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ふつうの人たちが集まるところから「気づき」が生まれる
──最初の浦安や横浜のケースを見ると、現時点ですでに公開されているデータを元にしても、いろんなことができそうですね。
庄司 そうなんです。ないものねだりをするより「あるもの」を使うほうに力を入れたい。データ公開・利用のための法律や技術の問題はあるのですが、ワークショップやイベントで他の人と一緒にデータを囲み、社会的な課題に気づいたり、思いもよらなかった考え方に触れたりすることのほうが大切なのだと思います。
──そのプロセス自体に興味を持つことが、街づくりに参画するモチベーションになるかもしれません。
庄司 オバマ大統領の「透明性・参加・協働」という方針は段階的に進むのだと思います。情報を開示して、みんなが知ると、何かいいたい人が出てきて、参加が誘発され、そして組織的なコラボレーションへと発展していく。それがさまざまな場所で起こるようにするのがオープンガバメントの思想で、そのカギになるのがオープンデータなのです。
──横浜のWikipedia編集の事例もベビーカー調査隊も楽しそうですよね。そこがポイントで、「街づくりなんてめんどくさいよ」と思いがちだけれど、自分の生活と地続きでおもしろいかもしれない、という意識が芽生えてくれば──。
庄司 そうなると楽しくなるし、知ることで自分が住んでいる街を好きになるといいます。去年ベルリンに行ったのですが、市の誕生775周年ということで、775分の1の地図を地面に描き、歴史上の出来事が起きた場所に柱を立て、エピソードを紹介していました。実際に、その場所に行ってみると展示がある。行政のデータを「見える化」して街に展開し、アクションを引き出しているわけですが、街の成り立ちを振り返ってわかるのは、ベルリンは移民による多様性の都市である、ということ。このメッセージ性はすばらしいと思いました。
ベルリン市誕生775周年記念としてつくられた縮尺1/775の巨大地図
(出典 http://andberlin.com/2012/09/23/berlin-city-of-diversity-a-1775-scale-map-on-the-schlossplatz/)
今まで知らなかったことを「見える化」することで、新たな気づきが生まれ、行動が起きる。それは、エンジニアやアナリストだけではなく、ふつうの人たちが集まるところから始まるのかな、という気がします。街づくりにとって、それがいちばん大切なことですよね。
ICTは決して業務効率化のためだけのツールではない
──オープンデータを活用した街づくりが広がるには、どんな課題がありますか。
庄司 行政は、データを「出しているけれど使いにくい」という問題を解消する必要があります。まずはどんなデータを持っているか棚卸しして、どこに何があるか、カタログ化する。このへんは自治体によってまだ差があります。と同時にマインドも変えなければいけません。オープンにするリスクを考えるのではなく、オープンにしないことのほうが、この先まったく市民による参画も協働も得られなくなり、はるかにリスキーだと考えるようになってほしいですね。
──データを使いやすくするしくみについてはどうでしょう。
庄司 アイデアを絞り出す「アイデアソン」のような、街づくりに関心のある多様な人たちが集まってコラボするしかけは有効です。新たな発見や出会いがあり、気分が高揚して、満足感は高い。その際、アプリを開発するエンジニアも最初からメンバーに入れるなど、次の行動につなげる継続的な組織運営が必要です。震災後は、社会的な課題の解決にエンジニアとして貢献したい、という人も増えています。
オープンデータの利活用にICTは欠かせません。政治家や経営者など、社会の重要な部分を担っている方々にはぜひ、ICTを効率化のためのツールとだけ捉えるのではなく、ICTによって新しい価値を創造できる、と考えていただきたいです。「ICTエンジニアに、もっと街づくりで力を発揮してもらったら、すごいことができるかもしれない」という期待を持ってもらえるといいなと思いますね。