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“まちぐるみの保育”を目指す、多世代交流拠点 ──「まちの保育園 小竹向原」

2016年10月21日



“まちぐるみの保育”を目指す、多世代交流拠点 ──「まちの保育園 小竹向原」 | あしたのコミュニティーラボ
東京都練馬区(小竹町)と板橋区(向原)のちょうど境に位置する小竹向原駅。その駅のほど近くに、“まちぐるみの保育”というユニークなコンセプトを掲げる保育園がある。「まちの保育園 小竹向原」だ。同園を運営するのは、ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表の松本理寿輝(りずき)さん。まちづくりの拠点を目指す同園は開園から6年、保護者と保育者、親族、地域住民、地域ワーカー……と、地道に「子どもを中心に据えて、木の年輪のように共感の輪を広げていった」という。まちの保育園は、どのようにさまざまなステークホルダーと連携を進めているのか、お話を伺った。

ベーカリーカフェが併設された認可保育所

東京メトロ・小竹向原駅を南側(練馬区側)に歩いて数分。ここに「まちの保育園 小竹向原」(認可保育所)がある。

保育定員は80名(月極)。園長、保育スタッフ(パート含む)、調理・栄養、看護師を含めた30名弱の職員が働いている。

園の大きな特徴の1つが、保育所の一角にベーカリーカフェ「まちのパーラー」が併設されている点。パーラーの営業時間は朝7時30分〜夜9時(月曜は夜6時まで、火曜定休)で、朝は出勤前のビジネスマン、近郊にある音楽大学の学生などがパンを購入しに来店。お昼の時間帯には、店内でランチを楽しむ主婦の姿が見受けられ、夜にはワインが提供されるため仕事帰りに立ち寄る人も多い。
「まちの保育園 小竹向原」の外観。向かって右側の玄関口から入ると、ギャラリーを通じて保育園の受付へ。左側のスロープを下ると「まちのパーラー」に通じている
「まちの保育園 小竹向原」の外観。向かって右側の玄関口から入ると、ギャラリーを通じて保育園の受付へ。左側のスロープを下ると「まちのパーラー」に通じている

なぜ保育園のなかにパーラーがあるのか。それは、園を運営するナチュラルスマイルジャパン株式会社代表・松本理寿輝(りずき)さんの掲げるコンセプト=“まちぐるみの保育”に由来している。

商学部商学科に在籍していた大学時代、「将来、何をしていくべきかはっきりと定まっておらず、悶々と暮らしていた」という松本さん。当時お世話になっていた先生からたまたま紹介されるかたちで、児童養護施設でのボランティアを体験した。これがその後の人生を変える、大きなきっかけとなった。

「価値を生み出し、それを持続可能にする手法──すなわち経営学を大学で学んできたなかで、自分にとって『価値』と思えるものに出会えた。それが、子どもたちの姿だったんです」
ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役・松本理寿輝さん。「元気づけようと思っていたら、むしろ私が子どもに元気を与えられました(笑)」
ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役・松本理寿輝さん。「元気づけようと思っていたら、むしろ私が子どもに元気を与えられました(笑)」

大学在籍中から、幼児教育の実践者、大学の先生、企業経営者など、さまざまな人たちへのヒアリング&フィールドワークを繰り返し、やがて「本当に望ましい幼児教育の環境とはいったい何なのか」を真剣に考えるようになっていった。

「たとえばその頃に私が目にしたのは、こんなニュースです。『幼稚園出身の子どもだと行儀がよくて、保育園出身の子どもだと社会性が高い』。ニュースは『だから保育園出身の子どもはやんちゃだ』みたいに話がまとめられていました。私はそこで『ちょっと待てよ』と思うわけです。どちらがよいとかそんな議論ではなくて、子どもにとって本当に望ましい環境がどんな環境なのか、そもそもの話し合いができていない。理想的な幼児教育の環境を“自分なり”に描いてみたいという思いが、そのとき自分の胸に去来しました」

コンセプトはすでに大学時代に生まれていた

ナチュラルスマイルジャパンを創業したのは、2010年4月のこと。実は大学卒業から同社創業までには、約7年間のタイムラグがある。理想を追い求めるならば、経営者として実現する方法もある、という先輩からの助言が、「自分のなかでいちばんしっくりきた」ためだった。

大学卒業後、松本さんはコミュニケーションの手法を学ぼうと、広告代理店に入社。そこを退社してから仲間とともにベンチャーを立ち上げ、駐車場の空中スペースの土地活用ビジネスに携わった。「このときに得たリソース・人脈が、後々、保育園をつくりあげていくのに役立ちました」。

創業から2015年3月までの5年間を、松本さんは「第1ステージ:文化創造期」と位置づけている。2011年に東京都認証保育所として「まちの保育園 小竹向原」(後に、認可保育所に移行)、2012年、2014年には、認可保育所として、2園目の「六本木」、3園目の「吉祥寺」をそれぞれ開園した。

大学時代にヒアリング&フィールドワークを繰り返していた頃から、 “まちぐるみの保育”というコンセプトはすでに頭のなかでできあがっていた。そこで、第1ステージは地域交流を活発にしていく方法を、より具現化していくことに注力できた。

多様な人々の“気配”を常に感じられる

では、「まちの保育園」のどんなところが“まちぐるみ”なのだろうか。

たとえば「まちの保育園 小竹向原」の保育室は、周囲のほとんどがガラス張りになっている。そのため、子どもたちは廊下をはさんで反対側にある「パーラー(カフェ)」に来店する多様な人々の“気配”を、常に感じられる。ふだんは保育園を見学しにくる教育関係者もおり、そうしたゲストに対しても、あえてエリアの間を遮ろうとはしない。
「まちの保育園 小竹向原」のコンセプト図(提供:まちの保育園)
「まちの保育園 小竹向原」のコンセプト図(提供:まちの保育園)

いわゆる「お遊戯会」のような、たくさん準備が必要な年間行事も基本的には行っておらず、子どもたちが小グループでそれぞれの活動に夢中になれるよう、園全体がデザインされている。

「“まちぐるみ”という言葉には2つの意味が含まれていて、1つはこうした子どもたちの学びや育ちのために、地域・環境を活用すること。もう1つは、ここがまちづくりの拠点になるということです」
「まちの保育園 小竹向原」の保育室。画像左側のカフェスペースから、子どもたちの様子や気配を感じられるような設計になっている(提供:まちの保育園)
「まちの保育園 小竹向原」の保育室。画像左側のカフェスペースから、子どもたちの様子や気配を感じられるような設計になっている(提供:まちの保育園)

地域交流の希薄化が進み、特に高齢世代と若い世代の交流が断絶している。高齢者のネットワークはたいてい町内会・自治会に偏り、若い世代はまちづくりに関わりたい気持ちがあっても、その機会を見つけられない。「その点、保育園のような場には保護者が毎日通いますから、若い世代(=保護者)とのネットワークをつくりやすい性質を持っているんです」。

「地域—保護者—子ども」をつなぐコーディネーターの存在

こうして、町内会(高齢世代)、保護者(若齢世代)、そして子どもたちといった多様なステークホルダーをネットワークで媒介するのが「コミュニティコーディネーター」という存在だ。保育園というハードのみならず、「人」(=ソフト)も参画するのが“まちぐるみの保育”のポイント。「コミュニティコーディネーター」は、園内でも独自の役割が与えられている。

「たとえば、子どもたちが鳥に興味があるのなら、鳥に詳しい人を町内から探す。大学の学生がおもしろいワークショップを企画していれば、大学生と子どもたちとの接点をつくる、といった感じです」

子どもたちを日常的に見守るのはもちろん、コミュニティコーディネーターが保護者・保育者の気持ちもしっかりとくみ取り、一方で町内(大学、図書館、地域高齢者のコミュニティーなど)に出向きながら『子どもたちの興味・関心』と『地域の人・施設』をつないでいく。もちろん、地域の人々とのまちづくりの話し合いにも応じる──。こうしたコミュニティコーディネーターを、各園に1名ずつ採用し、常勤の正社員としておいている。

これらの取り組みにより、町内会から「まち全体が明るくなった」「顔なじみの子どもたちが増え、みんな喜んでいる」という声もあがるようになったとのこと。“まちぐるみの保育”は、保護者と保育者、親族、地域住民、地域ワーカー、さらには、別のエリアのまちづくり関係者の共感を呼んだ。
「まちの保育園 吉祥寺」のカフェスペース。小竹向原同様、地域の住民が訪れる憩いのスペースとなっている(提供:まちの保育園)
「まちの保育園 吉祥寺」のカフェスペース。小竹向原同様、地域の住民が訪れる憩いのスペースとなっている(提供:まちの保育園)

2017年4月には「認定こども園」を開園予定

活動の評判は、地域のデベロッパーの耳にも届いた。六本木・吉祥寺での認可保育所開園につながったのも、そうした縁から。2017年4月には、初の「認定こども園」として「まちのこども園 代々木上原」(東京都渋谷区)を開園予定だ。ちなみに、認定こども園とは保育園と幼稚園の両方の機能を持ち合わせた施設のこと。

現在は、2015年4月からはじまった「第2ステージ:標準化期」の段階にある。この期中の目標を「具体的な数値目標は定めないけど、誰もが真似できるモデルにしていけたら。公立の保育所や企業主導型保育事業(事業所内保育)も一緒に、保育の質について考えていけたらうれしい」と松本さん。

ではなぜ、これだけの共感者を集めることができたのか。松本さんは「結局行き着くのは『教育は誰のものか』ということ」だと分析し、次のように続ける。

「前提に社会があって、その社会に適合するためにどういう教育を施すべきか──教育はいつしかそんなふうに『社会を追いかける存在』になってしまいました。だけど、教育ありきで考えるからこそ、その後に『この子をどうやって育てていこう?』とか『どうやってまちをおもしろくしていこう?』という“問いかけ”が生まれるのではないのか。そうやって社会が形成されるべきだと思うんです。だからこそ教育は誰もが関われるもので、専門的で難しい議論を提示するより『こういうふうに考えていけば、子どもにとってよさそうだよ』ということを一般的にわかりやすい言葉で語ってきたことが大きいのだと思います」

園の関係者だけでなく、保護者、町内会、地域住民、他エリアのデベロッパー、行政、民間企業……と、次々に共感者を呼んだ“まちぐるみの保育”。「保育の質」を高めようと、日々努力を続ける「まちの保育園」の活動にもっと共感者が集まっていけば、深刻な待機児童問題も解決に近づいていくだろう。

【関連リンク】
まちの保育園
まちのパーラー


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