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社会課題は市場のなかでこそ解決される!?──京都産業⼤学経営学部教授 ⼤室悦賀さんインタビュー(後編)

2018年03月07日



社会課題は市場のなかでこそ解決される!?──京都産業⼤学経営学部教授 ⼤室悦賀さんインタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
「京都で社会課題の解決に挑戦することで、過度の効率性や競争原理とは異なる価値観を日本はもとより、世界にも広める」ことを目的とした京都市ソーシャル・イノベーション・クラスター構想。その構想を実現させるための組織である京都市ソーシャルイノベーション研究所「SILK」を拠点に、京都市でのイノベーション創出に注力している京都産業⼤学経営学部教授 ⼤室悦賀さん。後編では「京都から日本を元気にしたいと考える起業家が主役」というSILKの活動について、そして日本企業がイノベーション創出を実現するために持つべき視座について、お話を伺った。

「社会課題を生まない経営」サステイナブル・カンパニーの考え⽅──京都産業⼤学経営学部教授 ⼤室悦賀さんインタビュー(前編)

京都で動き出したソーシャルイノベーション研究所

──京都市ソーシャルイノベーション研究所「SILK」が実現を目指す、京都市ソーシャル・イノベーション・クラスター構想。その目的は「京都で社会的課題の解決に挑戦することで、過度の効率性や競争原理とは異なる価値観を日本はもとより、世界にも広める」とあります。具体的にいま京都で、どのような活動が起こっているのでしょうか?

大室 最近だと「食」に関する動きが京都で活発になっています。先ほど(前編)のイメージでいえば、これが新たな「立て板」として加わってきているという感じでしょうか。

ご存じのとおり、京都は海外観光客にも人気のエリアです。なかでもヨーロッパ系の観光客が多いのですが、飲食店などが観光客を呼び込むにしても、オーガニックフードやエシカルフードでないと彼らを呼び込めなくなっています。つまり「社会性」をもった事業をはじめる、という以前に京都ではオーガニックフードじゃないとそもそも「市場」にすらならないのです。しかし「社会課題を市場に出して解決する」という観点で、実はこれが大きなポイントなんです。

──「市場に出して」とはどういう意味でしょうか?

大室 オープンイノベーションは”ハコ”のなかで起こるのではなく、人が生活する”まち”のなかで起こるものです。市場の原理、企業の原理、消費者の原理を意識しながら取り組まなければいけません。これら複合的な交差点のなかでイノベーションは起こる、私はそう考えています。

たとえば食に関しては、京都市が主催するかたちで「素材から学ぶくらしの学校」をSILKが企画・運営しています。京都のまちなかにある実際の店舗を、小学生や中学生がめぐり、つくり手ととも商品が生まれるまでのストーリーを体感してもらうという内容です。子どもたちもオーガニックフードを食べて「おいしい!」と感動している。

継続していけば、新たな参入者が勝手にそこから学んでいき、その市場が当たり前のことになっていく。自分が食べたいものを食べ、自分が楽しいと思うことをしていたとしても、それが社会課題解決につながる社会システムになっていればいいのです。市場というものをいかに使うか、ということをSILKでは常に考えています。

素材から学ぶくらしの学校
「素材から学ぶくらしの学校」は京都市内で2日間にわたって開催された(Photo by Sayaka Mochizuki)

“芸術思考”は未来からのバックキャスティング

──「若手起業家の育成」「社会的起業家の輩出」の動きとして、イノベーターを生み出すためにSILKのプログラムではどんなことを教えているのでしょうか?

大室 たとえばイノベーション・キュレーター塾のなかでは「芸術思考」と「デザイン思考」を教えています。「デザイン思考」は問題解決のための具体的な思考法です。「芸術思考」は、端的にいえばその前段階において「大枠をとらえる能力を持つ」ということ。プロのカメラマンさんを例に説明すると、カメラマンが捉える景色は、具象から抽象までありますよね。自分が収めたいのは具象なのか、あるいは抽象なのか、それともそのグラデーションの間なのか──まずはその大枠を決める必要があります。この部分が芸術思考です。そのあと、具体化する段階で、カメラマンなら繰り返しシャッターを切り続ける。この「シャッターを切る」というプロセスが、デザイン思考です。

これまではデザイン思考と芸術思考が混在していましたが、芸術思考とは未来からのバックキャスティングであり、「つくりたい未来は何か」という問いかけです。多くの人は「未来をどう描きたいのか」と問われれば、きっと自分1人だけがいる未来は描きません。まちのこと、国のこと、身近なコミュニティーのことを描くでしょう。

⼤室悦賀さん
「SILKのプログラムでは『未来をどう描きたいのか』を考える”芸術思考”を教えている」と大室さん

──企業が理念・哲学を立ち位置にしなければ、二項対立(経済性と社会性)を統合できない、という先ほどのお話(前編参照)にも通じる部分がありますね。

大室 多様なプレイヤーが入り交じらなければいけない「オープンイノベーション2.0」の時代を考えるにしても、企業が私的利益だけではなく、社会的利益を追求していないとステークホルダーは参加してくれません。そう考えていくと、社会的課題を解決していくソーシャルビジネスは特定のプレイヤーの専売特許になるのではなく、一般的な企業ができるものです。もっといえば、それをすべての企業がやらなければならなくなる。本当にそうなれば、社会課題が日本から、そして世界からなくなる可能性があります。

オープンイノベーションに向けた日本企業の問題点

──京都の未来のイノベーターたちを考えるうえで、京都という土地柄に何か特性のようなものはありますか?

大室 京都は基本的に東京があまり好きではない、だから東京のマネは絶対にしない(笑)。東京の価値観と自分たちの価値観は違うということにプライドを持っているので、私たちもそこを活かして活動しています。それに、京都は伝統と革新が1000年続いている土地柄です。伝統やよいもの受け継いでいくには守るところと変えるところの両方が必要なので、変化にポジティブな気質があります。また、よそからやってきた人たちを巻き込んでいける力があります。変化するところと守るべきところの区別がはっきりとしているように感じます。

特に京都には大学もたくさんあって、研究者もたくさんいる。彼らでさえも京都の人は、うまく使いこなしてしまいます。そういう意味で、東京と違う価値観を持ち込んで、変化させるべきところを変化させるということに、とてもポジティブな土地柄です。

──日本国内では「オープンイノベーション」的な動きが海外に比べて停滞しているなか、特に企業が具体的にどのような行動をとるべきか、大室さんのお考えを教えていただけますか?

大室 従業員に対して、人が人らしく生きることを許容することです。その人が自分らしい生き方をできるように──。

副業解禁という流れも、その1つといえるかもしれません。要は、今まで会社のなかに缶詰めにされていた人が”社会”に出ていけば、社会で何が起こっているかを感じとって、会社にまた帰ってくるでしょう。それがビジネスの種になります。その社員にとっては自分ができることのなかで社会に貢献できることは何かということを考え、行動しているだけ。負担感を強いることもありません。しかも企業にとってはその種が本業に結びついていく。

日本の教育で一番の問題は「生きる」ということを考えさせてこなかったことだと思います。つまりは、哲学。自分はどういうふうに生きれば成長していけるのか、その考え方を知らない。では、どうしたら哲学をみつけることができるのか。まず自分自身を内観し、こだわりを顕在化し、ベース、ルーツとなるものを発見する。そうして、”自分らしさ”を捉えていくことによって哲学らしきものが見えてきます。

実は京都のもう1つの特徴は「群れない」ことだとも感じています。群れないということは、1人で自分と向き合えるということ。自分らしい生き方を知っているから、群れる必要がないんです。個人がきちんと自立し、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮することが、イノベーションの源泉だと思っています。

たとえば、最高のサッカーチームでは、チームメイトに合わせて力を調整するということはしません。最高のパスから最高のシュートが生まれ、ゴールに繋がるのです。まず個の力ありき、というのが優れたチームだと思っています。

⼤室悦賀さん
大室さんいわく「相手に合わせて力を調整するのではなく、それぞれが最高のパフォーマンスをするチームが世界で勝つ」

──副業解禁といった事象のほか、オープンイノベーションのための「場」や「コミュニティー」をつくる企業も最近は出てきています。

大室 とても重要なポイントは「オープンイノベーションだ!」といってハコ(施設)だけをつくっても、決して成果は上がらないということでしょう。なぜならば大企業のつくるハコは、同質な人しか集まらない傾向にあるから。ダイバーシティはイノベーションの必要条件です。その企業の社員・関係者だけしか集まらないのでは、本当のダイバーシティではありませんし、イノベーションは起こせません。ここでのポイントは、自分の哲学を持っていない人がどんなに集まっても、多様性は担保できない。現在の多くの施設はその様な哲学を持った人が集まっていない事が問題です。

規範的に多様であるだけではいけなくて、違う人がいることで違う自分が見える、同じモノゴトを見るにしても多様な人が多面的に捉えることで立体物に見えてくる──そうした場を多くの日本企業が創出できていないのが、実状だと思います。

もう1つ、企業の組織構造ということでいえば、やはりヒエラルキーを壊さないといけない。とりわけ大企業では、経営トップはわりあいそのことをわかっているけれど、中間層にいる部長クラスなどがリスクをとりたくなくて、部下の説得もできない人が多い。小集団のなかで意思決定をできるような組織構造をつくらないと、これからの企業はスピード感を生み出せないのではないでしょうか。

現場の若手が意思決定できるように、企業も無駄な稟議などは極力なくして、ユニットごとに判断をくだせるしくみが必要でしょう。そうでなければ、若手のトップ層ほど離れていってしまうのではないでしょうか。

最近は20代の若者には弾けている人が多いように感じますし、彼らはやりたいことや自分のライフスタイルも持ちはじめている。そのままどんどん活躍してほしいと思っています。

私自身、「若手を育てる」という方向の新たな取り組みとして2018年4月から開学する長野県立大学に「ソーシャル・イノベーション創出センター」を設立します。これは、SILKの大学版とも言える取り組みで、学生時代から地域の人々の声を聞き、ビジネスで地域を動かしていくという活動ができる環境です。こういった取り組みは公立大学でははじめて。今まで以上にイノベーションを生み出す若者を育てていきたい。

これからのビジネスで大事なのは、「いかに社会を活用するか」ということ。長野では県レベルで連携していきます。行政との連携を活かして、ビジネスとして公共サービスを提供する「ビジネスルールで動く市役所」を実現したい。

「社会課題を生まない経営」サステイナブル・カンパニーの考え⽅──京都産業⼤学経営学部教授 ⼤室悦賀さんインタビュー(前編)

大室悦賀(おおむろ・のぶよし)

1961年東京都府中市生まれ。京都産業大学経営学部教授。京都市ソーシャルイノベーション研究所所長。一橋大学大学院商学研究科博士後期課程満期退学。1985年東京都府中市入職、2007年京都産業大学経営学部専任講師、同准教授を経て、2015年から現職。社会課題を解決するソーシャルイノベーション領域を専門としている。単著に『サステイナブル・カンパニー』(学芸出版,2016年)。共著に『ソーシャルビジネス 地域の課題をビジネスで解決する』(中央経済社、2011年)、『ソーシャル・イノベーションの創出と普及』(NTT出版、2013年)。


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