Cases
社会課題を解決する先進的なアプローチをご紹介します。

「地域おこし移住者」に対する、理想的な地域の関わり方とは? ──愛知県東栄町「naori」ビューティーツーリズム(後編)

2016年11月09日



「地域おこし移住者」に対する、理想的な地域の関わり方とは? ──愛知県東栄町「naori」ビューティーツーリズム(後編) | あしたのコミュニティーラボ
naori代表・大岡千紘さんのように「地域おこし協力隊」を志す若者は増えているのだろうか。総務省の最新データによれば、2015年度の隊員数は2,625人、実施自治体数は673。5年前(2010年度)は隊員数257人、実施自治体数は90だったというから、地域が移住者を受け入れる制度が以前よりも整ってきたことは確かなようだ。しかしどんなに思いの強い移住者も、実際の暮らしがはじまれば、理想と現実のギャップに思い悩み、結果として成果を模索するばかりで期限を迎えてしまうことも少なくないだろう。「自作コスメ」のアイデアを大岡さんに持ちかけた三信鉱工株式会社取締役社長・三崎順一さんの話から、受け入れる地域の側はどうあるべきか、1つのケースを追った。

化粧品で地域を変える!? 地域おこし協力隊・大岡千紘さんが挑んだ3年間──愛知県東栄町「naori」ビューティーツーリズム(前編)

祖父の金脈探しからはじまったセリサイト採掘

いまや日本で唯一のセリサイト(絹雲母)の採掘地である、愛知県東栄町。鉱山のはじまりは、国の鉄道事業がきっかけだった。

豊橋(愛知県)・辰野(長野県)間を結ぶ、現在のJR飯田線が開業したのは1897年のこと。鉄道は豊橋駅から次第に北東へと伸び、延伸工事は開業後も数十年続いた。

飯田線のルート上にある東栄町に鉄道が敷設されたのは1930年代のこと。鉄道省として鉄道敷設に携わってきた三崎順一さん(三信鉱工株式会社・取締役社長)の祖父は、鉄道敷設の頃、この地で金の鉱脈を見つけられないかと試みたという。東栄町の隣、愛知県北設楽郡の旧・津具村(現在は設楽町)では、かつて武田信玄が金鉱脈を発見。金山開発で成功を収めていた。信玄坑(正式名称・津具金山)と脈伝いにある東栄町でも、金脈を掘り当てれば、採掘された原鉱を貨物輸送で工場へと運搬できると、三崎さんの祖父は考えていた。

「しかし、そう簡単に金脈が見つかるはずもなく、その代わりに出てきたのがセリサイト(絹雲母)の原鉱石だったんです」(三崎さん)

三信鉱工株式会社・取締役社長の三崎順一さんは、同社の3代目。写真は絹雲母の原鉱石の採掘作業を行う同社・粟代鉱業所の坑道入口にて
三信鉱工株式会社・取締役社長の三崎順一さんは、同社の3代目。写真は絹雲母の原鉱石の採掘作業を行う同社・粟代鉱業所の坑道入口にて

こうして1946年からセリサイトの採掘・精製業が開始された。はじめの頃は、当時この地で盛んだった製糸業の現場で使われる「潤滑剤」や、造船業における「電気溶接棒の原料」としてセリサイトが使われていたという。2代目社長(三崎さんの父親)によって用途開発がなされ、1968年から化粧品原料「三信マイカ」として化粧品メーカーに納入。現在の納入先は、海外にまで広がっている。

採掘されたばかりの絹雲母は、非常に柔らかい粘土鉱物。鉱石は鉱業所の近くにある振草工場に運ばれ、「選鉱」(有用鉱物と不用鉱物を分離する作業)によって純度100%近い状態になる。それを水のなかに入れて分散させてから「分級」(大きさ・形の異なる結晶を分ける作業)をし、最後に脱水・乾燥を経て、解砕される。

「キメの細かさと不純物の少なさが製品の品質を左右します。当社のセリサイトはそのどちらも優れていると自負していますよ」

鉱業所で採掘されたばかりのセリサイト
鉱業所で採掘されたばかりのセリサイト

移住者による地域おこしで障壁となるもの

三崎さんは東京・四谷に生まれ、その後小学校入学までを東栄町で暮らした。祖父の「教育は東京で受けさせたい」という方針から、母・姉とともに再び東京に移り住むようになり、大学卒業後は岐阜や栃木のメーカーに勤めた。その後、東栄町に戻った三崎さんであるが、東京の空気を肌で感じたからこそ、地域おこしに向ける視線は少しだけシビアだ。

「東栄町は花祭が有名ですが、それだけで人は集まりません。数十年前にもIターンやUターンの企画が立ち上がりましたが、消防団活動やお祭りにも参加しなければいけない田舎の地域では、良くも悪くも人同士のつながりが濃く、都会から移住者の多くは『イメージと違う』と都会に帰っていってしまうんです」

三崎さんが「自作コスメ」のアイデアを閃いたのも、そんな思いが影響していた。すなわち「まずは東栄町に何度か足を運んでもらうきっかけを与え、交流人口を増やしながら地域おこしをしていく」というモデルケースだ。

自社にとってもメリットがある。ふだん聞きなれないセリサイト採掘・精製の仕事のためか、「地元でも注目されることは少なく、われわれはあまり知られていない存在」と三崎さん。ツアーを通じて「仕事を見られる」ことは、社員の意識を変えるきっかけにもなると考えた。

「担い手不足は、うちにも頭の痛い話。『世界中の人が使っている化粧品が、東栄町から生まれている』と地域の誇りが育っていけば、雇用創出の打開策になるかもしれない。そもそも地域の若者は、青年会議所、商工会、消防団などの仕事を持ちすぎていて、まちを何とかしようという思いをシュリンク(縮小)させてしまいがち。どこかでブレーキをかけないと地域が死んでしまうと、かねてから課題は感じていました」

女性が牽引したほうが絶対におもしろくなる

もう1つ、「自作コスメ」をやりたいという三崎さんの心を動かしたのは、あるアニメのセリフだった。

「映画『もののけ姫』に、こんなセリフがあるんです。『いい村は女性が元気だ』──。なぜだかわからないけど、僕はこれがとても腑に落ちる(笑)。その発想って男じゃできないよな、と思うことってあるじゃないですか。女性に来てもらうことが地域活性につながっていくかもしれない」

倍も異なる年齢の大岡さんを、三崎さんは常に温かい目で見守っている
倍も異なる年齢の大岡さんを、三崎さんは常に温かい目で見守っている

自作コスメの体験指導のノウハウを得るため、三崎さんは自社と接点のあった「株式会社生活の木」(東京都渋谷区神宮前)を大岡さんに紹介した。しかしそれ以降は「発案者として彼女にアドバイスを送った記憶はない(笑)」。「女性が使うものだからこそ、女性が牽引していったほうが絶対におもしろくなる」と信じ、大岡さんにプロジェクトのすべてを任せた。

「企画を見ていても、実際に彼女が指導している姿を見ていても、やはり彼女のキャラクターが活きているからこそ、あれだけnaoriのリピーターが増えていると思うんです。これからnaoriをきっかけに女性が起業し、東栄町に定住してくれることにも期待しています」

東栄町が実家以上にくつろげる居場所になった

移住者を巻き込んだ地域おこしの取り組みは、全国津々浦々に広まりつつある。総務省の「地域おこし協力隊」も、そのための制度の1つだ。しかし、制度のなかで、移住者の活動が本当に地域のためになるように設計・整備されていなければ、住民はいつまでも移住者を歓迎しないし、移住者も心が折れてしまう。「期間後に定住しない」はたまた「協力隊を辞めてしまう」といったことも、起こりがちになるだろう。

東栄町には、地域の側からアイデアを出し、地域おこしを担う移住者がそのアイデアを膨らませ、そこからまた地域に還元していく、というよりよいサイクルが回っていた。

しかしまだまだ課題はある。「地域にいる住民のみなさんが、ヨソから来た地域おこしのメンバーに協力してくれるとは限りません。よほどインパクトがあるかたちにしないと地域住民も納得しないし、私はそれをこれからの大岡さんに期待しています」(三崎さん)。

三崎さんとは別にインタビュー取材を行った大岡さんも、そのことは重々承知していた。3年間を経て、すでに燈栄隊を卒業している大岡さんは、来年度以降、naori専属職員として新たな協力隊メンバーを受け入れ、naori企画・運営を引き継いでいく予定。これからは東栄町役場から任命されている「東栄町役場振興課観光情報係」としてnaoriの活動にも携わりながら、まちの観光施策にまで活動範囲を広げていく。現在は観光協会の発足準備も進めているところだ。

「最終的には東栄町のさまざまな取り組みを、全国にまで広げていくことが目標です。しかしそのためには、まずは東栄町が『元気なまち』になることが先決」(大岡さん)

燈栄隊を卒業後、東栄町役場振興課観光情報係も任されている大岡さん。「とても責任ある立場で仕事をさせていただき、東栄町役場には感謝しています」
燈栄隊を卒業後、東栄町役場振興課観光情報係も任されている大岡さん。「とても責任ある立場で仕事をさせていただき、東栄町役場には感謝しています」

活動の1年目、地域おこしのあり方に思い悩んでいた大岡さんは、2年目くらいから地域との交流を意識的に増やしていったという。そうしたつながりから、三崎さんとの縁にも恵まれた。

「とても当たり前のことかもしれませんが、『名前しか知らない子』がやっている活動と、『よく遊びにくる大岡さん』がやっている活動では、地域の方々にとって重みが全然違います。私自身を知ってもらうことを続けたことで、今の私があると思う。そのおかげで、今では東栄町が実家以上にくつろげる居場所になりました。これからは観光協会の人間として『地域の方々がこうしたい、ああしたい』というものを実現することを第一に考え、このまちのことが大好きで、まちをよりよくしていくために行動する人をもっともっと増やしていきたいです」

移住者と地域住民の交流がうまくいく、地域おこしの「あり方」とは何か? 東栄町にはそれを解決に導くヒントがたくさん詰まっているように感じた。

採掘場にて

化粧品で地域を変える!? 地域おこし協力隊・大岡千紘さんが挑んだ3年間──愛知県東栄町「naori」ビューティーツーリズム(前編)

【関連リンク】
naori


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2018 あしたのコミュニティーラボ