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市民参加型の音楽祭がまちと人にもたらすもの ──ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり“おとまち”(後編)

2017年03月21日



市民参加型の音楽祭がまちと人にもたらすもの ──ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり“おとまち”(後編) | あしたのコミュニティーラボ
株式会社ヤマハミュージックジャパンが各地で展開する「音楽の街づくり“おとまち”」では「音楽の持つ人と人をつなげる力を活用して、地域の力を高める」というコンセプトが掲げられている。前編で紹介した柏市の取り組みは「音楽を使ったコミュニティーづくりの担い手育成」が基軸になっていたが、後編で紹介する「渋谷ズンチャカ!」は「まちの音楽祭というテーマのもとに醸成された、市民参加型のコミュニティーづくり」。いったいどんな活動なのか、これまでの活動を追っていくとともに、「音楽×まちづくり」が人のQOLに及ぼす影響を考える。

人のQOLを向上させるコミュニティーのあり方とは? ──ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり“おとまち”(前編)

開発途上にあるまちの閉塞感をなくしたい

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定に端を発し、東京都内の至るところでまちの開発が進められている。東京・渋谷もそんな開発エリアに該当する。ややもすれば開発で工事区域が閉ざされるまちは、その地を訪れる人に閉塞感を感じさせかねない──。当時の渋谷区長の抱いたそんな懸念から、変わりゆく渋谷のまちをさらに盛り上げようと、東京都・渋谷区で「渋谷ズンチャカ!」がはじまった。

「渋谷ズンチャカ!」は、渋谷のまちを舞台に行われる、1日だけの音楽祭。

祭の当日は、渋谷のまちの至るところにステージが設けられる。ふらりと渋谷に遊びにきた人も参加できる、合唱や楽器演奏体験ができる音楽ワークショップのほか、公募により集まった約100組のプロ・アマのアーティストによるパフォーマンスが各ステージで行われる。過去2回の「渋谷ズンチャカ!」には、楽器ができる・できない、音楽に詳しい・詳しくないにかかわらず、老若男女・国籍も越えて多様な人が渋谷の街で音楽を楽しんだ。

2016年9月の第2回「渋谷ズンチャカ!」の様子(写真提供:ヤマハミュージックジャパン)
2016年9月の第2回「渋谷ズンチャカ!」の様子(写真提供:ヤマハミュージックジャパン)

プロジェクトスタート当初から「渋谷ズンチャカ!」を担当する細田幸子さんが当時のことを振り返る。

「音楽を通じて、変わりゆく渋谷のまちをポジティブに盛り上げてほしい──。2013年の冬、当時の渋谷区長・桑原敏武さんからそんなご相談をいただきました。当初はジャズフェスのような音楽イベント開催が話題になっていたのですが、私たちがご提案したのは1日のイベントで終わらない、市民参加型の新しい音楽祭を作る年間プロジェクトでした」(ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課の細田さん)

ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課 細田幸子さん
ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課 細田幸子さん

2014年に特定非営利活動法人シブヤ大学と渋谷駅周辺の商店会が参画しプロジェクトチームが発足。同年7月にはプレイベントが開催された。

しかしこれはあくまで祭の趣旨に賛同してくれる市民ボランティアを集めるための試験的なイベントで「私たちも“この指止まれの第0回”と数えています」と細田さん。

プレイベント後、市民ボランティアを募り、彼らの手で「チーム・ズンチャカ!」を結成。年間を通じて企画運営会議を行い、約1年後の2015年「チーム・ズンチャカ!」が企画運営の主体を担う「第1回渋谷ズンチャカ!」が開催された。

「渋谷というまちの魅力は、多様な人が行き交うことによっていろいろな文化が交わり、新たな文化が生まれる土壌を持っていることだと思っています。だからこそ一定の音楽ジャンルに特定するのではない参加型音楽祭のほうが渋谷らしさを表せる。それに加え、「渋谷ズンチャカ!」は1日限定のフェスティバルを開催しただけで終わりとなるイベントではなく、“音楽祭を作り上げていく364日間”の過程自体を、本番ととらえて活動したかったんです」(細田さん)

チームに多様な市民参加を促すために

1回きりで終わってしまう「音楽祭」ではなく、「音楽祭」という目標に向けて継続するコミュニティーづくり。それを担うのが「チーム・ズンチャカ!」だ。年を追うごとに市民ボランティアメンバーの間でも熱を帯び、企画も多様化。イベントが行われる会場の数も、初年度の2会場から、昨年には「ハチ公前広場」「渋谷センター街」「みやした こうえん」を含めた16会場にまで規模が拡大した。2017年には3回目の渋谷ズンチャカ!(2017年9月3日)が予定されている。

メンバーには、必ずしも日常的に音楽と関わっている人たちが集っているわけではない。

「チーム・ズンチャカ!のメンバーの音楽経験は多様です。音楽祭に行ったことがない、普段楽器を弾かないという人もたくさんいます。『渋谷のまちで何かをしてみたい』『普段のコミュニティー以外に友だちをつくりたかった』『音楽を通じたまちづくりの文脈に興味があった』など動機もさまざま。そんな多様なメンバーだからこそ、ジャンルや音楽経験の枠に捉われずにいろいろな人たちが楽しめる、新しい音楽祭の企画ができるんだと思います。今はチーム発足から3年目を迎え、みんなでまち歩きをして共有したり、ほかの音楽祭を参考にお手伝いしたりするなど、活動も多様になっています。メンバーからはズンチャカ!がきっかけで渋谷の街の見え方、音楽との関わり方が変わったといった声も聞くようになりました」(細田さん)

今年の渋谷ズンチャカ!に向けたミーティング(月2回)も開始されている。

2017年初回のミーティングの様子。およそ20名のメンバーが、次回「ズンチャカ!」で行う企画のアイデア出しを行った
2017年初回のミーティングの様子。およそ20名のメンバーが、次回「ズンチャカ!」で行う企画のアイデア出しを行った

「新たなボランティアメンバーもウェブサイトで常時募集中。関わり方の濃淡も自由に選べます。事前の企画運営ミーティングに参加する年間を通じたコアメンバー、通称“がっつりズ”もいれば、今年7月から募集する音楽祭直前の準備や当日運営だけ参加するメンバー、通称“まったりズ”もいます」(細田さん)

“がっつりズ”を中心としたメンバー20名弱が集まったこの日のミーティング。メインステージやハチ公前広場ステージの企画について話し合いがもたれた。各自がアイデアを紙にスケッチし、グループワークでアイデアをブラッシュアップ。その後、グループごとに発表が行われ、メンバーの共感の多いアイデアを定めていく。「まちの雑踏の音を録音して何かしてみよう」「路上ライブミュージシャンをステージに」「ハチ公前をクラブにしてしまおう」「スクランブル交差点のビジョンをジャック」など、自由闊達なアイデア交換がなされていた。

音楽に関する経験値も、関わり方も実にゆるやか。この適度なゆるやかさが保たれていることでより多様なメンバーが集まり、議論も活発になっていく。

この日のテーマは「急いでいる人の多いハチ公前広場ステージで、どうすれば足を止めてもらえるのか」。音楽に関連したアイデアに限らず、自由に意見が交わされた
この日のテーマは「急いでいる人の多いハチ公前広場ステージで、どうすれば足を止めてもらえるのか」。音楽に関連したアイデアに限らず、自由に意見が交わされた

「渋谷ってあんなにたくさん人が集まる場所なのに『自分の知っている人が誰もいない、自分の居場所がない』では寂しいじゃないですか。知らない人と関係性を築くのは簡単じゃないけど、音楽はそのハードルを下げてくれる。それはチーム・ズンチャカ!の関係性もそうだし、『渋谷ズンチャカ!』当日のまちに来た人同士の関係性も同じこと。おとまちでやっていることは社会のなかにいる人の居場所を、音楽を通してつくることなんだと思っています」(細田さん)

コミュニティーづくりに事業者が貢献できること

おとまちプロジェクトが進行される柏市、渋谷区それぞれの事例から見えたことは、まちなかのコミュニティーを増幅させている点だ。かしわファシリテーター育成講座の受講生が担う「職業・職場ごとの地域コミュニティー」、そして渋谷ズンチャカ!が渋谷のまちに創出するコミュニティーと、「チーム・ズンチャカ!」がそれである。

本来「QOL」といえば、たとえば、からだを思うように動かせなかったり、食事を摂取できなかったりする患者や要介護者に、人間らしい生活を送ってもらうという意味で──「患者のQOLを高める」といったふうに──医療・介護の現場で広く使われてきた言葉だ。

しかしそうした身体的な事柄のみならず、万人に社会的活動への参加を促すような「生きがいづくり」の視点も、近頃のQOL向上には不可欠である。その点において、老若男女を問わず、誰でも気兼ねなく参加できるコミュニティーがまちなかに増えていくことは、これからいっそう、社会的な命題になっていくだろう。

「音楽の街づくり」を掲げるおとまちは、人のQOL向上に寄与するのか──。ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課長の佐藤雅樹さんは次のような可能性を話す。

「誰だって顔見知りがいるコミュニティーがあれば、『あの人、調子悪そうだな』とか『あれ、旦那さんと喧嘩したのかな』とかわかるじゃないですか(笑)。欧米の人たちには宗教などを通じて参加できる万人向けのコミュニティーが常にあるものですが、日本の場合はそのコミュニティーが足りていないのが実情だと思います」(佐藤さん)

ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課長の佐藤雅樹さん
ヤマハミュージックジャパン ソフト事業推進部 音楽の街づくり推進課長の佐藤雅樹さん

「コミュニティーをいきなりつくれ、といわれても、それは容易ではありませんが、私たちの場合はたまたま、楽器や音楽にまつわる人的リソースを提供できます。そのことでコミュニティーづくりに貢献できる。それに音楽にはもとより、人と人とをつなぐ力が備わっていると信じています。それは、たとえばスポーツを事業としている会社さんでも同じこと。CSV(共有価値の創造)の観点から、それが、民間企業の果たすべき役割だと思うのです」(佐藤さん)

音楽にまつわるリソースを使うことで、増幅されるコミュニティー。そのことでまちも、そこに集う人も、いっそう元気になっていく。おとまちプロジェクトは、コミュニティーづくりだけではなく、人の健康づくりにも貢献しているといえるのではないだろうか。

人のQOLを向上させるコミュニティーのあり方とは? ──ヤマハミュージックジャパン 音楽の街づくり“おとまち”(前編)


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