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既存領域になかった“ファッション”を事業化できた理由──ソニーの新規事業創出プログラムSAP(後編)

2016年06月10日



既存領域になかった“ファッション”を事業化できた理由──ソニーの新規事業創出プログラムSAP(後編) | あしたのコミュニティーラボ
一定の自由度を持ちながら、新たなイノベーションを起こすために活動する大企業の社員。そこにはどんな葛藤があり、どんなプレッシャーと思いがあるのだろうか。後編では現場の声を、ソニーが展開するSeed Acceleration Program(SAP)を舞台に探る。大企業が起こすイノベーションのしくみを、プロセスそして現場から見つめていく。

バーチャルでリアルな、ボトムアップのしくみが大企業を変える? ──ソニーの新規事業創出プログラムSAP(前編)

やれない理由ではなく、やれる方法だけを考える

SAPから生まれた製品の1つが、文字盤とベルトのデザインを24通りに変えられる腕時計「FES Watch」だ。これまで電子書籍端末などに使われていた素材である電子ペーパーを“デジタルな布地”として活用し、さまざまなファッションアイテムを開発しようとするプロジェクト、「Fashion Entertainments」の第1弾製品である。

FES Watchは好きなときに好きなデザインで楽しめる、柄が変わる腕時計
FES Watchは好きなときに好きなデザインで楽しめる、柄が変わる腕時計

発案者は新規事業創出部Fashion Entertainmentsプロジェクトリーダーの杉上雄紀さん。SAPがスタートする前から、このアイデアを温めていた。

ソニー株式会社 新規事業創出部Fashion Entertainmentsプロジェクトリーダー 杉上雄紀さん
ソニー株式会社 新規事業創出部Fashion Entertainmentsプロジェクトリーダー 杉上雄紀さん

「ソニー×ファッションのデジタル化」に挑戦

「かつてはトランプや花札などアナログだったゲームがデジタル化され隆盛を迎えていました。では、まだデジタル化されていないエンタテインメント業界は? と帰り道に考え、翌日に東京ガールズコレクションのニュースを見て、ファッションだ! と思いつきました」

杉上さんはそれまで、テレビ事業部でソフトウェアエンジニアを務めていた。ソニーにはファッション関連の事業領域はない。「やれない理由を考えたらたくさんあるけれど、やるにはどうしたらいいかだけを単純に考えて実行しよう」と、所属するホームエンタテインメント部門の社内アイデアコンテストに応募し、コンテストのスタッフにもなった。1年目は残念ながら落選したが、スタッフ仲間が「おもしろいから一緒にやろうよ」と声をかけてくれ、仕事のつながりで集めた5人のチームで2年目にチャレンジし、入賞を果たした。

「ファッションのデジタル化のアイデアをどうしても実現したかったので、社長の平井にも突撃プレゼンしました」と杉上さんは明かす。

「“はじめまして平井さん”というTシャツをアイロンプリントで自作してみんなで着て(笑)。2カ月後の再プレゼンでは“2回目ですね、平井さん”とした同じデザインのTシャツを着てプレゼンしました。『お、変わったね!』と言ってくれたので『そうなんです、こういうことを簡単にできるのがファッションのデジタル化です』と提案しました」

折しもSAPがスタートする時期と重なり「このプラットフォームに乗せてみないか」と促された。のちに平井社長に確認したところ、必ずしも“出落ち10秒のTシャツパフォーマンス”が評価されたわけではなく「広がりのある事業性とチームが楽しんで取り組む様子に可能性を感じた」のだという。

自由と責任、両立が新たな未来をつくり出す

 
杉上さんのアイデアは思い立ってから1年半強でスタートアップまでこぎつけたことになる。社外のクラウドファンディングサイトにエントリーし、1500万円を超える支援を集めた。こうしたはじめての試みでの成功事例も、社内起業を支援するSAPのしくみの1つである“クラウドファンディング+eコマース”のサイト「First Flight」オープンにつながったといえそうだ。

杉上さん

杉上さんはSAPにおいて重視されている権限委譲についてこう語る。

「通常なら何段階もの承認プロセスを経なければいけない決裁や契約も、自分たちの裁量に任されている一方、投資回収し収益化を図らなければ新規のプロジェクトは存続できません。人生を賭ける価値のある仕事に、自由度高く取り組ませてもらっている楽しさと同時に、責任の重さを痛感しています」

杉上さんが感じる大企業ならではのスタートアップの強みは、メディアの注目度の高さ、海外を含めた販路の展開可能性、豊富な人材によるサポート。こうした利点を活かし、プロジェクト第1弾のFES Watch をしっかり売りながらも、今後3つの軸で“ファッションのデジタル化”プロジェクトを推進するつもりだ。

「第1にデジタル化なのでコンテンツとプロダクトを分けること。FES Watchは現状だと24通りのデザインがプロダクトに組み込まれた状態ですが、スマートフォンでコンテンツをダウンロードし、好きなときに好きなデザインに着替えられる時計に進化させていきたい。第2にプロダクトを増やす方向。電子ペーパーは腕時計だけでなく、メガネやバッグ、アクセサリーなどにも適用できる可能性を持っています。第3に外部とのコラボレーション。デザイナーやブランドに素材や技術を提供して、それぞれのクリエイティブに反映させた製品を展開していきたいですね」

チームメンバーとことあるごとに確認し合っているのは、“ファッションのデジタル化による新しいエンタテインメントの提供”という大元のビジョンだという。個々のプロダクトやサービスは、このビジョンに収斂されるものでなければならない。

真のイノベーションとは

これは、かつてソニーの生んだ「ウォークマン」が“音楽を持ち歩く”というライフスタイルの革命を起こしたように、真のイノベーションとは多くの人が共感できる新しい壮大なビジョンから導き出されるものに違いない。
 
新規事業創出部担当部長の小田島伸至さんは「SAPで生まれた商品の収益で新たな種を育成するループをつくりたい」と意気込む。その種から10年後の柱となる事業が成長するかどうかは、魅力的なビジョンの提示にかかっている。

銀座 ソニービル5階の「ソニーイノベーションラウンジ」で、FES Watchを実際に体験、購入可能です

バーチャルでリアルな、ボトムアップのしくみが大企業を変える? ──ソニーの新規事業創出プログラムSAP(前編)


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