アイデアソンは「魔法の杖」ではない──アイデアソン・サミット2017(2)
アイデアソンは「いずれなくなってしまう」?──アイデアソン・サミット2017(3)
アイデアソンの現場に埋まっている課題を発掘する
「アイデアソン・サミット2017」の参加者として呼びかけられたのは、アイデアソンの企画・運営者、プロ・ファシリテーター、コンサルティング事業者、行政・自治体関係者、大学教員といった面々。ここに主催者の1人である高知大学地域協働学部コミュニティデザイン研究室の須藤順さんと、須藤さんのもとで地域協働を学ぶ大学生運営メンバーが加わり、40名近くのアイデアソン実践者が集結することとなった。
サミット初日、司会進行・エイチタス株式会社の原亮さんによる開会宣言の後を受け、主催者である須藤さんがサミット開催の動機を語る。
「アイデアソン主催者の方々と対話をするなかで、今、アイデアソンがこれだけ全国に広まっているなかでも、いろいろな課題があることを再確認しました。そこでアイデアソンに関わる人たちが一同に会し、アイデアソンの現場に今どういう課題が埋まっているのか、現場で実践する人たちが感じていることを議論できる場がほしいと思い、このアイデアソン・サミットを企画する運びになりました」(須藤さん)
アイデアソン解体新書の全貌とは?
会場は土佐山地区にある夢産地パーク&交流館「かわせみ」。テントや暖炉など、場を和ませるツールが活用され、サミット最初のプログラムとして行われたのはアイデアソンの課題を実感する、「アイデアソン解体新書」だ。まずは約2時間のアイデアソンが実施された。
アイデアソンのファシリテーターを務めた難波佳希さんは、2015年8月24日に高知大学地域協働学部で行われた「仕事創造アイデアソン」の参加者。このときグランプリを勝ち取った「太陽スーツ おばチャージ」チームの一員だった。アイデアソンに心動かされたのをきっかけに、大学在学中から難波ファシリテーション事務所を開業。今、アイデアソンファシリテーターとして活動をはじめたばかりだ。
アイデアソン解体新書のファシリテーターを務めた難波佳希さん(写真中央)。アイデアソンのプログラムを設計するのははじめての体験だったという
難波さんのアイデアソンで掲げられたテーマは「アイデアソンをもっとわくわくさせるツールを考えよう」。
参加者の“わくわく”を発掘するため、以下の一連のワークが組み込まれた。
2.課題発見のためのアイデアカメラ(さまざまなシーンの写真を貼りだし、その写真の登場人物の心情などを付箋に書き出し貼っていくことで、アイデアを出すためのインサイトを得るワーク)
3.アイデアカード作成(アイデアを絵や言葉、キャッチコピーなどで具現化するワーク)
4.ハイライト法(アイデアカードを全員で共有し☆をつけ、おもしろいアイデアに投票していく)
5.ハイライト法で多くの票を集めたアイデアをベースにしたチームビルディング
6.各チームでアイデアを深掘りし、内容をチームで発表
9チームの発表を終えたところで解体新書の「第1部」が終了したが、解体新書はここからが本番。解体新書そもそもの目的は「現在行われているアイデアソンのプロセスの有効性を問い直し、より社会を変えるアイデアの創出を可能にするアイデアソンプロセスを再発明する」というもの。その目的達成のためのプロセスとして、難波さんのアイデアソン(第1部)が「実証実験の対象」として提供されたに過ぎない。
第1部 新アイデアソンの実証実験 アイデアソンの実施
第2部 ブラッシュアップタイム 第1部を踏まえた4テーマごとの分科会
第3部 新アイデアソンの再構築 第2部をフィードバックしたアイデアソン再実施
第2部ではアイデアソンを体験したサミット参加者が4つのグループに分かれ、そのアイデアソンのどこか問題だったのか、それぞれの切り口(問題設定・課題設定・解決策・実現方法)で話し合いがもたれた。その後、このブラッシュアップタイムの内容を難波さんにフィードバック。第3部「新アイデアソンの再構築」として、再びアイデアソンが実施された。
小さくとがったアイデアをつぶさない「新ハイライト法」
難波さんのアイデアソン(第1部)のなかでも特徴的だったのは、共感を集めた「人気アイデア以外」のアイデアも抽出する新しいハイライト法の実施だ。
通常、ハイライト法は参加者の描いたアイデアスケッチ(アイデアカード)を会場に一斉に並べ、それを見た参加者が共感したアイデアに「☆」マークを付けていくのが通例。「☆」を多く獲得したアイデアは上位アイデアとして選出され、以降、そのアイデアのもとでチームが結成される。
難波さんは「アイデアソンでは、得てしてぶっとんだアイデアが埋もれがちになる」という課題意識を常々持っていたという。そこでこのアイデアソンを設計するうえで、いつもなら埋もれてしまうアイデアの発掘に挑んだ。
難波さんがこの日のために用意した新ハイライト法は、次のようなものである。
1. 参加者は共感したアイデアに「☆」マークをつける
2. 同時に「発想がぶっとんでいる!」と思ったアイデアに「*」マークを付ける
3. ファシリテーターが「☆を多く獲得したアイデア」を選出。同時に「*が多かったアイデア」「☆が少なかったアイデア」も選出する
ハイライト法実施の一場面。「ぶっとんだアイデアも埋もれさせない」がアイデアソンの裏テーマだった。実際に「いいアイデアが出ないと家に帰れないサバイバルアイデアソン」や、「罰ゲーム付のアイデアソン」「ユーザーテストをキャバクラで実施」といった、ぶっとんだアイデアが選出された
これに関連し、第2部の「ブラッシュアップタイム」の分科会では次のような意見が噴出した。
問題設定・課題設定・解決策・実現方法という4つのテーマが用意された第2部の分科会の様子(写真は「課題設定」分科会)
「たしかに旧来のハイライト法は、変なバイアスがかかり、人気あるアイデアに自分も☆を付けてしまいがち。でも途中のプロセスで劇的にアイデアが変わっていくのが魅力のアイデアソンにおいて、そもそもアイデアの1つひとつを評価する必要があるのかどうか……」
「アイデアソンは多様な人が集まるからこそ、最初に共通の課題意識をお互いに握っておくことが大事。そういうふうに考えていくと、スピードストーミングという手法で本当にいいのか、という疑問にも行き着きます」
関係性の質を高めるアイデアソンへ変貌
分科会の内容を踏まえ、須藤さんも以下のように総括した。
「アイデアソンでは『結果の質』に優先して『関係性の質』が重要なのだとつくづく実感できました。そう考えれば、もっと当事者意識を持ってテーマを自分ゴト化し、たとえ評価されなくても『このチーム(仲間)で一緒にアイデアを実現したい!』と思えるアイデアを描けるかどうか、がプログラム設計ではカギになるはず。そこにフォーカスするだけで、アイデアソンはまったく違う見え方になっていくのかもしれません」(須藤さん)
では議論がフィードバックされたことで、難波さんのアイデアソンはどうブラッシュアップされたのだろうか。
「これからやるアイデアソンは、当事者意識を持ったアイデアを生み出すための、『関係性づくり』にフォーカスしたアイデアソンです」
第3部の冒頭、難波さんは参加者に対し、高らかに宣言する。
変化はすぐに表れた。スピードストーミングやアイデアカメラといったアイデア発想のワークはいっさい、ない。代わって用意された「人生グラフ」は、アイデアソンで用いられるメソッドで、いわゆる自己紹介ワーク。
3人1組のチームをつくり、自分の人生グラフをメンバーに共有。お互いの人生や価値観を知ることで、共通のわくわくを探ることができた
参加者は自分の人生のなかで「今までで一番わくわくしたとき」「一番落ち込んだとき」をグラフで示し、3人1組のチームをつくり、チームメンバーで共有した。人生グラフの共有後は、チームのなかで自分たちに共通する“わくわく”を発掘。そこから「アイデアソンをよりわくわくさせるツール」を考えた。
チーム発表ではハイライト法が廃止された。チームごとのアイデア発表の評価は「目を瞑って挙手する」という原始的とも思える方法に。しかしこれならば、評価の高いアイデアに後乗りしてしまうというバイアスがかかることがない。
チームごとのアイデア発表では共感したアイデアに挙手してもらう方法がとられた
「結局、最初のアイデアソンは、ファシリテーターと参加者、あるいは参加者同士で、お互いに同じような共通の課題意識をうまく握れていないことにそもそもの問題があったようです。だから第3部のアイデアソンは、お互いの価値観や文化的背景など、その人がワクワクする感覚を認識するという、関係性の強化に多くの時間を配分しました」(難波さん)
わずか70分で終了した第3部のアイデアソンだったが、多様な人との関係性に主軸が置かれたアイデアソンには、参加者一同、一定の手応えを感じたにちがいない。
とはいえ、この「アイデアソン解体新書」で重要なポイントは、サミットを主催する須藤さんらが「正しいアイデアソンの姿」を示したかったわけではない。あくまでサミットの目的は、過渡期を迎えているアイデアソンの課題を抽出し、アイデアソンの未来像を皆で共有すること。アイデアソンの課題とは? そして、アイデアソンの次のフェーズとは? それは2日目以降のプログラムに引き継がれていくこととなる。
「アイデアソン・サミット2017」の会場となった夢産地パーク&交流館「かわせみ」は、中山間地の活性化プログラム「土佐山アカデミー」でも利用される場だ
アイデアソンは「魔法の杖」ではない──アイデアソン・サミット2017(2)へ続く
アイデアソンは「いずれなくなってしまう」?──アイデアソン・サミット2017(3)