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【座談会】社会を変える出口戦略と、エコシステム形成の可能性 ──IoT × Security Hackathon から読み解く(前編)

2016年05月16日



【座談会】社会を変える出口戦略と、エコシステム形成の可能性 ──IoT × Security Hackathon から読み解く(前編) | あしたのコミュニティーラボ
エンジニア・デザイナーが一堂に会し、未だかつてないプロダクト・サービスを創発していくハッカソン。ここで生まれた“イノベーションの種”が間断なく社会実装されるしくみができれば、日本にもイノベーション創出の渦が巻き起こっていく。いわばハッカソンは、「個人と社会をつなぐ装置」といえそうだ。しかし「企業」という組織のなかにその装置を取り入れるのはなかなかハードルが高く、現状、「社会を変えたい」という強い想い・使命を持った個人を、企業がうまく活用できているとは言いがたい。 今回は、アルツ磐梯スキー場で開催された「IoT × Security Hackathon 2016」(レポートはこちら)の関係者を集め、「個人—企業(組織)—社会」をうまくつなぎ合わせ、個人の想いを“イノベーションの種”として社会に実装し課題を解決する、そんな“エコシステム形成の可能性”をテーマに話をしていただいた。

〈座談会参加者〉
山寺純/株式会社Eyes, JAPAN 代表取締役社長
東博暢/株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/
融合戦略グループ長
江渡浩一郎/国立研究開発法人産業技術総合研究所 主任研究員、メディアアーティスト

【座談会】ハッカソンをクリエイティブな場に様変わりさせる方法 ──IoT × Security Hackathon から読み解く(後編)

経営者は一番下の存在、ものをつくる奴がいちばん偉い

──今回の「IoT × Security Hackathon 2016」では、2日間で「アプリ・サービス部門」「セキュリティ部門」(脆弱性調査・侵入テスト等)の2種目の競技が行われました。今回はハッカソンを企画運営するEyes, JAPANの山寺さん、ゲストとして参加している日本総研・東さん、メディアアーティストの江渡さんで座談会を開催したいと思います。

さて、今回の座談会では、創発されたアイデアをどのようにして社会実装していくか、そのあたりが大きなテーマになります。もちろんそれが企業という枠組みでも起こることがベターなのでしょうが、なかなかそうもいきません。

東さんは、金融グループである三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)のシンクタンクである日本総合研究所(以下、日本総研)で、国や民間企業に対するコンサルティングのほか、最近では科学技術の商業化に向けたオープンイノベーションプログラムの実施などテクノロジースタートアップ支援にも取り組まれています。まずは東さんの目に、今の日本の状況はどのように映っているのかお聞かせ願いますか?

 日本もかつては国中が創業者で溢れていましたから(ソニー、パナソニック、トヨタ、ホンダ等も、もともとはスタートアップ)、言ってみればかなりイノベーティブな無敵状態だったんです。しかし時代の変遷のなかで合理性が求められ、会社は大企業に成長し、組織は縦割りになり、予算も縦割りに振り分けられ、身動きが取りづらくなってしまいました。そんなところにインターネット社会が到来します。

株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/
融合戦略グループ長 東博暢さん
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/融合戦略グループ長 東博暢さん

インターネットが登場した時代、われわれが考えたのは「生命論パラダイム」という思想です。すなわち、社会がネットワークにつながれば、情報はボーダレスに流通する。これまで上意下達で下りてきた情報に、現場がアクセスしやすくなり、それはさらに横方向にもつながっていく。ネットワークがつながって複雑になればなるほど、ある種の生命的な現象(創発)が起こってくるだろうと予測したんですね。今のインターネットの世界で言われる「ネットワークの外部性」のようなもので、プラットフォーム的な思想が必要となると。こうなると、既存の組織形態では何もかもが回らなくなってしまいます。

──日本総研では、生命論パラダイムに合わせて、どのような組織設計がなされたのでしょう?

 わかりやすいところでは、組織内にあった縦割り組織の管理者権限が最小限まで取り払われ、現場に権限を委譲しました。現場で「こういうことを今年やりたい!」という希望があれば、毎年、社員が自由に部門内で事業構想を立てたりグループのビジョンを周知し、チームを組成するためにスタッフに参画を呼びかけ、「私たちも乗った!!」と一定人数が集まればチーム組成の承認が下りる、という「クラスター制度」が取られていました。社内ベンチャー的な組織がたくさんあったのです。

すると会社のミッションは「そうした強い個人の集団をどのようにマネジメントするのか」に移り変わります。組織は強烈な個人がつくるそれぞれのクラスター(集団)を維持できるのか。はたまた、その環境をいかにして整えるのか。組織に求められるのは、そんなマネジメント形態に移り変わっていったわけです。

現在は、また違ったマネジメント形態をとっています。時代とともに常にマネジメント手法も変化しています。

山寺 今のお話は、僕のなかでも非常に腑に落ちるものですね。Eyes, JAPANもインターネットができた後、すなわち“After Internet”に創業したベンチャーです(編集部注:Eyes, JAPAN は1995年創業)。そのときに一番感じたことは“Before Internet”ではビジネスモデルにしても何にしても予想可能だったのに対し、“After Internet”では次に何が起こるか予想ができないということ。

株式会社Eyes, JAPAN 代表取締役社長 山寺純さん
株式会社Eyes, JAPAN 代表取締役社長 山寺純さん

そうして世のなかが予測不能で複雑になればなるほど、野球みたいな1人の指揮官の力ではどうにもなりません。サッカーみたいに戦略だけ決まっていて、戦術はそれぞれのプレイヤーが決めるほうが絶対にうまくいきます。信頼関係があれば、そうした上・下の概念がない組織も可能です。だから僕も自分の会社のピラミッドではいちばん下の存在で、結局、ものをつくることのできる奴がいちばん偉いと思っています。

組織の外に“飛び地”をつくれ!

──では、そんな状況を打破するには、どんな策があると思いますか?

 組織の外に“飛び地”をつくることです。がんばっている人たちをいったん企業の外へ出して、意思決定権・裁量権・予算なんかを与え、そこで自由にやらせてみる。これを制度設計にまで落とし込めば、政策的な動きにもつながっていくはずです。

江渡 僕も同じ意見です。クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)で言っていることも、基本的にはそういうことですよね。

国立研究開発法人産業技術総合研究所 主任研究員、メディアアーティスト 江渡浩一郎さん
国立研究開発法人産業技術総合研究所 主任研究員、メディアアーティスト 江渡浩一郎さん

──私も組織の一員ですが「新しいことにチャレンジしよう」としても、現業とのバランスをいかにとるのか、といったジレンマを抱えざるを得ません。また、オープンイノベーションの重要性が語られますが、企業人は得てして「発注者マインド」で偉そうになってしまう(笑)。これではイノベーションなんて起こせませんよね。

山寺 海外だと名刺交換をする場面って少ないんです。「おまえ何やってんの?」「俺は○○やっているんだぜ」から話がはじまっていて、お互いに散々話をしてから、やっと名刺交換。日本だと名刺交換した後、なぜかマウンティングがはじまって全然クリエイティブな話なんてできない(笑)。あなたが所属する企業はすごいかもしれないけど、別にあなた自身はすごいとは限らない、ということを自覚すべきだと思います。

また、これは社会が抱えている問題なのですが、イノベーションの原点は「怒り」だと僕は思うんですよね。だけどYahoo!知恵袋なんか見ていると、なんかすごく怖いじゃないですか。混雑した電車にお母さんがベビーカーを持ち込んだことに怒っている人がいたりする……。

──個人に対して怒りが向かってしまうんですよね。

山寺 そう。そんな都市デザインをした国・政府に対して怒りの矛先が向かわなければ本来はおかしいんです。それがないと、社会がよくなることなんてできない。Uber(編集部注:自動車のオンライン配車サービスとそのウェブサイトおよびアプリのこと)にしても、Airbnb(編集部注:宿泊施設・部屋を貸す人と借りる人をオンラインでマッチングするサービスとそのウェブサイトおよびアプリのこと)にしても、「なんでこういうのができないのか!?」という怒りからはじまっていて、怒りを社会的課題に昇華できていないというのは日本が抱える問題だと思います。

ハッカソンは自分の市場価値を意識できる場

ハッカソンは自分の市場価値を意識できる場

──さきほどの企業人マインドの話で言うと、ハッカソンなどは関係性がフラットになりますよね。企業人でも「自分に何ができるのか」をあらためて考えることができます。

 そうですね。終身雇用なんてとうに終わっているのだから、これからの時代、常に自分の市場価値を意識しなければいけません。「自分がマーケットに出たら、なんぼなんだろう?」って考えないと。それにハッカソンには専門家の人が集まるし、言ってみればリアルなWikipedia。個人にさまざまな、濃縮された高密度で良質な情報をインプットしてくれますし、それにより個人のなかに複雑系を短時間でつくり上げることができる。

──江渡さんは、これまで「さくらハッカソン2014」「酒蔵アイデアソン」にもゲストとして参加されていますよね。江渡さんが考える“ハッカソン”にとても興味があるのですが、その前に、そもそも江渡さんが生業にされている「メディアアーティスト」ってどんな役割を果たすお仕事なのでしょうか?

江渡 メディアのコンディションを見極める人、だと思っています。既に決められたメディアをうまく使って何かを表現する、これはデザイナーの仕事です。しかしそもそも「このメディアを使ってできるのか、できないのか」とはっきりしない状況になることがあります。そのときに「できる・できない」を見極める、それはアーティストじゃないとできません。

──江渡さんは「ニコニコ学会β」の実行委員会委員長も務められていますよね。

江渡 「ニコニコ学会β」では、ニコニコ動画のようなしくみがあることを前提にゼロから学会をデザインし直しましたが、そのような「0を1にする」場面で、メディアアーティストの力が発揮されるんです。

 江渡さんのような「アーティストの思想」は、誰もが持ち合わせるべきものだと思いますよ。今日の話題にもなっているエコシステムも、行き着くところはアート。世のなかを動かすものはたいてい綺麗かつシンプルなもので、そうじゃないと循環しないし、長続きもしませんから。

前半はここまで

前半はここまで。後編では、アイデア創発の場=ハッカソンにさらに焦点を当てて、3名それぞれの視点から話をしていただきます。

【座談会】ハッカソンをクリエイティブな場に様変わりさせる方法 ──IoT × Security Hackathon から読み解く(後編)

山寺純(やまでら・じゅん)
株式会社Eyes, JAPAN代表取締役/チーフ・カオス・オフィサー
1968年、福島県会津若松市生まれ。95年に大学生と会津大学発のベンチャー企業として「あいづ・ジャパン」を創業。「Government 2.0」「ITによる地域活性」など、プロジェクトを多数手掛ける。2013年には、アメリカで行われた「Health 2.0」の第7回ハッカソンに日本代表として参加し、優勝を果たした。

東博暢(あずま・ひろのぶ)
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 上席主任研究員/融合戦略グループ長
大阪府立大学大学院工学研究科(電気・情報系)修士課程修了。2006年、株式会社日本総合研究所入社。民間組織に対する新規事業開発戦略策定、イノベーション戦略策定支援や、政府の情報通信分野における法制度改正、ガイドライン策定支援などに従事。ICTを軸にした産業界のインキュベーション、コンサルティング活動、海外政府機関支援なども行っている。現在は、主に日本の成長戦略の基盤となる先進性の高い技術やビジネスアイデアの事業化を支援しイノベーションを推進する異業種連携の事業コンソーシアム「Incubation & Innovation Initiative」を組成し、Program Directorとして全体統括を行っている。

江渡浩一郎(えと・こういちろう)
国立研究開発法人産業技術総合研究所 主任研究員、メディアアーティスト
東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。在学中よりメディアアーティストとしてネットワークを使ったアート作品を発表。2011年、ニコニコ学会βを立ち上げ、2012年にグッドデザイン賞、2013年にアルス・エレクトロニカ賞を受賞するなど高い評価を受ける。


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