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地域発イノベーションのサイクルをいかに誘発するか ──情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] のハブ機能(前編)

2016年07月27日



地域発イノベーションのサイクルをいかに誘発するか ──情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] のハブ機能(前編) | あしたのコミュニティーラボ
岐阜県大垣市の情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] は、1996年に専修学校として開校以来「科学と芸術の融合」を掲げ、さまざまなクリエイターを輩出してきた。最近では地域社会との接点を増やし、地元企業との連携も強めている。地場産業の「枡」にIoTを掛け合わせ付加価値を高めた「光枡」は、地域発の新産業の創出を目指す「コア・ブースター・プロジェクト」で商品化に成功した第1弾だ。地域で着実にイノベーションが創発される秘訣について、開発に携わったメンバーの話から考えていく。

地域を巻き込む楽しさや驚きをどうつくり出すか ──情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] のハブ機能(後編)

「これならモテるかも?」の下心も原動力に

岐阜県大垣市には「枡」製造業が5社あり、全国シェア8割を占める。長い歴史を持つ地場産業とIoTの掛け算で生まれた「光枡」が昨年、クラウドファンディングで商品化に成功した。地元有志によるアイデアソン、ハッカソンから生まれた新製品だ。

枡の一大産地として知られる大垣市。工場では日々、熟練の技を持つ職人のみなさんが大量の枡を生産している(撮影協力:有限会社大橋量器)
枡の一大産地として知られる大垣市。工場では日々、熟練の技を持つ職人のみなさんが大量の枡を
生産している(撮影協力:有限会社大橋量器)

「日本酒を飲むための枡が、光る?」
「枡が光って、どうなるの?」

アイデアスケッチの段階では疑問符が続出し、賛同票を得られなかった。そこで発案者は、桝の側面に豆電球を仕込んだ簡単な試作品をつくって見せた。

試作段階の「光枡」。枡から漏れ出す光の様子に、チームメンバーは大いに盛り上がったという(画像提供:井戸義智さん)
試作段階の「光枡」。枡から漏れ出す光の様子に、チームメンバーは大いに盛り上がったという(画像提供:井戸義智さん)

「木が光るときれい! 意外にいいかも」
「これで飲んでいたら、モテるんじゃない?」

男性陣の“下心”も大いに動いた。電子工作ならお手のもののメンバーが、その場でLEDと加速度センサーを駆使し、傾けると光の色が変わるように手を加えると、さらに座は盛り上がった。スマートフォンの専用アプリで操作すれば色を変えられる。製品化への道筋が見えた。

──こうして「光枡」プロジェクトはスタートした。

ものづくりの多様なスキルをもつ製造業とIoTの可能性を探る情報産業を掛け合わせ、地域発の新産業を創出する。そんな試みが大垣市ではじまったのは2013年9月。岐阜県立情報科学芸術大学院大学(以下、IAMAS)産業文化研究センター教授の小林茂さん、IAMASの卒業生でありハード/ソフト開発の有限会社トリガーデバイス代表取締役の佐藤忠彦さんらが呼びかけた「コア・ブースター・プロジェクト」だ。

「光枡プロジェクト」に参加したメンバー。左から佐藤忠彦さん、大橋博行さん、井戸義智さん、小林茂さん
「光枡プロジェクト」に参加したメンバー。左から佐藤忠彦さん、大橋博行さん、井戸義智さん、小林茂さん

まだ「IoT」という言葉が一般的でなかった当時、「スマートフォンと連携するデバイス」というくくりでアイデアを考えることになった。アイデアソン、ハッカソンの手法も今ほどは知られていない。3回の説明会を経て、26名で5チームを編成。技術的なワークショップで3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機器を使えば、安価にハードの試作品ができることを理解したうえで、月1〜2回の会合を持ち、アイデアを煮詰めていった。

「よくわからないけどやってみよう」の“前のめり感”

光舛の枡づくりを手がけた枡メーカー、大橋量器代表取締役の大橋博行さんは、コア・ブースター・プロジェクトに参画した経緯をこう振り返る。

有限会社大橋量器代表取締役 大橋博行さん
有限会社大橋量器代表取締役 大橋博行さん

「のちに光枡プロジェクトのチームリーダーも務めるパソナテックの方々が来て、BLE(Bluetooth Low Energy)がどうのこうの、スマホと枡が結びつくかもしれない……とか、私にはわけのわからないことを言い出して。たまたま説明会の日は時間があったので行ったんですが、そこでも何をするのか、よくわかっていなかった。とりあえずおもしろそうだから、その場にいた感じですね」

印刷会社のサンメッセ株式会社で3DCG制作や写真撮影を手がける井戸義智さんは光枡の発案者でパッケージ印刷も担当したが、やはり「わけもわからず巻き込まれた」1人。

サンメッセ株式会社で3DCGクリエイターとして活躍する井戸義智さん
サンメッセ株式会社で3DCGクリエイターとして活躍する井戸義智さん

「隣の部署の上長が最初の説明会を聞いてきて、“なんだかモノをつくるようだからとりあえずキックオフミーティングに行け”と言われ、会社公認で参加したけれど、プログラマー、デザイナー……とアンケートのスキル項目にチェックできるところがなく、最後の“生活者”に。製品化されたら写真を撮るくらいしかお役に立てないかな、とはじめは思っていました」

IAMASの小林さんは、新しいことをはじめるときにキーパーソンとなるような人を集めるコツを「前のめり感」というキーワードで表す。

IAMAS産業文化研究センター教授 小林茂さん
IAMAS産業文化研究センター教授 小林茂さん

「誰もやったことのないはじめての試みだから、主催者もよくわかっていません。細かく説明を求めてくるような人は、結局のところ動かないんですよ。当たり前のように“費用対効果は……”なんて言い出す人も、ハナから集まらない。よくわからないけれどなんだかおもしろそうだ、という嗅覚を持つ人たちが結果的に残ります」

見た目はまったくふつうの枡と見分けがつかない(これは発案者の井戸さんが特にこだわった)が、内底の枠の部分を光らせるしくみなど、技術的な改良を重ねた光枡。底裏に仕掛ける基板を覆うカバーを金型で起こすと50万円ほどかかってしまうので、樹脂加工メーカーを探して「曲げ」加工で解決したり、水漏れ対策に強度の高い和紙を貼るなどの工夫を施したりした。

「光枡」たらしめる技術の一端である底裏の基板など、プロダクトの見えないところにもチームメンバーのこだわりが施されている
「光枡」たらしめる技術の一端である底裏の基板など、プロダクトの見えないところにもチームメンバーのこだわりが施されている

「仮説でつくった3パターンの試作品で毎日晩酌し、これなら水漏れしないとわかるまで3カ月くらいかかりました。毎晩飲むのは、試験だからしょうがない」と井戸さんは笑う。

コストの壁を超えるからイノベーションになる

商品化された「光枡」。枡の傾き具合やスマートフォンからの制御によって、美しい色味や光り方の変化を楽しむことができる(画像提供:コア・ブースター・プロジェクト)
商品化された「光枡」。枡の傾き具合やスマートフォンからの制御によって、美しい色味や光り方の変化を楽しむことができる(画像提供:コア・ブースター・プロジェクト)

光枡はクラウドファンディングのMakuakeでサポーター87人を集め、目標金額の150万円を超える161万3,500円を調達した。引き続きMakuakeサイトで販売(1万6,200円)しており、年内には大橋量器でも本格的に事業化する予定。発案から2年弱で商品化にこぎつけたことになる。通常の枡の価格は500 円程度からなので、枡×IoTで一挙に付加価値を高めた商品として、提案次第でギフト需要や飲食店での採用などの販路が見込めそうだ。

コア・ブースター・プロジェクト第1弾が商品化に至った要因は何か。大橋さんは「寄せ集めのチームが長持ちしたのは、リーダーが根気強く、タイミングを見計らいメンバーを集めて進捗させたのと、みなさんが意気に感じてノッたこと。枡メーカーの経営者として商品性や費用対効果を真面目に考えたら正直やめていたかもしれませんが、みなさんの熱量に支えられました」と語る。

大橋さんと井戸さん

井戸さんは、冒頭で紹介したような、その場ですぐ改良品を試せるデジタルファブリケーションならではのスピード感に驚いた。

「いろんなタイミングでジャッジしなければいけない課題が繰り返し現れるのですが、メンバーから必ずアイデアが出て、その場で、もしくは早い段階で解決できたから、目標を着実にクリアし前へ進むことができて、チームが続いたような気がします」

基板部分を手がけたトリガーデバイスの佐藤さんも「素早く別の方法を探るスピード感でコストの壁を乗り越えた」ことがポイントと強調する。

有限会社トリガーデバイス代表取締役 佐藤忠彦さん
有限会社トリガーデバイス代表取締役 佐藤忠彦さん

「これを仮に通常業務として1社で受注したら、未知の業界で起きることは予想できませんから、見積もりを“盛る”しかありません。でも一緒になって知恵を出し合えば、たとえばここは有りモノでもできるからと、コストをグンと下げられる。イノベーションにお金がかかったらイノベーションにならないと思うんです」

大橋量器の大橋さんは、日本IBMに6年間勤務したのち家業を継いだ。営業のスキルを活かして業績を上向かせ、新しいデザインや使い方の提案で枡の市場を広げた。光枡について「正直、事業の流れでは異端児」と明かす一方で、「関心をもってくれる人もメディアも、今までの枡の世界とはまったく違う。新しい世界の人たちが枡に近づいてもらう入口になりました」と大きな意義を感じている。

枡専門メーカーである有限会社大橋量器は店舗「枡工房ますや」も運営している。いまも実に多様な種類のオリジナル枡が並ぶが、光枡が店内を加わる日も近そうだ
枡専門メーカーである有限会社大橋量器は店舗「枡工房ますや」も運営している。いまも実に多様な種類のオリジナル枡が並ぶが、光枡が店内を加わる日も近そうだ

おもしろければ手弁当でも瞬時のスタートが切れる

地域発のイノベーションのサイクルを回す。それには第2弾、第3弾と続けてコア・ブースター・プロジェクトの成果を世に問いたい。カギとなるのは、多様なスキルと熱意、行動力をもつ人材を呼び寄せ、つなげるハブの役割だ。それを担うのがIAMASにほかならない。教授の小林さんはこう展望する。

おもしろいことなら手弁当で瞬時にはじめたい

「単独の企業では無理な研究開発を協働で促したり、新しいテクノロジーのタネを提供したりする水先案内はIAMASの得意なところ。それと、トリガーデバイスの佐藤さんのように、地域に残って起業する卒業生が次第に増え、その人たちのネットワークにも期待できます。おもしろいことなら手弁当で瞬時にはじめたい。そんな価値観を共有できる人が増えてきているのは心強い限りですね」

IAMASは1996年に国際情報科学芸術アカデミーとして開校。「科学と芸術の融合」の理念を掲げた専修学校で、4年制大学の卒業生ないし社会人の入学が当時から目立った。4期生の佐藤さんは「まさに今でいうハッカソンみたいなグループワークがあまりにもキツすぎて、みんな1カ月でヘトヘトになった(笑)」と当時を述懐する。2001年には専修大学のラボ科から派生した大学院大学もスタートし、その後2012年に大学院大学へと一本化。株式会社ライゾマティクス取締役でメディアアーティストの真鍋大度さんなど、卒業生には広告やメディアの世界でデザイナーやディレクターとして活躍している人も多い。

IAMASの拠点となる施設の1つ「ワークショップ24」(左)と「ドリーム・コア」(右)。岐阜県が推進する産業振興拠点「ソフトピアジャパン」の一角を占める
IAMASの拠点となる施設の1つ「ワークショップ24」(左)と「ドリーム・コア」(右)。岐阜県が推進する産業振興拠点「ソフトピアジャパン」の一角を占める

アート、デザイン、コンピュータなど多様な背景をもつ19人の教員に40人の学生というから恵まれた環境だ。

「大きな変化が起きているテクノロジーが根幹にあり、それと社会との関わりを考えつつ、どう表現するかは自由。同じ課題に対して、何らかの解決策を提示するアプローチもあるし、課題そのものを作品として浮き彫りにするアプローチもある」(小林さん)といった発想のもと、学生は2年間で論文と作品(“モノ”に限らずインスタレーション、ワークショップ、社会活動のような“コト”も含む)を完成させる。

たとえば電機メーカーに勤めていた学生は、聾学校や盲学校で先生自らがデジタル工作機器を使って教育支援ツールを作成するための方法論を探求すべく、ワークショップを開催しながら福祉の現場にテクノロジーを活かす方法を研究しているところだ。

施設内のギャラリーには、IAMASから生まれた目を惹くような技術や作品が多数展示されていた(写真はARとアートを融合する技術「ARART」)
施設内のギャラリーには、IAMASから生まれた目を惹くような技術や作品が多数展示されていた(写真はARとアートを融合する技術「ARART」)

「科学と芸術の融合、とひとくちに言っても、それがどんなふうに社会と関わるのかをIAMASでは模索してきましたが、ここ数年くらいで、このあたりが接点かもしれない、とようやく見えてきた気がします」と小林さんは言う。“地場産業×IoT=夜のひとときを彩る光枡”のコア・ブースター・プロジェクト第1弾もまた、社会との接点のわかりやすい現れの1つだろう。それは同時に、地域からイノベーティブな価値を生み出すサイクルの出発点でもある。

さいごに

後編では、IAMASが地域コミュニティーと連携して楽しさと賑わいを生んでいる様子を、IAMAS産業文化研究センター長の金山智子教授に聞きます。

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情報科学芸術大学院大学 [IAMAS]


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