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化粧品で地域を変える!? 地域おこし協力隊・大岡千紘さんが挑んだ3年間──愛知県東栄町「naori」ビューティーツーリズム(前編)

2016年11月09日



化粧品で地域を変える!? 地域おこし協力隊・大岡千紘さんが挑んだ3年間──愛知県東栄町「naori」ビューティーツーリズム(前編) | あしたのコミュニティーラボ
愛知県の東三河山間部に位置する北設楽郡東栄町。今年4月、ここで「ビューティーツーリズム」なるツアーを企画・運営する事業体「naori(なおり)」が立ち上がった。主宰者は、東栄町の地域おこし協力隊として活動をしてきた大岡千紘さん。「美の地産地消」をテーマとする地域活性の取り組みは、全国でもめずらしい。東栄町のソトの視点(移住者=前編)、ナカの視点(地域の協力者=後編)から、なぜ当地に「naori」が必要だったのか、発足の背景に迫っていきたい。前編では、移住者である大岡さんが気づいた、「地域おこしのあり方」についてスポットを当てる。

「地域おこし移住者」に対する、理想的な地域の関わり方とは? ──愛知県東栄町「naori」ビューティーツーリズム(後編)

過疎地域の活性化に携わりたかった大学時代

東栄町にある「naori」では美容・コスメにまつわる体験イベントを企画・運営している。ツアーの総称は「ビューティーツーリズム」。その1つが、毎週土曜日に開講する「ミネラルファンデーション作り体験」だ。ここで受講者は、当地で採掘・精製されたパウダーファンデーションの主原料・セリサイト(和名・絹雲母)を自ら調合し、自分だけのファンデーションを自作することができる。
「ミネラルファンデーション作り体験」の一行程。セリサイトと他の配合材料を計量・混合する(左上)→乳棒でよく混ぜ、天然色剤を加える(右上)→自分の肌に合う色になるまで天然色剤を加え調整する(左下)→きめ細かくなるようふるいにかけ、保存容器に移して完成(右下)。体験料は税別3,000円
「ミネラルファンデーション作り体験」の一行程。セリサイトと他の配合材料を計量・混合する(左上)→乳棒でよく混ぜ、天然色剤を加える(右上)→自分の肌に合う色になるまで天然色剤を加え調整する(左下)→きめ細かくなるようふるいにかけ、保存容器に移して完成(右下)。体験料は税別3,000円

naoriがスタートした2016年4月以降、メディアなどで活動が大きく取り上げられるにつれ、20〜30代をコアとした参加者が増加。リピーターも多いという。世のなかでオーガニック製品へのニーズが高まるなか、「若いうちからでも安全な化粧品を使いたいと、真剣に肌のことを考えて参加される方が多い」と、naori代表(ツアーディレクター)の大岡千紘さんは話す。

大岡さんの出身地は和歌山県。京都造形芸術大学の在学中、石見神楽(島根県)のまちおこしプロジェクトへ参加したことをきっかけに祭り・伝統芸能を追いかけるようになり、同時に「卒業したら過疎地域の地域おこしの仕事に携わりたい」と心に決めていた。

「それまでにも過疎とか少子高齢化については言葉では意識していたけれど、実際にその地域を訪れて地域の方の話を聞き、さらに気になって他の地域のことも調べているうちに、日本でそうした現実が今まさに起こっているということをリアルに知りました。そうした地域がなくなってしまえば、日本が日本でなくなってしまう──、そんな危機意識を持ったんです」
naori代表・大岡千紘さん。「ミネラルファンデーション作り体験」では、20名前後の受講者に対し、自ら講師を務める
naori代表・大岡千紘さん。「ミネラルファンデーション作り体験」では、20名前後の受講者に対し、自ら講師を務める

そんな折、東京で開かれた「地域おこし協力隊」の募集説明会に参加。東栄町の地域おこし協力隊「燈栄隊」(とうえいたい)の存在を知った。それよりちょうど1カ月前、全国の神楽を見て旅をしていた大岡さんは、毎年11月から3月にかけて東栄町で開催される「花祭」にたまたま訪れていた。すでにほかの協力隊の選考に通過していたが、東栄町との深い縁を感じ、燈栄隊に応募。その1期生として採用されることとなった。

各地方自治体で募集される地域おこし協力隊は、期間中、過疎地域等に住民票を移し、地域から活動報酬を得ながら、地方自治体から委嘱を受けた隊員として活動していく。活動期間は「おおむね1年以上、3年間以下」。2013年4月から燈栄隊として移住した大岡さんにとって「2016年3月」が1つのタイムリミットだった。
「naori」の拠点となるのは「東栄町体験交流館のき山学校」。2010年に閉校した木造2階建ての校舎を再活用している
「naori」の拠点となるのは「東栄町体験交流館のき山学校」。2010年に閉校した木造2階建ての校舎を再活用している

うまくいかない地域おこしに、そのあり方を考えた

燈栄隊1年目。大岡さんはまちのある地域おこしのプロジェクトに参画。地域住民との部会に参加するようになっていた。しかし、協力隊との協業のあり方が定まっていなかったこともあってか「活動がどこか燈栄隊任せになっている印象があり、私自身も独りよがりになっていた」と大岡さんは当時を反省する。

後に町民や役場の人間を交えて今後のプロジェクトの行く末を議論し、体験イベントを企画してみるが、なかなか地域住民からよい反応は得られなかった。

「結局、このまちでずっとやっていく覚悟を私自身が持っていなかったのだと思います。言ってしまえば、まちおこしを勉強したいというだけ。そんな思いではうまくいくはずもなく、辞めようと思ったこともたびたびありました」

「東栄町に来て自分がいちばん変わったと思うことは?」との質問に「はじめは正直、地域おこしを舐めていた部分もありましたが、さまざまな経験を通してとても謙虚になりました(笑)」と大岡さん
「東栄町に来て自分がいちばん変わったと思うことは?」との質問に「はじめは正直、地域おこしを舐めていた部分もありましたが、さまざまな経験を通してとても謙虚になりました(笑)」と大岡さん

燈栄隊として、地域にどのようにコミットすべきか考えていた折、大岡さんはセリサイト採掘・精製業を営む、三信鉱工株式会社・三崎順一さんと出会った。ビューティーツーリズムは、三崎さんが考えた「自作コスメ」を膨らませて実現したプロジェクト。大岡さん自身も「naoriは私がつくったものだとはまったく考えていない」と話す。

「三崎さんからアイデアを聞いたとき、私がやるべきなのは『こうした地域のアイデアを膨らませ、それを実現していくこと』だと閃きました。もしも具体的にアイデアが実現していけば、おのずと地域の他の方々も協力してくれるようになる。『こういうやり方がありますよ』と見せていけば『それだったらこういうこともできるかも』とまた新たなやり方が生まれ、次第におもしろいまちに変わっていくイメージです」

「地域のアイデアを膨らませ、実現していくこと」。それが移住者である大岡さんが気づいた、地域おこしのあり方だった。

地域の誇りに、かつ、人と人とが交われる場所に

発足間もないnaoriであるが、ビューティーツーリズムで掲げる「美」というテーマは「美容・コスメ」だけとは限らない。

「食、運動、景色、人との交流、祭り、温泉……など、さまざまな地域資源に波及できる」と大岡さんは考え、すでに地元飲食店とのコラボで、naoriオリジナルのメニューを考えるなどしている。最近はnaoriとの連携を望む企業も現れ、大手化粧品メーカーとのコラボ企画もはじまった。

「ゆくゆくは、地域の方々が『美』をテーマにつながるコミュニティーをつくりたいんです」と大岡さん。もともと「naori」というネーミングも「鉱床のなかの、特に品位の高い部分」「鉱脈の質の変わる交わり」という意味を持つ業界用語「直り」から来ているのだとか。「これから外との交流機会・交流人口が増えれば、定住人口も増えていくかもしれない。そのためにはまず、地域の人に楽しんでもらうことから──。naoriそのものが地域の誇りになり、かつ、人と人とが交われる場所になってほしい、そんな願いを込めてこの名前にしました。これからのnaoriは他エリアからのツアー受入だけに限定せず、町内向けの活動にも力を入れて、女性が楽しくなれるまちを目指していきたいです」

ファンデーションの原料となるセリサイト(絹雲母)。絹のような肌触りで、特に東栄町で採取されるセリサイトはその白さが特徴。最高品質として信頼されている
ファンデーションの原料となるセリサイト(絹雲母)。絹のような肌触りで、特に東栄町で採取されるセリサイトはその白さが特徴。最高品質として信頼されている

「ミネラルファンデーション作り体験」の希望者は「セリサイト採掘鉱山探検」(合わせて6,000円・税別)にも参加することが可能だ。後編では、採掘鉱山やセリサイトの提供者で、ビューティーツーリズムの立案者でもある三信鉱工株式会社・三崎順一取締役社長に話を伺っていく。そこからは、大岡さんのような「協力者」を受け入れる、地域のあり方が見えてきた。

「地域おこし移住者」に対する、理想的な地域の関わり方とは? ──愛知県東栄町「naori」ビューティーツーリズム(後編)はこちら

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