Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

限界集落で進む、新型モビリティの社会実装 ──上山集楽みんなのモビリティプロジェクト(前編)

2016年09月06日



限界集落で進む、新型モビリティの社会実装 ──上山集楽みんなのモビリティプロジェクト(前編) | あしたのコミュニティーラボ
日本国中どこにでも、地域課題が山積している。行政のみならず、民間企業、地域住民といったステークホルダー同士が手を取り合って活動をすることが、以前に増してはるかに一般的になってきたのではないだろうか。 岡山県美作市にある上山(うえやま)地区では、都市部からの移住メンバーが中心となって「棚田再生」を主目的とした組織が結成され、現在、地域のさまざまな価値創造に従事している。その一連の活動から2015年末にスタートしたのが「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」だ。地域・企業・住民のそれぞれに、どんなメリットをもたらそうとしているのか。活動の中心メンバーに話を伺った。

“上山集楽”には、なぜ企業が熱視線を送るのか? ──上山集楽みんなのモビリティプロジェクト(後編)

棚田のなかを10台の小型EVが駆け抜けた

2016年7月某日。絶好の晴天に恵まれたこの日、美しい棚田風景のなかを、オレンジ×ブラックで彩られた超小型電気自動車(EV)が駆け抜ける、そんなちょっと変わった様子が広がった。
田園風景のなかをオレンジ×ブラックボディが印象的な超小型電気自動車(EV)「コムス」が駆け抜けた
田園風景のなかをオレンジ×ブラックボディが印象的な超小型電気自動車(EV)「コムス」が駆け抜けた

ここは岡山県美作市にある上山地区。岡山市内から1時間ほど車を走らせたところにある限界集落で、人口はわずか150名程度である。ちなみに「限界集落」という言葉は「人口の50%以上が65歳以上で、農作業などの共同体機能が維持できない集落」を指している。

かつてこの一帯には100町歩(1町歩はおよそ3000坪=1haにあたる)、8,300枚もの棚田が広がっていたが、地元民の高齢化とともに過疎化が進み、同時に棚田の荒廃も広がった。しかし2007年頃から、関西圏で活動していた、いわゆる“ヨソ者”の市民メンバーが棚田再生に乗り出し、現在はその多くがこの地に移住。地元民と移住メンバーが協働で棚田再生活動に努めている。

このたび上山地区では、彼ら移住メンバーが中心となり、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(以下、TMF)の助成を受けて「中山間地域の生活・経済活性化のための多様なモビリティ導入プロジェクト」(通称「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」)に乗り出すことになった(そのほか、同プロジェクトには岡山大学と美作市が協力)。

この日は、プロジェクトの実証実験で使われる超小型電気自動車(EV)「コムス」(トヨタ自動車)が納車され、マスコミ向けのお披露目会を開催していた。地元メディアも多く駆けつけ、当地での注目度の高さがうかがえる。
「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」のメンバーによる、マスメディア向け「コムス」お披露目会の様子
「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」のメンバーによる、マスメディア向け「コムス」お披露目会の様子

2015年12月25日に助成契約を締結した同プロジェクトの助成期間は、約4年間。プロジェクト運営の中心を担う「NPO法人英田上山(あいだうえやま)棚田団(以下、棚田団)」と、集落の調査・研究のシンクタンクである「特定非営利活動法人みんなの集落研究所(以下、みん研)」(岡山県岡山市)に対して、およそ2億2000万円の助成金額(見込み)が投入される予定だ。

棚田団・農業法人・地元住民の受け皿的組織として

プロジェクトの中心を担う棚田団メンバーは上山へ移住した人たちで大半を占めている。

「棚田団、農業法人mlat LLC(後述)、地元住民という3者を包括する受け皿的な活動母体が、一般社団法人上山集楽です。全体構想・情報集約・地元調整を担い、上山地区の資産価値向上を図っています」
上山集楽モデルの体系図(資料提供:一般社団法人上山集楽)
上山集楽モデルの体系図(資料提供:一般社団法人上山集楽)

そう話すのは、同法人で現地事務局を務める松原徹郎さんだ。

松原さんは兵庫県生まれ。上山移住前には大阪で自然環境調査を生業としていたが「都会での仕事は、どうしても当事者になれなかった。世のなかの役割の一端しか担っていないような感覚があって、もっと当事者感覚でやりたいと思っていた」。
一般社団法人上山集楽・現地事務局の松原徹郎さん
一般社団法人上山集楽・現地事務局の松原徹郎さん

そもそも松原さんら移住メンバーが一連の活動に注力するようになったのは、1人のメンバーが月に数回程度、農業用水路の掃除のため関西から上山地区に通っていたのがはじまりだった。次第にメンバーは棚田再生に前のめりになり、やがて棚田団が組織化された。

また、総務省の公募により、都市住民に地域協力活動を委嘱する制度である「地域おこし協力隊」を活用し、より広域に移住メンバーを募る「美作市地域おこし協力隊(通称・MLAT)」の活動もスタート。棚田団とは別に、耕作放棄地再生・農業生産を主目的とした「認定農業法人mlat LLC」も当地で設立されている。

棚田団の活動も、棚田の再生面積が広がるにつれ、より地域に根ざしたものになっていった。地元の新規事業創出、コミュニティー再生、国際交流などにも尽力することになり、組織自体も2011年にNPO法人化を果たしている。最近では再生エネルギー活用などにも熱心で、活動内容は枚挙にいとまがない。もちろん、肝心の棚田再生も着々と進行中だ。
上山地区の地域資源である棚田。8,300枚の棚田再生に向け、棚田団と地元民が協働している
上山地区の地域資源である棚田。8,300枚の棚田再生に向け、棚田団と地元民が協働している

なぜ上山地区に移住者が集まるのか?

松原さんと同じような動機で移住を決断したメンバーは多い。棚田団のメンバーで、当プロジェクトにも中心メンバーとして携わっている水柿大地さんは、東京都の出身。大学では農村研究に従事していたが、いつからか移住・定住を考えるようになった。
英田上山棚田団の水柿大地さん
英田上山棚田団の水柿大地さん

「当時は上山に棚田があることすら知らず、農村があればどこでもよいと思っていた」という水柿さん。しかし「過疎であることからいろいろな仕事を任され、なんでもチャレンジできる生活が気に入り」、2010年からMLAT第1期メンバーとして上山地区に定住している。

「1つのことを究めたいというより、暮らし全般のことを何でもできるようになることに魅力を感じます。生きる力というか、自分の根底の部分で力をつけられる。暮らしを自分でつくるという感覚です」(水柿さん)

メンバーはどこか1つの組織・団体に所属して専任するわけではなく、上山地区のなかで複数の役割を担っている。松原さんも上山集楽の事務局長でありながら、普段は棚田団として農林業に従事。地域コミュニティーのなかでは、神社の会計係まで担当しているし、自身の活動テーマとして野草・薬草などの自然資源の研究も行っている。

「上山のなかだけで1人10役くらいをこなしているような感じ(笑)」という松原さんだが、その生活こそ、松原さんが切に望んでいたものだった。
自宅で薬草を栽培管理している松原さん。上山地区の植物は熟知しており「上山には600種類くらい植物が生えていて、薬草だけでも200以上が生えているんですよ」
自宅で薬草を栽培管理している松原さん。上山地区の植物は熟知しており「上山には600種類くらい植物が生えていて、薬草だけでも200以上が生えているんですよ」

交易があることで拡がる集落の可能性

そんな上山集楽において、昨年末からスタートしたのが冒頭で紹介した「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」だ。

この活動の特筆すべきポイントは、助成金が投入されたら終わりになるような、一過性の取り組みではなく、綿密な計画によってサステナブルなしくみがしっかりとデザインされている点だ。
プロジェクト(日常生活利用分野)の全体スケジュール。住民ら当事者を巻き込むなど一過性に終わらない活動を当初より設計しているのが最大の特徴(資料提供:一般社団法人上山集楽)
プロジェクト(日常生活利用分野)の全体スケジュール。住民ら当事者を巻き込むなど一過性に終わらない活動を当初より設計しているのが最大の特徴(資料提供:一般社団法人上山集楽)

具体的には、上山地区でのモビリティ活用に可能性のある領域が設定され、各軸を見据えた全村民(約150名)対象のヒアリング調査も行われているということ。モビリティを使う村民にとっての使いやすさをとことん突き詰めている。

同時に、モビリティ活用に対する当事者意識や主体性を村民に芽生えさせるため、プロジェクトにまつわるミニコミ紙の制作・配布、サロンの開催なども並行して行う。プロジェクトによって上山地区にどんな未来がもたらされるのか、その啓発に努めている。

「もちろん集落が自立的に生活できるようになることが大前提なんです。でもだからといって、この土地で閉鎖的に何かをしているだけでは何も広がっていきません。“交易”があればいろいろなところとつながれる。市村交易の観点から、5〜6年ほど前より、モビリティの導入を検討していました」(松原さん)

サステナブルな地域をつくるために、非常に多角的な観点でプロジェクトが設計されている「上山集楽みんなのモビリティプロジェクト」。後編では、具体的な事業の3本柱について聞いていくとともに、なぜ企業が2億2000万円もの投資を行うのか、その価値と、企業と地域による地域活性の可能性について考えていく。

“上山集楽”には、なぜ企業が熱視線を送るのか? ──上山集楽みんなのモビリティプロジェクト(後編)はこちら

リンク)
一般社団法人上山集楽 https://ueyama-shuraku.jp/
トヨタ・モビリティ基金 http://toyotamobilityfoundation.org/ja/
みんなの集落研究所 http://www.npominken.jp/


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2019 あしたのコミュニティーラボ