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企業の応援を背に、女子高生は信じた道を進む──学びが「クエスト」で変わる(前編)

2016年06月15日



企業の応援を背に、女子高生は信じた道を進む──学びが「クエスト」で変わる(前編) | あしたのコミュニティーラボ
教育現場にPBL(Project Based Learning)、プロジェクトを遂行しながら問題解決を行い、学生の自主性を高めるという授業形態の導入が進んでいる。そのなかの1つが全国95(2016年5月現在)の中学・高等学校で導入される「クエストエデュケーション」(以下、クエスト)だ。課題探求型の教育プログラムとして、企業の課題解決に中高生が取り組むというスタイルを採用している。今回は、この「企業探究コース」に参加し、クエストを教育の場として活用する2つの学校での取り組みを通じ、PBLが持つ意義と、それによって得られた変化を追った。前後編でお届けする。

学ぶ、教える、そして、「場をつくる」人間になる ──学びが「クエスト」で変わる(後編)

生徒が熱中する「クエストエデュケーション」のしくみ

「見えてきたものを吸収し、自分のミッションに置き換えること」「相手に好感を持たれる見せ方を学ぶことができた」──。これらは、中学3年生、高校1年生がクエストを体験し、その振り返りとして学んだ部分やよかった点を挙げてもらった時の言葉。さながら企業でインターンシップを体験した大学生の感想のようにも思える。

クエストは、全国95校の中学・高等学校が取り組む、アクティブ・ラーニングの教育プログラム。企画・運営を行う、株式会社教育と探求社・代表取締役の宮地勘司さんが日本経済新聞社(以下、日経新聞社)の在籍当時、新聞社のリソースを活かした教育事業の企画として立ち上げたのがその前身。学びにより、生徒たちが変わっていく姿を間近に見て、これを一生の仕事にしようと日経新聞社から独立し、2005年からクエストエデュケーションのプログラム運営をスタートさせた。

実際の企業を題材に企業活動や仕事について学ぶコースや、日経新聞社の名物コラム『私の履歴書』を題材に先人に学ぶコースの2つに分かれる。特に企業から課せられた「ミッション」(課題)に対し、プレゼンテーションを行う「企業探究コース」には、教育現場や企業関係者からの熱い視線が注がれている。
クエストカップのWebサイトでは、プレゼンテーションの様子を写真などで振り返ることができる
クエストカップのWebサイトでは、プレゼンテーションの様子を写真などで振り返ることができる

「企業探究コース」のコンセプトは、実在する企業のインターンシップを“教室”で体験できること。2015年度のプログラムには、インターンシップ受入先として、エイチ・アイ・エス、オムロン、クレディセゾン、大和ハウス、テレビ東京、富士通の6社が協賛した。

プログラムでは、1コマ約45分という通常の授業のなかにクエストを組み込む。参加企業からインターンシップ先を選択し、フィールドワークやアンケート調査など、企業活動の実務を経験したり、それぞれの企業から与えられた独自のミッションを解決する提案をチーム一丸となって考えていく。また協賛企業の社員たちが、学校を訪問することもある。その際は、訪問した社員から直接フィードバックをもらうという流れ。これらはおおよそ2学期までに終了する。

3学期になると、各チームは2月に開催される「クエストカップ」にエントリーする。予選、ファーストステージ、セカンドステージと3つの関門をくぐり、その結果、「グランプリ」「準グランプリ」が決定する。宮地さんは、「2016年2月に行われた『クエストカップ2016』では、学生が考えたことが大人たちの先を行ったという感があります。たしかにツッコミどころもあるけれど、着眼やアイデアは芯を捉えている、という審査員の反応です」と話す。

女子高生が提案する「ゴキブリ+住まい」の提案とは?

「クエストカップ2016」でグランプリを受賞したのは、奈良県・育英西高等学校の「大和に住んで17年」チーム。同校は高校2年・情報科の授業でクエストを導入している。

クエストの指導教員の1人、堀川浩二さんは、情報科・芸術科(書道)の教諭。
育英西中学校・高等学校 教諭 堀川浩二さん
育英西中学校・高等学校 教諭 堀川浩二さん

「もともと情報科の授業で学校の遊休地の活用法を考えたり、学内のユニバーサルデザインを考えたりする授業プログラムを実施していました。クエストのプログラムを知り、実際に導入してみて感じたことは、生徒が企業から得られるヒントやフィードバックの効果が絶大だということ」(堀川さん)

グランプリチーム「大和に住んで17年」が参加したのは、大和ハウスのミッション「私たちが世界を変える! 72億のハートを動かす大和ハウスの新商品を提案せよ!」。そこから導き出されたアイデア「3億8400万年の家」。キーになるのはなんと「ゴキブリ」だった。

ゴキブリは不衛生な場所に住みつく印象が強いが、実は抗菌物質を体内に持っている。人間を死に至らしめるような細菌に対して効果を発揮するというその抗菌物質を、大和ハウスの建てる家や使用する建築資材などに組み込むことで、衛生面に優れた住居空間を創出する。同じ抗菌物質をシート材にも組み込み、廉価版として発展途上国に広めていくなど、マーケットの発展を見据えた提案も盛り込まれていた。

しかし、はじめから「すばらしい内容がつくられていたわけではない」(堀川さん)。西日本地区の参加校の生徒が一堂に会するミッションミーティングで、チームメンバーは他校の途中段階の発表を見て、その質の高さに驚いた。堀川さんや、大和ハウスのクエスト担当者から「もっと他の人が思いつかないことをやらなきゃ」「72億人のハートを動かせる内容なのか?」など、檄を飛ばされ、次第に本気になっていったという。
それぞれが役割分担をして、この活動に参加している大和に住んで17年チームメンバー
それぞれが役割分担をして、この活動に参加している『大和に住んで17年チーム』メンバー

議論を重ねながら、連想していき、帰結したのが「ゴキブリの抗菌物質」だった。多くの人が苦手とするゴキブリ、大丈夫なの? と聞くと、「現実のゴキブリは苦手だけど、画像とか集めているうちに慣れてきてしまった(笑)」とのこと。女子高生がゴキブリをテーマとして取り扱うということに、たいていの大人なら待ったをかけてしまいそうなものだが、堀川さんは「女子高生がゴキブリ! それはギャップがあっておもしろい」と背中を押したという。

実際、その後押しが彼女たちに勇気を与えた。以降、企業に向けた最終発表が迫るなか、プレゼンの原稿は何度も書き直され、プレゼンやスキット(寸劇)の練習を繰り返した。こうして発表は大和ハウスから高い評価を得て、「クエストカップ2016」に出場。見事グランプリを受賞したのだった。

教師が生徒の天井をつくっていてはいけない

クエストの授業について、彼女たちは「ゴールが見えないつらさがあるけど、そこを抜け出せばすごく楽しい」「会社に入って商品を開発するときに必要なことをたくさん学べた」と明かす。

一方、堀川さんは教員の役割として「学ぶ場をつくること」だと説いている。

「子どもは場を提供すれば、おのずと育っていくものです。実際、クエストという場を与えるだけで、彼女たちは思いも寄らない力を発揮していました。しかしそのときに教員が天井をつくっていてはダメ。生徒がアイデアに込めた価値をわかったうえで、反応してあげないといけません」(堀川さん)

学校教育の現場に確実な成果をもたらしているクエストだが、教育と探求社・宮地さんは「大人たちこそ、子どもたちを見る目を変えるべきだ」と提言する。
堀川先生と生徒たちはわきあいあいとした雰囲気で取材に答えてくれた
堀川先生と生徒たちはわきあいあいとした雰囲気で取材に答えてくれた

「これまで大人たちは経験値の差で子どもを上から目線で見ていたけど、情報リテラシーでいえば、デジタルネイティブ世代の子たちはわれわれ大人の先をいっている面もあるわけです」(宮地さん)

実際に「大和に住んで17年」チームのプレゼンのなかでも論文を引用するなど、高度な情報取得が垣間見えた。

「子どもたちの情報収集力が高まるなか、大人が会社のなかでさまざまなしがらみに囲まれてよいアイデアが出ないのに対し、子どもたちは淀んでいない純粋な心で未来を見ることができます。その先に、本質的なイノベーションが見つかる可能性があるのです。我々大人たちはそのことに注目するべきなのかもしれません」(宮地さん)

嫌いだと思っていた虫の衣装も進んで着用し、持ち前の負けん気と集中力でグランプリを勝ち取った育英西高等学校の生徒の周りには、目の前に広がる可能性を潰さない大人がたくさんいたに違いない。それによって、学ぶことへのハードルが下がり、興味を突き詰めていったようだ。後編では、クエストのしくみを活用し、学ぶだけではなく、教える・生かす立場に生徒を引き上げた西大和学園の取り組みを紹介する。

学ぶ、教える、そして、「場をつくる」人間になる ──学びが「クエスト」で変わる(後編)へ続く


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