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「やりたいことをビジネスで」、挑戦の裏にあるもの ──株式会社スマイルズ 遠山正道さん(前編)

2016年05月09日



「やりたいことをビジネスで」、挑戦の裏にあるもの ──株式会社スマイルズ 遠山正道さん(前編) | あしたのコミュニティーラボ
「やりたいことをやる」。仕事においてそんな当たり前のことが難しい場合も多い。では、夢を持った従業員を経営層はどう応援していったら良いのだろうか。 新規事業を社内ベンチャーとして立ち上げた後、MBOにより独立。今また社員発案の事業を育て上げ、価値と意義を感じた外部の事業にも出資する。女性が1人でも入れるファストフードチェーンとして「Soup Stock Tokyo」を成功させた遠山正道さんの信条は「やりたいことをビジネスで」。それをどのように実現してきたのか、そしてその考え方は企業経営にどう反映されているのだろうか。「価値づくり」の視点から探ったインタビュー、前後編でお届けする。

小さくても鋭い「作品」をつくるカギは「共感」 ──株式会社スマイルズ 遠山正道さん(後編)

「このままじゃまずい」をきっかけに走り出した

──三菱商事に在職中、スープのファストフード店「Soup Stock Tokyo」を立ち上げたのが、遠山さんの「やりたいことをやる」ビジネスのはじまりでした。その後立ち上げたネクタイブランド「giraffe」も、モノの背後にあるストーリーを大切にしたセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」も、一貫して「やりたいこと」をビジネスにしようとする挑戦です。その原点は何だったのですか。

遠山 原点は「このままじゃマズい」と思ったことですね。当時入社10年目で32歳。15人いた部署で私が一番年下でした。部長がとても優秀な方だったのですが、その人がいなくなったら我々はどうなってしまうんだろうと思ったら、「ひとごとじゃない」とちょっとゾッとしたんです。なによりも、このまま定年を迎えたら、きっと自分は満足しないだろうなあ、という気がしたんです。
株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道さん株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道さん
1994年、バブルが崩壊し不況の長いトンネルにいた時期で、三菱商事のような大企業といえども“このままの延長線上に未来はない、何か新しいことをしなければ”という気運が高まっていました。トップの年頭挨拶にも「個人の創造力に期待する」といった趣旨のことが述べられていたと思います。その言葉をいいように解釈して個人の活動をはじめました。

で、私の場合は何をしたかというと、趣味で描いていた絵の個展を開いたんです。

──なぜ仕事ではなく、絵の個展を開こうと思ったんですか。

遠山 その理由なんですが、ここ最近までは、その展覧会について「合理的な説明はできない」と言っていたんです。最近思いはじめたのは「合理的な説明のできないことが良かったに違いない」ということです。

それを思ったきっかけが、ちょうど最近のアート活動にあります。

話が今に飛びますが、2014年から株式会社スマイルズ自身が作家として芸術祭に作品を出しています。昨年は「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」に株式会社デンソーさんの協力を得て「新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円」という作品を出品しました。
新潟産ハートを射抜くお米のスープ300円
作品のコンテクストは「食・技術・おもてなし」。食はSoup Stock Tokyoのスープ、技術はデンソーさんのロボット、おもてなしは自分たち生身の人間のパフォーマンスです。

──会社が1人の作家としてアートを出品するのですか?

遠山 そうです。コストはかかるし利益は出ません。広告やPRならもっと良い手段はいくらでもある。では、「なぜ出品するのか?」と聞かれても今までの価値観では説明しにくい。

20世紀は椅子取りゲームでたとえると「プレーヤーより椅子のほうが多い時代」でした。つくれば売れる時代が本当にありました。しかし今は真逆です。供給が需要を上回っている。そんななかで支持されるには、足し算、引き算ではなく何に価値があるのか、「価値そのもの」を見つけ出さなければなりません。では「価値とは何か?」そのわからないものの最右翼がアートじゃないですか。

絵の価格は「絵の具」と「キャンパス」、「制作時間」のコストを足し算しても設定できません。たとえば、30万円の絵と3000万円の絵の違いはどこにあるんでしょうか? いちばん価値のつけづらい、わからないほうに行ってみようと思いました。ロボット技術に惚れ込んで、お願いをしていたデンソーさんもこのプランに参加してくれました。今年は瀬戸内芸術祭に出品します。

合理的に説明できることは、合理的に打ち返される

遠山 それを踏まえて先ほどの絵の個展の話に戻ると、「同じことではないか」と思いました。15年経って符号したかな、という気がしていて。つまり、なぜかはわからないんです。逆を返すと、合理的に説明できることは合理的に打ち返されてしまうんですよ。
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アフターファイブの個展の準備のせいで仕事のパフォーマンスが下がれば、必ず上司から「そんなことをしているからだ」と責められるので、仕事は人一倍やります。絵のほうも、アート側から「高給取りが趣味でいい気なもんだ」と言われるのが癪だから、全作品を売ろうとがんばる。それってすごく力のいるタフなことで、上司に指示されてもいない、誰かに頼まれたわけでもない……。

──「自分がやりたいからやっている」だけと。

遠山 そう。そうとしか言えないんです。でも、そのときに気づいたのは「行動をすると神様がおまけをつけてくれる」こと。やること自体に価値があるんですね。展覧会を行った際も、仕事をしながら展覧会をした、という行動に共感して助けてくれる人たちがいました。

作品がすべて売れ、その手伝ってくれた人に「個展を開きたいという夢が実現しました」と言ったら「そんなチンケな夢につきあった覚えはない。ここからがスタートだろ」とクギを指されたんです。

──個展を開かなかったらSoup Stock Tokyoもなかったですか?

遠山 はい、はっきりないと言えますね。今日まで地続きでつながっている。決まった枠組みのなかで会社の仕事をしているだけなら、何かできるという自信も生まれなかったでしょうし。社内でもよく言うのですが、指示されてやるのは「作業」で、自分でやるべきこと、やりたいことを見つけるのが「仕事」なんです。

「合理的に説明できない」ことから、新しい価値を生み出す活動をはじめた遠山さん。振り返るとそこには、「行動することの価値」「価値そのものを見つけ出すことの価値」が詰まっていました。では、そのようななかで「やりたいことを仕事にする」までにどんな苦労があったのか、そこを突破するためにどんな活動を行ったのか、後編に続きます。

小さくても鋭い「作品」をつくるカギは「共感」 ──株式会社スマイルズ 遠山正道さん(後編)

株式会社スマイルズ 遠山正道さん

遠山正道(とおやま・まさみち)

株式会社スマイルズ 代表取締役社長


1962年東京生まれ


三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立。20082MBOにて100%株式を取得。Soup Stock Tokyo、ネクタイブランドgiraffe、新しいセレクトリサイクルショップPASS THE BATONの企画・運営を行う。NY、青山などで絵の個展も開催。


著書に『スープで、いきます 商社マンがSoup Stock Tokyoを作る』(新潮社)、『やりたいことをやるというビジネスモデル―PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)などがある。


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