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【座談会】地域の“調和”を担う触媒としての大学へ ──アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(後編)

2016年04月28日



【座談会】地域の“調和”を担う触媒としての大学へ ──アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(後編) | あしたのコミュニティーラボ
前編では、大学・企業がアイデアソンに対し「勉学に対するモチベーション向上の効果」と「失敗体験から得られる人材育成の効果」を期待していることがわかった。さらにその先まで議論を発展させると、社会や地域における大学の役割が見えてくる──。座談会の後編は、大分が抱える地域課題の解決に対する「大学の機能」にフォーカスし、みなさんにお話しいただいた。

【座談会】なぜ、企業・大学でアイデアソンが求められているのか? ──大分大学アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(前編)

〈座談会司会〉
黒木昭博さん/株式会社富士通総研 第一コンサルティング本部 産業・エネルギー事業部 シニアコンサルタント
〈座談会参加者〉
市原宏一さん/国立大学法人大分大学経済学部 学部長・教授
本谷るりさん/大分大学経済学部准教授 
馬場鉄心さん/豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長)
冨川慎吾さん/ 〃 加盟企業(株式会社玉井木材センター 代表取締役社長)
中野康平さん/大分大学経済学部(3年、当時)
原遼太郎さん/ 〃(1年、当時)
林 昌輝さん/ 〃(1年、当時)

地方は今「生産者≠消費者」になっている

黒木 アイデアソンが参加者に与える成果はもとより、一方で、どのアイデアソンも抱えているのが「アイデアソンは一過性で終わりがち」という問題です。大学から林業まで、多様な人たちがこれからも継続的に関係を持ち、さらにその先で、社会・地域の課題をどのように解決すべきなのか。後編はそのあたりをテーマにお話ししていただければと思います。

そもそも大分が抱える課題は何だと思いますか? 玉井木材センターは明治19年創業の製材メーカーで、これまでに事業も拡大してきました。そうした老舗企業でもこの先10数年の変化を予測し、「このままではいけない」と思うものなのでしょうか? 新しいことをやっていく必要性が迫られるなか、自社だけでやるのか、それとも、異業種連携でやっていく転換期にあるのか……。

冨川 私が思うことは、大分から人材が流出するという議論をしようにも、そうした人たちが働く場所が大分にはないことです。しかし何かベースにあるものがあれば、県内の企業同士で手を組めるし、社員にやりがいを与えられます。大手企業ならさまざまな部署・部門があって人材交流できるのでしょうが、地方の企業は雇える数にも限界があり、業種も限られます。人材の循環という点からも異業種交流は必要です。

豊の国優良住宅推進協議会 加盟企業(株式会社玉井木材センター 代表取締役社長)の冨川慎吾さん
豊の国優良住宅推進協議会 加盟企業(株式会社玉井木材センター 代表取締役社長)の冨川慎吾さん

黒木 馬場社長の会社はハウスメーカーですが、ライフスタイルブックカフェ「暮.Labo(くらぼ)」の運営に取り組まれるなど、大分で新しいことにチャレンジされていますよね。

馬場 人間にとって基本的な行為である「住む」ということの価値を、見つめ直してもらうための取り組みです。毎日家に帰り、空間のなかで育つからこそ、そこから変えられることがあるのではないか。微々たる力でも何かにつながればいいと思っています。

今回の対談の会場となった「暮.Labo(くらぼ)」。県産材をふんだんに使った広々とした空間はカフェやコワーキングスペースとして利用可能。地元の方々にとっても憩いの場となっている
今回の対談の会場となった「暮.Labo(くらぼ)」。県産材をふんだんに使った広々とした空間はカフェやコワーキングスペースとして利用可能。地元の方々にとっても憩いの場となっている

黒木 取り組みの背景には、やはり大分県人としての危機意識がありますか?

馬場 はい。私が思うことは、地域の人は生産者であり、かつ、消費者でもあるはずだということです。しかし生産者の立場では地元の人に買ってほしいけど、消費者の立場になった途端、他のところから手に入れたくなります。

たとえばここに100万があって、それを大分のなかにいる隣人のところで買い物していったら、100万円を延々と大分のなかで使えるわけですよ。しかし1回でも別のところで使ってしまえば、そちらのサイクルで使われてしまう。外から買い物すれば、地元にお金が残るわけがないし、さらに海外に雇用まで奪われれば、地元にお金なんて残らない。地方の自立が求められるなか、それで本当にいいのか、という思いがあります。

豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん
豊の国優良住宅推進協議会 代表(日本ハウジング株式会社 代表取締役社長) 馬場鉄心さん

損得勘定がないから続けられる

市原 私は経済史が専門ですから、今のお話については思うところがありますね。

歴史的にいえば、昔はその地を治めるお殿様が「お金を外に持ち出してはいけない」と統治していたわけです。そういう、藩などの生活領域だけで考えるべきというモラルのようなものが前提にありました。それが次には、利益を得るためには、国境を超えてでも競争する市場というものが生まれました。それがまた「そんなことはないぞ」と気づいたのが、今です。「地方の時代」と言われていますが、結局はもとに戻ったような状態なんですよね。

黒木 なるほど。わかりやすいですね。

市原 すると、そういう状態を誰が調和させるのか、という問題に行き着きます。私はそれが、大学なのかもしれない、と思いました。

大分大学経済学部 学部長・教授 市原宏一さん
大分大学経済学部 学部長・教授 市原宏一さん

先ほどアイデアソンの取り組みが、企業にとって人材育成の面でメリットがあるという話になりましたが(前編参照)、私は「それだけでいいのか」とちょっと不安だったんです。企業が課題を持ち込み、その課題解決の探求を授業に取り入れることで、学生は何にも代えがたい“体験”を得られます。大学側が得られるその恩恵に比べれば、大学がお返しするものが人材育成だけでは、全然等価になっていないのではないか。しかし馬場さんがおっしゃる問題を解決するため、さまざまな人が集まり、その人たちを調和させる場として機能するなら、大学にとって大きな意義が加わります。

黒木 大学は、さまざまな人と課題解決を探究するオープンプラットフォームと言えそうですね。企業側として、こうした場に出ていくことのメリットはどのように捉えていますか?

冨川 こういう会に出ていることは本業ではなく、基本的に業務時間外に活動しています。だから損得勘定で参加していることはありませんね。地元企業同士、お互いの危機感がマッチングしているだけなんだと思います。

馬場 私もまさに損得勘定がないんですよ。冨川さんと同じで、損得勘定はないけど大学教育にも危機感があるから、こうしたこともやりたいと思う。そのほうがやりやすいですしね。ただ、最初はお互いの危機感でよくても、共通テーマが見つからないと長続きしません。

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黒木 今回のアイデアソンで大学、ハウスメーカー、製材メーカー、林業という、本来なら距離感のある立場が集まったのもそこですよね。もともとは馬場さんの課題意識があり、それが大学に持ち込まれた。そこには誰の損得勘定も存在せず、大学としても危機感があったから対話ができた。その後、大学・企業の根底で意識されていることが共通のテーマとして取り上げられた。

市原 そう。共通のテーマでさらなる共感を生めば、おのずと人も集まります。集まった人たちそれぞれの立場でやりたいことがありながらも、そこに折り合いをつけられれば、調和もできるでしょう。

本谷 私も経営組織論を専門としているので興味深いお話です。組織は続いていくことが当たり前だと思っていても、続いていかない組織もあります。変わらないことには継続できないからです。そして変わることのあり方として、組織のボーダーをどう考えるか、が肝心なんだと思います。

大分大学経済学部准教授 本谷るりさん
大分大学経済学部准教授 本谷るりさん

私はこのプロジェクトを通じて、ボーダーを超えてつながることを、いろいろな人が当たり前に考えはじめているんだなと思いました。自分の属する組織を超えてつながることで、今までできなかったことができるし、1人や1組織でできないからみんなでやる、ということなんですね。

大学に新たに創設される事業共創の学科

市原 大学は本来、そうやってもっといろいろな人が入ってきてよい場なんです。ただし、そのときに学生にとって喜ばしいものであるかどうかが判断基準になるでしょう。

その点でいうと、経済学部には2017年4月、経済、経営システム、地域システムに続く4つ目の学科として「事業共創学科(仮称)」の新設を予定しています。企業、地域のみなさんの連携とご支援で人材育成に取り組んでいくことを意図していますが、それだけでなく、連携いただいたみなさんにも、共に新たな社会的な価値を生み出すという点で貢献できればと考えています。今日の話をもとに、共創の取り組みを現実のものとできるよう、新学科の検討をさらに進めたいと思います。

黒木 さて、座談会もそろそろ終了の時間が近づいてきました。後半はなかなか難しい話に及んだと思いますが、最後に、学生さんの立場から、これからアイデアソンとどう関わっていきたいか、原さんにも話を聞いてみたいと思います。

大分大学経済学部1年(当時) 原遼太郎さん
大分大学経済学部1年(当時) 原遼太郎さん

 大学生ってけっこうエネルギッシュで、向上心もあるんです。将来やりたいこともある。ただそのためにどうしたらいいか、わからない。この授業に出会うまでは、自分もそうでした。実は大学入試のときは大分大学が第一志望じゃなく、行くところがないからここに来たというのが正直なところなんです。ならば第一志望に受かった人たちよりも充実した学生生活を送りたい、そう思っていましたが、やっと熱中できるものを見つけました!

黒木 このプロジェクトでは、次のステップとして、社会実装やイベント出展など、何かかたちにしていく動きをとりたいと思っています。そうすれば、また、いろいろな人とつながっていくことになるでしょう。地方の大学と企業の良好な関係のゆくえを占う事例にもなりますので期待してください。本日はどうもありがとうございました。

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【座談会】なぜ、企業・大学でアイデアソンが求められているのか? ──大分大学アイデアソン「Social Innovation Challenge for Oita」を終えて(前編)


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