Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

イノベーションはプロセスマネジメントで生み出せるのか?──東京大学i.schoolのイノベーション教育(前編)

2016年08月15日



イノベーションはプロセスマネジメントで生み出せるのか?──東京大学i.schoolのイノベーション教育(前編) | あしたのコミュニティーラボ
イノベーションを創発するにはどこから一歩を踏み出したらよいのだろうか──。「これまでにない価値の創出につながる新しい変化」。学生や社会人向けにイノベーション教育を展開する東京大学i.schoolでは、それをイノベーションと呼ぶ。イノベーションを起こすプロセスを設計し、マネジメントできる人材育成を目標とするi.schoolには、企業の注目が集まっているが、イノベーションを起こすプロセスとはいったいどのような学びなのだろうか。そこに集まる学生の声からi.school式のイノベーション創発のノウハウを前後編でひもとく。(TOP画像提供:東京大学i.school)

「スキルセット」からはじめる、逆説のイノベーション創出──東京大学i.schoolのイノベーション教育(後編)

現場の情報をつかむ重要性

「企業では、数字になっていない曖昧なものは存在しないとされる傾向があるので、不明瞭なものを明瞭にするロジックが求められます。言葉にはできないけれど何か新しい価値がありそうだと思ったら、そこを深掘りしていく」

東京大学i.schoolで年数回行われるレギュラーワークショップ。その2016年度2回目のワークショップの最終日を見学しました。全チームがプレゼンテーションを終えた4日後の振り返り会で、ディレクターの横田幸信さんが説く。

今回のワークショップのテーマは「都市におけるこれからの豊かな生活」。「豊かさ」という不明瞭な概念を形にするため、各チームが注目した「豊かさ」につながる生活者の初期課題仮説を設定し、ユーザーインタビューを実施。その結果の共有・分析に基づき、アイデアの創出・選出・精錬を経て、プレゼンテーションに至る全7回のワークショップを実施した。
ワーク中はあらゆる場で議論が起こる
ワーク中はあらゆる場で議論が起こる

各チームの振り返りでは「自分たちで提示した豊かさのコンセプトに具体的にあてはまる例を探しきれなかった」「インタビューイーの原体験に沿ったコンセプトにこだわりすぎた」「わかるものについて話を盛り上げるのではなく、よくわからないものについてもっと掘り下げればよかった」などの反省が出た。

横田さんは「東大生はすぐヘリコプターに乗りたがる」と指摘し、参加者を笑わせた。

「上に昇ったからこそ見える思考の空白領域、つまりシステムをつくるための考えを学ぶことで見えてくるものがある一方、下の道も見なければ。抽象を支える具体が何か常に意識するには、現場の情報をつかむ習慣が大切です」

イノベーションのプロセスを設計する人材育成

振り返り会の冒頭で、横田さんはデロイトトーマツコンサルティングのリサーチデータを紹介した。日本企業においてマネジメント力を測る自己評価で最も低いのが「イノベーションプロセスの設計」。その能力があると回答した組織は34%に過ぎない。新規事業を開発しようにも、どうすればイノベーションを起こす確率を高めることができるのか、そのプロセスが十分に整備されていないのだ。
国内ではイノベーションプロセスが構築できている企業が31%と低水準にとどまっている(画像提供:東京大学i.school)
国内ではイノベーションプロセスが構築できている企業が31%と低水準にとどまっている(画像提供:東京大学i.school)

そこを補完するのがi.schoolの「イノベーション教育」だ。

i.schoolでは、ワークショップの実践を通じて、イノベーションを起こすためのプロセスを設計し、マネジメントできる人材を育成している。困難な課題の解決や新しい価値の創出を求められたとき、アイデアを創出するプロセスを主体的にデザインできるようになることが学生たちの目標だ。ワークショップは短いもので3日、長いものだと合計で10日以上を1つのセットとしてチームで課題に取り組む。
i.schoolが行うプログラムの内容(画像提供:東京大学i.school)
i.schoolが行うプログラムの内容(画像提供:東京大学i.school)

一般的に、企業が主催するアイデアソンやハッカソンでは、プレゼンして入賞チームを表彰すれば終わりのことが多い。しかし、i.schoolのワークショップでは、その後に振り返り会を必ず実施する。教育プログラムなので当然といえば当然だが、アイデアを創出するプロセスに重きを置く姿勢が振り返り会にもよく現れていた。

「i.schoolは視点を磨き、自分が更新され続ける場」

では、そこに参加する学生はどんな思いでここに参加しているのだろうか。

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 修士2年(工学部都市工学科卒)の嶂南(やまなみ)達貴さんと、同大学院 理学系研究科 修士2年(大阪大学理学部卒)の稲益(いなます)礼奈さんは、共にi.schoolのスタッフを通じてその存在を知った。

嶂南さんははじめ「ビジネス志向のあるものを敬遠し、横文字の表現を見下すところのある学生が多いこの東大で、こんなアルファベットだらけのプログラムがあるのか。変な人たちが揃ってるに違いない」と期待して参加したら、その予想が的中。結果1年間、ワークショップに参加し続けた。

大阪大学3年時にi.schoolのスタッフの講演を聞き「人間中心イノベーションというアプローチがしっくり来た」という稲益さんは、「研究室だけの人間関係で終わるのはつまらない。阪大で出会った感動を再び」とi.schoolの門を叩き、嶂南さん同様1年間、6回のワークショップを体験した。
現在はi.schoolで学んだメソッドを活かし、NPOへのコンサルティング活動を行っているという嶂南達貴さん(写真右)
現在はi.schoolで学んだメソッドを活かし、NPOへのコンサルティング活動を行っているという嶂南達貴さん(写真右)

i.schoolのどんな部分に惹かれるのか。嶂南さんは「たいていの教育プログラムでは“習いに来る”スタンスの人が多いけれど、ここは自分のスタイルでプロセスを設計したい人たちが、一階層上で共創できる場」になっていると話す。

「いろんな人たちと自由に接して、新しい視点を身につけられるし、自分自身の視点も磨いていける。それを繰り返すうちに、自分が更新されていく感じがいいです」

多様な人たちと議論を重ね自分を客観視できる

東京大学 知の構造化センターが主宰し2009年に設立されたi.schoolは、基本的に同大の大学院生を対象としているが、当初からパートナー企業のスタッフもワークショップに参加し、最近では他大学にも門戸を開いている。稲益さんは「ふだんなら絶対に出会えない美術系の人たちや、文系・理系にカテゴライズされない領域横断的な専攻の人たちと触れ合えて、自分の立ち位置が相対化できたというか、どこが弱くてどこが強いのか客観的に見えてきました」と話す。

「本気で自分をぶつけ合い議論する機会なんて、普通に生きているとありません。毎週、頭をフル回転させて1つの目標に突き進んで行くのは、とても刺激的でした」

嶂南さんは、NPOのコンサルティングを学生が行う世界最大の団体「180 Degrees Consulting Japan」への参加や東大発オンラインメディア「UmeeT」を運営したり、自らワークショップを企画・開催したりしている。「イノベーションを起こすプロセスを企業内だけで使うのは非効率。普通に生活している人たちが、草の根レベルから新しい価値をつくり出せる活動がしたい」という嶂南さんは、i.schoolで「プロセスの設計からプレゼンの方法まで、自分なりのスタイルを確立することができた」という。
「学んで終わり」の学生生活を超える、ものの見方を学ぶことができたと稲益礼奈さん
「学んで終わり」の学生生活を超える、ものの見方を学ぶことができたと稲益礼奈さん

i.schoolでの 1年間を経て「人口が減り経済が停滞する時代に適応したシステムが必要」と考えるようになった稲益さんは、就職先の化学系企業でもワークショップの経験を活かしたいと話す。「機械系や電気系など複数の分野の人たちと協働して、新しいシステムづくりに関与できたら」と意欲を燃やしている。

後編では、i.schoolを立ち上げたエグゼクティブ・ディレクターの堀井秀之教授(大学院工学系研究科)に、i.schoolの目指すところを詳しく聞き、企業のなかで持続的にイノベーションを起こすには何が必要なのか、ヒントを探る。

「スキルセット」からはじめる、逆説のイノベーション創出──東京大学i.schoolのイノベーション教育(後編)へ続く


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2019 あしたのコミュニティーラボ