Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

イノベーションは自由で多様なワークスタイルから起こる?──リクルートが追求する「働き方」の未来(前編)

2016年07月08日



イノベーションは自由で多様なワークスタイルから起こる?──リクルートが追求する「働き方」の未来(前編) | あしたのコミュニティーラボ
近年、国内でも働き方の柔軟性を認める企業が増えてきた。その背景には、働く人々の多様性が重要視されていることや、企業が育児や介護といったさまざまな課題としっかりと対峙する要請が高まってきていることが挙げられる。
2016年1月からリクルートホールディングスはリモートワーク制度を本格導入した。「生産性が上がり体も楽になった」と従業員の満足度は非常に高い。目的は福利厚生に留まらず、会社に縛りつけられない自由な働き方を選ぶことで、多様な経験を積んで視野を広げ、ひいてはイノベーションを促すことにある。すでに自由な働き方ができる企業として知られているリクルートがなぜ先陣を切って働き方変革を推進するのか、そしてその過程を追った。前後編でお伝えする。

その働き方改革の「目的」は何かを問う──リクルートが追求する「働き方」の未来(後編)

リモートワークができたから復職もスムーズに

株式会社リクルートマーケティングパートナーズで、オンライン教材「スタディサプリ」の事業開発や、自治体と連携した教育格差是正の研究開発に取り組んでいる小野村学さん。1歳3カ月の双子の男の子の父親だ。夫婦ともにリクルート勤務で、現在小野村さんは半日ずつ2回などに分割しながら、平均して週に1日は自宅で仕事をする。自宅が羽田空港に近いので、出張の際も、オフィスには立ち寄らず空港で仕事をしたり、直行直帰が多い。
「リモートワークの実現が、よりマネジメントについて考えるよい機会になった」と小野村学さん(写真右)
「リモートワークの実現が、よりマネジメントについて考えるよい機会になった」と小野村学さん(写真右)

「子どもが生まれたとき、妻は子育てしながら仕事を続けたいと望んだのですが、実家は広島と大阪で近くに親類もなく、双子を共働きで育てるのは無理だと、いろんな人から言われました」

願ってもないタイミングではじまったのが、毎日出社しなくてもよいリモートワーク制度だ。これを活用し夫婦で一緒に子育てしている。取材当日、小野村さんはこう話した。「今日、僕は5時に退社し、子どもたちの面倒をみる予定です。妻は飲み会です」と小野村さんは笑う。「在宅勤務ができなかったら妻の復職はなかったかもしれません」。

小野村さんはリモートワーク導入と前後してマネージャーに就任。リモートワークの障壁となる「顔をつきあわせる会議」をどうしているか?と聞くと、グループ会議は週に1回だけ、月曜日の10時から10時半と決め、無駄な会議を全廃したと話す。チャットやTV会議を活用し「『どうすればよいですか』と聞くのではなく、『こうしたいんですがどうでしょう?』とコミュニケーションが能動的になった」という。

会社にいなくてもできる仕事はたくさんある

株式会社リクルートホールディングスのソーシャルエンタープライズ推進室でCSRとダイバーシティ推進に従事している菅原聡さんもリモートワーカーだ。出社してもフリーアドレスを活用して好きな場所で仕事をする。
「今までの属性や発想に新しい風が吹いたと感じています」と菅原聡さん
「今までの属性や発想に新しい風が吹いたと感じています」と菅原聡さん

「よく考えると、会社にいなくてもできる仕事はたくさんあるんですね。上司も同僚もワーキングマザーなので、よく在宅勤務しています。“ランチの時間なので抜けます”とSkypeで言ったりするんですけど、たとえば子どもが熱を出して保育園に預けられない日に“ミネストローネつくって子どもと食べてます”とチャットが来たりして、ああ、働き方を自由にコントロールできるっていいなあって。私がいるチームでは、リモートが進み、逆にコミュニケーション量が増えましたね」(菅原さん)

菅原さんはリクルートでの仕事以外にも、学生時代にスポーツを通じて社会課題を解決するNPO「GLOBE PROJECT」を立ち上げ、フットサル大会ごとに参加費でコートと同じ面積分の地雷原を除去する活動を行っている。さまざまな分野で活躍する世界中の32歳以下の若者で構成される世界経済フォーラムの国際組織「グローバルシェイパーズ・コミュニティ」の一員でもあり、この3月には平和国際会議「SHAPE Asia Pacific 2016」を広島で開催、その準備にも奔走した。

「もしリモートワークができなかったら、数日間会社を休まなければならなかったでしょうね。同僚からは『行ってらっしゃい』とあたたかい声をかけてもらいました」。オフィスに縛りつけられない自由で多様な働き方は、“第二、第三の名刺”の活躍にも役立っているようだ。

“個の尊重”が理念なら働き方も多様でいい

リクルートが働き方を本格的に見直しはじめたのは2015年4月。リクルートホールディングスに設置された「働き方変革推進室」室長の林宏昌さんは背景をこう語る。

「当社では創業以来、ダイバーシティの理念を重視しており、特に女性の活躍推進に力を入れてきました。現在、“2018年までに女性課長職比率30%”という目標を掲げていますが、働き方変革の議論がスタートした2年前、まだ私が経営企画室にいた頃ですが、当時のリクルートの女性管理職の比率は約20%でした。より一層ダイバーシティを進めるには今までのやり方の延長線では難しい。男女問わず、より抜本的にライフステージの変化に合わせた働き方を見直す必要があるのではないか、と議論がはじまりました」

性別や年齢に関係なく結果を出せば平等に評価される。リクルートには成果主義が根づいていた。だが、私生活で育児や介護に追われる人と、そうでない人では、そもそも仕事に投下できる時間に差がある。実際、出産を機に退職する先輩が多くおり、従来からあった「在宅勤務」という制度は、従業員に育児と仕事を両立するための解決策として活用されていないことに気づいた。

また、現代は特に女性がその役割を負いがちな一方、男性は仕事に追われている。もっと育児に参加したいというワーキングファザーの声も耳にするようになり、男性が育児などに積極的に参加するためには、男性の働き方も変える必要があるのではないか、林さんはそう考えていた。

「プロセスが不平等」なのに、「結果だけ平等に評価される」のは、つまるところ「不平等」なのではないか。これを改善するには、在宅勤務の拡充をはじめ、多様な働き方を許容しなければならない。
「リモートワークは情報共有が重要になると改めてわかりました」と働き方変革推進室 室長 林宏昌さん
「リモートワークは情報共有が重要になるとあらためてわかりました」と働き方変革推進室 室長 林宏昌さん

 「もう1つの起点は、会社の理念である“個の尊重”」と林さんは言う。

「リクルートでは、入社したその日から『あなたは何がしたい?』と聞かれるんです。本人の意思を尊重し、多様性を大事にするカルチャーがある。ところが、こと働き方については画一的でした。裁量労働制やフレックスタイム制を導入しているものの、ほとんどが9時か10時には一斉に出社します。ICTが進化しているのに同じ場所に集まり続ける必要があるのか? 個人の意思と、半期単位で会社と交わすミッションをベースに、より自由に働くことで成果を高められないかと考えました」

育児、介護、NPO活動、副業──。会社以外の場所でいろいろな機会や課題と向き合う「経験の多様化」が個人の成長を促し、ひいては新規事業の種が芽生えるなど価値の創出につながる。オフィスは多様な経験をした人たちが交わる場所にしたい。福利厚生としての「制度」としないことで、これからのビジネスの競争力の源泉になるはず。そうした位置づけで林さんは「働き方変革プロジェクト」を役員会に提案した。

120人が「週に3日以上の出社禁止」の条件で実証実験

さっそく提案したところ、大筋で了承をもらえたものの、役員会では「目的が多すぎる」と指摘され、まずは「リテンション(優秀な人材の離職防止)」と「従業員満足度の向上」に焦点を絞った。「より働き続けたい会社になる」ことを最初の目的として、働き方変革プロジェクトはスタートした。

リモートワーク実現のための第一歩としてセキュリティポリシーを再設計した。

セキュリティレベルに応じて、社内だけで取り扱える機密性の高い情報と、外部に持ち出しできる情報を切り分けたところ、大半の業務では、イントラネットなどに接続可能でセキュアな環境を構築すれば、社内にいるのと同じ効率でリモートワークが可能なことがわかった。これを受けて2015年6月からリモートワークのフィージビリティ・スタディ(FS)を開始。

まず試してもらおうと、強制ではなく希望する課単位で手を挙げてもらった。多くの企業でリモートワーク導入に反対するのは現場のマネージャー。目の前にいない部下をどうマネジメントすればよいのか労務管理面で不安に駆られる。新しい取り組みに先進的なリクルートといえども例外ではない。林さんはこう乗り越えた。
取材の調整をしてくれた広報の栗崎さんも、リモートワークを実施する1人だ(写真右)
取材の調整をしてくれた広報の栗崎さんも、リモートワークを実施する1人だ(写真右)

「こんな働き方にしましょう、と単一に決め込むのではなく、いろんな働き方を認めましょう、と多様性を拡充することが目的ですから、とにかくまずは試してみて、課題が出てきたら乗り越えられるかどうか後で一緒に考えましょう、というアプローチにしました。うまくいくことを前提とするのではなく」

リクルートホールディングスとリクルートアドミニストレーションの約700名の従業員のうち、第1次は120人が手を上げFSを実行した。

ユニークなのは「週に3日以上出社禁止」の条件をつけたこと。試行導入だからと、まず週に1日くらいのリモートワークからはじめそうなものだが、なぜいきなりハードランディングなのか。林さんは次のように説明する。

「働き方を変えるというのは仕事の進め方を変えることです。週に1日だと、今までのやり方を変えなくても何となくできそうだから、その程度なら認めようとする着地点が見えます。でもそれ以上は進みません。なので、今までの仕事の進め方では絶対に成り立たない、振り切った形で検証しました」

「週3日以上は出社禁止」などあえて茨の道を選ぶ改革をすることで、働き方を改革する本気度を示したリクルートの働き方の実証実験。それはどのような結果を得たのだろうか。後編では、実験の結果から見えた、新たな働き方の形を探る。

その働き方改革の「目的」は何かを問う──リクルートが追求する「働き方」の未来(後編)へ続く


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2018 あしたのコミュニティーラボ