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病院の時間を豊かにするヒントは「徹底的なユーザー視点」──人工透析患者のQOL向上を目指す株式会社旅行透析

2017年04月25日



病院の時間を豊かにするヒントは「徹底的なユーザー視点」──人工透析患者のQOL向上を目指す株式会社旅行透析 | あしたのコミュニティーラボ
弱った腎臓機能を機械で代替する「人工透析」。患者数は全国で約32万5,000名(2015年・日本透析医学会調べ)にのぼる。新規透析導入患者は年に約39,500名増加(死亡患者は約31,000名)し、なかには10~30代の若さで発症する人もいる。今回登場する池間真吾さんもその1人。絶望の淵を乗り越え、当事者だからこそわかる課題意識をもとに、透析患者に資するビジネスを起業した。長いときには7~10時間もの時間をかけ、夜中の時間を治療に費やすこともある人工透析。その時間をより豊かなものにしようとする池間さんの活動から、透析患者のQOL向上のヒントについて考えてみたい。(TOP画像提供:株式会社旅行透析/タイ・バンコクでの旅行透析)

週3回、4~8時間が治療に費やされる

人工透析患者の日常生活とは、どのようなものなのだろうか。腎不全が進行し38歳の若さで人工透析を導入した池間真吾さんの経験から振り返ってみよう。

その当時、経営者として沖縄で経営していた民宿とレストランを手放し、奥様の実家がある宮古島へ移住した。官庁の農業・漁業民泊の開業支援事業や宮古島観光協会職員として忙しい毎日を送っていた。

その一方、5~6時間の透析を週3回、続けなければならなかった(編集部注:透析患者の必要な治療時間は患者によって異なる)。修学旅行の誘致のため出張の機会が増え、出張先での連泊となると現地で透析をする必要に迫られる。Webで旅行者の透析を受け容れてくれる病院を調べようとして、ハタと困った。

「病院のホームページには情報が少ないんです。旅行透析を受け容れているのかどうか、その曜日と時間もわかりません。寝ている間も24時間働き続ける健康な腎臓の代わりをする人工透析は、たとえば普段5~6時間行っている透析時間を4時間程度に減らすと、食事制限が増えたり体調がきつくなったりするので、できればその条件は変えたくなかった。そこで日本透析医学会施設会員の名簿を見て片っ端から電話をかけまくったのですが、旅行透析は3~4時間までの病院が多いんですね。帰省先の金沢市では14カ所の病院に電話して断られました」と池間さんは振り返り、それが起業の原点となった。

株式会社旅行透析 代表取締役社長 池間真吾さん
株式会社旅行透析 代表取締役社長 池間真吾さん

毎月のように違う地域へ出張に赴くため、そのたびに出張先の地域の人工透析対応病院に問い合わせる必要がある。そこで、池間さんは考えた。いっそのこと、日本全国約4300の透析病院のデータベースをつくってしまえばいいのではないか。日本全国どこにいても、自分の条件に合う透析病院がわかるようになれば、ほかの透析患者の不満と不安を解消できる。こうして池間さんは2012年、観光協会を退職し、株式会社旅行透析を設立した。

ユーザーに合わせた病院を見つけるしくみ

ピーク時には自らも透析患者として治療を行うスタッフを12名、全国各地に在宅雇用し、透析病院に電話をかけて情報を収集。2年がかりでデータベースを構築した。現在その一部は社団法人GATS(Global Alliance Toseki Support、国際透析連携協会)運営の「透析検索.com」で公開されており、旅行透析、夜間透析、長時間透析など条件別に病院を探せる。また、旅行会社と提携して旅行透析のできるツアー商品に透析病院の手配などのサービスを提供し、「オーダーメイド透析病院紹介サービス」など、ユーザーの希望に合わせた病院や、受け容れ体制を整える支援を行っている。

日々更新される旅行透析のWebサイト
日々更新される旅行透析のWebサイト

「安心して1泊2日以上の中期・長期の旅ができるようになった」と患者本人も家族も喜ぶ声が多いと池間さん。「全国で30カ所程度とまだ少ないですが、夜10時くらいから朝までオーバーナイト透析を実施している病院もあります。これだと寝ながらできるので仕事にまったく影響が出ません。そんな情報も提供しています」

透析患者が増えないよう自らの体験を伝えて啓発

人工透析に至るまで、それに気づくポイントがたくさんあったが、それを逃してしまうとあっという間に人工透析の状態までになってしまう、と池間さんは言う。

自身もまさにそうだった。広島の放送局で記者をしていた池間さんは、30歳のとき、会社の健康診断で尿タンパクが出て再検査を通知されたが、夜討ち朝駆けの激務に紛れ放置していた。

体調を崩し入退院を繰り返したのを機に34歳で会社を辞め、旅に関わる仕事をしたいと、学生時代から好きだった台湾に距離が近い那覇に居を構えて機会を探るうち、沖縄にハマった。そこで、冒頭にあるように民宿やレストランを経営することになるのだが「自営業になった途端、定期健診さえ受けなくなり、今から思えばそれが腎臓病の悪化に拍車をかけました」と池間さんは述懐する。

腕に非常に太い針を刺し、治療を行う人工透析の治療。治療のたびに注射痕が増えていくと言う
腕に非常に太い針を刺し、治療を行う人工透析の治療。治療のたびに注射痕が増えていくと言う

「自営業5年目のとき、夜中にいきなり両足がつって七転八倒するようになりましたが、腎臓のせいだとは思いませんでした。不眠症だったのでちょうどいいから睡眠導入剤の治験を受けようと血液検査をしたところ、クレアチニン(尿毒素の指標、増えすぎると体調不良、ひどいときは意識障害などを引き起こす)の数値が8を越えていて(編集部注:基準値は男性で0.6~1.1mg/dlほど)、治験どころか“すぐに透析を導入したほうがいい”と言われ、そのときはじめて腎臓病だと気づきました」

いざ、治療法で人工透析の話を聞いてみると、「週3回通院して、何時間にもわたる透析が一生続く。仕事も旅行も思った通りにできなくなる」と言う。そんな事態は到底受け容れ難いと、池間さんは半年のあいだ「通院だけしてのらりくらり逃げ回っていました」。

すると、尿毒素で体はむくみ、吐き気やだるさでまともに動くことができない。クレアチニンが20を超え、ついに医師から「これ以上放置すると生命の保証はない」と最後通告を受け、透析を導入した。

透析患者には1人あたり年間550万円の医療費が使われている。池間さんは透析患者が増えないようにと、自らを反面教師にして透析の様子や透析に至る経緯を講演で伝えるのに熱心だ。「腎臓は一度壊れてしまうともとには戻りません。今の状態で留めるしかない。予防にはほかの成人病と同じく生活習慣の改善と、定期検診を欠かさないこと。そして再検査と言われたら必ず行くことです」。

QOL向上には透析時間を有効に過ごせることも大切

現在、池間さんは1回7時間の透析を受けている。その間、DVDで映画を見たり、多忙なときはノートPCで仕事をしたりする。旅先でも透析ができるのと同様、「長時間透析の時間を有効に過ごせることも透析患者のQOL(生活の質)を向上させる大切な要素」と池間さんは強調する。

埼玉県富士見市にある24時間いつでも透析可能なさくら記念病院での旅行透析の様子
池間さんは、赴く先々で旅行透析を自ら体験し、その様子を公開している。写真は埼玉県富士見市にある24時間いつでも透析可能なさくら記念病院での旅行透析の様子(写真提供:株式会社旅行透析)

「病院はサービス業ではありませんが、一方で、患者さんのQOL向上のためには、アメニティを充実させるなど、ホスピタリティーが大事であると強く感じています。たとえば、時間を快適に過ごすためにはDVDプレーヤーやWi-Fiなどの装備があってもいいのではないでしょうか」と、病院の研修会などで啓発に務めている。

今後は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでやってくるインバウンド需要や東南アジアでの旅行透析のサービス提供を拡充していきたいと意気込む。まだまだ手薄である国内外の支援の輪を自ら広げていきたいと、海外にも積極的に出張に赴いている。

台湾・台北市内のカンホウ診所で足湯しながらでの旅行透析を実施している様子
海外でも旅行透析を実施することが可能で、範囲は徐々に拡大している。写真は台湾・台北市内のカンホウ診所で足湯しながらでの旅行透析を実施している様子(写真提供:株式会社旅行透析)

当事者だからこそ痛感した課題を解決するため、透析患者のQOL向上をビジネスとして実現した池間さん。週3回、各7時間を透析で拘束されるハンデを背負っていても、同じ境遇の仲間に役立つ、やりがいのある仕事に取り組める。それを実証していることこそ、多くの透析患者に勇気を与えるにちがいない。


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