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「アイデア創発→社会実装」の道は、「地域還元」にも続いてゆく ──大分トリニータによる共創プロジェクト(後編)

2016年09月28日



「アイデア創発→社会実装」の道は、「地域還元」にも続いてゆく ──大分トリニータによる共創プロジェクト(後編) | あしたのコミュニティーラボ
株式会社大分フットボールクラブ(以下、大分FC)の集客戦略は、地元大学とのアイデアソンに限ったものではない。「地元IT企業との共創」によるWebサービスもスタートさせており、今年3月からスタートしている「トリニータアンバサダー」もその1つだ。 これらの企画・開発・運営における重要なパートナーとなるのが、地元のITベンチャー・イジゲン株式会社。大学、そしてITベンチャーと共創することで、大分FCは地元・大分県にどんな価値をもたらそうとしているのか。引き続き、大分FCの取り組みに迫っていく。

大分トリニータはなぜ地域との共創を目指すのか? ──大分トリニータによる共創プロジェクト(前編)

新たな共創相手=地元のベンチャー企業

大分大学経済学部とのアイデアソン(以下、共創アイデアソン)には、地元のITベンチャー・イジゲン株式会社のスタッフも参加している。アイデアソンには「イジゲン賞」も設けられ、参加者と審査員を兼任した代表取締役・鶴岡英明さんが、すでに同社でローンチしていたトリニータアンバサダー内のコンテンツアイデアとして「リッジーミッション」(前編参照)を採択した。イジゲン・鶴岡さんはかねてより大分トリニータとのコラボを望んでいたが、なかなか実現に至らず、しかし今年に入って双方のニーズが合致し、この共創プロジェクトが実現したという。

「トリニータアンバサダーはまだスタートして間もないので、当面の課題は会員数を伸ばすことです。7月31日の試合では、イジゲンのスタッフ総出で会員募集とサービスのサポートに努めました」

イジゲン株式会社では営業を担当してきた塩月恵介さん。今年9月に新CMOに就任した
イジゲン株式会社では営業を担当してきた塩月恵介さん。今年9月に新CMOに就任した

そう話すのは、同社CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の塩月恵介さん。株式会社サイバードで新規事業、マーケティング領域、オンラインゲームのCRM(顧客管理)を、後に入社した株式会社阪神タイガース(プロ野球)、株式会社ユー・エス・ジェイ(テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」運営)でもCRMやデジタルマーケティングを担当してきた異端児である。

ただの開発業者ではなく、集客戦略の重要なパートナーとして

大分FCの集客戦略室および運営・広報室のスタッフは、トリニータアンバサダーやSNSを使ったマーケティングに関わる次なる施策を練るために、たびたびイジゲンのオフィスに出入りをしている。

イジゲンとの共創のねらいもそこにある。以下は、再び河野さんのお話。

「新しいことをはじめると、どうしても動きが鈍くなってしまうんです。今まで、外部と集客会議をするようなことはなかった。イジゲンのようなベンチャー精神のある会社と関わることで、社員にも刺激を与え、発想・行動に変化をもたらすのではないか」(河野さん)

新体制のもと、集客戦略を託された河野室長。「スポーツクラブには独自の広報・PRの戦術がある。これまで整備されていなかった『モノやサービスを売るためのPR』を再定義しているところ」と、これからのビジョンを語る
新体制のもと、集客戦略を託された河野室長。「スポーツクラブには独自の広報・PRの戦術がある。これまで整備されていなかった『モノやサービスを売るためのPR』を再定義しているところ」と、これからのビジョンを語る

もともと大分FCの顧問会計担当として活動した河野さんが、はじめて内部から大分FCを見たときに感じたのは、「顧客目線で考えれば、クラブはもっとよくなる」ということだった。そこで、「集客に必要なマーケティングの原理原則」を問い直し、顧客に根ざしたイベントやファンとの接点づくりについて、試行錯誤を重ねはじめた、というわけだ。今回、Webでサービスを提供しファンを獲得するという、従来のクラブにはなかった新たな戦略にあたり、河野さんは大分FCスタッフにイジゲン社員と密なコミュニケーションを課した。

「『ITを使えばすべて解決できる』みたいな幻想はどこにでもありますよね(笑)。大事なのは、「顧客の創造」という目的を常に共有し、トライ&エラーすること。仮に、それを開発会社に任せきりにすれば、顧客とも遠ざかり、マーケティングそのものをないがしろにしかねない。その点、顧客を第一に考え真摯に向き合ってくれるイジゲンのような会社は、単なる開発業者ではなく、マーケティングを含めた集客戦略の重要なパートナーになってもらえるんです」(河野さん)

大分FC集客戦略室(チケット担当)の佐藤善晴さんも、イジゲンから影響を受けた1人である。アンバサダーのリリースやアイデアソンの実装にあたり、佐藤さんは大分市内にあるイジゲンのオフィスに足しげく通い、塩月さんらとマーケティングに関する情報交換、チケット販売に関する意見交換を繰り返した。

写真右から、大分FC集客戦略室の佐藤善晴さん、同運営・広報室の仲野真悟さん(前編参照)。イジゲンのオフィスで塩月さん(左)らと打ち合わせするのがもっぱら日課となった
写真右から、大分FC集客戦略室の佐藤善晴さん、同運営・広報室の仲野真悟さん(前編参照)。イジゲンのオフィスで塩月さん(左)らと打ち合わせするのがもっぱら日課となった

「イジゲンのみなさんと一緒やっていくことで、確実に実行スピードが上がりました。そのことは、はっきりと集客戦略やファンサービスに表れます。ホームスタジアムである大分銀行ドームは山のなかにあるため、もともと商店街との関わりも少ない。地元で認知はしてもらっているけれど、思っていた以上に地域に溶け込めていないという課題を感じていました。イジゲンとの取り組みはどこまで“創客”に踏み込めるか、その勝負なんだと思います」(佐藤さん)

「戦略→共創→社会実装」の先に「地域還元」を見据えた循環モデル

さて、大分FCの一連の取り組みをまとめてみると、おおよそ次の3ステップで遂行されていることがわかる。

①集客戦略の目的や方法を考え、そのときのキーワードは「20代の若手」「IT利活用」だった。

②そのために、県内4大学(大分大学経済学部)やイジゲンと「共創」の関係性を築いた。

③そして「そこから生まれたサービス」、すなわち、タオルチケットやアンバサダー(リッジーミッション)が社会に実装された。

以上の3ステップには続きがある。それらの取り組みが「地域資源に近づくきっかけづくり(=タオルチケット)」「地元企業や商店との接点(=トリニータアンバサダー)」という、地域協力者との関係および地域への還元を見据えている点だ。

そのことを示す証言もある。

今後の地元温泉業界との関係継続について、旅館ホテル組合連合会との交渉と担当した大分FC集客戦略室・梅木慎太郎さんは「今回はほとんどこちらのわがままを聞いていただいたかたち。今度は温泉旅館・ホテルのみなさまにもっとメリットがあるような提案をしていくことが課題」と話す。

大分FC集客戦略室の梅木慎太郎さん
大分FC集客戦略室の梅木慎太郎さん

同様に、イジゲン・塩月さんはアンバサダープログラムについて次のようなねらいを定めている。

「試合結果はどうすることもできない僕らは、スタジアムに来てからの楽しみ方をお客様に提供することが最大ミッション。さらに先々のねらいとして、たとえば、アンバサダーで貯めたポイントを地元の店舗の特典に使えるなど、まちにお金を落としてもらい、そこからまた集客につなげるような、地域に根ざしたものにしていきたいと考えています」(塩月さん)

塩月さんへの取材中、同席いただいた佐藤さん、仲野さんは、イジゲンが想定するビジネスモデルについて真剣に耳を傾けていた
塩月さんへの取材中、同席いただいた佐藤さん、仲野さんは、イジゲンが想定するビジネスモデルについて真剣に耳を傾けていた

地域に根ざすビジョンがあるから、循環モデルが活きる

これら「集客戦略→共創→社会実装→地域還元」という循環モデルは、大分FCが集客戦略開始当初から思い描いていたことでもある。大分FCの榎徹代表取締役社長は、新たな体制下でのミッションとして、こんな考えを提示する。

「発足当時のがむしゃらさを思い出そうと “原点回帰”をスローガンに掲げた今、私たちがやるべきことは『地域の人が何を求めているのか』、それをしっかりと見据えたうえで、県民のみなさまにその答えを提供することです。それが観客増にもつながるはず。再び2万人クラスの集客を成し遂げ、県民のみなさまに『大分トリニータがあること自体がうれしい』と言ってもらえるような存在になりたいですね」(榎代表取締役社長)

2016年から大分FC新社長として舵を取る、榎徹代表取締役社長
2016年から大分FC新社長として舵を取る、榎徹代表取締役社長

アイデアソンで共創した大分大学経済学部の市原宏一経済学部長も、大分トリニータの存在を「トリニータという1つの企業体があり、それ自身が手足を延ばして地域の可能性を追求しようと動きはじめている」と評した。

すなわち、そこに参加する大学としても「持っている何かを引っ張り出してもらいやすい」。自ら別の共創アイデアソンも主催し、「地域の“調和”を担う触媒」になろうとしている大分大学経済学部も大分トリニータも似たような立場にあるといえるが「プラットフォームになる存在が大学だけではなく、もう1つあることは心強いし、いろいろな可能性を追求できるでしょう」(市原学部長)。

大分FCと共創アイデアソンを開催する、大分大学経済学部・市原宏一学部長(当時)
大分FCと共創アイデアソンを開催する、大分大学経済学部・市原宏一学部長(当時)

では、1つの“企業体”が、地域を巻き込む循環モデルの主体者になれる理由はどこにあるのか。河野さんはその理由として「発足当時から三位一体を掲げていること」を挙げた。

そもそも現在のチーム名の由来は、大分フットボールクラブ時代の愛称である大分トリニティ(トリニティ=県民・企業・行政の三位一体の意味)。商標登録の関係で、チーム名が「大分トリニータ」に改称されている。

「ずっと三位一体を掲げてきたから、いざ『地域をマーケットにしたい』とか『県民のために成し遂げます』という声を発したときに、幸いにして、県民のみなさまに耳を傾けていただきやすい。私には、その役割を期待されている感覚が常にあります。そうした県民のみなさまの潜在的なニーズを察して『これを使えば、こんなことが実現できるかもしれない』ということを、もっと体現していかなければいけません」(河野さん)

今回の取材でつまびらかになった、大分FCによる「地域との共創」は、次のような概念図で示すことができるのではないだろうか。

一連の取り組みの概念図(編集部制作)
一連の取り組みの概念図(編集部制作)

すなわち、〈「三位一体」でクラブを育て、大分に活力を〉というビジョンのもと、大分FCはクラブの集客戦略にあたり、大学・学生との共創を実施した。その結果、いくつかのアイデアが実装に至り、地域にも拡がりを見せている、というわけだ。企業体であっても“地域の触媒を担い得る”ことを示すこのモデルは、地域における持続的な価値創出のヒントになるだろう。

いずれにせよ、大分FCによるサービスの社会実装および地域協力者との関係性構築は、これからも続いていくという。今は拓かれたばかりの数本の道に過ぎず、新たな共創相手が増えるごとに地域での循環はまだまだ広がっていくだろう。この循環が繰り返されていけば、大分トリニータの集客は着実に伸びていくはずだ。

大分トリニータが再び人気クラブチームに駆けあがり、2万人、いや3万人のサポーターでスタジアムを埋めたとき、大分県にどんな価値がもたらされているのか──。地域の未知なる可能性は、まだまだ秘められているに違いない。

大分トリニータはなぜ地域との共創を目指すのか? ──大分トリニータによる共創プロジェクト(前編)

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共創アイデアソン2016(大分大学経済学部)
トリニータアンバサダー


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