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人のQOLを向上させるコミュニティーのあり方とは? ──ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり“おとまち”(前編)

2017年03月21日



人のQOLを向上させるコミュニティーのあり方とは? ──ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり“おとまち”(前編) | あしたのコミュニティーラボ
2016年9月、千葉県柏市で「かしわファシリテーター育成講座」がスタートした。音楽というツールを使って、コミュニティーづくりのファシリテーターを育成するこの取り組みには、障害者福祉施設の職員、保育園で働く保育士、学校の先生など、柏市内の地域で活動する市民が参加する。柏市社会福祉協議会に向けこの企画を提案したのは、株式会社ヤマハミュージックジャパン。音楽を活用したコミュニティーづくりは、人のQOLにどのような影響を及ぼすのか。同社が推進する、音楽の街づくり“おとまち”の活動を前後編で追っていきたい。

市民参加型の音楽祭がまちと人にもたらすもの ──ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり“おとまち”(後編)

コミュニティーづくりの担い手を育成する

「ワン、ツー……、お好きにどうぞ!」

ファシリテーター講師・飯田和子さんのそんなかけ声とともに、車座になった25名がマラカス、サウンドシェイプ(打楽器の1つ、フレームに叩く部分が張られている)、パーカッションなどを使い、思い思いのリズムを奏でていく。

車座の中心にいるのがこの日の講師、飯田和子さん。講座は、介護予防センターいきいきプラザで開催された
車座の中心にいるのがこの日の講師、飯田和子さん。講座は、介護予防センターいきいきプラザで開催された

彼らは、社会福祉法人柏市社会福祉協議会(以下、柏社協)が主催する「かしわファシリテーター育成講座」第1期ドラムサークルのメンバーたち。第1期は2016年9月〜2017年2月の間で開催された。

講座の目的はドラムの“演奏者”ではなく、“ファシリテーター”を育成することだ。講師はさまざまな経験をもつプロのドラムファシリテーター3名と、アシスタント1名が交替で務める。全12回(月2回)の講座では、ドラムサークルやファシリテーションの概論を学ぶ基礎講座を経てドラムサークル実践講座がスタート。この日は第9回目の実践講座が催されていた。

ファシリテーターのスキルを教えるために、講師の奏でるリズムを真似させてみたり、撮影で演者に対して行うような“キュー出し”のジェスチャーのみでサウンドシェイプを叩かせたり、はたまた25名を半分ずつに分け、即興アンサンブルを奏でてみたり……と、ドラムサークルファシリテーターのメソッドを次々に伝授する。それを受け、受講生は順番に車座の中心に立って、ファシリテーションを自ら体験していく。

ドラムサークルの受講生たち。中央にいるファシリテーターのナビゲーションで楽器を鳴らしたり、からだを動かしたりして一体感を作り上げる
ドラムサークルの受講生たち。中央にいるファシリテーターのナビゲーションで楽器を鳴らしたり、からだを動かしたりして一体感を作り上げる

音楽は、人の孤立を防ぐツールになりえる

柏市内にはこの講座を主催する柏社協のほか、自主的な住民組織である22の地区社協が存在するが、ことの起こりはそのうちの1つ「豊四季台地区社協」が2014年に催した柏市豊四季台団地でのイベント。このなかで、独り暮らしの高齢者を対象とした「懇談と昼食会」が企画され、企画・運営のお手伝いとして参画していた東京大学高齢社会総合研究機構が、音楽を用いたコンサルティング事業を展開するヤマハミュージックジャパンに協力を仰いだことがきっかけとなった。

「このとき、学生と高齢者の交流をより活性化させる方法として、ドラムサークルが行われました。地区担当職員いわく、その効果はてきめん。学生と高齢者の距離がみるみるうちに近づいたといいます」(柏社協ボランティアセンター・富樫智和さん)

社会福祉法人柏市社会福祉協議会 ボランティアセンターの富樫智和さん
社会福祉法人柏市社会福祉協議会 ボランティアセンターの富樫智和さん

翌年12月に開かれた柏市住民福祉大会のアトラクションでも、観客400名と大学生のボランティアが一体感になるドラムサークルが企画された。柏社協ではオリジナルのサウンドシェイプを400個導入。大会後もサウンドシェイプは市民に無料貸出されるようになった。

「『誰もが親しみやすい音楽を活用し、地域の課題解決につなげることができるかもしれない!』という想いから、まずは人と人をつなげるスペシャリストであるファシリテーターを育成しようと、この講座が企画されたのです」(富樫さん)

住民福祉大会用に400個が導入されたサウンドシェイプ。音楽で一体となるために欠かせないツールだ
住民福祉大会用に400個が導入されたサウンドシェイプ。音楽で一体となるために欠かせないツールだ

なぜ柏市でファシリテーターを育成する必要があったのか。富樫さんは柏市の社会福祉が抱える問題として、次の点を指摘する。

「柏市に限らない問題でしょうが、地域の課題を紐解いていくと『孤立』というキーワードが出てきます。隣近所の関係が希薄化しているなか、音楽をきっかけとしてコミュニティーに参加したり、ほかの人とつながったりしてほしい」(富樫さん)

コミュニケーション、それ自体が得意になっていく

第1期の受講生は25名。千葉県柏市在住・在勤の18歳以上の人たち。障害者福祉施設の職員、保育園で働く保育士、学校の先生、地域で活動する方などで構成されている。

普段は障害者福祉施設で働いている戸部慎也さんも「初回に比べ、今は積極的に前に出てファシリテーター役をやりたくなる」と話す。

「僕の場合は、施設のレクリエーションの1つとして実践してみたいですね。ここではドラムサークルのファシリテーションを学んでいるのはもちろんですが、コミュニケーションを取ること、それ自体が得意になっていくと思う。自分の仕事も障害を持つ方、その保護者の方、地域の方など関わりはさまざま。多くのコミュニケーションの場面でこの経験が役立つと思います」(戸部さん)

車座の中心でファシリテーター役をこなす戸部慎也さん。「音楽は人の笑顔をつくるツールになると、講座を通じて実感しました」
車座の中心でファシリテーター役をこなす戸部慎也さん。「音楽は人の笑顔をつくるツールになると、講座を通じて実感しました」

職業を通じてマーケターが地域課題を発掘し、解決していく

講座を体験した受講生は、それぞれの持ち場に帰り、自らをファシリテーターにドラムサークルを開いていくこととなる。かしわファシリテーター育成講座は第1期のドラムサークルを終えたばかり。1期生は柏市内で1年間に100回ドラムサークルを開催する、という目標も決めた。今後4年間で初級から上級までの講座を繰り返し、約300名のファシリテーターを育成することを目指すという。

ファシリテーターが増えることで、柏市のまちはこれからどう変わっていくのか。プロジェクトを担当する、ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課の増井純子さんは、次のような展望を示した。

「福祉にまつわる社会課題の解決方法も、これまでは用意されたものに対して動いていくのが当たり前でした。しかしこの活動を通して、市民のほうからさまざまな活動目標や自主的アプローチがあり、すでに動き出しているものもあります」(増井さん)

ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課 増井純子さん
ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課 増井純子さん

それはなぜなのだろうか。

「ドラムサークルのファシリテーターによる活動が草の根的に地域へ波及すれば、人とのコミュニケーションが深まり、議論が深まる。そうなれば、地域にどんな課題が隠れているのか、または何をすればその課題が解決されるのか、各自の職業・職場からの働きかけを通じて地域へ波及し、発掘されます。彼らが地域のなかの“マーケター”になることを期待しています」(増井さん)

伴走→市民主導→自立の3ステップを担う

柏市の「かしわファシリテーター育成講座」は、株式会社ヤマハミュージックジャパンが推進する「音楽の街づくり”おとまち”」の1つに位置づけられている。柏市のほかにも、茨城県水戸市における「レディースビックバンドによる駅ビル発の地域コミュニティー創成」、千葉県船橋市における「ビッグバンド結成によるマンション住民のコミュニティー形成」など、いくつかのプロジェクトがこれまでに実行されてきた。

「おとまちで私たちが目指しているのは、サステナブル(持続可能)なコミュニティーです」。

そう話すのは、おとまちプロジェクトのリーダーで、ヤマハミュージックジャパンのソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課長である佐藤雅樹さん。

「地域プロジェクトのスタート直後、私たちはプロジェクトの支援者・伴走者として関わりますが、次第に市民主導型に移行させ、最終的には市民コミュニティーでの自立を目指します。そんな伴走→市民主導→自立の3ステップで持続可能なコミュニティーをつくることが、『おとまち』の目的です」(佐藤さん)

ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課長の佐藤雅樹さん
ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課長の佐藤雅樹さん

ヤマハ株式会社の国内における楽器・音響機器卸販売と教室事業を継承し、グループ3社を統合するかたちで2013年4月に設立した同社は、少子化が進み、楽器の演奏人口も低迷する時流のなか「従来のヤマハグループのビジネスの枠組みで何かを生み出そうとしてもイノベーティブなものは生まれない」と、大きな課題意識を持っていた。

「2006年頃から公共スペースを使った市民参加型事業にも着手するようになりました。その延長線上におとまちがあり、以降、地域で数々のプロジェクトが口火を切ったのです」(佐藤さん)

音楽を使ったコミュニティーづくりの担い手を育てる柏市での取り組み。他方、東京・渋谷では、同じくおとまちの事業として、3年ほど前から「市民音楽祭」を基軸にしたコミュニティーづくりがスタートしている。後編では、おとまちプロジェクトの1つ「渋谷ズンチャカ!」の活動に迫っていきたい。

市民参加型の音楽祭がまちと人にもたらすもの ──ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり“おとまち”(後編)へ続く


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