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「表現」で風通しのよいコミュニティーを生み出す──アサダワタルさんインタビュー(前編)

2018年02月23日



「表現」で風通しのよいコミュニティーを生み出す──アサダワタルさんインタビュー(前編) | あしたのコミュニティーラボ
コミュニティー創出に関する研究・実験的活動に注力してきた文化活動家でありアーティストの、アサダワタルさん。在籍する会社や肩書き、職種等にとらわれず、複数のコミュニティーを行き来する生き方・働き方を選択する人が増えているいま、コミュニティーのあり方が問われているのではないだろうか。そのヒントを探るべく、「表現による謎の世直し」をモットーに、さまざまなプロジェクト活動に注力されてきたアサダさん流の「コミュニティーづくり」について話を伺った。前後編でお届けする。

コミュニティーの「閉じ方」までを考える──アサダワタルさんインタビュー(後編)

「日常」と「非日常」を曖昧にする場づくりを目指して

——アサダさんはコミュニティーづくりにおいて、音楽などの”表現”を用いて活動されています。こうした活動をはじめたきっかけや経緯を教えていただけますか?

アサダ もともと、コミュニティーデザインに関わろうとはまったく思っていませんでした。学生時代からバンドを組んでいて、レーベルからも声を掛けられていたので就職せず音楽活動を続けていました。しかしバンドが解散してしまい試行錯誤するなかで、徐々に自分が作曲や演奏をすることよりも、そういった表現を通じて場所の運営をすることに興味が湧いていきました。

また、僕が求める表現には「日常」という一貫したテーマあります。音楽やダンスなどの表現は「舞台」と「客席」という線引きがあって成立していますが、僕自身はそれに違和感を感じていて、「作品」と「それ以外の領域」の境界線を取り払い、「日常」と「非日常」を曖昧にして混ぜ合わせることに関心があったんです。

アサダワタルさん
文化活動家・アーティストのアサダワタルさん

1990年代後半〜2000年代はじめごろの大阪では都心の使われていない古い長屋をリノベーションしてコミュニティーカフェや多ジャンルの表現を扱うアートカフェにする活動が盛り上がっていて、「どうすれば自分の感性を使って、おもしろい場所をつくれるか」という方向へ徐々に関心がシフトしました。僕はそういった場所に企画を持ち込んだり、またボランティアとしてお茶を入れたり話をしたりしてお客さんと交流していくうちに「舞台だけが表現じゃない」と視野が広がるのを感じました。

それをいちばん実感したのは、最初にコミュニティーを意識した活動でもある大阪・新世界(現在は西成区の釜ヶ崎に移転)の「ココルーム」です。「ココルーム」は、新世界にあった遊休施設化した遊園地の空きテナントを再活用したアートスペースでした。そしてすぐ隣町の西成区の釜ヶ崎エリアはいわゆる日雇い労働者が集まっている街です。「ココルーム」にはカフェも併設していたので日々いろんな人たちが訪れました。僕はそれまで「文化的な活動を理解している人」としか交流していなかったのですが、コーヒーを飲みにやってくる西成のおじさんと話していると、あらゆる先入観がひっくり返されるんです。それぞれの生き様に興味をもち、自分の関心は「異なる背景を持つ人と人が交わる場づくり」に向いていきました。

——その後、大阪から東京に拠点を移されたのはなぜでしょう?

アサダ 東京に移ったのは最近で、2010年から東京と大阪の2拠点で生活しています。理由は東京で仕事が増えたことと、「住み開きアートプロジェクト」です。

「ココルーム」にやってくる人びとは、ただ自分の心の拠りどころとして詩を書いたり、自分の人生経験を描いた紙芝居をしていました。そんな風に、アーティストという肩書ではないけれど、さまざまな背景をもつ人たちが語り合い、あるいは語り合わずとも自然とつながってなにかしらの活動をすると、上手い下手を超えてそれぞれの人生が“にじみ出る”んです。すると僕らも刺激をもらえるし、世話をする側・される側という境界がなくなり、双方向の関係になれると感じました。

アサダワタルさん
アサダさんがスタッフとして働いていた2004年〜2006年当時の「ココルーム」のカフェ

「ココルーム」のあともお寺やビルの一室などで活動を続けたのですが、場所を運営していると年限の問題にぶつかります。耐震の問題をはじめ、また僕の場合は税金を扱う文化政策の一環としての場づくりに関わっていたために、「いつまでここを使えるか」がわからない。行政からの依頼が増え「場づくり」が仕事になってきたこともあり、原点回帰という意味も込めて、もっと自由度が高い生活の延長線上にある「場づくり」ができないかと考えました。

そこで、自宅をはじめとしたプライベートな拠点をまちにおすそ分けするような気持ちで開放した活動を「住み開き」として提唱しました。僕自身が当時、大阪の梅田に近いマンションの一室を、クリエイター仲間たちとセカンドハウスとして運営していたことがありますが、ちょうど若い人たちを中心に「シェア」の概念が広まっていた時期だったんですね。

でも、若い層だけでなく、意外にもリタイアした世代の人から「趣味を生かしてこういうことができないか」「場所が空いたから使ってくれないか」という反響が数多くありました。団塊の世代が定年退職し「地域コミュニティーに帰ったシニア世代はどう生きるか?」が問われていた時期でもあり、ニーズがあることをあらためて認識しました。

アサダワタルさん
取材はJR中央線 武蔵小金井駅近くのKOGANEI ART SPOTシャトー2Fで行なわれた

その後「住み開きアートプロジェクト」として、「コミュニティーで自分の人生をいかに表現するか」ということをお手伝いする場を提供し、また福祉的な面でも“生きづらさ”を抱える人の居場所づくりについても発信してゆくようになりました。提唱した2009年当初は、大阪で活動をしていました。2010年に「東京でも住み開きをリサーチしませんか?」と、東京アートポイント計画(東京都が地域のNPOとともに推進している、日常に無数のアートポイントを生み出す取り組み)というプロジェクトの一部である「東京の条件」のディレクターから依頼いただき、徐々に活動が東西2拠点に移行していきました。そのプロジェクトの集大成として、2012年に、『住み開き―家から始めるコミュニティ』という書籍を出版しました。

そして東日本大震災以降、「地縁をいかに持ち続けるか」という課題に関心が集まっていたなか、「住み開き」がさらに注目され、現在も都市部を中心に、むしろ都市部でいまの生活を根本から変えることなく無理なくできるコミュニティーづくりについて考えながら、活動をしています。

地域の外に開く、風通しのよいコミュニティー

——コミュニティーづくりに取り組まれるなかで、どのような試行錯誤がありましたか?

アサダ 「住み開き」が広まった当初、「コミュニティー」の定義を非常に狭く扱われることに違和感がありました。「住み開き」は、いわゆる田舎の集落などにおける「お互いの家を自由に行き来するコミュニティー」と思われがちなのですが、出自がまったく違います。

かつての田舎のように集落の人に常にオープンにする暮らしや、下町の町家のように土間までは誰でも入れるといった暮らしは、現代の都市部ではもはやできません。適度に開いて、自分の興味関心をおすそ分けする気持ちで家族以外の人と交流する、そのバランスが大事だと考えています。開きっぱなしでも閉じたままでもなく、その中間を実践したい。

テレビやスマホだけで完結する閉じた生活があるからこそ、あえて知らない人と直接会って交流することに意味があるんじゃないか。ネットで知り合った人や趣味の友達、そこにもちろんご近所さんも含めていろんな人同士で混じり合うことが「住み開き」の目指すコミュニティーであって、地域にだけ開いていてよその人には閉じたコミュニティーではないと、どうやったら伝えられるかはけっこう悩みました。

アサダワタルさん
「プライベートを適度に、かつ地域だけに開くのではない。そのバランスが肝」だと語るアサダさん

というのも僕自身が1つのコミュニティーだけでうまくやっていくのが苦手で、すぐ息苦しくなってしまうんです。そんな自分の性格もあり、できるだけ風通しがいいコミュニティーでありたいと考えています。よく「片方で手をつないで、もう片方はブラブラさせて、いろいろな人と手をつなげるようにしておく」と表現しています。いろんな縁や助け合いがあるほうが、人生のセーフティーネットとしてもよいと思っていて。コミュニティーに関わりながらもコミュニティーを移動する、という意識は常に持っています。

——コミュニティーで生まれたつながりは、その反面しがらみとなる場合もありますよね。

アサダ 閉じたコミュニティーには、どうしても似た性質の人ばかりが集まりがちです。僕はコミュニティーづくりにおいて、いかに全然違うタイプの人を呼ぶかを考えています。風通しをよくするわけです。コミュニティーづくりをする人はファシリテーターとしてそういうことをやっていかないと、現場は停滞します。たとえ地域コミュニティーであっても、いかに新しい流れをつくるかという視点は重要だと思いますね。

論文を書き上げたことで生まれた、新たな「視点」と「表現」

——アサダさんは、2016年に「音楽による想起がもたらすコミュニケーションデザインについての研究」というテーマで博士論文を発表されました。『コミュニティ難民のススメ』などを執筆していたころと比べ、どのような変化がありましたか?

アサダ まず、僕がいつも大事にしていることは「現場での実践」と「言葉での表現」の往復です。

僕はもともと音楽活動からすべてがはじまっているのですが、結果として上手くいかず「自分が本当にやりたいことはなんだろう」とずっと考えていました。お話ししたような活動を経て今に至りますが、どこかで「音楽のことを書かねばならない」と考えていました。でも音楽とは距離が近すぎて、想いはあるのに言語化がどうしてもできませんでした。

そんなとき僕と同じく現場志向でありながら研究者としても活躍されているある大学の先生から「論文を書きなさい」と言われたんです。なぜなら論文はあらゆる制約があり、決められた形式を踏まえて書くものだから、これまでの手法で書けないのなら、あえて作法に則って書いてみてはという提案でした。自分にはまったくない発想だったので「研究してみるか」と思い立ち、大学院に入学して3年半かけて博士論文を完成させました。過去の経験を言語化しつつ並行してさまざまなプロジェクトをやることで、「音楽」と「記憶」と「コミュニティー」をテーマに、どんな想いを伝えたいか、論文を通して言語化できました。

その後の変化としては「研究者」という肩書が増えたことで、現場の活動や執筆活動をいかに社会的に位置づけるかという、俯瞰した目線が持てるようになりました。また、論文というアカデミックな体裁じゃないと伝わらない、信頼が得られないというコミュニティーがあるという発見もあったので、立場の使い分けを意識するようになりましたね。

——2017年からスタートした福祉・看護がテーマの「超支援?!」や保活がテーマの「ホカツと家族—どんな場所でも”親”になる—」の連載など、近年は社会課題に寄り添った活動が増えた印象があります。論文執筆とも関係があるのでしょうか?

アサダ 大いにあると思います。「超支援?!」は研究の一環でもあって、いま福祉・看護の現場において表現活動がコミュニティーにどのような影響を与えるかがテーマなんです。過去にも、特に知的障がい者に向けた音楽活動のワークショップを実施したり、彼ら彼女らの造形活動の取材も重ねてきたりして、この活動をどう社会に伝えるべきか考えていました。そこへ日本看護協会出版会から連載の依頼がきて、「超支援?!」ははじまりました。一方、僕自身が絶賛保活中なこともあり、それをテーマに以前からお付き合いのあった平凡社の編集者と話し合っていたところ連載に結びつき、「子どもと社会」や「子どもと家族」についてラフなエッセイを書いています。

アサダワタルさん
「福祉や保育などのジャンルに対しては、あまり論理や体裁に縛られないよう“頭ではなくハートで書く”ことも意識しています」とアサダさんは教えてくれた

論文はいかにロジックを組み立てるかの繰り返しですので、その後は現場経験があればどんなテーマでも書けるように訓練されたと思います。ただ論文を書いたことで、逆にロジックが固められないと文章が書けなくなってしまうという時期もしばらくありました。よくも悪くも論文を書いたことでできた凝り固まった部分と対峙せざるを得ない状況で、いまはその調整をしているところですね。

アプローチの手法や視点を変えながら、さまざまな場所でコミュニティーづくりに携わってきたアサダさん。後編では、最新の活動である「ラジオ下神白」の取り組みについてお話を伺った。

コミュニティーの「閉じ方」までを考える──アサダワタルさんインタビュー(後編)

アサダワタルさん

アサダワタル

文化活動家・アーティスト、博士(学術)。1979年大阪生まれ・東京在住。2002年、バンド「越後屋」のドラマーとして、くるり主宰レーベルより2枚のCDをリリースし解散。その後、紆余曲折を経て、大阪でNPO法人cocoroomや宗教法人應典院に勤めながら表現(アート)による独特なコミュニティ活動を展開。2009年に提唱したソーシャルコンセプト「住み開き」が話題となる。2010年、個人オフィス事編kotoami設立。表現を手立てに、全国で人々の多様な面を交換しあえる風通しのよいコミュニティづくりと執筆に勤しんでいる。主な著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『コミュニティ難民のススメ 表現と仕事のハザマにあること』(木楽舎)、『表現のたね』(モ*クシュラ)、 『アール・ブリュット アート 日本』(編著、平凡社)など。2016年に滋賀県立大学大学院環境科学研究科博士後期課程満期退学、同年より大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員。また、グループワークとしてドラムを担当するサウンドプロジェクト「SjQ/SjQ++」では、アルス・エレクトロニカ2013デジタル音楽部門準グランプリ受賞。


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