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「コンパクトヴィレッジ」を活気づける町民の力 ──鳥取県日南町の持続可能なまちづくり(後編)

2018年02月26日



「コンパクトヴィレッジ」を活気づける町民の力 ──鳥取県日南町の持続可能なまちづくり(後編) | あしたのコミュニティーラボ
住むのは地域、生活機能は中心地──地域の暮らしを守りながら“創造的過疎”に未来を見出す鳥取県日南町の「コンパクトヴィレッジ」構想。前編では行政のヴィジョンと取り組みに焦点を当てたが、後編では町民目線からまちづくりを捉え直してみたい。海藻肥料を使った循環型農業を推進する農事組合法人と、交通空白地の有償運送を他地域に先駆けて実現したNPO法人の活動から、住民発信の自立的な動きが地域の持続的な活力を生む可能性について探る。

地域の暮らしを守る「コンパクトヴィレッジ」構想とは? ──鳥取県日南町の持続可能なまちづくり(前編)

「海が育てた米」と水田オーナーズクラブ

標高1,000m級の山間地にある日南町は、8月には昼夜の寒暖差が18度も開く、稲作の好適地。だが高齢化や後継者不足など過疎地共通の課題を抱え、日南町産米のJAの販売高は1993年の8億円から2007年には4億円まで落ち込んだ。「よそと同じように米をつくっても儲けは出ない。他で稼いだ金を農業につぎ込んでいる。このままではどうにもならない。なんとかしなくては」。農業の他に建築業などにも携わっていた三上惇二さんは、町議会議員を勤めた経験も伴い、自ら地域の課題に向き合うようになった。


エコファームHOSOYAの三上惇二さん

自己完結型の農業には限界がある。そう考えた三上さんは2006年から農家を組織化し、共同生産する集落営農で米と蕎麦の栽培をはじめた。2012年には250万円の出資を集め、24世帯の参加で農事組合法人「エコファームHOSOYA」を設立。

三上さんは2004年から農林水産省のガイドラインに沿い、化学合成農薬および化学肥料の窒素成分を慣行レベルの5割以上削減して生産していたが、こうした特別栽培は全国各地で実施している。「うちの売りにはならない。さらにグレードアップした施策がほしい」──。

そこではじめたのが、海藻肥料を使った米づくり。鳥取県と島根県の県境にある汽水湖「中海」に三上さんは着目した。

「水質汚染の原因として繁殖しすぎた海藻があり、地元では定期的に海藻を取り除き水質改善に取り組んでいました。ならば、刈り取った海藻を圃場の肥料として使えないか、と。実は、化学肥料が普及する以前は海藻を肥料に使っていたらしく、それをやめたことも中海の海藻が繁茂しすぎた原因の1つだったようですね。海藻はミネラルが豊富で良い肥料になります。環境改善に貢献する循環型農業として他との差別化を図れるだろうと、この取り組みをはじめました」

海藻だけでは肥料として足りないので、魚の骨や貝殻などのエキス「魚粕肥料」も加えている。化学肥料を一切使わず有機肥料だけでつくられるのがエコファームHOSOYAの米だ。しかも“海が育てた米”という、きわめてキャッチーなストーリーが背景にある。これほど強力な“売り”もまたとないだろう。

2009年、新規就農で日南町に来た高橋隆造さんのアイデアで「水田オーナーズクラブ」がはじまった。自社名を冠した水田のオーナーとして企業に契約してもらい、地元の農家が田植えから収穫までして米を届けるしくみだ。「企業のCSR活動として環境貢献が確立しつつある時期だったのか、最初は小さな取引でしたが、だんだんとオーナーさんが増えていきました」と三上さんは話す。


企業がオーナーとなる「水田オーナーズクラブ」の稲田。契約企業数は拡がりを見せ、一帯が契約農園となりつつある

高橋さんが設立した農作物企画販売会社「株式会社UPFARM」と契約し、生産から出荷までをエコファームHOSOYA、精米から物流、そして農家とオーナーが交流するイベント企画運営をUPFARMが行う。「都会で農業を営む」をキャッチコピーに、都市部の企業と過疎地の農家が互いに顔の見える関係を築いている。日南町では現在、約50組のオーナーと契約。オーナー企業は収穫された米を得意先への歳暮など、ノベルティに活用することが多いという。オーナーの口コミでシェフが知り、ホテルやレストランで使われる副次効果も大きい。

農家の所得が上がっても後継者がいなければ意味がない

エコファームHOSOYAの米の顧客は水田オーナーズクラブ、企業の社員食堂や寮、外食産業など。農協は通していない。「当初は京阪神が主な販売先でした。でも通年で継続・新規の雇用を生み出すには地元、つまり米子市近辺でも市場を開拓し、冬場にも配達や精米の仕事をつくる必要があります。今では販売先の3分の1近くが地元で、生産と出荷の作業が重なるとてんてこまい」と三上さんは笑う。

エコファームHOSOYAの矢吹健太郎さんは茨城県出身。エコファームHOSOYAの新規雇用受け入れ体制が整ったところで、2014年から生産と出荷に従事している。地元の販路開拓に貢献しつつ、会社勤めの兼業農家のため平日の昼間に人手が足りない圃場をサポート。日南町に来て農作業の勉強のため手伝いをしているときから「自分がいなくなったら平日誰が作業するのか?」と疑問に思っていたという矢吹さんは、農業に身を投じることになった経緯をこう語る。

「何度か遊びに来る機会があって日南町は気に入っていたのですが、住もうとまでは思っていませんでした。その後きっかけがあって“この町で何かできないだろうか”と考えたときUPFARMの高橋さんと知り合い、雇ってもらうことに。かれこれ5年勤めました。ただ、水田オーナー制度で農家さんの所得が上がっても、後継者がいなければ意味がないとずっと考えていたんです」


エコファームHOSOYAの矢吹健太郎さん

地域の農家を集約して効率的な生産体制を築き、付加価値の高い作物で独自の販売ルートを開拓し、新規雇用を生み出して後継者を育てる。エコファームHOSOYAとUPFARMの取り組みは、農業の課題解決に生産者と販売者が連携して自発的に挑んだ地域活性化のモデルケースの1つといえるだろう。

住民自ら「交通空白地有償運送」を実現した多里地域

日南町の最西端、県境に位置する多里地域は、地区の東端を縦断する国道しか定期バスが走らず、大半が公共交通の空白地帯だった。上り坂で距離が遠いバス停まで荷物を持ち歩くのは高齢者にとって負担が大きい。自治組織の「多里まちづくり推進協議会」では、国の規制改革により特区制度の認定申請なしで「白ナンバー」による「交通空白地有償運送」ができるようになったことを受け、その検討をはじめた。折しも2009年、前編で触れたように日南町営のデマンドバスが運行されることになった。


日南町営のデマンドバス。多くの地元小・中学生に通学の足としても利用されている

「ならば多里の路線を請け負わせてほしい」(山形美智也理事長)と、同年に設立した「NPO法人多里まちづくりサポートセンター」がデマンドバス多里線の運営を受託。委託料を収入源として交通空白地有償運送の経費に当てた。自動車は役場のデマンドバスを空き時間に借り「地域の有志8人が交代で運転手を務め、わずかな賃金でボランティアをしていただいています」(山形さん)。

これで多里地域には3つの公共交通手段ができたことになる。

(1)今まで通りの停留所に止まる「定期バス」。
(2)予約すれば定期路線以外の停留所で利用できる「デマンドバス」。
(3)予約すれば自宅まで送迎してくれる「公共交通空白地有償運送」バス(大人500円、小学生以下200円)。


最新のバス路線図。定期バスとデマンドバスによって各地域を結んでいる。この路線とは別に、多里地域においてはドア・ツー・ドアの公共交通空白地有償運送車両が走っている。(提供:日南町)

鳥取大学と日南町が連携して検討を重ねた「地域公共交通」の第一歩を、多里地域が先駆けて実行したといえよう。

なぜ多里地域でいちはやく住民の共助による“交通自治”をはじめられたのか。山形さんは「なんとかしなければ、という想いのある人は多い」と話す。

「多里はかつて採掘量が日本一のクロム鉱山で栄え、地域には映画館やパチンコ屋もありました。90年代半ばに閉山して以降は、かつて賑わっていただけに衰退ぶりの落差が激しく、地域の人たちの危機感が強いですね」


まちづくりサポートセンターの山形美智也理事長(左)と、事務局長の秋末ひとみさん

まちづくりサポートセンター事務局長の秋末ひとみさんは「ここで生まれ育って歳をとった人が多く、地元に対する愛着心も強い。地域イベントもけっこう賑わいますし、アクティブなメンバーが揃っています」と話している。

増原聡町長は日南町の将来像について「高齢化率50%の地域の未来が暗いとは決して思っていません」と断言する。「65歳以上でも元気な方はたくさんおられますし、50代で病気になる人もいる。歳の取り方は人それぞれ違います。高齢化率云々よりも、地域を支える人がどれだけいるか、にその地域の未来はかかっていると思うのです。リーダーがまた次のリーダーを育て、“ところてん”式に人材が輩出する。そういうしくみをつくっていきたい」と力を込めた。


増原聡町長

地域の産業を活気づけるビジネスモデルも、地域の暮らしを支える交通システムも、住民の有志がリーダーシップをとって自主的に考案し、その取り組みが継承される──持続可能な“創造的過疎”の実現には住民の創意も欠かせない。

日南町の事例は同様の課題を抱える多くの地域のヒントになりそうだが、増原町長の次のような言葉も胸に刻んでおきたい。

「私がいつも気にかけているのは他の地域の真似をしないこと。それは必ず失敗します。わがまちをどうしたいのか一生懸命に考える。そして声の大きい人の意見だけを聞かず、声なき声に耳を傾けること。それが結果的に良い施策につながることが多いです」

地域の暮らしを守る「コンパクトヴィレッジ」構想とは? ──鳥取県日南町の持続可能なまちづくり(前編)


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