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“上山集楽”には、なぜ企業が熱視線を送るのか? ──上山集楽みんなのモビリティプロジェクト(後編)

2016年09月06日



“上山集楽”には、なぜ企業が熱視線を送るのか? ──上山集楽みんなのモビリティプロジェクト(後編) | あしたのコミュニティーラボ
上山集楽みんなのモビリティプロジェクトは一過性の取り組みではない。むしろ重層的な課題にメスを入れるために、非常に多様な領域と実装までの綿密なプロセスが設計されていることが特徴だ。ヒアリング調査に参加したメンバーは、当プロジェクトについて「課題が生まれている、その場にまで行かないとただの絵に描いた餅で終わってしまう」と説明する。地域住民が本当に必要とするモビリティを実装することで、限界集落だった上山地区にはどんな未来が訪れるのか。引き続き、活動の中心メンバーに話を伺っていく。

限界集落で進む、新型モビリティの社会実装 ──上山集楽みんなのモビリティプロジェクト(前編)

全村民を対象としたヒアリング調査

プロジェクトメンバーが移動手段にまつわる地域の課題をあらためて洗い出していくと、テーマの領域を越えて課題が山積していた。そこで、3つのテーマを軸に同プロジェクトは進められることとなった。
みんなのモビリティプロジェクトは、活動によって「日常生活利用」「農林業」「観光」と3つのテーマ領域でのイノベーションを起こそうとしている(資料提供:一般社団法人上山集楽)
みんなのモビリティプロジェクトは、活動によって「日常生活利用」「農林業」「観光」と3つのテーマ領域でのイノベーションを起こそうとしている(資料提供:一般社団法人上山集楽)

1つ目の軸、それは「日常生活利用」だ。具体的な活動としては、集落の調査・研究のシンクタンクである「特定非営利活動法人みんなの集落研究所(以下、みん研)」(岡山県岡山市)とともにヒアリング調査をはじめている。
みんなの集落研究所の西山基次さん
みんなの集落研究所の西山基次さん

たとえば、住民の“日常的”な移動手段だけとってみても、公共交通機関は極めて少ない。集落を通る公共バスは週2日、それも1日に5本しか来ないという。自由な移動はマイカーが主体となるが、道幅はとても狭く、地域のガソリンスタンドも閉鎖が広がっている。子どもたちが学校に通うにも、市の行政区画のなかでは高等学校が少なく通学にも不便だ。

「たとえば免許を持っている人、持っていない人でも抱えている課題はそれぞれ異なるわけです。持っていない人は移動手段を家族に頼っていて、運転することを自ら怖いと思う、いわゆる『高齢者ドライバーの免許返納問題』も絡んできます。外出する機会をもっと増やしたいのに、あらゆる不安感をぬぐえない。その1つの解決策として、なんらかの交通手段が代用できるかもしれないのです」(みん研・西山基次さん)

公共交通空白地における有償運送の可能性も視野に

今回導入された超小型電気自動車(EV)コムスは、10台のうちおよそ半数を「日常生活利用」の領域で試験的に運用する予定だ。プロジェクトで日常生活利用の領域を担当する水柿大地さん(前編参照)は「集落を往診しているお医者さん、さらには、見守り活動をしている婦人会の方々にコムスを使ってもらいたいですし、プロジェクト自体を知ってもらう点でも村民にコムス導入の意義は大きいものです」と説明する。
納車されたばかりの「コムス」。フロント部分には、今回新調された「上山集楽」のロゴが刻まれている
納車されたばかりの「コムス」。フロント部分には、今回新調された「上山集楽」のロゴが刻まれている
日常生活利用の領域では、ヒアリング調査を受け、いくつかのロールモデルを現在抽出しているところだ。今後は住民全体で上山の交通を検討。年度内にはしくみ導入に向けた準備をはじめる考えだが、日常利用の領域について水柿さんは次のように総括する。

「最終的には、新しいタイプのライフスタイルを構築・発信できたらいいと思っています。1つのキーになるのは、過疎地の問題を助け合いで解決したい、ということ。たとえば、公共交通空白地有償運送のような公共的な助け合いのしくみまで検討すべく、地元自治体の美作市とも協議しながらプロジェクトを進めています」(水柿さん)
ヒアリングを受けて、日常的なモビリティ利用にあたってのロールモデルを複数作成。今後はそれぞれのニーズに沿ったモビリティの検討を進めていく予定だ(資料提供:一般社団法人上山集楽)
ヒアリングを受けて、日常的なモビリティ利用にあたってのロールモデルを複数作成。今後はそれぞれのニーズに沿ったモビリティの検討を進めていく予定だ(資料提供:一般社団法人上山集楽)

農林業モビリティが新規就農者を呼び込むきっかけに?

2つ目の軸は「農林業利用」だ。村民の大多数の生業である農林業の分野でも、自動車は不可欠な存在。ましてや当地では集落のなかにある溜め池(大芦池)の貯水を水源として棚田まで配水するため、総延長10kmの水路を日常的に見守らなければならない。棚田の見守りなどのために、電動立ち乗り二輪車「Segway®」を導入したこともあるが、高齢者が気軽に乗るという点には限界があった。
集落内にある「大芦池」は棚田の水源が貯められた重要な場所。大雨のときなどは、松原さんらが池や水路に異常がないか見守らなければならない
集落内にある「大芦池」は棚田の水源が貯められた重要な場所。大雨のときなどは、松原さんらが池や水路に異常がないか見守らなければならない

当プロジェクトでは、稲作・林業・狩猟など、当地での仕事にまつわる移動・運搬の課題を十分に抽出したうえで、課題分析と実証実験を行っていく。

6年間、東京から夜行バスで上山に通い続け、今年から移住を決断したという井上寿美さんは、プロジェクトで農林業利用の領域を担当する。
農林業利用を担当する井上寿美さん
農林業利用を担当する井上寿美さん

「棚田再生の活動においても、上下方向の運搬、細い通路での運転など、車にまつわる課題がたくさんあるんです。スモールサイズのモビリティではパワーや積載の面で心もとなく、新しいアイデアを模索しています。農業でもいまだ手押しの農耕機を使って作業をするようなところがあり、どうしても力仕事の側面が強い。農業利用の面からモビリティを見直すことができれば、女性や未経験者のような新規就農者も呼び込めるかもしれません」(井上さん)
農林業利用分野においても、ニーズや課題を丁寧に拾い、モビリティ実装に至るまでのプロセスが当初から描かれている(資料提供:一般社団法人上山集楽)
農林業利用分野においても、ニーズや課題を丁寧に拾い、モビリティ実装に至るまでのプロセスが当初から描かれている(資料提供:一般社団法人上山集楽)

今年2月28日には、そのきっかけづくりとして、農林業用モビリティの試乗会が行われた。プロジェクトメンバーが自らで電動バイクや電気三輪自動車など、ありとあらゆるモビリティをこの日のために配備。TMFの助成ではあるが、トヨタ製モビリティに限定されることがないため、自由にセレクトできたという。

試乗会後、年齢層に応じた実際の作業者の声(メリット・デメリット)を集めたことで「9月くらいまでには、実際に使えそうなモビリティを入れ、試験運用をはじめる」。秋頃には農林業やエネルギーをテーマとしたアイデアソン/ハッカソンも開催予定で、松原さんは「ゆくゆくは獣害対策として、自動運転などにも可能性があるかもしれない」と展望を語る。
現場調査で満足するのではなく、さらに潜在的な課題とアイデアを深掘りするアイデアソン、ソリューションを精緻化するためのハッカソンが予定されている(資料提供:一般社団法人上山集楽)
現場調査で満足するのではなく、さらに潜在的な課題とアイデアを深掘りするアイデアソン、ソリューションを精緻化するためのハッカソンが予定されている(資料提供:一般社団法人上山集楽)

コムスを使ったツーリズムのツアーを企画中

奈良県出身で大学院を卒業後、上山に移住した梅谷真慈さんは棚田団の副代表。プロジェクト最後の軸となる「観光利用」の領域を担当する。
英田上山棚田団・副代表で、観光利用を担当する梅谷真慈さん
英田上山棚田団・副代表で、観光利用を担当する梅谷真慈さん

先に挙げた「日常生活利用」「農林業利用」は、住民の生活に根ざした“喫緊の課題”という側面が強いが、観光利用のテーマはやや趣きを違える。

日常生活利用・農林業利用との3軸で考えたとき、将来的に上山で適切なモビリティが配備されたとしても、農林業だけで採算をとるのは厳しい。一方で日常生活利用の面でも「利益を生むというより、“持ち出し”になることが多くなる」。全体を通して考えたとき、新たに「観光」の領域で利益を出さないといけない、というのが上山集楽の考えだ。
観光テーマでは、さまざまな地域資源を活用したツアーや体験を企画中だ(資料提供:一般社団法人上山集楽)
観光テーマでは、さまざまな地域資源を活用したツアーや体験を企画中だ(資料提供:一般社団法人上山集楽)

「この社会実験が終了した後でも、経済的に持続可能な状態を続けられる取り組みが必要です。その点でいえば、上山の棚田が再生され、再びきれいな景観が取り戻せれば、それが上山の観光資源になることでしょう。お金がただ単にまわるだけではなくて、そうした資源に人が集まり、当地の活動に共感してお金を落としてもらうことが目的。そのためには、ややハードルを下げた取り組みとして、コムスを使ったツーリズムのツアー企画は非常に効果的なんです」(梅谷さん)
2016年8月には、一般向けに「棚田deコムス観光ツアー」も行われた(画像提供:一般社団法人上山集楽)
2016年8月には、一般向けに「棚田deコムス観光ツアー」も行われた(画像提供:一般社団法人上山集楽)

現在は、新型モビリティを使ったさまざまな観光ツアー企画を立案中だ。たとえば「コムスde野草摘み草ツアー」は、上山地区の野草・薬草を摘んでもらい、料理やお茶をふるまう体験ツアー。もちろんガイド役(搭乗員)は野草・薬草に詳しい松原さんで、定員10名、120分ほどのツアーをイメージしているという。お披露目会で披露された棚田のなかをコムスが駆ける風景は、将来の上山地区で実際に起こり得る、日常的な風景だといえる。
新型モビリティの観光利用がはじまれば、日常的にこんな風景が見られるようになるのかもしれない
新型モビリティの観光利用がはじまれば、日常的にこんな風景が見られるようになるのかもしれない

課題解決の現場には“ちょうどいいサイズ“

さて、こうした地域住民と移住メンバーの協働による地域課題解決という側面とは別に、一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(以下、TMF)の側から解決したい社会課題もある。新型モビリティを社会実装していくことだ。美作市でのプロジェクトはTMFにとってモビリティ導入プロジェクトの1つに過ぎず、TMFではタイやベトナムといった都市での渋滞緩和プロジェクトにも助成を行っている。

上山でのプロジェクト期間中は、定期的に現場視察に訪れるTMF担当者に対し、メンバーらがバックログを提示しながら情報共有を行っている。

ではトヨタを母体とするTMFが、上山地区をモビリティの社会実装のための実験場に選んだ理由は何なのか。松原さんは民間企業が上山地区のような地域を課題解決の場に選択する、その意義を次のように想像している。

「TMF担当者の方は、特に農林業に対する理解が深かったように思います。当初から実際に住民主体の上山の現場を見てもらい、地域課題を肌で感じてもらえたことが大きかったのかもしれない」(松原さん)
「プロジェクトの認知はこれから。村民のみなさんと一緒にしくみを考えているところ」と松原さん
「プロジェクトの認知はこれから。村民のみなさんと一緒にしくみを考えているところ」と松原さん

「ここからはあくまで一般論ですが、EVのようなモビリティを“都会”で運用していくにはさまざまなしがらみが重なり、なかなか自由にできないことがあるのではないでしょうか。その点、上山のような田舎なら、都会に比べてうるさく言われるようなこともないでしょうし、もとより150人程度の規模。こうした実験的な取り組みをするには“ちょうどいいサイズ”なんだと思います」(松原さん)

「上山集楽独立国宣言!!」の真意とは?

ところで上山集楽はいつからか「上山集楽独立国宣言!!」と銘打ち、自ら「独立国」を宣言している。実は、松原さんらが唱える「独立」という言葉にこそ、このモビリティプロジェクトのすべてが集約されているといっても過言ではない。

「地域活性や地域再生って言葉がここ10数年の間で頻繁に使われるようになっています。でも50年ほど前までは、それは当たり前だったはずです。自分たちでなんとかしようという気迫に溢れ、法律などのしがらみがあっても、それを打破しようとしていた。人のせいにせず、甘えも許されない。それをいつからか地域は自分たちでやらなくなってしまったのではないでしょうか」(松原さん)
上山は2014年に“独立国”を宣言。同年3月29日には東京・HUB Tokyoで「VISIONS 上山集楽独立国宣言~連合国募集~」と題したイベントを開催し、企業をはじめとする新たな連携のきっかけが生まれた(画像提供:一般社団法人上山集楽)
上山は2014年に“独立国”を宣言。同年3月29日には東京・HUB Tokyoで「VISIONS 上山集楽独立国宣言~連合国募集~」と題したイベントを開催し、企業をはじめとする新たな連携のきっかけが生まれた(画像提供:一般社団法人上山集楽)

「決して鎖国的な意味ではなく、『独立』と宣言しているのはそんな思いから。過疎地と呼ばれる大多数はそういう問題を抱えていると感じるし、僕らはそんな現状を払拭したいのです」(松原さん)
プロジェクトメンバー一同。上山地区の地域資源に心惹かれ、各々のスタイルでの移住・定住を決意した
プロジェクトメンバー一同。上山地区の地域資源に心惹かれ、各々のスタイルでの移住・定住を決意した

地域の魅力に惹かれ、同じ価値観を共有するヨソ者たちが上山という地に集まった。彼らの活動は棚田という地域の資源を蘇らせた。その地域資源は人から「限界集落」などと呼ばれる地域に活力を与え、農作物もエネルギーも医療・食料・教育さえも自給自足できる、そんな新たな地域の価値が創出されようとしている。

今、この地に「モビリティ」という手段が加わればどうなるのか。きっと上山地区で創出される価値は、もっともっと大きく拡がっていくはずだ。

限界集落で進む、新型モビリティの社会実装 ──上山集楽みんなのモビリティプロジェクト(前編)はこちら

リンク)
一般社団法人上山集楽 https://ueyama-shuraku.jp/
トヨタ・モビリティ基金 http://toyotamobilityfoundation.org/ja/
みんなの集落研究所 http://www.npominken.jp/


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