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学ぶ、教える、そして、「場をつくる」人間になる ──学びが「クエスト」で変わる(後編)

2016年06月15日



学ぶ、教える、そして、「場をつくる」人間になる ──学びが「クエスト」で変わる(後編) | あしたのコミュニティーラボ
正解のない時代に向かっていくためのスキルとして、課題解決能力が求められることは、今や否定する余地がない。では、そのスキルを醸成する、教育の領域で注目されるPBLは、どのように行われているのだろうか。今回は、教育と探求社の提供する「クエストエデュケーション」(以下、クエスト)を通じて、新たな学びにチャレンジする中学・高校を追う。後編では学校教育の現場に、より根を張ったかたちで組み込まれている、西大和学園中学校のクエストの事例を追う。

企業の応援を背に、女子高生は信じた道を進む──学びが「クエスト」で変わる(前編)

「中学生版SSH」に組み込まれた課題探求型授業

奈良県王寺駅からバスで5分ほど走ったところにある、西大和学園中学校・高等学校。「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」、「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」の指定校であり、全国有数の進学校として有名だ。

SSHとは、文部科学省が指定する、科学技術系の人材育成のために、独自カリキュラムや大学・研究機関との連携等に取り組む高等学校のこと。同校は中学校課程においても「SSHにつなげる枠組み」をつくるべく、4年前より「スーパーサイエンスハイスクールジュニア(SSJ)」の枠組みを定めている。

SSJの枠組みは「体験→探究→研究」だ。中学1年次に「ウミガメの産卵を見に行く」などの体験学習。中学2年次には探究活動として、クエストが導入される。中学3年次には卒業研究があり、テーマ設定から自分たちで行う。高校に進学すれば本格的にSSHがはじまり、最終的には高校2年次に「ラボステイ」(大学院での滞在型ゼミ研究)に参加して、将来の自分を見据える。

2012年度から中学2年生の授業プログラムで導入されたクエストも、2015年度の生徒で“4代目”を迎えた。彼らを指導したのは、数学科・情報科・技術科教諭の光永文彦さんだ。
西大和学園中学校・高等学校 教諭 光永文彦さん
西大和学園中学校・高等学校 教諭 光永文彦さん

「もちろん社会に求められる人材を育てるという観点は持っていますが、個人的には“エッジの効いた子たち”を育てているような感覚です。彼らはいい意味で人の答えを疑ってかかるようになっている。クエストのディスカッションがはじまれば、ほとんど喧嘩のような状態ですから(笑)」(光永さん)

クエスト経験者がメンターになる

同校のクエストへの取り組み方が他校と大きく異なるのは、光永さんらプログラムをマネージメントする側が、過去にクエストを経験した生徒をメンターとして巻き込んでいる点だ。

「今までもそうだったのですが、今年度もマネージメントしてみると生徒たちの活動を支援するには、教員だけでは足りないなと感じるようになりました。ちょうどそのときに3代目(前年度のクエスト経験者)がクエスト・ロス(燃え尽き症候群)みたいになっていたので、学年集会で後輩たちのサポートメンバーを募集してみたんです」
取材にこたえる未来革命隊Σチームメンバー
取材にこたえる未来革命隊Σチームメンバー

そして、結果8名が参加する”クエスト サポーター”というメンター集団が形成される。はじめこそファシリテーションに戸惑いもあったが、だんだん後輩たちの活動を先回りして支援していくように。1カ月もするとディスカッションに光永さんは加わらず、本年度のクエストメンバーとメンターだけで行われるようになったという。

「そうなれば生徒同士の方が自由に議論しやすくなり、中学2年生もますます乗っかってきます。だから、私は育てたという感覚ではなくて、仕掛けただけ。しいて言えば、生徒たちがより自発的に活動しやすいフレームをつくっただけです。メンターには来年度マネージャーとして、後輩たちの活動のフレームからつくってもらおうと思っています」と光永さん。

サポートメンバーを仕掛けることによって、メンターとしての力を養うことはもとより、将来のリーダーに必要なファシリテーション能力、マネージメント能力も養いたいとも考えている。

「クエストを経験した生徒たちが“しくむ側”にまわることで、おもしろいことをやってくれるという期待と自信があります。真のリーダーシップを持つ人間は、たとえ自分がチームを離れても、同じようにチームを機能させるくらいの力を持っている。同時に、ロジカルでありながらも、感覚的に物事を考えられる人物でもある。メンターたちは自分たちがいないときに、後輩たちがどのように動いてくれるかをずっと考えて支援していました。知識は教科で得られます。クエストをやる意義は、そうしたバランス感覚を養うことなのだと思っています」(光永さん)

褒められることよりも、自分の想像の外側に気付くことこそ大事

2015年度のクエストは、24のステップのうち12のステップまでをクラス単位で行い、ミッション(課題)が出る後半の12ステップからは、クラスをまたぎ、選択企業の変更も自由とした。そうして結成されたチームの1つ「未来革命隊Σ」は、「私たちが世界を変える! 国際社会のモヤっとを解決するテレビ東京らしいプロジェクトを提案せよ!」というテレビ東京のミッションに集まった5名だ。

「未来革命隊Σ」のプレゼンテーション、「CCCが未来に革命を起こす!」の内容は次のようなものだ。
メンターとなった生徒たち、現在は西大和学園高等学校1年生
メンターとなった生徒たち、現在は西大和学園高等学校1年生

「CCC(Company Connected with City)」とは、財政難に陥る市町村が税収を上げるために、土地を探している国内企業や日本進出を考える海外企業を誘致することを一般に可視化したテレビ番組のコンセプト。たとえば1週目は市町村がまちをPRし、2~4週目は誘致候補となる企業紹介が放映され、5週目で視聴者・スタジオ・市町村による決選投票を実施。こうして誘致企業が決定し、その後を追跡していく。

「未来革命隊Σ」は準グランプリを受賞した。審査員の反応も上々で発表後の講評では、文部科学大臣補佐官・鈴木寛さんに賞賛の言葉をもらい、面白法人カヤック代表取締役CEO・柳澤大輔さんからは「そのまま大人になってほしいですね」との賛辞をもらった。

が、光永さんによると、この話には続きがある。

「その結果に生徒たちがあまりに安穏としているので腹が立ってきて、審査後の交流会で、グランプリ審査員の方々に『なんで僕たちがグランプリじゃないんですか!』って生徒たちに聞きにいかせたんです。そして予想どおり自分たちの考えが及ばなかった部分を指摘され、けちょんけちょんにされて帰ってきた(笑)。私は大人たちが褒めてくれることだけが、必ずしも子どもたちにプラスになるとは限らないと思っています。一流の切り口で厳しくみていただいた上で、自分たちのみえていなかった世界を身体で感じてもらうことが、一番大事なんです」

「先生が僕たち生徒を志望大学に行かせたい気持ちがわかった」

この日の取材には、現・中学3年生である「未来革命隊Σ」チーム5名と、現・高校1年生であるメンター4名も同席していた。光永さんへの取材の場は、いつの間にか“光永先生から生徒に向けた授業”のような様相に。取材の質問に丁寧に答えながらも、その言葉は生徒たちに向けて「将来、こんな人間になってほしい」、「そのためにどんな学びが必要か考えてほしい」という思いが込められていた。
「先生の気持ちが分かった」と西大和学園高等学校 1年 槌橋秀嗣さん。光永先生によると、「ディスカッションのファシリテーションから全校発表会の司会まで、言わずして難なくこなす」という
「先生の気持ちが分かった」と西大和学園高等学校 1年 槌橋秀嗣さん。光永先生によると、「ディスカッションのファシリテーションから全校発表会の司会まで、言わずして難なくこなす」という

取材も終盤に差し掛かり、今度は光永さんから生徒たちに質問が飛んだ。

「クエストに参加する前と後で、どんな変化があったか。もしくは、どういう点が良いと感じたか。1人ずつ答えてもらいましょう」(光永さん)

生徒たちからの答えはこんな内容だ。

「疑問を持って問いかける思考が身につきました」
「新しい会社を見ると、どんな事業内容なのか興味を持つようになりました」
「見られるものを吸収し、自分のミッションに置き換えること」
「相手の側からみたらどんなメリット・デメリットがあるのか考えるようになりました」
「討論で意見がまとまらなくても、最後は1つのかたちに持っていけた経験」
「相手に好感を持たれる魅せ方」
「意見を求められたときに自分の意見をはっきりいえるようになりました」

生徒たちの回答は、クエストの効果を端的に表していると同時に、いずれも今の大人たちこそ持っていなければいけない視点だと感じ取れる。メンターとして参加した生徒の1人は「先生たちが僕らを志望大学に行かせたいという気持ちがわかりました。僕らも後輩にグランプリを獲らせたかった」と心のうちを明かした。
「未来革命隊Σ」チーム5名(写真前方2列)、現・高校1年生であるメンター4名(最後列)、光永先生(最後列中央)
「未来革命隊Σ」チーム5名(写真前方2列)、現・高校1年生であるメンター4名(最後列)、光永先生(最後列中央)

西大和学園中学校で導入されるクエストは、まずは生徒自身が学びを体験し、次に人に教えられるようになることでさらなる成長を促し、最後に場をつくるリーダーになる、そんな教育プログラムだった。

しかしこれはあくまで、西大和学園中学校がデザインした、ローカル(局所)バージョンの一例。もしもクエストを導入する各校が、それぞれの教育理念を背景に独自性を持ったプログラムを実践し、子どもたちが羽ばたいていくのならば、日本の未来はとても明るいように思えた。

企業の応援を背に、女子高生は信じた道を進む──学びが「クエスト」で変わる(前編)


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