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「よそ者」の存在が地域を鼓舞し、「地域」を再生する──田中輝美さんインタビュー(後編)

2018年03月12日



「よそ者」の存在が地域を鼓舞し、「地域」を再生する──田中輝美さんインタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
興味・関心に応じて地域と多様に関わる人たちを指す「関係人口」。地域との関係性が多様化するなか、地域との関わりの入り口を低く、段階的に設定し、地域づくりに生かしていこうというこの試みを具体的にどのように活かしていけるのか。しまコトアカデミーなどで実践を続けるローカルジャーナリストの田中輝美さんに、地域と関わりをもつためにどのような一歩を踏み出せばよいかヒントをもらった。後編をお届けする。

自分なりのやり方で地域と関わるには? 地域との関わりを「関係人口」から考える──田中輝美さんインタビュー(前編)

地域と自分の「かかわりしろ」を見つけるには?

──必ずしも生まれ故郷ではないけれど帰って行ける”ふるさと”を求めている人たち、離れていても地域と何かしらの関わりをもちたい人たちにきっかけを提供して「関係人口」を増やすには、どうしたらよいのでしょう。

田中 「関係案内所」のようなきっかけがあればいいなと思います。案内所といっても、観光案内所のような箱物ではありません。コミュニティーとほぼイコールと考えてもらったらいいでしょう。そこで自分の興味・関心のある分野や役に立てる分野と、地域で求められていること、この2つを重ね合わせる作業を行う。そうやって重なり合った「かかわりしろ」が見つかれば長続きします。

田中輝美さん
ローカルジャーナリスト 田中輝美さん

“自分はこれをしたい、地域はこれをすべきである”と自分の考えをただ押しつけても、逆に“お役に立つことが喜びです、すべて言う通りにします”と地域の要望をそのまま安易に受け入れて従うだけでも、どちらもうまくいきません。窓口になって「かかわりしろ」の発見を促し、地域の人とつなぐコミュニティーとしての役割が「関係案内所」だと考えています。

──関係案内所のような場所、コミュニティーは今の日本にありますか。

田中 そう名乗ってはいませんが、島根県主催で東京在住者を対象にした「しまことアカデミー」が成功例の1つといえます。「知る・学ぶ」「体験する」「自分ごとに落とし込みプランにまとめる」の3ステップのプログラムです。

しまことアカデミーの様子
しまことアカデミーの様子(写真提供:田中輝美さん)

スタートして6年で83人が受講し、アンケートでは東京にいながら活動しているのが33%、島根に移住して活動しているのが25%でした。

ここは強調しておきたいと思いますが、移住・定住を目的に掲げたプログラムではありません。移住をしてもらう目的ではなく、結果として移住者が増えたことが重要です。

──「かかわりしろ」は見つかるものなんですね。

田中 はい、半年のしまコトアカデミーの期間を通して、受講生は何かしら見つけることができています。自分なんてたいしたスキルはない、とおっしゃる方もいますが、けっしてそんなことはありません。人口減少に直面している島根の地域は、困りごとだらけですし、マッチング次第ではないでしょうか。

先ほどのアンケートでの東京で活動している具体例として、お試しプチ移住、2拠点居住、同じ地方が好きになり何度も通う、地方でイベントを開催、地方での連続講座を遠隔で受講、東京にいながら地方の企業と仕事、地方企業の東京支社で働く、地方の特産品を東京で味わう会を主催……など「関係人口」が増えたといえる事例がたくさんあります。

──「しまことアカデミー」にはどんな人たちが参加するのですか。

田中 わたしが見たところ3パターンに分類されると考えています。

第1に、前編でも述べたような、“ただいま、おかえり”のあったかい関係を渇望している「ふるさと難民」。第2に、いつかは出身地や縁のある土地に帰りたいと思っている「ゆくゆくは島根系」。第3に、地方に関心があったり、明確な意思があるわけではなく“このままでいいのだろうか……”と何となく先行きの人生に迷っている「もやっとピープル」。これは受講生の1人が言い出したもので、うまい表現なので私も使わせてもらっています。

きっかけや動機は何でもいいと思います。そういう多様な人たちを受け入れる間口の広さ、ゆるさが大切だと感じます。

よそものに勇気をもらい、地域の人たちが活力を取り戻す

──確かに、移住・定住者数を増やすことが最終目標だと、減っていく一方の総人口を地域間で奪い合いすることになり、不毛な競争かもしれません。では「関係人口」の場合、どんな成果指標が考えられるのでしょうか。

田中 それは、わたし自身の課題だと考えています。大学院の修士から博士課程に進み、さらに関係人口について研究を行う予定ですが、課題の1つが成果指標をどうするか、です。

実際、各地で講演しても、よく質問されます。さまざまな考えがあると思いますが、前提として共有しておきたいのは、地域再生は何が再生されたらゴールなのかという問題です。わたしは「人の心が再生される」ことだと思っています。

学術的にも先行研究で特に過疎地域の課題として指摘されていたのは、初期にはインフラ整備や経済格差でしたが、時代を追うにつれ住んでいる人の「心の荒廃」や「誇りの空洞化」だとされています。「こんなところには何もないし、つまらない」と地域の人が自分の地域を諦めてしまうんですね。何もない地域なんてないし、やり方しだいでどこだっておもしろいのに。

田中輝美さん
「地域再生でもっとも怖いことは、地域を諦めてしまうこと」と田中さんは話す

修士論文で取り上げた海士町や江津市でも「人の心」が再生されていました。諦めることなく、自分たちの手で課題を解決し、挑戦し続けていこうと。

これはまだ仮説ですが、関係人口が増えて何が変わるかといえば、やはり地域の住民の心なのではないかと。よそものに勇気をもらい、やる気や元気を取り戻す。それが成果だと考えています。

──「交流人口」というのはよく使われる言葉ですが、よそものが地域と「交流」するだけではダメなのでしょうか。

田中 たとえば地域でイベントがあるとします。今までの「交流人口」は、地域の人が整えてくれた“おもてなし”の土俵に乗って、おもてなしをされる人になりがちでした。おもてなしをする地域の人たちばかりが頑張りすぎてしまい、“交流疲れ”を感じてしまうという現象も報告されています。

それに対して「関係人口」のポイントは「対等な関係」「仲間」だと考えています。

先ほどのイベントなら、“お客さま”としてもてなされるのではなく、企画から参加したり、当日は運営を手伝ったりします。一緒にそのイベントをつくる対等な「仲間」です。

地域の食材を出す店やアンテナショップを入口に

──田中さんのいう「ふるさと難民」や「もやっとピープル」かもしれない、都会で働くビジネスパースンが、どこかの地域に関わりたいと思ったとき、とりあえずの一歩を踏み出すきっかけになるのは、どんなことでしょう?

田中 都内で地域の食材を売りにしている飲食店に行ってお店の人に話しかけてみたり、地域のアンテナショップを訪ねてみたり、「食」を入口にするのはいいかもしれません。

特産品を買い続けるだけでも立派な応援になります。もう一歩進むなら、ゲストハウスや民泊を利用する旅で、地域の人たちと触れ合う機会をもつこと。まずは人とつながることがきっかけになるのではないでしょうか。

田中輝美さん
「週末住人の家」のある鳥取県用瀬町

このメディアでも取材されたそうですが、たとえば鳥取市用瀬町の「もちがせコミュニティまちづくり」が提供している”体験型民泊”「週末住人の家」に参加してみるとか。用瀬では“よそもの”の学生と地元の有志が一緒に事務局を運営していて、関係人口づくりをうまく実践している地域としても興味深いです。

──移住・定住は目的ではなく結果。目的は、地域に愛着をもち多様な関係をもつ人たちを増やすこと。それは地域に理解されるようになったか、どのような感触を持っていますか。

田中 そうですね、正直に言うと、なかなか難しいのだなと感じているところです。関係人口を増やしていけば結果として移住・定住者も増える……とお話はするのですが、移住・定住は目的ではなく結果だということはとてもわかりにくい。そして、対等な関係であるということも、なかなか簡単ではないのだなと、感じることも最近多いです。

関係人口というあり方は、生まれたばかりです。だから仕方がない部分もありますが、地域にとっても関わる人にとってもよりハッピーなものになるためには、もっと定義や多様なあり方を研究して言語化することが必要だと感じています。当面のわたしのミッションとして取り組んでいきたいと思います。

自分なりのやり方で地域と関わるには? 地域との関わりを「関係人口」から考える──田中輝美さんインタビュー(前編)

田中輝美(たなか・てるみ)

ローカルジャーナリスト


島根県浜田市生まれ。大阪大学文学部卒業後、山陰中央新報社で記者をしながら地域で働く喜びに目覚める。2014年退社し、独立。著書に『関係人口をつくる──定住でも交流でもないローカルイノベーション』(木楽舎)『ローカル鉄道という希望−新しい地域再生、はじまる』(河出書房新社)など。2017年大阪大学人間科学研究科修士課程修了。一般社団法人日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)の運営委員も務める。


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