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人生を切り拓く「性格スキル」とは──慶應義塾大学 鶴光太郎さんインタビュー(前編)

2018年06月06日



人生を切り拓く「性格スキル」とは──慶應義塾大学 鶴光太郎さんインタビュー(前編) | あしたのコミュニティーラボ
人生100年時代といわれる一方、社会の変化がめまぐるしく、身につけた知識や技能が陳腐化するスピードも速い。そのため、現代人には長い一生をとおして学び続けることが求められる。では、人生を切り拓くためにいちばん大事なスキルとはなにか。

心理学と経済学を架橋する最新の研究では、学力やIQなどの「認知能力」以上に「非認知能力」すなわち「性格スキル」が、職業人生の成功を左右することがわかってきた。慶應義塾大学で雇用や労働を研究する鶴光太郎さんに「性格スキル」の大切さについてきいた。前後編でお届けする。

「性格スキル」を成長させる社会人の学びを考える──慶應義塾大学 鶴光太郎さんインタビュー(後編)

AIで代替できない人間の本質的な能力

──比較制度分析などの経済学を専門とする鶴先生が、学力テストなどで定量的に測れる知能である「認知能力」よりも、テストでは測れない性格的な特徴に関係する「非認知能力」(性格スキル)を重視されているのはなぜですか。

 日本の経済システムを研究するなかで、ここ10年は雇用や労働について考えてきました。そして、突き詰めていくと結局のところ、人的資本や人材育成の問題に行き着いたわけです。そんななか、職業人生のなかで決め手になる能力は何かといえば、学力やIQや知識などの「認知能力」以上に、個人的な性格の特徴に関係する「非認知能力」が重要ではないか、と思うようになりました。

鶴 光太郎さん
慶應義塾大学大学院商学研究科教授 鶴 光太郎さん

学校の成績だけで人生の成功は決まらないことは多くの人が抱く実感ですが、現にそれを裏付ける実証研究も出ています。2000年にノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授は非認知能力を「性格スキル」と呼びかえ、学歴を問わず性格スキルと賃金のあいだに正の相関関係を見出しました。

性格スキルが高いと認知能力も伸びやすいが、その逆は明らかではないことも彼は強調しています。また、認知能力のなかにはAIに置き換わるものもでてくるかもしれませんが、性格スキルはAIに代替されない人間の本質的な能力といえるでしょう。

──そもそも「性格スキル」とは、どのような能力を指すのですか。

 心理学では、非認知能力は5つの因子(ビッグ・ファイブ)に分解できることがコンセンサスとして確立しています。ビッグ・ファイブとは「開放性」(Openness)「真面目さ」(Conscientiousness)「外向性」(Extraversion)「協調性」(agreeableness)「精神的安定性」(Emotional Stability)。

性格スキルのビッグ・ファイブ
性格スキルのビッグ・ファイブ Heckman and Kautz(2013)をもとに編集部にて作成

これらは、性格的な特徴に関係する能力を、よりきめ細かく定義するための「緯度」と「経度」のようなもの。つまり、どんな性格でもこの5つの尺度の組み合わせで示すことができる、いちばん根元的な因子というわけです。

性格の因子に関しては多種多様な分類が提起されていますが、ビッグ・ファイブが最も適切かつ簡潔な組み合わせであることは、私たちの実感に照らしても納得がいくのではないでしょうか。

仕事の成果に最も関係する性格スキルは?

──定量的に測れない性格スキルを研究ではどうやって可視化するのですか。

 ビッグ・ファイブの各々の因子に関係する、多種多様な質問項目を設定したアンケートを用います。たとえば「仕事を投げやりにしてしまうことがある」「誰に対しても優しく親切に振る舞う」「思慮深いほうだと思う」といった質問です。それに対して、どの程度当てはまるか解答する形式になっています。

「そんなことで本当にわかるのか?」とよくきかれるのですが、心理学ではかなり研究が進んで方法も確立しており、どの要因がどんなふうに性格スキルに影響を与えているかが、明確に出ます。

鶴 光太郎さん
「心理学で培われた、アンケートを用いた研究手法によって性格スキルは可視化できる」と鶴さんは話す

──ビッグ・ファイブが仕事のパフォーマンスにどのような影響を与えるかについては、なにか実証研究のエビデンスが出ていますか。

 仕事の業績や生産性の評価とビッグ・ファイブの関係については、これまで多くの研究が行われてきました。それらを総合的に評価すると、あらゆる職業において「真面目さ」が仕事の成果を決める因子として最も重要であることがわかっています。

続いて「外向性」「精神的安定性」「協調性」「開放性」の順に、職種によっては仕事のパフォーマンスとの関係が強い、という結果です。

──「真面目さ」というのは、もう少し解きほぐすと、どのような資質ですか。

 一般的に「真面目な人」と聞けば「誠実で嘘をつかない人」「四角四面でふざけるのが嫌いな人」といったイメージを抱きますが、ビッグ・ファイブでいう「真面目さ」は、そういうことではありません。

「真面目さ」とは、計画的で責任感があり勤勉な性向を示すもので、その一面を示すキーワードとしては「自己規律、忍耐、根性、熟慮、達成努力」などが挙げられるでしょう。ひとことでいうのは難しいので、私は「野心を持ち目標に向かって自分を律しながら、どんな困難があっても粘り強く責任感を持って努力していく資質」と表現しています。

性格スキルは大人になってからも伸ばせるのか

──性格スキルが個人の性格的な資質に起因する能力だとすると、子どものころの環境や教育によって決まってしまうものですか。それとも、大人になってからも伸ばせるビッグ・ファイブがあるのでしょうか。

 これに関しても興味深いエビデンスが出ています。イリノイ大学のブレント・ロバーツ教授らの研究によると、「真面目さ」は、人生を通じて伸び続けるばかりか、10代の伸びよりもむしろ、20〜30代の伸びの方が大きいのです。

性格スキルのビッグ・ファイブ
 Roberts,Walthon, and Viechtbauer(2006)をもとに編集部にて作成

「協調性」や「精神的安定性」も、大人になってからの “伸びしろ”が大きく、逆に好奇心や想像力の源となる「開放性」と、「外向性」のうちの「社会的バイタリティ」(一人を好まず群れたがる性向)は10代では伸びますが、後の人生では低下しています。

──仕事のパフォーマンスに最も影響する「真面目さ」が長い人生を通じて伸ばせるというのは意外で、とても勇気づけられることです。

 性格スキルを構成するビッグ・ファイブには、幼児教育や学校教育、家庭環境などによってある程度決まる要素もあります。たとえば「開放性」の一面を示す「審美眼」などは、子どものうちから美術に親しむなどして養われないと、大人になってから伸ばそうと思っても難しい。

しかし多くの性格スキルは大人になってからも十分に伸ばせます。社会人として鍛えられたり、転職して新しい環境に身を置いたときなど、たとえば人見知りだったのが積極的に話せるようになるなど、自分でも性格が変わったな、と思ったことがある人は意外に多いものです。

後編では、大人になってからも“伸びしろ”の大きい性格スキルである「真面目さ」を伸ばすにはどうすればよいのかを鶴先生にきく。

「性格スキル」を成長させる社会人の学びを考える──慶應義塾大学 鶴光太郎さんインタビュー(後編)へ続く

鶴 光太郎(つる・こうたろう)

慶應義塾大学大学院商学研究科教授
1960年東京生まれ。1984年東京大学理学部数学科卒業。オックスフォード大学D.Phil.(経済学博士)。経済企画庁調査局内国調査第一課課長補佐、OECD経済局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員を経て、2012年より現職。経済産業研究所プログラムディレクターを兼務。内閣府規制改革会議委員(雇用ワーキンググループ座長)(2013〜2016年)などを歴任。主な著書に『性格スキル――人生を決める5つの能力』 (祥伝社新書)、『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社)などがある。


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