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エコシステムづくりの同心円をどう拡げるか──NPO法人ETIC.代表理事 宮城治男さん(後編)

2016年07月19日



エコシステムづくりの同心円をどう拡げるか──NPO法人ETIC.代表理事 宮城治男さん(後編) | あしたのコミュニティーラボ
20年間で500名もの社会起業家を輩出してきたNPO法人ETIC.。代表の宮城治男さんは、「社会に出るとき、自分の可能性を閉じてしまう生き方を選んでしまうのはもったいない」と、1990年代からインターンシップ事業に乗り出した。それから約20年、学生に限らず、社会課題解決を担うメンバーを増やし続ける活動を続けている宮城さんに、エコシステムをどうつくり、ビジネスとソーシャルをどうブリッジさせてきたのか、そのヒントを聞いた。宮城治男さんインタビュー後編。

20年の積み重ね、その1歩をどう歩み出したか?──NPO法人ETIC.代表理事 宮城治男さん(前編)

気づきの刺激を多様な角度で得られることが大切

──ベンチャー企業というと一攫千金ねらいのイメージが強かったITバブルの時代を経て、金儲けの野心よりも、困難な社会課題への挑戦に情熱を燃やす起業家が目立ちはじめたのは、いつ頃からの潮流ですか。

宮城 1999年頃にはITベンチャーに並んで、NPO向けインターンの人気が出て、手応えを感じていました。日本人は起業家精神に乏しいと当時から言われていたのですが、実は社会のなかで役割を果たしたり、私益より公益を優先する考え方は根強く、ある意味“社会起業家大国”のポテンシャルがあるのではないか、と思っていました。

1972年生まれの私は団塊ジュニア世代。物心ついたときから物質的には空前の豊かな時代に生まれ育ったトップランナー世代といえるかもしれません。一生懸命に働いて大金を稼ぎ出世することが人生の成功、といった従来の価値観に違和感を抱き、何かが足りないと思いはじめた最初の世代。ただ、その思いを顕在化させる機会がなかった。
NPO法人ETIC. 代表 宮城治男さん
私が“社会起業家”という言葉を使って、メッセージを発信しはじめたのは2001年頃からですが、リーマンショックや東日本大震災を経て、社会課題へのコミットを生きがいとする価値観が次第に顕在化してきました。

──長期実践型インターンシップのOBとインキュベーションプログラムの卒業生を含め、ETIC. から巣立った500名以上の人たちが創業しているそうですが、起業家育成の“エコシステム”がうまく回っている秘訣は何ですか。

宮城 インターンシップもインキュベーションも本質は変わりません。何を人生のなかで大切にし、どんなふうに一歩を踏み出すか。それに向き合い、行動を起こす機会を提供しています。

「世のなかにあるチャンスを利用する」ことと、「自分なりにテーマを掲げてつくりだす」こととの違いです。私たちは「こうすべき」と一定の方向に導くことはしません。壁に当たったときには再度、何のためにやっているのか本質に向き合い、本人が次のステップを見出す支援をします。

エコシステムをどう表現するかは多様な視点があって難しいですが、私たちが大切しているのは“気づきの刺激が多様な角度で得られる”ことです。たとえば同世代の仲間ががんばっている、小さな成功をした。それが刺激になってスイッチが入ることもあります。インターンシップで起業家と一緒に仕事をするのは気づきの連続だし、失敗の経験にも自分自身や社会を深く知るトリガーがたくさん埋め込まれています。そしてその気づきや意思決定が、誰から強制されるでもなく、自らの意志で決めて動き出せる、支え合えるという自律的な関係が、エコシステムである、ということの意義といえるかもしれません。

一方、たとえば起業家やイノベーターから「未来のつくり方」を学ぶ私塾的なプログラム「MAKERS UNIVERSITY」は、50代の伝説的な起業家やイノベーターと、20~30代の兄貴分的な先輩の二重のメンターから刺激を受けられます。どこでスイッチが入るかは計算できませんから、提供する機会は多様であればあるほどいいんです。

今いる場所に正面から向き合えば必ず突破できる

──既存の企業のなかで、自分の仕事を社会課題とつなげられないか、と模索している人たちもいます。どんなアドバイスを投げかけますか。

宮城 社会起業家のもたらすインパクトは、事業規模や雇用人数といった従来頼られてきた指標では計れません。ものさしが違います。社会起業家は、まだマーケットのない領域に挑んで課題解決の道筋をつける先駆者であり起爆剤です。そして多くの人たちを巻き込み、課題解決や価値創造の当事者に変え、社会を良くしていく。そうした役割の存在ですから、社会起業家自体は少なくていいわけです。

むしろ、企業や役所に勤める方々が社会を良くする担い手になるほうが、よほど裾野が広い、当事者の側になれる可能性が圧倒的に高いともいえます。本当に自分が価値を感じられる仕事や、いくら時間をかけても惜しくない方向を見出せたとき、眠っていた潜在力が引き出されます。
宮城治男さん
「どうせ」とか「しかたない」と諦めず正面から向き合えば突破できる方法はいくらでもあると思う。今いる場所からはじめることは十分可能です。

社会を良くする原動力のカギを握るのは組織のなかで働くみなさん。社会起業家はそうした人たちのスイッチを入れる刺激を提供しなければいけません。

人事院と連携して、3年目のキャリア官僚の方々を対象に、市民社会とのパートナーシップをテーマに社会起業家と触れ合う機会を設ける研修を8年続けているんですが、年々手応えを感じています。というのも、社会を良くしたい意思をもってこの仕事を選んだ、という志を感じる人が増えていて、そういう人たちは気づきを得るとスイッチが入るのも速いんです。社会起業家は課題の最前線にいますから、企業もこれまで距離が遠いと思われていたNPOなどと協働することによってイノベーションの種が育つ可能性が高いと思います。

──企業がビジネスとして社会課題に挑むときは、顧客数や売上といった数値目標とは違う社会的インパクトの成果指標を設定すべきなのでしょうか。

宮城 何が自分たちにとってゴールなのか、追いかけるべき数字なのか。従来の企業パラダイムのなかに正解はありません。その目標を設定し、自分たちなりの答えを見出せた企業が結果的に強いのではないでしょうか。何をもって成功とするかは、ある意味、自分たちが何者であるかを知ることで、結局のところ、そこに向き合えた者がインパクトの最大化を手にするはずです。

売上よりも、志を立てることが安定につながる

──社会課題の解決に挑む仕事は3年を超えて続けるのが難しいとよく言われます。ETIC.がこれだけ長い間、持続的に活動していられるのはなぜですか。

宮城 たとえばETIC.で社会起業家支援の最も古いプログラム「社会起業塾イニシアティブ」は15年間で合計100組近い起業家を生み、その9割は継続しています。
ETIC.NPO法人ETIC.は今もさまざまな事業を生み出している(NPO法人ETIC.のプログラムより)
私たちが常に問うのは「あなたの大切にしたいものは何か」「何のためにやっているのか」です。その志に向き合えれば柔軟になれる。手法や売上など世間的な意味での成功に囚われてしまうと、失敗はイコール“一巻の終わり”を意味します。しかし、解決したい課題や創出したい価値に向き合えば、失敗はプロセスに過ぎず、成功に向けての資源になります。志が定まっていないと失敗は、苦痛やロスであり、否定されたことになり諦めてしまう。どこに向かっているのかさえわかっていれば失敗は諦める原因になりません。

決して自慢気にはいえませんが、たとえば売上が下がったらみんなで我慢する切り抜け方もあるわけです。最近はそうはいきませんが、私もそんな風にしつつ、これまで波を乗り越えてきました。

大事にしているものさしが違うので時にそれを楽しむこともできる。危機はたくさん訪れるのですが、先を見据えて志に向き合っているので深刻になりえません。そして、その1つひとつが、誰もまだ突破できていない、課題解決や成功への一歩になっていると思える能天気さは、ETIC.に集う起業家たち共通に言えることかもしれません。

──逆にいえば、毎月きちんと振り込まれる給料に人生の一番の価値を置いていると、こういう仕事はできませんね。

宮城 できないです、恐くて(笑)。でも、これだけ変化のスピードが速い時代になると、会社に依存し、給料は支払われるのか、みたいなことを気にして生きていることが、かえって最もリスキーかもしれません。ETIC.も周囲の社会起業家たちも、価値を計るものさしが違うので、そこは柔軟に切り抜けられたし、そうせざるを得ませんでした。その結果として生き残っている。
宮城治男さん
誰も歩んだことのない道を行くパイオニアですから失敗は当然。変化が常態の時代においては、売上よりも志を立てることが、むしろ結果的には安定につながると思います。なぜなら、顕在的な競争に入っている領域で勝つのはとても大変ですが、社会起業家の仕事に3年の壁があるというのは、裏を返すと3年やりぬけば第一人者になれるからです。3年たった時点で他の追随を許さず、先行者利益を得られるビジネスモデルが成り立つ状況が生じています。

──最もブルーオーシャンが広がっているのは社会起業家の領域だと。

宮城 カッコよく言えばですけどね(笑)。すべてが困難ななかにいるともいえるし、それらがすべてブルーオーシャンだともいえる。ブルーオーシャンと思える能天気さというか、そのパラダイムの転換こそ、企業がイノベーティブであり続けることともつながっているように思えるのです。

20年の積み重ね、その1歩をどう歩み出したか?──NPO法人ETIC.代表理事 宮城治男さん(前編)
宮城治男さん

宮城治男(みやぎ・はるお)

特定非営利活動法人エティック 代表理事


1972年徳島県生まれ。93年、早稲田大学在学中に、学生起業家の全国ネットワーク「ETIC.学生アントレプレナー連絡会議」を創設。2000年にNPO法人化、代表理事に就任。


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