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地域の暮らしを守る「コンパクトヴィレッジ」構想とは? ──鳥取県日南町の持続可能なまちづくり(前編)

2018年02月26日



地域の暮らしを守る「コンパクトヴィレッジ」構想とは? ──鳥取県日南町の持続可能なまちづくり(前編) | あしたのコミュニティーラボ
鳥取県の山あいに位置する人口4,800人弱の日南町は、「コンパクトヴィレッジ」構想によるまちづくりを進めている。住民を中心市街地に集める従来の「コンパクトシティ」構想とは違う。行政、医療、福祉、教育、商業の機能を集約化し、そこへ町営バスやデマンドバスを運行させ、暮らしている地域を守りながらコンパクトな行政を実現するのがねらいだ。ゆるやかな人口減少で“創造的過疎”を実現し、持続可能な未来に向かう日南町の取り組みから、地方創生イノベーションの1つのあり方を探る。

「コンパクトヴィレッジ」を活気づける町民の力 ──鳥取県日南町の持続可能なまちづくり(後編)

住むのは各々の地域、生活機能は中心地へ集約

鳥取県最西端に位置する日南町。米子空港から約1時間半の山あいの町で、島根、広島、岡山3県に隣接し、町の面積は鳥取県の10分の1と広く、その90%が森林。農林業が主要産業で、町内には特別天然記念物オオサンショウウオや、日本一と誇るヒメボタルが生息するなど、豊かな自然環境に恵まれている。


日南町の観光スポットの1つ、日南湖/菅沢ダム。標高およそ280〜600mに位置する山あいの町で、一級河川日野川の源流を有する緑と水に恵まれた環境が特徴だ


日南町福万来のヒメボタルの生息地の様子。地域の保護活動により、川のゲンジボタルと山のヒメボタルの競演が楽しめる環境が維持され、多くの来場者を魅了しているという(撮影:北尾聡、提供:日南町)

だが人口減少と少子高齢化は他市町村に先駆けて進行中。人口は1950年のピーク時1万6,000人強から4,800人弱まで減っており、高齢化率は50%に近い。

増原聡町長は「人口がこれだけ減れば、地域ごとのマーケティング、マーチャンダイジングが成り立たず、施設や店舗の閉鎖が続きます。だからこそ、まちの中心地には銀行や郵便局や美容院や病院など、暮らしに必要なインフラストラクチャーを集中させなければいけません。では、いわゆる“コンパクトシティ”構想のように、モノと一緒にヒトも集約し、住民のみなさんも暮らしていた地域を離れて中心地に移り住めばよいのでしょうか? それも1つの考え方で否定はしませんが、日南町ではそういう方策をとりません」と話す。


増原聡町長。日南町職員を経て、2010年より現職(3期目/2018年2月26日現在)

もちろん長年住み慣れた地域を離れたくない住民の意向は、第一に尊重されなければならない。それに加えて、地域から人がいなくなると「周辺部に膨大な空白地帯が生まれるわけです」と増原町長は、公共的な問題点を指摘する。

「日野川の源流地域なので安全・安心な水や空気を提供するのが日南町。ところが、人がいなくなれば田畑が荒廃し、自然も破壊されます。サルやイノシシやシカの獣害も増える。川べりが荒れてオオサンショウウオも棲息できなくなるかもしれません。愛着ある地域で暮らし続けることが、自然環境を守ることにもつながるのです。問題はどうやってインフラが集約した中心部にアクセスするか。町営バスやデマンドバスなどの公共交通機関の役割が重要になります。そこに挑戦しているのが日南町の“コンパクトヴィレッジ”構想なのです」

できる限り町のなかで経済が循環するしくみを


旧7カ村が合併して発足した日南町(1959年)。役場などが位置するエリアを中心に、居住地区が広域に拡がっている(提供:日南町)

道の駅「にちなん日野川の郷」半径1km圏内に病院や福祉施設、役場や学校が揃っている。道の駅の隣にはコンビニの「ローソン」もある。

増原町長は「ローソン」出店を逡巡する同社の本部関係者に、「日南町の人口は確かに5,000人を切っていますが、すぐそばに保育園と小学校と中学校があって、毎日500人が通い、家族も迎えに来ます。それなら充分成り立つのでは?」とセールスした。「蓋を開けてみたら、おそらく道の駅より儲かっているんじゃないですか」と笑う。

日南町の面積の9割を占める森林保全のため、道の駅「にちなん日野川の郷」は、営業活動で排出するCO2を間接的に森林で吸収相殺することでCO2排出ゼロを目指すカーボンオフセットのしくみを導入した。買い物をすると1商品につき1円が間伐など森林整備に役立つ。コンパクトヴィレッジの象徴的施設である「にちなん日野川の郷」を利用すると環境保全にも貢献できるわけだ。


道の駅「にちなん日野川の郷」。2016年にオープンした施設で、町の中心エリアに位置する

年間16万人の利用客のうち地元住民は3〜4割。「将来は近隣に若い人も集まれるスポーツジムやカラオケなどを備えた健康増進施設を整備して、コミュニティースペースの役割を強化できれば」というのが増原町長の望みだ。

また、「できる限り町のなかで経済が循環すること。それがコンパクトヴィレッジのもう1つの考え方です」と増原町長は言う。

「たとえばリフォームや新築の際、商品券や補助金をインセンティブにして町内の事業者に仕事が回りやすい制度を設けています」


木の香りが芳しい日南町役場の庁舎内。温かみのある木造建築は可能な限り地元産品を使用しているそうで、「机なども含めて99.7%、町産のスギ、ヒノキ」(増原町長)とのこと

コンパクトヴィレッジを支える公共交通政策


町営の定期バスは全5路線。これだけで広い町内全域をカバーできるわけではなく、コンパクトヴィレッジの実現にあたっては住民の利便性を考慮した施策が必要になっていった

日南町の公共交通はどのようなしくみでコンパクトヴィレッジを支えているのだろうか。2004年の民間バス事業者撤退と同時に、全5路線を町営に移管し、2009年からはデマンドバスの運行をはじめ、車両運行管理受託会社、日南町唯一のタクシー会社、地域住民によるNPOの3者に運営を委託している。2017年からは、従来の定期路線のバス停以外での降車を可能にするなど、利便性を高めると同時に、使用車両の小型化や、利用者の少ない便を減らすなど、効率化による行政経費の削減も図ってきた。中心地域内は電気自動車の巡回バスが1日7便、運行している(いずれのバスも運賃大人200円、小学生以下100円)。


2016年から運行を開始した、電気自動車型の小型巡回バス「たったもバス」

「本年度から実証実験としてタクシー助成制度を導入しました」と話すのは企画課地方創生専門監兼企画振興室長の実延太郎さん。「運転免許を持たない在宅の70歳以上の方および障がい者の方を対象に400円×50枚、年間2万円分の“お出かけタクシーチケット”を交付しています。該当者は約1,200人ほど。利便性の向上と外出機会の増加につながるか、効果の検証はこれからです」

小型のデマンドバスは、大型バスが入れない支線に停留所があるので公共交通空白地帯の高齢者の移動手段となり得る。しかし、実際には利用率は期待したほど伸びず、課題が残されている。企画課主幹の西田耕一さんによれば「原則として1時間前に予約が必要ですが、病院帰りなどは終了時間が確定しないとか、運行時間帯と利用者の行動のミスマッチも指摘されています。お年寄りは定期運行便に慣れておられることもあり、そのあたりを検証しながら改善計画を策定しています」とのこと。停留所まで行かなくて済む“ドア・トゥー・ドア化”の要望もあるが、タクシー助成の利用動向を確認し補完的措置として検討する。


日南町企画課主幹の西田耕一さん(左)と同企画課地方創生専門監兼企画振興室長の実延太郎さん

国や県の補助金なしで過疎地域の公共交通を自立維持するのは難しい。それができるなら民間事業者も撤退しない。

「幸いこの地域には、運転のできるお年寄りが隣近所に“一緒に出かけんかや”と声をかける“共助”がまだ根づいています。グラウンド・ゴルフへ行くのに乗り合わせ、ちょっと買い物をしてから帰るとか。みなさんが公共交通サービスを求めているかといえば必ずしもそうではありません」と実延さんが言うように、地域を持続可能にする公共交通の役割の1つは、隣近所の助け合いを下支えするセーフティネットかもしれない。

「林業アカデミー」で成長産業の人材育成を

コンパクトヴィレッジの地域経済を活気づける産業は何だろうか。「日南町の成長産業は農林業」と増原町長は明言する。林業従事者数は2005年に70人まで落ち込んだが、現在は160人と1990年代前半の水準まで復活してきた。これは「地球環境にやさしい新森林業の形成」の地域再生計画が国の認定を受け、「日野川の森林木材団地」に生産・加工・流通業を集約し、建材、集成材、チップの需要に対し低コストで安定供給できる体制が整ったことによる。

日南町が目指すのは「廃棄材を用いたバイオマス燃料や、土壌改良材などへのマテリアル利用、付加価値の高い木製新商品開発などを通じて森林資源を無駄なく使いきる循環型林業」と農林課課長の久城隆敏さんは話す。新たなビジネスモデルを創出するためにも、慢性的な人手不足を解消しなければならない。


日南町農林課課長の久城隆敏さん

そこで構想されたのが、即戦力となる林業の人材を育成する「林業アカデミー」だ。全国に16箇所ある同様の研修機関は県立が多く、町営ははじめてという。林野庁の「林業成長産業化地域創出モデル事業」の選定を受け、2019年4月の開校に向けて準備が進んでいる。募集人員は10名で、隣接する島根、広島、岡山各県からも受け入れ、中国山地広域の林業が求める人材の育成を目指す。


町の林業まつりでのチェーンソーによる伐木の速さと正確さを競う伐木選手権の様子(上)。立木を伐倒し造材まで行える高性能林業機械「ハーベスタ」の作業風景(下)。いずれも2019春開校「林業アカデミー」で組み込まれる予定の研修内容。日南町は、基幹産業の農林業で若い働き手の確保を目指している(提供:日南町農林課)

研修生は林業経営や森林保全の知識、高性能林業機械の操作などの施業技術を身につける。広島県安芸太田町の森林組合で就業していた地域林政アドバイザーと、鳥取・島根大学の研究者が講師陣。修了後、どの地域で林業に就く予定でも、年間1人あたり150万円を上限に支給される国の「緑の青年就業準備給付金制度」が利用可能だ。「10人のうち4〜5人が日南町に残ってくれて、10年で50人くらいの担い手が生まれれば」と久城さんは期待している。

住民発信の自立的な活動が地域活力を生んでいるのも日南町の特徴。後編では農業と交通自治に関する事例を通じ、住民側から地方創生の持続可能性を見る。

「コンパクトヴィレッジ」を活気づける町民の力 ──鳥取県日南町の持続可能なまちづくり(後編)


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