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若者を“流出”させて実現するまちづくりの姿 ──一般社団法人イトナブ石巻(後編)

2016年06月24日



若者を“流出”させて実現するまちづくりの姿 ──一般社団法人イトナブ石巻(後編) | あしたのコミュニティーラボ
「石巻に魅力的な人を集める」というミッションからはじまった一般社団法人イトナブ石巻。活動開始から4年半、現在イトナブでは、IT教育を受けた人材がイトナブの企画・運営に参画し、“教わる側”から“教える側“へ転身しているという。後編は、イトナブで教育を受けた1人の大学生の「今」から、地域発の人材育成と事業創出の可能性を考える。

石巻発、制作・教育の両輪で駆動するIT人材育成機関 ──一般社団法人イトナブ石巻(前編)

石巻の未来は「ギークな奴らに出会える場所」

一般社団法人イトナブ石巻の設立から4年半、石巻Hackathonのほかにも、さまざまなIT教育のプログラムが整備されている。

「“サービスありき”で動いているわけではない僕らは、結局“若者ありき”なんです。イトナブという大きなコミュニティーは、若者の色でどんどん変わっていけばいい。ただ1つ、僕が見たい未来は、やがて世界中の若者がここに集まってくるまちの姿。イトナブ、ひいては石巻に行けば、ギークな奴らに出会えるという未来構想なんです」

ギークな人材はイトナブのなかにも集まるようになった。「石巻でおもしろいことをやってる奴らがいる」との噂を聞きつけ、市内だけでなく市外からもエンジニア、グラフィックデザイナー、メディアディレクター、サウンドクリエイター、イラストレーターなどが集まり、現在のイトナブの屋台骨を支えている。

そんな未来を担う人材のなかでも、代表理事・古山隆幸さんが特に期待を寄せる人物がいる。2016年4月、イトナブを退社し、現在はフリーランスのアプリ開発者として活動している“フィッシュ”こと津田恭平さんだ。


イトナブから独立したフリーランスのアプリ開発者、 “フィッシュ”こと津田恭平さん

“フィッシュ”とは、古山さんが津田さんに命名した“あだ名”。イトナブのスタッフ全員にこうしたあだ名が付いていて、「自分が名前を覚えやすいのもありますが(笑)、第一に、ここには小中学生も集まってくるので『〜さん』だと壁ができるし、年齢に関係なく、フラットに親しんでもらいたい」と古山さん。

そんな“フィッシュ”は、もともとIT教育担当を務めるイトナブスタッフの1人だった。

「小中学生にプログラミングを教えるにしても、教科書に載っていることをつらつらと教えていては響かないんです。だからLINEとかTwitterなど、小中学生がリアルに使っているものを例にして『こういうところにも使われているんだよ』と教える。そうするとやっぱり食いつきがよくて、ゲームやアプリを触らせると、前のめりになっていくんです」(津田さん)

イトナブの4年間でアプリ開発者として独立

中学時代のHTMLの授業をきっかけに「この世界に興味をもった」という津田さんだが、中学卒業後は石巻商業高校へ進学し、大学は石巻専修大学経済学部を選択した。ITを仕事にしていくことをおぼろげながらイメージしていたが、「学部違いの自分が学び、働ける環境なんて石巻にはないと思っていた」という。

しかし、古山さんがプロモーションをかけていた大学のゼミに津田さんが在籍していた、という縁により、ゼミの教授から紹介されるかたちで、2012年、第1回石巻Hackathonに参加することとなった。以降、イトナブの理事を務めることとなり、2014年に大学を卒業してからも、津田さんは働き口としてイトナブを選択した。

津田さんと古山さん

これまでに津田さんが開発したアプリの1つに、2015年10月にGoogle Play Storeでリリースされた簡単釣果保存アプリ「クリンチノット」がある。釣り人が、釣った魚を記録していくことのできるスマホアプリだ。

津田さんが開発した、簡単釣果保存アプリ「クリンチノット」
津田さんが開発した、簡単釣果保存アプリ「クリンチノット」

ホーム画面の魚をタッチするだけで、最速5秒で釣果はもちろん、日時・位置・潮汐・気象といった付帯情報を同時に記録できる。魚の種類、体長、重量などは、あとから入力して編集することが可能。時間ごとの気象情報などもアプリで調べることができる。東日本大震災の津波災害を契機に「水に対する恐怖」を体験した地元民。彼らにもう一度、水辺のレジャーを取り戻すためには「水辺の楽しさも怖さも知らないと本当の意味で楽しめない」、そんな課題意識から生まれたアプリだという。

「クリンチノット」のほかにも、津田さんはこれまで複数のアプリを開発・リリースしてきた。イトナブとの運命的な出会いからたった4年間で、1人のアプリ開発者として大きな成長を遂げ、今年独立を決断した。

イノベーションは場所ではなく“人”に起因する

短い期間でイトナブを“卒業”してしまったようにも思える津田さんだが、古山さんはそんな“イトナブ卒業生”が世界に羽ばたいていく姿こそが、イトナブで描きたい未来なのだという。

「若者が住みやすいまちづくりもいいけど、どこもかしこも定住・移住政策になってはいけないと思うんです。僕は、若者を奪い合うことより、若者を“流出”させる環境をつくることが大事だと思っています」(古山さん)

なぜ若者を“流出”させることが、まちづくりにつながっていくのか。

なぜ若者を“流出”させることが、地方創生につながっていくのか。

「イトナブ出身のエンジニアやデザイナーが、石巻から出て行って、新しい架け橋をかけてほしい。たとえば、誰かがシリコンバレーに橋をかけて、別の誰かがベルリンに橋をかければ、石巻がいつの間にか世界のIT先進地とつながっていることになります。それが新しいまちづくりのスタイルなのではないでしょうか」(古山さん)

イトナブの原動力は「若者」だ。古山さんは、石巻にIT先駆者を呼び込み、その背中を追わせることで「若者」を育成してきた。さらに、そんな彼らは地元で事業を創出するのみならず、世界に羽ばたくという道を選んでいく。そのことで“次世代”の若者が追うべきモデルケースはより多様になり、次のサイクルへと循環していくだろう。

ホワイトボード
いまや実際に「若者」の代表になった津田さんは、イトナブのことをこんなふうに表現した。

「ITですごい盛り上がっている場所──たとえばシリコンバレー──も、実際に行ってみたら石巻に負けないくらいのド田舎だったりする(笑)。でも野原ばかりでなんにもないその場所で、実際にイノベーションが起きているんです。結局夢を実現できるのは、ビルが建っていることが条件ではなく、魅力的な人が周りにいるかどうか。場所ではなく、人に起因していて、イトナブにはそれがあるのだと感じます」(津田さん)

人に起因したイトナブの循環モデル。そのしくみは、あらゆるコミュニティー創出の模範となるのではないだろうか。

【関連リンク】
一般社団法人イトナブ石巻

石巻発、制作・教育の両輪で駆動するIT人材育成機関 ──一般社団法人イトナブ石巻(前編)


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