5名のカタリスト、その共通点は?
モデレーターを務めたのはグラフィックカタリスト・ビオトープ(GCB)のタムラカイ(通称・タムカイ)さんです。タムカイさんがGCBとして活動するに至った経緯は、以前あしたラボでご紹介したとおり。
さらにイベント当日は、GCBメンバー4名によるグラフィックレコーディングも行われ、リアルタイムで内容がまとめられていきました(イベント全体のグラフィックレコーディングは記事末をご覧ください)。
グラフィックカタリスト・ビオトープ(GCB)のタムラカイさん
タムカイさんの自己紹介のあとに、各所で”カタリスト的”な役割を担うゲスト登壇者4名が揃って壇上へ。第1部「突撃! 隣のカタリスト」(パネルディスカッション)最初のお題「いまの活動に至ったいちばんのきっかけは?」の回答とともに1人ずつ紹介していきましょう。
まず、この日のイベント会場「TECH LAB PAAK」の所長を務める岩本亜弓さんです。株式会社リクルートホールディングスが運営する「TECH LAB PAAK」は会員制コワーキングスペースであると同時に、社会課題解決に取り組むオープンイノベーション活動やスタートアップを支援するコミュニティーとして機能しています。
TECH LAB PAAK所長の岩本亜弓さん
岩本さんはリクルート入社後『ホットペッパービューティー』の営業・企画・戦略立案などに携わってきましたが、突然の人事異動でPAAK運営を担当することに……。「『ホットペーパービューティー』の仕事は大好きだった」ため、人事異動でR&D(研究開発)部門に配属されたときは、かなりの戸惑いも感じたそうですが「そこで経験を積むことで目の前のことを好きになれる人間になった」と振り返ります。その経験はPAAKに在籍する起業家・クリエイターの頼れる所長という、いまの活動につながっています。
続いては「ネットとリアルをつなぐ場所」をコンセプトに、トークイベント・音楽・お笑い・企業向けイベント・商品プロモーションイベント等を行うイッツ・コミュニケーションズ株式会社運営のイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」の河原あずさん。
「コミュニティー・アクセラレーター」の肩書きで活動する河原さんは「イベントの開催をゴールにするのではなく、人のつながりをブーストさせたい」と、自身のポリシーを伝えます。
東京カルチャーカルチャーの河原あずさん
そんな河原さんの活動の源泉は「スコット・ハイファマン氏(Meetup社CEO)と、伊藤園の『お〜いお茶』」。「スコットさんにニューヨークでインタビューする機会に恵まれたのですが、そのとき彼からミートアップはお祭り的イベントではなく”互助的なコミュニティー”であると教えられた。その後、伊藤園と共催したハッカソン『茶ッカソン』でスコットさんの言葉を実際に体感したんです」。
3人目はGCBの松本花澄さん。富士通デザイン株式会社でサービスデザイナー、UXデザイナーとして働く傍ら、社内外のコミュニティーに入り込みGCBメンバーとして活動しています。この日は、あしたラボでもお伝えした横浜病院の事例も活動動画とともに紹介されました。
グラフィックカタリスト・ビオトープ(GCB)の松本花澄さん
そんな松本さんのきっかけは「スケッチノートでのアイデア提案」。それまでは苦労しながら文字で伝えていたアイデアをイラストでみせることで、クライアントに意図どおりに考えが伝わり、大きく世界がひらけたそう。そのときあらためてカタリストとしての自分の役割を考えました」。「描かないと考えがまとまらない(笑)」という松本さんは、舞台上にもスケッチブック&ペンを持参。舞台上から即興のグラフィックを披露し、イベントを盛り上げました。
最後は株式会社HEART CATCH代表取締役の西村真里子さん。西村さんはこれまでIBM、Adobeでのエンジニア、マーケター等の活動と、株式会社バスキュールでのプロデューサー業を経て、株式会社HEART CATCHを設立しています。現在は「分野を越境するプロデューサー」として、ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーのリソースをつなぎ合わせながら、企業等へ適切なチームとソリューションを提供する、そんな企業・スタートアップのイノベーション支援を主たる活動としています。
株式会社HEART CATCH代表取締役の西村真里子さん
自身を「ポリネーター(編集部注:花粉の媒介者)」と自称する西村さんは「ユーザーが何を求めているのか突き詰めて考えれば、(会社が予算を充ててくれないとか)会社の都合は全然関係なく、自費を使ってでも何をしてでもやり遂げなければいけない。会社員時代のあるとき、そんなルール破り=”越境する快感”を味わいました」とエピソードを紹介しました。
ミッションは「虐殺されたモーツァルトを増やさない」(西村さん)
イベントのキーワードである「カタリスト」を直訳すると「触媒」。動機・きっかけ・活動内容は千差万別ですが、登壇者の5名に共通するのは、たんなる調整役ではなく「ものごとの間に入り、(人や場を)触発し、(人・場・コミュニティー)そのものを活性化する」──そんな役割を担う立場にあるという点です。
ではそんなカタリストたちは、どんなミッションを胸に秘めて活動しているのでしょうか? パネルディスカッション「どんな世界を描きたい?」のお題で西村さんは「虐殺されたモーツァルトをこれ以上増やさない」と回答しました。
「私の大好きなアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説『人間の土地』の一節です」と語る西村さん
「人は皆、生まれたときにモーツァルトのようにすばらしい才能を持っているけれど、社会のしがらみに揉まれているうちに、勝手にルールをつくって自分の可能性を閉ざしてしまう。サン=テグジュペリはそれを”虐殺されたモーツァルト”と表現しました」(西村さん)
人の可能性を見つける、あるいは、拡張させることもまた、カタリストの役割と言えるのでしょう。河原さんも西村さんに近い考えを提示しました。河原さんの回答は「オープンマインド×ダイバーシティ=セレンディピティ」。
みずからのミッションを語る河原さん。「セレンディピティ」をあえて日本語訳すれば「偶発的な出会いから生まれる新たな発見」といった意味になる
河原さんは「『この瞬間のこれって、他の場所だと絶対にできないことだよね』と言ってもらえるような出会い・気づきを提供することが、イベントでファシリテーター役をやるときに心がけていること」と話します。
他の登壇者の回答は「世界の創造性のレベルを1つ上げたい」(タムカイさん)、「愛は自信、だと言える世のなかに」(岩本さん:写真上)、「その人たちが”大事にしたいこと”を対話しながら、グラフィックを通じて次のステップへ進めるように」(松本さん:写真下)
あなたの被カタリスト体験は?
続くお題は「カタリストにとっての被カタリスト体験」。ある人のこんな一言、こんな行動──。「たとえば、いわゆる恩師って自分にとってはカタリストだったりしませんか?」(タムカイさん)。
第2部「カタリスト語ラナイト」では、「被カタリスト体験」のお題のもとで、イベント参加者を巻き込んだワークへ発展しました。イベント参加者はタムカイさんに教えてもらったエモグラフィを駆使しながら4人1組のグループをつくり、お互いの被カタリスト経験をシェアします。
ワークの様子。登壇したカタリストたちはイベント参加者に混じって、場を盛り上げていた
参加者にはどのような被カタリスト体験があったのでしょうか?
「直属の幹部社員がすごく変なあだ名を付けるのが好きな方なんですが(笑)、イメージしやすいあだ名によって会話の輪が広がる。改めて考えるとその方は輪をつくる力があると思いました」
「会社の後輩からの『やっちゃいましょうよ!』の言葉。その後輩にそそのかされて同僚と自前の焼き芋イベントをやることになり、僕が幹事になりました。でも焼き芋機をレンタルしたりしているうちに原価がかさんで1個2,000円の焼き芋に。楽しかったし、後悔はまったくしていません(笑)」
「海外に転勤することになり、私の送別会をやってもらいました。それまでの仕事の成果に必ずしも自信を持てずにいたけれど、ずっと怖いと思っていた上司に『お前ともっと仕事をしたかったのに』と言葉をかけられ、自分は間違っていなかったんだ、と思いました」
グラフィックレコーディングにまとめられた、参加者たちの被カタリスト経験
「うれしかった!」を語り合える場が日常を変えていく
第3部「まな板の上のカタリスト」では、ゲスト登壇者への質疑応答があり、この日のイベントは終了。イベント参加者は最後に、エモグラフィで「今日感じた一言」をふせんに描き、会場のグラフィックレコーディングに貼り付けました。グラフィックレコーディング自体が参加者の想いを引き出す触媒(カタリスト)となり、イベント終了後のネットワーキングの場での対話も拡がりました。
「誰かにされて『うれしかった!』と思える瞬間を皆さん同士で共有し見えてきたことは、きっと明日からの自分の活動のなかに取り入れられるものだと思います」とはタムカイさんの弁。さらにイベントのグラレコを担当したGCBメンバーの1人は、登壇者&イベント参加者に向け、こんなフィードバックを発信しました。
「第2部で皆さんが『あれがよかったんだよね……』って語り合う様子がとても素敵でした。そうして『被カタリスト体験』を思い出し、かつ、語り合うことのできる場が日常のなかにもあれば、社会をよりよくするという活動につながっていくのではないでしょうか」
ものごとの間に入り、人や場を触発し、人や場、コミュニティーそのものを活性化するカタリスト的な役割。タムカイさんやこの日の登壇者のみならず、きっと誰もが日常的な関係性のなかで、同じ役割を担えるはずです。
第1部「突撃! 隣のカタリスト」(パネルディスカッション)
第2部「カタリスト語ラナイト」(ワークショップ)
第3部「まな板の上のカタリスト」(質疑応答)