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小さくても鋭い「作品」をつくるカギは「共感」 ──株式会社スマイルズ 遠山正道さん(後編)

2016年05月09日



小さくても鋭い「作品」をつくるカギは「共感」 ──株式会社スマイルズ 遠山正道さん(後編) | あしたのコミュニティーラボ
やりたいことを貫き通すには、「共感」が重要だと「Soup Stock Tokyo」を立ち上げた株式会社スマイルズの遠山正道さんは話す。では、その考えを元にした株式会社スマイルズは、どのように社員を支え、鼓舞しているのだろうか。遠山正道さんのビジネス、そして会社に対する思いを聞いた後編。

「やりたいことをビジネスで」、挑戦の裏にあるもの ──株式会社スマイルズ 遠山正道さん(前編)

ものごとを立ち上げるポイントは“本体から遠く”

──Soup Stock Tokyoを立ち上げた時は、遠山さんのなかに「やりたいこと」が明確にあったんですか。

遠山 ありません。「何かやりたい病」にかかっていただけです。Soup Stock Tokyoのアイデアを考えた当時はソリューションビジネスを展開する情報産業グループに在籍していたのですが、食や小売のような手触り感のあるビジネスがしたいと漠然と思っていました。また、「自分でジャッジしたい」とも思っていました。
株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道さん株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道さん
それで、関連会社だった日本ケンタッキーフライドチキン株式会社の社長と、在籍していた情報産業グループの役員が、とあるパーティーで「何かやれたらいいね」と話していたという噂を聞きつけ、出向しようと思ったんです。

──手を挙げて出向させてもらったんですか。

遠山 いえ、なかなかすんなりはいかなくて。ケンタッキーフライドチキンの人にいろいろ算段してもらい、先方の社長から部長に「遠山さんを出向させてほしい」と頼んでもらいました。

出向後しばらくしてから、女性がスープをすすってホッとしているシーンがふっと思い浮かんだ。それがSoup Stock Tokyoの種になりました。とても大事なことに出会えた気がして、最終的に目指したい全体像が確実に伝わるように「1998年スープのある一日」という未来から振り返る、物語仕立ての企画書をつくりました。

──そもそもの発想は、女性が1人で入れるファストフード店がない、という気づきだったのですか。

遠山 先例がないことも、ことを起こす理屈の1つですが、企画書で強調したのはひと言でいうなら「共感」です。
株式会社スマイルズ 代表取締役社長 遠山正道さん
感動を共有した仲間やパートナーと、いいねえとかダメだとか言い合いながら組織を築いていければ、やがてお客さんとも共感の関係性が広がっていく。そうした、「共感の集合体」を分母とするならば、分子の業態はファッションなど他のアイテムへも広げることができる。

その最初の旗印というか背骨として、朝食から夜食まで老若男女に愛されるポテンシャルをもった唯一ともいえる飲食物として“スープ”は凄くいいなと思ったんです。

──会社をどのように説得したのですか。

遠山 同じ景色を共有したうえでダメなら仕方ないですが、単に資料を読んで、共感する、しないの前に「No」のジャッジを下されるのだけはイヤでした。そこで具体的な映像が浮かぶように、企画書は物語形式にして、ポスターや店のイメージも描きました。現実はほぼそのとおりになっています。もちろん事業計画は別冊で付けました。
Soup Stock Tokyoスマイルズのある1日(画像提供:株式会社スマイルズ)
企画書は大切ですが手段の1つにすぎません。企業で「やりたい仕事」に挑戦する人に唯一アドバイスできるとしたら、「本体から遠く離れてはじめること」。

私の場合は三菱商事から日本ケンタッキーフライドチキンに出向しましたが、メニューと競合するからスープ屋はできません。そこで、ケンタッキーフライドチキンの社長が個人で運営する株式会社の子会社としてスタートしました。本体から遠く離れれば離れるほど、少人数でジャッジされるからゴーサインが出やすく、小さく生んで大きく育てられる。そのメリットを感じました。

小さければ小さいほど切っ先が鋭く人が賛同しやすい

──「Soup Stock Tokyo」も決して順風満帆ではなく、危機を何度も徹夜、徹夜で乗り越えてこられたとか。しんどくても投げ出さないでいられたのは、やはり自分たちのやりたいことをやっているからですか。

遠山 スマイルズがビジネスをはじめる条件は「やりたいこと」「自分がやる必然性」「どんな意義があるか」「今までなかった価値」の「四行詩(編集部注:4行で構成される詩のこと。起承転結の流れを持ってまとめられることが多い)」です。とはいえ、残念ながらウチのビジネスは苦労が絶えません。
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Soup Stock Tokyoも売上は伸びて評価はいただいたのですが利益となると別問題で、やっと安定したのは8年目くらい。ネクタイブランドの「giraffe」も、セレクトリサイクルショップの「PASS THE BATON」も利益を出すにはすごく時間がかかっています。

創業3年で基準を満たした、優等生の事業なんて1つもありません。それでも、ああだこうだ言い合いながらウンウン苦しんで、なんとかなっているんです。経営会議では各事業の責任者と一緒に、「誰がやってるんだっけ?」「なんでやってるんだっけ?」と根本的な議題を議論する景色も珍しくない。

──儲かりそうだから、流行ってるからという理由ではスタートしない?

遠山 そんな理由でビジネスをはじめると、理由にならないというか、「だって儲かってないよね?」「はい……」で一巻の終わりでしょ。スマイルズにはそういう文化はない。

私はこんなふうに情感重視の“右脳系”ですが、Soup Stock Tokyoを分社化して任せている“左脳系”の松尾真継(まつお・さねつぐ:2016年2月に、株式会社スマイルズの分社化により株式会社スープストックトーキョーを設立し、同社社長に就任)にしても、そうです。彼がはじめたファミリーレストラン「100本のスプーン」も、自身が結婚して子どもが生まれ、子どもも大人も一緒に楽しめる外食シーンが見たい、というところからはじまっています。

──PASS THE BATONの元店長が新宿でバーを経営するなど社内ベンチャーを立ち上げたり、1冊の本だけを売る書店「森岡書店」に出資するといったインキュベーション事業も手がけておられます。そのような、社員がやりたいというビジネスを新しく立ち上げる際には、やりたいことがいかに深いところまで自分のなかに根づいているか、で判断するのですか。

遠山 それもありますし、“出会い頭の恋”みたいなのもあっていいと思うんですよね。「なんかときめいちゃった」みたいな。たった5坪の森岡書店は、店長の森岡督行くんが選んだ1冊の本をプレゼンし週替わりで売る。
森岡書店歴史を感じさせるビルの1階に店舗を構える森岡書店銀座店
去年5月のオープン時に花を贈ろうとしたら、お金がなくて夏へ向かうのにクーラーも付けられない、と言うので花をやめてエアコンにしました(笑)。そんな感じの手弁当ビジネスですが、メディアに取り上げられてよく知られ、海外からの取材がとても多い。

仮にこの発想をフランチャイズ化すれば「森岡書店吉田店」みたいなのがあちこちにできて、各人が薦める多様な“この1冊”が世のなかにじわじわ浸透しだしたら素敵じゃないですか。さながら “1人きりの産業革命”、1人で新たな産業を生み出しているんです。
檸檬ホテル檸檬ホテルのイメージビジュアル
2016年の夏にはスマイルズの社員が37歳で奥さんと犬を連れ高松市にIターンし、瀬戸内芸術祭の舞台となる豊島で小さなホテル「檸檬(れもん)ホテル」をオープンします。本当にやりたいことをやるとなったら、もう逃げも隠れもできない、ボールを持って走るだけ、落としたら拾えばいい。

そのビジネスの規模が小さければ小さいほど切っ先が鋭く人が賛同しやすい。最近とてもそれを感じますね。

──企業のなかで自分のやりたいことを立ち上げようとするときも、そうした発想から出発することが有効でしょうか。

遠山 そう思いますね。ビジネスは手段で、やりたいことが主語。「また絵を描かないんですか?」と、よく聞かれるんですよ。でもビジネスにしたほうがはるかにおもしろい。

スマイルズの行動指針の1つに「作品性」があります。ビジネスも作品と捉えよう、と。1人で1枚の絵を描くより広がりが出る。個展の来場者が何百人としたら、ビジネスのフィールドでは、価値があると思ったことを、ケタ違いの人たちに届けられる。素敵ですよね。

その原点は、多くの人に共感を得られる意義が高く、しかも他人事ではない自分ゴトにしかありません。

「やりたいことをビジネスで」、挑戦の裏にあるもの ──株式会社スマイルズ 遠山正道さん(前編)

株式会社スマイルズ 遠山正道さん

遠山正道(とおやま・まさみち)

株式会社スマイルズ 代表取締役社長


1962年東京生まれ


三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立。20082MBOにて100%株式を取得。Soup Stock Tokyo、ネクタイブランドgiraffe、新しいセレクトリサイクルショップPASS THE BATONの企画・運営を行う。NY、青山などで絵の個展も開催。


著書に『スープで、いきます 商社マンがSoup Stock Tokyoを作る』(新潮社)、『やりたいことをやるというビジネスモデル―PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)などがある。


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