わしながら、鯖江市に住んで感じたこと、これからの社会課題解決のこと、将来のことなど、じっくりと話を聞いた。

食べ物、飲み物を持ち込んで、移住体験者のなかに入り込む。深夜12時近くまで話は盛り上がった
食べ物、飲み物を持ち込んで、移住体験者のなかに入り込む。深夜12時近くまで話は盛り上がった

あるメンバーは「ゆるい移住」の楽しさを「共同生活そのもの」だと話す。

「移住してきたことは全然本質ではなくて、価値観がばらばらの人たちと生活することに価値がある。住んでみて鯖江はすばらしいまちだと思ったけれど、鯖江だから参加したというわけではない。求めている生活が、たまたま鯖江にあった──」

遠くから見たらスローライフ、近くから見たら……

彼らとの会話から、何を求めて移住を決めたのか、その本質的な答えを見つけることは簡単にはできない。答えはそれぞれの胸の内にあるし、そもそもその解をここで導き出すことになんら意味はないのだろう。

しかし若新さんは、彼らの生活ぶり見て、次のようなことを感じるという。

「彼らの生活を遠くから見たら、いわゆるスローライフかもしれない。でも近くから見れば、その実態は極めて貪欲で、非常に高度なものを求めている。目先の安定した暮らしとか給料とかじゃなくて、今しかチャレンジできないような“何か”です。家賃を払ってそのために働いて……というような一般的な前提とは違っているんですよね」

若新さんら

では若新さんから見て、彼らは何を求めて、ここに来ているように思うのか。

「チープな言い方になってしまうけど、暮らしをアップデートしようとしているんだと思います。しかも極めて人間らしい感覚を大事にしながら。単にアンチ資本主義ということでもないけれど、根本的なものをゼロからつくり直そうとしている。僕には、都会ではなかなかできないことを試す、壮大な実験場のように見えるんです」

最初のうちは参加者の動機も明確ではない。そんなところからはじまる「ゆるい移住」は、どこまでもいっても“ゆるい”。しかしその“ゆるさ”が、それぞれの立場に新しい価値をもたらす。1つの答えではなく、「新しいいろいろ」を生みだすためのゆるいコミュニティーをつくる“行政”の新たな挑戦。そのコミュニティーに参加し、壮大な人生の実験を楽しむ“移住者たち”。そして、そこから生まれる“地域住民”との交流。「ゆるい移住」はまだその第1期プロジェクトを終えたばかりだが、まさに「三方よし」の地域創生がここではじまろうとしているように思えた。

“ゆるさ”が新しい価値をもたらす

【前編】鯖江の移住事業から見えた、オープンイノベーションの起こし方 ──福井県鯖江市「ゆるい移住」プロジェクト


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