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「遊びの価値」を、親にこそ体験してほしい──「原っぱ大学」が親子にもたらすものとは?

2018年02月15日



「遊びの価値」を、親にこそ体験してほしい──「原っぱ大学」が親子にもたらすものとは? | あしたのコミュニティーラボ
「遊びを親子でつくる」をモットーに、遊びをつくるプロセスを親子で体験できる原っぱ大学。神奈川県逗子市を拠点に、自然のなかでの遊びを軸とした、親子同士のコミュニティーを築いている。その活動は、どんな価値を生み出し、参加する親子の関係性においてどんな役割を果たしているのだろうか? 編集部も「原っぱ大学」のフィールドワークに参加し、「遊び」から得られる学びを体感。さらに、原っぱ大学を運営している「ガクチョー」の塚越暁さんから「個人の芯にある思いをビジネスとしてかたちにする」ためのヒントを伺った。(TOP画像提供:原っぱ大学)

逗子の山奥を舞台に、大人も子どもも自分で考え行動する

逗子駅から徒歩15分。閑静な住宅街に山の入口があり、更に山道を10分ほど登っていくと突然開けた場所にたどり着いた。原っぱ大学のフィールドワークは、この場所で行われる。

この日、参加者として集まったのは、東京や神奈川などの都市部に暮らす30組の親子。フィールドワークでは「あなたはこれをやってください」という指示はない。

火をおこす役も薪を探してくる役も、参加者が自由にやってみたいことを実践する。最初の号令で「今日はリースづくりと、づくりと、闇鍋づくりと、小屋づくりと……」と遊びのメニューが読み上げられるが、どの遊びにどのタイミングで参加するかは自由。また、参加せずに全く別の遊びを自分たちで生み出すこともできる。黙々とリースづくりに没頭するお母さんや座って焚き火を眺めているだけの子どもまで、過ごし方はそれぞれ。

探検の時間になると、塚越さんを中心に大喜びで子どもたちが集まる。また、フィールドワークの最中には「次回は◯◯をもってこよう」「あの子、前は◯◯ができなかったけど今回はできたね」と体験をより楽しむアイデアや、体験を通じての成長を話し合う声も聞こえてきた。


大根を抜くかのように娘を引っこ抜くお母さん(提供:原っぱ大学)

日が傾くまで山のなかで過ごしたあと、フィールドワークで泥まみれになった塚越さんにお話を伺った。「原っぱ大学」はなぜ生まれ、世のなかにどんな価値を生み出しているのだろうか。

自分の根本にあるワクワクした体験を提供したい

塚越さんは2002年より約10年間、株式会社リクルートで編集、ECサイト運営、経営企画に携わっていたそう。そこからなぜ「原っぱ大学」のような子どもと関わる教育分野へ転身したのだろうか。その疑問をぶつけると「まず、私は『原っぱ大学』の活動を”教育”とは考えていません」という答えが返ってきた。


原っぱ大学 ガクチョーの塚越暁さん

大きな転機となったのは、2011年の東日本大震災。10年近く会社員として勤めていた塚越さんは、「このまま働いていて、いいんだろうか。他にやるべきことがあるのではないか」と考えるようになった。

「原っぱ大学」設立のきっかけはNPO法人グリーンズが運営する「green school(現・グリーンズの学校)」に参加し、社会人としてはじめてマネタイズやマーケティングとは関係ない世界に触れたことだった。そこで塚越さんは「自分自身が一番ワクワクすることはなんだろう?」と考え、たどり着いたのは「自然のなかで遊ぶこと」だった。

「僕は、サラリーマン時代は子育てが苦手だったんです。毎日同じ公園で似たような遊びばかりして、『子育てってつまらないな』と思っていました。のちに、サーフィン好きが高じて東京から地元・逗子に戻り、子どもと海で泳いだり山で焚き火をしたり秘密基地をつくったりという遊びをしたら、すごく楽しくて。自然のなかでの遊びで得る『ワクワクする気持ち』は幼少期にこの町で経験した、自分自身の根本だと気づけました」(塚越さん)


誰よりも泥まみれになるフィールドワーク中の塚越さん

しかも周囲を見てみると、特に東京で暮らしている家族は、休日に子どもと過ごす場所というとショッピングセンターや近所の公園ばかり。多くの家族が子どもとの時間に閉塞感を覚えていると思った塚越さんは、自分たちで環境や場所を提供しようと考えた。

さらに会社の看板に頼るのではなく自分自身の力で発信したいという思いから、会社員をしつつ2012年に「原っぱ大学」の前身となる「子ども原っぱ大学」を個人のプロジェクトとして立ち上げた。

会社の看板に頼らないビジネスの可能性

「子ども原っぱ大学」は単発のイベント形式でスタートした。参加費1家族あたり5,000円前後の有料イベントにも関わらず、意外にも開催当初から集客に苦労することはなく、イベントが終わると参加者たちは一様に「楽しかった」と帰っていったという。

大幅な赤字だったものの、「売上」が上がったという事実はそれまで会社の看板がなければビジネスができないと考えていた塚越さんにとって、衝撃的な成功体験だった。

「その後も回数を重ねていくなかで、あるときから会社の仕事よりも『原っぱ大学』のほうが自分のなかに大きな比重を占めるようになったんです。その頃には『原っぱ大学』に企業からの仕事の依頼も来るようになっていたので『もしかして“辞めちゃえる”んじゃないか?』と、2013年に退職しました」と塚越さんは話す。

一見すると、順風満帆なスタートにみえるが、いざ退職してから現在までは試行錯誤の連続だったという。

「当時は会社員精神が残っていて『3年後にはここまで成長できる!』というような事業計画書をつくってウキウキで退職したんです。でもよく考えると、目標達成するには詰めが甘い点が多く、計画書の内容も本当に自分がやりたいこととは程遠いと気づきました。”僕は一体何がやりたいんだ?”と、会社を辞めてから”ビジネス”と”自分がやりたいこと”のバランスを完全に見失ってしまったんです」


退職後の塚越さんは、「自分がやりたいこと」のイメージを形にすべく、さまざまな場所に足を運び「これは違う」「あれはできない」と“進む道を狭めていく”日々を送ったという

体験してもらいたい相手は、子どもよりも親

あるとき、塚越さんにとって大きなターニングポイントとなった出来事があったという。

「小学校でイベントを行ったとき、終了時間になっても完成していない子がいました。するとその子が僕に対して『お金を払ってるのに、こんなことしかできないの』と怒るでもなく呟いたんです。また、トンカチを使うワークショップで小学1年生くらいの子が『このトンカチで怪我したら、先生の責任だよね』と言いました。これらは僕にとって大きな経験で、この2つの発言の向こうには親の姿が見えたんです」と塚越さんは語る。

子育てをアウトソースし、責任をお金で解決しているせいで、こうした発言が生まれてしまう。子どもはワークショップですばらしい経験ができても、その経験をどう感じるかという「思想」の部分は、親との時間でしか育まれないと痛感した。

「『原っぱ大学』は子ども向けに打ち出していますし、参加者も『子どもに経験させたい』という想いで来てくださっています。でも僕らは、子どもの向こうにいるお父さんお母さんにこそ体験を渡したいのです。今日の場でも子どもと一緒に泥だらけになっているお父さんがいましたが、この形こそが僕らが目指している姿。子どもは柔軟に変われますし、この先もいろんな体験を積み上げることができる。それを制限したり、または過度に導こうとしたりするのは親なんです。1人の人間として子どもと一緒に遊ぶ時間を持つことが、いかに尊くて大切かを親に伝えたい。ですから、原っぱ大学でやっていることは教育ではない。『一緒に遊ぼうぜ!』という言葉に尽きますね」


原っぱ大学では「1人の人間として子どもと一緒に遊ぶ時間を持つ」ことの価値を重視している(提供:原っぱ大学)

みずから同じ仲間として子どもたちと一緒に場をつくる塚越さんは、「本当は自分と同じ体験を、お父さんお母さんにもしてほしい」と言葉を続けた。

BtoCとBtoBの両輪で、遊びの価値を世のなかに提供し続ける

ゼロ期からスタートした小学生対象のコースはいま第5期を迎え、2~3歳向けの「リトルコース」は第3期まで達成。これまでに、家族数でいうと300家族、延べ1,000人前後が参加している。また2017年春より千葉県柏市、手賀沼のほとりに「柏かわせみキャンパス」を創設。徐々に規模が拡大しつつある「原っぱ大学」で、運営のよりどころとなる軸は何なのだろうか。

「これまでは僕がすべての現場をみることができる規模だったということもあり、『原っぱ大学』の価値や要点を言語化してきませんでした。今は僕が大事にしてきたことを他の人がどこまで表現できるかをお互いに探っている状態です。大事なのは『原っぱ大学っぽさ』にこだわらないことだと思います。僕以外にも責任者がいて、個人のセンスで場に向き合うことが大前提だと。『原っぱ大学のビジョン』といった言語化されすぎたものを目指していくと、途端につまらなくなってしまう、と今は思っています」

規模が拡大し、運営体制が徐々に変化してきているなか、今後はどんな方向に進んでいこうとしているのか。

「まず、僕らがやっていることは課題解決型ビジネスではないと思っています。目標や解決すべき課題というものはなく、休日の『遊び』を作っているだけ」と塚越さん。

一方で、組織として活動を持続していくために「稼ぐこと」を重要視しているという。塚越さんは「僕を含めスタッフがきちんと働きに見合った給料を貰える状態を持続させ、今後はもっと報酬を上げていきたいです」と語る。

そのための動きとして、自動車メーカーと共同で継続的にイベントを実施。ほかにも住宅のコミュニティーづくりに関連した案件などにも取り組んでいる。これまで一般の親子向けにやってきたBtoCではなく、企業を対象としたBtoBの仕事の相談が徐々に増えているそう。

「原っぱ大学が実施している遊びは、汚してもいい場所さえあればどこでも成立する。だからこそ、BtoBでできることは山ほどあります。逆に、僕らがずっとやってきたBtoCの活動は、場所や人を慎重に選び、時間をかけてつくり上げることこそが肝心です。それがないと偽物になってしまう。だからこそ、一朝一夕で真似をするのは難しいと思います。」

塚越さんは、「今後はBtoBとBtoC両輪で事業規模を広げてもっと収益性を高めていきたい」と話す。


自動車メーカーと共同で行なったイベントの様子(提供:原っぱ大学)

そして最近では、塚越さんが日々の生活で感じたことを起点にした新たな取り組みも生まれてきているという。

「自分の子どもが12歳になって、子ども同士の関係づくりの重要性を感じ、子どもだけを集めた『セイシュンサマーキャンプ』という取り組みをはじめました。その根本には学校以外の居場所が子どもにとってセーフティーネットになるのではないかという思いがあります。子どもが成長することで見えてきた問題に対して必要だと感じるものをビジネスにしていくことは今後も続けていくと思います。高邁(こうまい)な目標はなくて、日々感じた切実な事柄に対して価値をつくり出していこうというスタンスですね」

「休日の『遊び』を作っているだけ」といいつつも、原っぱ大学を開催するたびに30組前後の枠がすぐに埋まってしまうという。塚越さんは「現実としてこうしたコミュニティーは求められている」という実感を持っている。

塚越さんは、どんなモチベーションで原っぱ大学の活動を続けているのだろうか。

「月並ですが、参加者が成長して満足した表情で帰っていく姿がいちばんの原動力なのかもしれません。もともと会社員時代にビジョンをベースに評価されていたことへの疑問や反発が根底にあるので、『自分たちの目標や課題解決に向けてがんばろう!』じゃないなと(笑)。私たちの活動をとおして親子の関係がより満たされていけば、世のなかに少しでも価値を返せていることになるのかなと思います」

原っぱ大学は、都市で暮らす親子が山のなかで、なにひとつ強制されることなく、一緒に遊ぶことができる場とコミュニティーを生み出し続けている。その活動は、1つの本質的な親子関係のあるべき姿を世のなかに示しているのかもしれない。


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