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「保険適用外×潜在看護師」で一挙両全のサービスを!──「わたしの看護婦さん」が切り開く、介護と雇用の未来

2018年02月19日



「保険適用外×潜在看護師」で一挙両全のサービスを!──「わたしの看護婦さん」が切り開く、介護と雇用の未来 | あしたのコミュニティーラボ
米子市でサービスを展開する「わたしの看護婦さん」は、介護保険サービスからこぼれてしまうニーズに応えるべく、介護保険適用外のサービスで高齢者や介護に携わる人たちをサポートしている。さらにサービスの中心的担い手として、看護師資格を持ちながら現在は働いていない「潜在看護師」に注目し、介護業界に新しい風を吹き込んでいる。このサービスを運営するN.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社代表の神戸貴子さんに、「わたしの看護婦さん」が果たしていく役割とその可能性についてお話をうかがった。

高齢者のさまざまなニーズにこたえる

朝10時半。米子市にある有料老人ホームの入り口に車椅子で現れたのは入居者の茂理さん。車椅子を押してもらい老人ホーム周辺のお散歩に出かけるところだ。

茂理さんが「今日はよく晴れてよかったね」と楽しそうに、車いすを押す女性に話しかけた。実はこの女性は老人ホーム施設の職員ではなく、介護保険適用外のサービス「わたしの看護婦さん」のスタッフ。茂理さんの散歩の介助のために施設に赴いた。施設の職員がにこやかに見送るなか、2人は外へ。

「『わたしの看護婦さん』のメインとなるサービスの1つが病院受診への付き添い。看護師資格を持つ医療知識のあるスタッフが同行し、診察室で一緒にドクターのお話を聞きます。噛み砕いて利用者に説明をしたり、医療知識を生かしてドクターに突っ込んだ質問をしたりすることもあります。診察内容は介護をしている家族の方にも報告。このほか買い物に付き添う、友人のお見舞いにいくのに同行するなど、利用者の要望に合わせてさまざまなサービスを行います」

そう語るのは「わたしの看護婦さん」を展開するN.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社代表の神戸貴子さんだ。


N.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社代表の神戸貴子さん

20代での介護体験で知った「保険ではできないこと」

介護保険サービスは安い料金で利用できる一方で、要介護認定区分に沿った決まったサービス内容をあらかじめ決められた日時に実施するという性質がある。

たとえば、生活援助サービスで買い物をしてもらっても、ついでに銀行に寄るといったことはできない。また、医療保険分野と抵触するため、介護保険サービスでは診察室に付き添うことはできないという。「必要なのに、介護保険ではやってもらえないことがけっこうあるんです」と神戸さん。

実は、神戸さん自身が20代のときに介護を経験している。結婚後、看護師だった神戸さんは仕事を辞めて家庭に入ったが、子育てをしながら夫の伯母の介護をひきうけることになったのだ。


神戸さんの持つ20代での介護経験は「わたしの看護婦さん」の運営に大いに活かされているという

介護で急に対処しなくてはならないことが発生すると、神戸さんはその都度、自分の予定をキャンセルしなくてはならなかった。ケアマネージャーに「ヘルパーさんに病院受診の付き添いをお願いできないか」。問い合わせたところ「そういうことは家族の方にやってもらうことです」と言われた。

「次第に介護の負担がつらくなっていきました。重要な予定が入っているときは代わりに介護をしてくれるサービスがほしいと思いましたが、探してもありませんでした」と当時を振り返る。

介護保険適用外×潜在看護師の活用で新しいビジネスを!

そんな自身の経験を元に、どのような経緯でサービスを立ち上げるに至ったのだろうか。

「10年ほど経って、同世代の友人たちが本格的に介護にかかわりはじめたとき、みんながかつての私と同じような悩みを抱えていたんです。なかでも病院受診への付き添いは負担が大きかった。また、県外で暮らす人たちが鳥取に暮らす親の遠距離介護で苦労していることも知りました。そこで介護保険ではカバーできないニーズに応えるサービスをひらめいたんです」

さらに神戸さんはかつて看護師をしていた自身の経験から、看護師資格を持ちながら仕事をしていない「潜在看護師」をスタッフとして活用することを考えた。結婚や出産、あるいは夫の転勤のタイミングで仕事を辞めた潜在看護師は全国に71万人もいるとされる。


厚生労働省ウェブサイト 第33回社会保障審議会医療部会「看護職員確保対策について」より抜粋(編集部で作成)

「看護師の仕事は忙しく、子育てとの両立の難しさから辞める人が多い。さらに、いずれまた働こう思っていても、子どもから手が離れてくるころにはブランクが長くなり、最新の医療現場についていけるか躊躇する──そうして復職の機会を逸してしまうのです」

特に病院受診の付き添いサービスの担い手として、医療知識とスキルのある潜在看護師は適材だ。
看護師に限らず、資格を持ちながら専門職として働いていない「潜在専門職」が活躍できるしくみを構築することは、人口減少と超高齢化が進む日本社会にとって大きな課題だ。「わたしの看護婦さん」は利用者に便利なサービスを提供できるだけでなく、せっかくの能力やスキルを発揮できないでいる潜在看護師たちに新たな雇用の場も提供でき、まさに一石二鳥のしくみといえるだろう。


「潜在看護師の能力を埋もれさせておくのは、本人にとっても社会にとっても非常にもったいない」と語る神戸さん

こうして看護師資格を持ったスタッフが中心となり、介護保険適用外の介護関連のサービスを提供する「わたしの看護婦さん」が2015年9月にスタートした。

潜在看護師のニーズに応えた、フレキブルな勤務体制

すでに述べたとおり、「わたしの看護婦さん」の大きな特徴は潜在看護師を活用するという点。現在スタッフは15名だが、その働き方は非常にフレキシブルである。フルタイムで働いているのはごく一部で、それ以外は働きたい時間に働いてもらう勤務体制をとっている。このため1日6時間で週5日働く人もいれば、1日2時間で週2日だけ働く人もいる。

「仕事を再開してしばらくは様子を見ながら働きたいというスタッフや、自身の子育てや介護に携わっているスタッフも多いため、毎月スタッフに勤務できない日を申告してもらい、それぞれの可能な勤務時間をパズルのようにつないで、日々のさまざまなサービスを実現しています」と神戸さん。

こうしたフレキシブルな働き方を実現させているのは「あえて担当者制をとらない」運営システムだ。利用者に担当はつけず、多様な業務を手分けしてやっていく。誰もがさまざまな仕事をこなすのが「わたしの看護婦さん」の流儀だ。

「そのために情報の共有がとても大切になります。利用者の記録はデータ化して、各自のスマートフォンでチェックできるようにしているほか、申し送りしたい更新情報は一斉メールで流すようにしています」。働きはじめるまではパソコンなどと縁がなかったスタッフの多くが、いまではITスキルをつけ、70代のスタッフもスマホを使いこなすようになった。


社内ミーティングの様子。ここで働くまで、パソコンをほとんど触ったことがなかったスタッフも多いという(提供:N.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社)

サービス普及のための課題は「地域に溶け込むこと」

サービスにニーズがあることは自身の経験や周囲の状況からも確実だったが、開始当初は利用者がなかなか集まらず苦労したという。神戸さんは「その原因は2つありました」と話してくれた。

1つ目は、介護保険サービスとの料金の違い。介護保険サービスは20分〜30分の利用であれば250円程度、月4回利用で1,000円前後と安い。(介護の内容、利用時間の長さ、時間帯、所得、地域により金額は変わる)

「わたしの看護婦さん」が当初に設定した金額は1時間あたり2,000円(現在は2,600円)。かなり無理をして安くしたのだが、それでも介護保険と比べて「高い」と感じる人が多かったという。

「介護保険サービスが安いのは自己負担分以外に多額の税金が投入されているから。しかし、その部分は利用者には見えにくい。スタッフの給料や事務所運営に必要な経費などをまかなえて、かつ利用しやすい料金はいくらなのか。実はいまも料金設定には悩みながら運営しています」

利用者がなかなか集まらなかった理由には、もう1つ「新しいものには慎重」な山陰地方の地域性もあったという。

「私は福岡出身で、新しいことにはすぐ飛びつくタイプなんです。でも、山陰地方は違います。象徴的なのが”煮えないとくわん”という言葉。煮えたかどうかの味見役を避けて、『良いものだ』ということがはっきりするまでは行動に移したがらない傾向があるんです」

このため、問い合わせは多いにもかかわらず「現在の利用者は何名ですか」などと実績を問われ、実際の契約になかなか結び付かないという時期が長く続いた。

また、神戸さんは起業1年後に介護保険適用のサービス「メディカルヘルパーステーション」もスタートさせた。「当初は介護保険ではサポートしてもらえないものに限定した、とんがったサービスだけでやっていけると思ったのです。しかし、地域に溶け込むためには介護保険のサービスも加えた方が良いと軌道修正をしました。結果的には2つのサービスを車の両輪のように回すことで、『わたしの看護婦さん』の利用も増えていきましたね」。

次第に地域でも評価と信頼を得られるようになり、いまでは高齢者施設が入居者の病院受診に家族が対応できない場合などに「このサービスを利用してみてはどうですか」と紹介してくれることもあるという。

また、神戸さんたちも利用者側の許可をとった上で、利用者の体調の変化などを介護施設やケアマネージャーに連絡することもある。介護保険サービスとの相互補完的な協力体制が生まれてきた。


左側の白い建物がN.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社の事務所。フレキシブルな勤務形態なので、事務所に出勤しないスタッフも多いという

「遠距離介護者」が抱える深刻な課題

神戸さんが「わたしの看護婦さん」を展開するなかで、介護をめぐる課題が鮮明になってきたという。なかでも深刻だと感じているのは県外から老親の介護をする「遠距離介護者」の抱える課題だ。

鳥取県では子どもたちが県外の大学に通い、県外で就職し、県外で結婚し自分たちの生活を築いているケースが多い。気が付けば親は高齢化し、鳥取で介護が必要。ケアマネージャーとの打ち合わせや病院受診のたびに、帰郷しなければならない。彼らは、仕事を休み時間をつくるだけでなく、往復の交通費など、大きな負担を背負いながら介護をしているという。


「わたしの看護婦さん」がサービスを展開している鳥取県米子市の風景。神戸さんは「利用者の9割強は子どもさんたちが鳥取県外で生活している方」だと教えてくれた

また、介護をされる側の高齢者も「自由に買い物を楽しみたい、買い物の帰りにお茶をしたい──そんな生活のほんの少しの楽しみであっても、娘や息子たちに負担をかけたくないという思いから、遠慮してしまう」という人が多いという。全国で増えている、そんな高齢者たちの生活の質を上げていくことも課題となっている。

「遠距離介護」の問題は鳥取県だけではなく日本全国の地方で起きており、サポートを必要としている人は大勢いるはずだと神戸さんは考えている。

「いまは高齢者の子ども世代が帰省するお盆やお正月に積極的に情報発信をしているんですが、遠距離介護をしている人たちに情報を届けるためには都市での情報発信の必要性も感じています」

介護保険適用外のサービスがもっと充実し、介護保険を補完するようになれば,介護を受ける高齢者の生活の質は高まる。そして親を支える世代が介護に悩んだり、介護離職したりすることもなく、安心して介護を続けられる未来がやってくるかもしれない。

起業から3年がたち、鳥取県内では介護保険適用外のサービスとしての認知度が高まり、利用者も増えてきた。今後、目指すべきところは何か。「いまは鳥取県内でのサービスを行っていますが、こうしたサービスのニーズは鳥取県だけでなく幅広く存在しています。次は西日本にこのサービスを広げていきたいですね」。

そのためには、「スタッフがよりフレキシブルで効率的に働けるようなシステムづくりが必要」。また、神戸さんはサービスを運営していくなかで「働く環境さえ整えれば、潜在看護師は介護サービスを担う人材として大きなポテンシャルを発揮する」と確信しているという。

ユーザーだけではなく働くスタッフである潜在看護師のニーズにも着目し、雇用問題までも解決するポテンシャルを持つ「わたしの看護婦さん」は、これからの日本社会において、ますますその役割を拡大していくだろう。


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