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地域を巻き込む楽しさや驚きをどうつくり出すか ──情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] のハブ機能(後編)

2016年07月28日



地域を巻き込む楽しさや驚きをどうつくり出すか ──情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] のハブ機能(後編) | あしたのコミュニティーラボ
岐阜県大垣市の情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] は、1996年に専修学校として開校以来「科学と芸術の融合」を掲げ、さまざまなクリエイターを輩出してきた。最近では地域社会との接点を増やし、地元企業との連携も強めている。地域のコミュニティーと連携して賑わいを創出し、それを一過性のイベントではなく新たな価値として継続させるにはどうすればよいのか。地域を結び合わせるハブ機能の窓口となるIAMAS産業文化研究センター長の金山智子さんに聞いた。

地域発イノベーションのサイクルをいかに誘発するか ──情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] のハブ機能(前編)

寺に残る文化資源を活かした「地獄絵スタンプラリー」

IAMASは岐阜県の商工労働部に所属し、もともと産業文化創生の担い手を育てる教育機関として開校した経緯があった。地域との連携をさらに強めるため、2011年に附置されたのが、IAMAS産業文化研究センター(以下、RCIC)だ。センター長で教授の金山智子さんは言う。
IAMAS産業文化研究センター長 金山智子さん
IAMAS産業文化研究センター長 金山智子さん

「今は産業が文化になり、文化が産業になる時代。地域との連携のなかから新しい産業文化を立ち起こすことを目的に、中小企業からグローバル企業、県内外の自治体、NPO、市民団体、商店街など、多様なところと連携しています」

地域住民有志との連携事業の一例に「揖斐川町地獄絵スタンプラリー」がある。ほとんどイベントを開催した経験のない地元の若者たちが、自主的に町を盛り上げようと「揖斐川ワンダーピクニック」というフェスを企画。何か地域の特色を活かした取り組みができないかとRCICに相談があった。

フィールドワークを経て、地元の一心寺に保存されている二十数点の「地獄絵」を、RCICスタッフは文化資源として活用する企画を提案。それが一心寺をゴールとする地獄絵スタンプラリーだ。
2015年からスタートした「揖斐川町地獄絵スタンプラリー」の概観図2015年からスタートした「揖斐川町地獄絵スタンプラリー」の概観図
「ただのスタンプではなく、デジタルファブリケーションのツールを使って、押すと地獄絵が浮かび上がるような工夫を施しました」と金山さん。
一心寺に保存されている「地獄絵」の1つ。お彼岸の時期のみ公開されるもので、地元では人々に善い生き方を勧めるため、地獄で行われる審判を絵解きで伝えたとされる(収蔵:浄土宗 一心寺)
一心寺に保存されている「地獄絵」の1つ。お彼岸の時期のみ公開されるもので、地元では人々に善い生き方を勧めるため、地獄で行われる審判を絵解きで伝えたとされる(収蔵:浄土宗 一心寺)

マルシェのような出店が町のあちこちに点在し、アーティストのライブも開催され、町全体がフェス会場となる揖斐川ワンダーピクニック(2015年5月31日)には1万人が訪れた。メディアで取り上げられた効果もあって、地獄絵スタンプラリーには、家族連れも含めて500人が参加。

今年5月に2回目が開かれたタウンフェスティバル「揖斐川町ワンダーピクニック」でも実施された「地獄絵スタンプラリー」。音楽やアートに魅せられた多くの人々が参加し、地域の文化を体験するきっかけをつくった。(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)
今年5月に2回目が開かれたタウンフェスティバル「揖斐川町ワンダーピクニック」でも実施された「地獄絵スタンプラリー」。音楽やアートに魅せられた多くの人々が参加し、地域の文化を体験するきっかけをつくった。(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)

揖斐川ワンダーピクニックは1回目の成功を受けて、今年も開催の運びとなった。今回は揖斐川町の総鎮守である三輪神社を“町ぐるみフェス”の中心地に設定して人を集め、地獄絵スタンプラリーもバージョンアップして継続。定例イベントに成長しそうな勢いだ。

地域主導のコミュニティー拠点として継続する「美濃のいえ」

金山さんが担当して昨年3年間の取り組みを終えたのが「美濃のいえ」プロジェクト。岐阜県美濃市は「うだつの上がる町並み」で知られ、古民家が軒を連ねる。空き家となった古民家をIAMASが3年契約で借りた。
美濃市の古民家を活用した「美濃のいえ」プロジェクト。さまざまな催しや活動を通じて地元の人たちを巻き込んでいる(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)
美濃市の古民家を活用した「美濃のいえ」プロジェクト。さまざまな催しや活動を通じて地元の人たちを巻き込んでいる(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)

「学生たちが古民家や古い町並みに対してどのような想像力を働かせ、イベントや展示などを創造し、そこに実装していくかという表現活動がテーマ」と金山さんは語る。

「学生の表現は地元の人たちにとっても興味深かったようで、人は集まるのですが、一過性のイベントではなく継続していくことを考えたとき、地域の人たちをどう巻き込み、参加してもらうかが課題になりました」

そこで2年目の2014年には、繁茂する雑草を刈って庭をきれいにし、石釜を学生自らが設計し、築いた。窯開きのお披露目の儀式に地元の人たちを招き、みんなでピザを焼いて食べた。石釜をきっかけに地元の人たちとの交流が生まれていく。そんな様子を見ていて、金山さんはあることに気づいた。

「美濃は観光地ですから町並みはきれいに整備され、電線も地中化されて非常に美しい。でも、地元の人たちが集まって好きなことをワイワイやれる空間が意外になかったんですね。そういう地域に開かれた空間が、コミュニティーのなかで重要だということが見えてきたので、3年目からは、より地域の人たちが関わりやすいようなイベントやワークショップに取り組みました」

手漉き和紙づくり見学、野菜やハーブ、食をテーマにしたイベントなどのほか、地元の人が持ち込んだ古い活版印刷機を活用し、デジタル工作機器でつくった版を使って年賀状を印刷するなどの活動を展開した。これらを通じて、職人、工場経営者、商店主、アーティスト、大工、飲食店主、自治体職員、学校職員など、さまざまな地元の人たちとのつながりができた。
運営の主体がIAMASから町の有志に引き継がれたあとも、「美濃のいえ」では“開かれた”空間づくりに努めているという(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)
運営の主体がIAMASから町の有志に引き継がれたあとも、「美濃のいえ」では“開かれた”空間づくりに努めているという(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)

IAMASが3年間借りた後は、引き続き町の人たちが任意団体をつくってお金を出し合い「美濃のいえ」を賃貸している。金山さんは1メンバーとしてサポートを継続。これまでは公立の教育機関なのでカフェなどの営利事業はできない制限があったが、これからは自由に地域の人たちのアイデアで活動できる。地域主導のコミュニティー拠点へと「美濃のいえ」は継承された。

地域をうまく巻き込んで連携を継続させるには

この他にも、ローカル鉄道の車両や駅をクラブ的な空間に見立て、さまざまなテクノロジーを実装して新しい体験の賑わいを創出するプロジェクトが岐阜県各地で2013年から続いているなど、RCICでは持続性の高い地域との連携が目立つ。地域をうまく巻き込んで継続するにはどうすればよいのだろうか。

「“地域活性化のためにやっているのですか?”とよく聞かれるのですが、それを最初から目的にはしていません」という金山さんの言葉にヒントがありそうだ。
金山さん
「さまざまな活動を通じて、今までになかった楽しさ、驚き、感動などを地域の人たちが体験できるような価値を生み出すことができれば、そこにおのずと需要が生まれ、人も集まり、結果として地域活性化につながるはずです」

「やり方は地域によって、人によってさまざま。“こうすればうまくいく”というしくみのモデルはない」と金山さんは考えている。

「ただし、プロセスのなかで望ましい方向に行きそうなタイミングで誰かが何かを言ってきたとき、即座にキャッチするアンテナを張っておくことは大切です。たとえば私たちは今、本巣市の根尾地区という限界集落で、地元特有の生活文化を内外のクリエイターとの共創から捉え直す、という活動をしています。学生が根尾の自然をモチーフにデザインし、岐阜の小さな生地屋さんにお願いしてつくった布があります。根尾の温泉施設がそれを使ってソファーカバーをつくるなど小さなニーズが生まれていますが、地元の若いお母さんでも布をつくりたいという人が出てきました。これは見逃せないポイントです」
限界集落として知られる本巣市根尾地区で、独自に育まれてきた生活文化を再発見し、新しい地域社会や経済システムのあり方を考える共創プロジェクト、通称「根尾コ・クリエイション」のひと幕(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)
限界集落として知られる本巣市根尾地区で、独自に育まれてきた生活文化を再発見し、新しい地域社会や経済システムのあり方を考える共創プロジェクト、通称「根尾コ・クリエイション」のひと幕(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)

「根尾コ・クリエイション」プロジェクトでは、多様な世代の交流と内外のクリエイターとの共創を通じて、モノやコトの創造体験を行い、地元ならではの価値の再定義・再発見に努めている(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)
「根尾コ・クリエイション」プロジェクトでは、多様な世代の交流と内外のクリエイターとの共創を通じて、モノやコトの創造体験を行い、地元ならではの価値の再定義・再発見に努めている(画像提供:IAMAS産業文化研究センター)

金山さんの考える“望ましい方向”とは、成長経済から定常経済へ移行していく中で、大量消費を中心にしたしくみ一辺倒から、個人による生産消費を中心としたしくみをオルタナティブな選択肢として築くこと。

母親が子どもの服を欲しいと思ったとき、「店探し」からはじめるのではなく、子どもの描いた絵をあしらった自分だけの「布づくり」からはじめる。それが起点になって小さなモノづくりのネットワークが無数に生まれ、交換し合うような社会。まさにデジタルファブリケーションの潮流の根底にある、理想の未来像に重なり合う。

既存のシステムの延長線上にイノベーションが起きないとしたら、染みついた考え方や発想そのものを疑ってかかる必要があるだろう。

企業人には常識ともいえる「費用対効果」を封印し、“なんだかわからないけれどおもしろいからやってみよう”の前のめり感で商品化までこぎつけた光枡。実体の伴わない「地域活性化」を目的とせず、多くの人の心を動かす楽しさや驚きといった価値の創出に重きを置いて結果的に賑わいを生むRCICの地域連携事例。持続的なイノベーションが常態となる環境づくりに関し、IAMASの取り組みは示唆に富んでいる。

前編はこちら 地域発イノベーションのサイクルをいかに誘発するか ──情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] のハブ機能(前編)

情報科学芸術大学院大学 [IAMAS]
IAMAS産業文化研究センター


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