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認知症の「2年の空白期間」を埋める存在へ──認知症と向き合う働き方とは(後編)

2016年09月02日



認知症の「2年の空白期間」を埋める存在へ──認知症と向き合う働き方とは(後編) | あしたのコミュニティーラボ
増え続ける認知症と診断された人たち。その当事者を取り巻く支援のしくみをつくる過程では、どのような試行錯誤が行われているのだろうか。 前職場で自立支援の“選べるデイサービス”の管理者だった前田隆行さんが独立して開設した若年性認知症の人たち等が再び地域や社会とつながれる拠点「DAYS BLG!」のある東京都町田市に向かった。“認知症とともに生きる社会”の実現を目指す取り組みを探る。働き方と認知症の今を、働く側、支援する側それぞれの当事者から見つめた、後編。

“働く”は責任でもあり、生きがいでもある──認知症と向き合う働き方とは(前編)

求められている仕事をして、誰かの役に立ちたい

施設にいる間は穏やかで無事に過ごせればいい。だがデイサービスの機能はそれだけではない。遊戯やぬりえなど、今までの慣習にならったアクティビティばかりではなく、高齢者が何をしたいのか本人の意思を尊重し、自立的な生活を維持できるようサポートするのが福祉施設の本来の役割なのではないか──。
DAYS BLG! 代表・前田隆行さんは認知症の当事者が再び生活者になれるようサポートしたいと活動する
DAYS BLG! 代表・前田隆行さんは認知症の当事者が再び生活者になれるようサポートしたいと活動する

前田隆行さんはDAYS BLG!をはじめる前、認知症対応型デイサービスの管理者として、“安全第一”になりがちな施設方針から“自立支援”へと大きく方針を切り替え“選べるデイサービス”を実践していた。利用者である高齢者と日帰り温泉へ行ったり、一般的には高齢者同士で行う風船バレーで保育園児と対戦したりと、そこには「こうした方がもっと楽しんで毎日が過ごせる」工夫が溢れていた。

そんな折、50代で発症した若年性認知症の利用者が通所し、その人たちへの対応が課題となった。体は元気で活動的。デイサービスに訪れる高齢者は80代以降が大多数で、親に近い世代の人たちと同じことをして過ごすのは抵抗がある。「やりがいがあるのは仕事か趣味だろう」と前田さんは考えた。

若年性認知症の利用者たちからは「働きたい」との声が上がった。そこで、デイサービスの法人が所有する空き民家の修繕や焼き芋のための薪割りなどをしてもらった。しかし、それらはそのためにわざわざ用意した作業であり、誰かに必要とされている「仕事」ではないため、前田さんは「私たちが働きたいというのは、こういうことではない」と言われてしまった。しかし、デイサービスのなかだけでは仕事を生み出すにも限界がある。そう考えた前田さんは、外部に答えを求めた。

「風船バレーで信頼関係のあった保育園に打診したら、子どもたちが夏に遊ぶプール掃除をしてもらえないか、と依頼が来ました。外部の団体から本物の仕事として依頼が来たわけです。プール掃除から始まって、ペンキ塗り、砂場の掘り起こし、草取りなどもやりました。なかなか手の回らない重労働なので保育園からは感謝され、“やりたかったのはこういうことだよ”とみなさんの表情も明るくなっていったんです」

介護保険サービス利用者の活動対価を国に直談判

保育園の仕事は完全なボランティアだ。そのうち、若年性認知症の利用者から「対価」の話が出た。

「金額の問題ではありません。企業で働けないのは仕方がない。けれども、こういう仕事はまだできるし、実際にやってきた。自分たちの仕事の評価になり、モチベーションも上がるので対価が欲しい、と。当然の要求です」
本人の希望を満たす仕事のレベルとは何か、前田さんは思い悩んだ
本人の希望を満たす仕事のレベルとは何か、前田さんは思い悩んだ

2000年、身体介護が必要で仕事のできない人を前提に制定された介護保険制度は、サービス利用者が活動をして対価を得る事態を想定した条文は盛り込まれていなかった。対価を得ては「いけない」と法律の文言にはないが、「よい」ともしていない。

このグレーゾーンを解消すべく、前田さんは国に直談判を開始した。厚生労働省へ何度も出向いて直訴し、若年性認知症の当事者会議を開いた。日本全国から当事者の声を直接届け、各地の関連団体からも提言してもらった。

こうして多方面から攻めた結果、2011年4月、厚生労働省老健局は「若年性認知症施策の推進について」の通知で、介護保険サービス利用中のボランティア活動に対する謝礼の受け取りを認めた。雇用契約を発生させない有償ボランティアという位置付けで「賃金」や「報酬」ではなく「謝礼」としている。

国への直談判から5年の歳月が流れており、この時点で、前田さんはデイサービスの現場から退いていた。前田さんは「どこかがやってくれるだろう」と思っていた。しかし、誰も手がける様子がない。というよりも、謝礼受け取りを認める厚労省の通知そのものが知られていなかった。

「言い出しっぺがはじめるしかない」。前田さんはそう決意し、NPO法人「町田市つながりの開 DAYS BLG!」を立ち上げた。

デイサービスの「利用者」ではなく「メンバー」

DAYS BLG!の“BLG!”は“Barriers, Life, Gathering, Exclamation”。障害の有無に関わらず、1人ひとりが自分の意志で自分の望む生活を送り、人生の主人公でいられる社会の実現。そんな希求が込められている。

認知症の当事者が介護される存在ではなく、自ら主役として再び生活者となれるための支援を通じて、デイサービスに地域や企業とつながるハブ機能を持たせ、認知症を他人事ではなく自分事として捉えてもらう。それがDAYS BLG!の理念だ。スタッフも地域の人々も皆が“Gathering”(集まる、集合の意)なので、通ってくる人をデイサービスの「利用者」と呼ばず、DAYS BLG!の「メンバー」と呼んでいる。

前田さんは、若年性認知症の人たち等ができる仕事を用意するため、地域の企業を1軒ずつまわり営業した。企業の対応は門前払いだったり、協力したいけれどできないと断られたり。ペースメーカーの袋にシールを貼る作業や、ボールペンの組み立てなど、受注したがノルマを達成できず失敗した事業も多い。
メンバーの方々が洗車を行う様子(提供:NPO法人町田市つながりの開 DAYS BLG!)
メンバーの方々が洗車を行う様子(提供:NPO法人町田市つながりの開 DAYS BLG!)

自動車ディーラー・HondaCarsを1年半がかりで口説き落とし、洗車の仕事を受注した。地域に広域展開しているので、1カ所で事例を生めば、広がる可能性が高い。

「今後の新車市場の変化を見据えると、増え続ける認知症の人たちに仕事を提供する活動が、たとえばテレビCM1本分と比べ企業のPRとしてどちらがより費用対効果が高いかなどと、偉そうに数字を並べて説得しにかかりました(苦笑)」

3カ月の試用期間終了を待たず仕事ぶりが認められ、今や謝礼も上がった。
DAYS BLG!のメンバーも仕事として読み聞かせを担当する、認知症をテーマにした紙芝居『やさしさはおくすり』
DAYS BLG!のメンバーも仕事として読み聞かせを担当する、認知症をテーマにした紙芝居『やさしさはおくすり』

DAYS BLG!のメンバーたちは今、フリーペーパーのポスティング、千葉県のNPO法人と提携した野菜の直売、保険代理店のティッュペーパー配りなどの仕事に取り組んでいる。近所の子どもたち相手の駄菓子屋、認知症をテーマにした紙芝居の出張授業など、地域との交流もあり、やりがいのある仕事だ。現在、登録メンバーは23名、1日の定員は10名。曜日よってメンバーは変わる。

認知症はいつ誰がなってもおかしくない

65歳以上の4人に1人は認知症あるいはその予備軍。前田さんによれば、64歳以下の若年性認知症の人も東京都内だけで4,000人以上という。

「大きな企業であればあるほど、これから社員が認知症になる割合は高くなります。そのとき企業はどう対処するのか。解雇するのではなく、ソフトランディングできる企業になるために、人事部や役員クラスの人たちが、サポートの専門職のみならず認知症の当事者からも学ぶ機会があっていい。それらを通じて商品・サービス開発の新たな視点も得られるのではないでしょうか」
前田さんの志に惹かれてきたというDAYS BLG!のスタッフのみなさん
前田さんの志に惹かれてきたというDAYS BLG!のスタッフのみなさん

認知症と診断されれば本人も家族も衝撃を受ける。絶望し自殺を図る人もいる。そこから立ち直り望ましい支援にたどりつくまでおよそ「2年の空白期間」がある。この段階の人たちとつながりたい、というのが前田さんにとって直近の課題だ。

それと同時に、DAYS BLG!のようなコンセプトのデイサービスが全国各地に増えていけば、認知症の人たちが希望を取り戻し、再び人生の主人公になれる。そのためには人材教育が欠かせない。将来は学校をつくる構想を前田さんは抱いている。それがNPO法人としての活動を継続する収入源ともなるからだ。

認知症はもはや他人事ではない。長寿社会の常として、いつ誰がなってもおかしくない。しかし、前編で紹介した丹野智文さんのように、若くして認知症になっても明るく元気に生きられるし、後編で触れたDAYS BLG!のように、地域や社会とつなぐ役割を果たす支援サービスも現れている。“認知症とともに生きる”ことは喫緊の社会課題の1つだ。

今回ご登場いただいた丹野智文さん、DAYS BLG!さんは、認知症の人や家族、支援者、一般の人が少しずつリレーをしながら、1つのタスキをつなぎ、ゴールを目指すイベント「RUN伴(とも)」に参加しています。

“働く”は責任でもあり、生きがいでもある──認知症と向き合う働き方とは(前編)


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