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石巻発、制作・教育の両輪で駆動するIT人材の育成機関 ──一般社団法人イトナブ石巻(前編)

2016年06月24日



石巻発、制作・教育の両輪で駆動するIT人材の育成機関 ──一般社団法人イトナブ石巻(前編) | あしたのコミュニティーラボ
2016年7月29〜31日、宮城県石巻市にある石巻工業高校で「石巻Hackathon」が開催される。参加者のコア層は、国内から集まるエンジニア・デザイナーといった技術者と、地元の小学生〜大学生たちだ。“初心者大歓迎”を掲げるユニークなハッカソンを主催するのは、一般社団法人イトナブ石巻。地元・石巻からIT人材を輩出するというビジョンの先には、いったいどんな未来が待っているのだろうか。代表理事・古山隆幸さんに話を伺った。前後編でお伝えする。

若者を“流出”させて実現する地方創生の姿 ──一般社団法人イトナブ石巻(後編)

地元の小学生〜大学生を対象としたIT人材育成プログラム

一般社団法人イトナブ石巻は、宮城県石巻市を拠点としたIT人材の育成機関だ。2012年1月に活動をスタートさせた。活動のメインは、小学生から大学生までを対象としたプログラミング教育。毎年7月に開催される「石巻Hackathon」をはじめ、3カ月でアプリをリリースするピッチイベント「東北TECH道場」、中高生を対象にした「IT Bootcamp」など、定期的に開催される各種ワークショップを“IT教育の入口”として開放している。

旧北上川近くの静かな路地に、イトナブ石巻のオフィスがある。空き家を活用したリノベーションオフィスで、十数名のスタッフが常駐している。

ここと同じオフィスに同居するのが、2015年6月に設立した株式会社イトナブ。一般社団法人が「教育」を受け持っているのに対し、株式会社ではアプリ開発のほか、映像制作、動画編集、Web制作、CM制作など、「仕事」を受注できるしくみを備えている。

株式会社イトナブ

イトナブ両法人のスタッフは、石巻市内にある石巻工業高校でプログラミングの出前授業も受け持っている。授業でITの世界に興味を持った高校生には、“放課後”もイトナブのオフィスを開放。今度は、より仕事現場に近いところから、あらためてプログラミングを体験することで、ITの世界に対する関心度をさらに深めていく。プログラミングのほかにも、デザイン、カメラの撮影技術、映像制作など、提供している講習のカリキュラムはさまざま。イトナブは、教育・制作の両輪で駆動していく、実に自由闊達なコミュニティーなのだ。

高校卒業で出て行った故郷にUターン

「学校のプログラミング教育のように、一律に何かを教えることに限定せず、本気で『何かをやりたい!』と思った若者たちに、その環境を提供してあげたい」

そう話すのは、イトナブ設立者である代表理事・古山隆幸さん。教育・制作、両輪駆動のIT人材育成機関は、いかにして設立されたのだろうか。

一般社団法人イトナブの設立者であり、代表理事の古山隆幸さん
一般社団法人イトナブの設立者であり、代表理事の古山隆幸さん

古山さんは1981年生まれの35歳。高校卒業までを石巻で過ごした。しかし高校を卒業した古山さんは、埼玉工業大学へ進学。インターネットサービスの黎明期まっただなか、仲間とともにウェブ制作会社を立ち上げた。その時代に出会った同世代の大人たちは「それまでは出会ったことがない人ばかりだった」と、大きな刺激を受けた当時を振り返る。

順風満帆な生活を送っていたさなか、古山さんは2011年3月11日を迎えた。東日本大震災で津波被害により何もかもがなくなってしまった故郷を目の当たりにし、2011年6月、古山さんは、まちづくり支援団体「一般社団法人ISHINOMAKI2.0」の立ち上げに参画することとなる。

ISHINOMAKI2.0は「世界で一番面白い街を作ろう」をスローガンに、現在も石巻のバージョンアップを図っている。毎年恒例の「石巻川開き祭り」に併せて開催されるイベント週間「STAND UP WEEK」では、ISHINOMAKI2.0が事務局を務めている。

ISHINOMAKI2.0の発足後間もなく、古山さんは「地元の子たちとフットサルをしたり、1日限定レストランを企画したり」と、地域コミュニティーの再生に注力した。しかし「時が過ぎれば、全国からコミュニティー再生の専門家が集まってきて、自分にできることも次第になくなっていく」という予感も感じていたという。

自らに課したのは「魅力的な人を集める」というミッション

そんな古山さんの心中に去来したのは、およそ10年前、高校卒業後に故郷を出たときの思い出だ。

「正直、石巻というまちには、仕事はあっても産業が少ないんです。東京のように、新しいことにチャレンジしている同世代の大人も少ないように思えた。進化しているテクノロジーにもっと触れたいのに、ここにいては何もできない──。そう感じたから、僕は石巻を出て行ったのです」

自分と同じ思いを持った若者が、今なお、石巻にいるはずだ──。自分に何ができるかと考えたとき、「自分にはそんな若者の気持ちがわかる」と、イトナブの活動に思い至った。

古山さんがはじめに着手したのが、先述した石巻工業高校での出前授業だ。高校側に交渉し、はじめは特別授業として開催。そのうちに学校、そして子どもたちからの好評を得て、選択制の授業枠をもらえるようになった。

並行して、古山さんは若者のモヤモヤとした気持ちを晴らすため、自らに「石巻に魅力的な人を集める」というミッションを課した。

「石巻の若者は地元に息苦しさを感じ、東京や仙台を目指していきます。でもテクノロジーを使えば、都会も地方も関係がなくなる。石巻から直接世界に羽ばたいてもいいし、もしかしたら、石巻からビル・ゲイツのような人物を生み出せるかも知れない。知らず知らずのうちに、大人が若者の可能性を消していってしまっているのではないかと感じました」

たまたま縁に恵まれたCode for Japan代表理事・関治之さんから“1本の糸をたどるようにして”、少しずつコネクションを広げていった。「今でも自分の仕事は、ホイホイといろいろなところに出向くことだと思っている」と古山さん。やりたいことをPRしているうち、徐々に賛同者が増えていった。

こうして人を集めることで実現したのが、イトナブ設立からわずか半年後に開催された第1回「石巻Hackathon」だった。Yahoo! JAPANのエンジニア、30〜40名が参加。講師としてITエンジニア・及川卓也さんらも招聘することができた。

「ハッカソンに参加した若者は、やり手のエンジニアに囲まれ、本気の大人たちの背中を目の当たりにします。そうやって“ヤバい!”と思える人と出会えれば、自分も何かやってみたいと、やる気を再燃させるはずです」

第1回の成功を皮切りに、石巻Hackathonは今年で5回目を迎える。小学生から大学生まで、地元の若者たちが自由に参加できる目玉イベントとなっており、県外の技術者も多数参加する。技術者・専門家に限定されがちな一般的なハッカソンにはない、若者×技術者の調和が創出されている。

「かつては「息苦しさを感じていた」と石巻も、現在はIT界隈でも注目されるまちへの変貌を遂げつつある。“3.11”からおよそ5年間のまちづくり活動を振り返った古山さんは「まちの色は、その土地の人が決めていけばよい」との考えを示した。

「どんなまちも、放っておけばやがてその色はくすんでいきます。くすむだけならまだしも、真っ黒になってしまってはいけない。鮮やかさを取り戻すには、若い人たちが新しい色を出すことにチャレンジしていける、そのしくみがないといけないと思うのです」

古山さん

石巻に“ギークな奴ら”を集め、その背中を追わせることが、若者に夢を抱かせることにつながる、と古山さん。さらにその先にある未来構想も、実現に向け、徐々に走り出しているという。後編は、イトナブから巣立った1人のエンジニアの姿を通じて、イトナブが描く「未来」に迫っていきたい。

【関連リンク】
一般社団法人イトナブ石巻

若者を“流出”させて実現する地方創生の姿──一般社団法人イトナブ石巻(後編)へ続く


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