Opinions
各界の専門分野を持つ有識者の方々から、社会を変えるイノベーションのヒントを学びます。

「性格スキル」を成長させる社会人の学びを考える──慶應義塾大学 鶴光太郎さんインタビュー(後編)

2018年06月06日



「性格スキル」を成長させる社会人の学びを考える──慶應義塾大学 鶴光太郎さんインタビュー(後編) | あしたのコミュニティーラボ
学力や知識など、テストで測れる「認知能力」は社会の変化にともない陳腐化したり、AIに取って替わられたりする可能性も高い。むしろ性格的な特質に起因する「非認知能力」すなわち「性格スキル」こそ、長い職業人生を通じて最も仕事のパフォーマンスに影響する。しかもそのうちのいくつかの因子は、成人になってからも伸ばすことができる。では、社会人が企業のなかで学び、性格スキルを鍛えるにはどうすればよいか。前編に続き鶴光太郎さんにヒントを貰う。

人生を切り拓く「性格スキル」とは──慶應義塾大学 鶴光太郎さんインタビュー(前編)

意欲の源泉は「何のために仕事をするのか」

──性格スキルを構成する因子の「ビッグ・ファイブ」のうち、生涯を通じて伸ばすことができ、かつ職業人生に最も影響するのは「真面目さ」(鶴先生の定義によれば「野心を持ち目標に向かって自分を律しながら、どんな困難があっても粘り強く責任感を持って努力していく資質」)である、というのが前編のお話でした。それを伸ばすための「意欲」をどう喚起するか、という問題についてはいかがでしょう?

 賃金や昇進などの報酬システムによってインセンティブやモチベーションを与える。経済学では「意欲」をそうした文脈でとらえますが、これは「放っておくと人間はサボる」という性悪説に基づいた発想といえなくもありません。人間にはもっと内発的・自発的なインセンティブやモチベーションがあるはずです。

そこで重要なキーワードは「成長」。自分がどれだけステップアップできるか。今の自分の立ち位置がどこなのかわからなければ、どれだけ成長したかもわかりません。

鶴 光太郎さん
慶應義塾大学大学院商学研究科教授 鶴 光太郎さん

変なプライドにとらわれたり、過大評価したりせず、今の自分を素直に見つめること。それができる人ほど、成長の可能性が高いような気がします。

日本経済新聞に各界の著名人が人生を振り返る「私の履歴書」という連載があります。読んでいて面白いのは、かっこいい自慢話ではなく、かっこ悪い失敗の話です。本当は失敗経験など隠しておきたいはずですが、あけすけに語る人は、むしろかっこ悪い失敗こそ自分を成長させた、という自負があるのでしょう。

人生は日々かっこ悪いことの連続で、かっこいいことなどたまにしかありません。しかしそれをやり続けることこそ「真面目さ」ではないでしょうか。なので「意欲」について考えるなら、あまりかっこよく捉えすぎないほうがいいと思います。

──それはどうしてですか?

 私が気になるのは、往々にして、企業のなかでも、見るからにやる気満々で意欲にあふれた、ともすれば“意識高い系”と呼ばれるような人たち。彼らは意欲は高いのですが、いつのまにか本来の目的とはずれた、なにか違う方向に行ってしまうおそれもあるからです。

スウェーデン軍の兵士を対象とした性格スキルに関する研究があるのですが、それによると、興味深いことに、「兵役に対する高いモチベーション、やる気があること」は、兵役に必要な資質とはみなされていません。

兵士が不安を乗り越えて戦い続けるのは、相手に対する強い敵愾心(てきがいしん)ではなく、仲間を失いたくない気持ちがあるから、というのです。つまり、どんなに意欲が強くても、何のためにやっているのか、その目的がずれてしまうと、悪い方向に行きかねません。

鶴 光太郎さん
「目的なき“意欲”には負の側面もある」と鶴さんは話す

──すると鍵になるのは何のために仕事をするのか、という「目的」ですね。

 そのために重要なのが、企業の目指すミッション。Google、Facebook、Amazonなどアメリカのスーパースター企業は、どこも例外なく非常にわかりやすい言葉でいくつかのミッションを掲げています。もちろん企業活動の目的は収益最大化です。しかし、どのような価値の実現を通じてそれを目指すのか、というミッションが明確でない企業は、結局のところ収益も最大化できません。

そして、企業のなかで多様な人材が同じ方向を向いて仕事をするためには、そのミッションを共有できていることが大切です。賃金や昇進などの報酬に限らず、どんな価値の実現にやりがいや喜びを感じて仕事をするのか。意欲の源泉はそこにあります。

鉄人たちは例外なく他人のために「やり抜く」

──ビッグ・ファイブの重要因子である「真面目さ」を伸ばすためにも、まず「何のために努力するか」を明確にする必要がある、ということですか。

 ペンシルバニア大学の心理学者、アンジェラ・ダックワース教授のベストセラー『やり抜く力 GRIT——人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(ダイヤモンド社)でいう「GRIT=やり抜く力」は、ビッグ・ファイブの「真面目さ」とほぼ同意語と考えられます。同書によれば、どんな分野でも素晴らしいパフォーマンスを実現するのは才能よりも「やり抜く力」で、それは「情熱」×「粘り強さ」だ、と。「情熱」=「興味」×「目的」と定義しています。

ここで著者がたいへん興味深い指摘をしていて、「やり抜く力」の鉄人たちが目指す「目的」とは、例外なく「他人のために役立つこと」だというのです。自分の利益のためだけでは偉大な業績を成し遂げられない。誰かに必要とされるからこそ困難を克服し努力できる。企業のミッションに関しても示唆に富む話です。

鶴 光太郎さん
鶴さんは「偉大な業績をあげる人たちの意欲の源泉は利己だけではない利他的な目的」と語る

──それを目指して個人が「真面目さ」を鍛えるには、まずどんな行動に踏み出せばよいでしょう。

 未経験の新しい分野への挑戦だと思います。趣味でも何でもいいんです。楽器なんて触ったこともないのに練習をはじめてみる。やったことのないスポーツに挑んでみる。年齢も関係ありません。年下の人たちに混じって悪戦苦闘していると、ひどい失敗をして恥ずかしい思いもするでしょう。

しかしそれこそ「学び」であり、先ほど言ったように、かっこ悪い経験こそ人を成長させるのです。かっこ悪く泥臭い体験を重ねることによって、おのずと性格スキルも鍛えられます。「やり抜く力」でチャレンジを続け上達することで、“できる、おもしろい”、“次もやってみよう”となり成長のステップを踏めるのです。

何事もスマートにかっこよくやりたい。いつも人の目を気にしている。失敗して恥をかきたくない……こういう意識がいちばんいけません。大学でも私は学生にはじめ、そう指導しています。

まずは、ちっぽけなくだらないプライドという鎧を取り去れ、と。そうしないと何もはじまらないし、人間的な成長もありません。

「転勤」に代わる性格スキル鍛錬の新たなシステムを

──たとえばチームリーダーを任せられたビジネスパーソンが、どうすればメンバーの性格スキルを伸ばすマネジメントができるでしょうか。

 性格因子であるビッグ・ファイブの資質はメンバー各々で異なりますから、より複雑で困難の量は増えるわけですが、これもやはり「かっこよくスマートにやろう」「リーダーの威厳を示そう」などと考えるべきではありません。

プライドの鎧が強すぎると「それほど力もないくせに」と反感を買い、誰もついてきてくれなくなります。心を開いて、失敗してもいいから地道にやって行こう──そんな姿勢を示したほうがいいでしょう。

それから第一印象として、やはりリーダーには「明るさ」が必須。心のなかでは多少無理して、明るく装ってもかまいません。振る舞いから先に入り、いつのまにかあとから心がついてくることもあるからです。

──企業組織として社員の性格スキルの成長を促すようなアプローチには、どんなことが考えられますか。

 実は、日本的な雇用システムには性格スキルを鍛えるしくみが内在化されていました。たとえば「転勤」。転勤すると、新しい環境のなかで挑戦しなければならないことも多いし、同僚や取引先と新たな人間関係を築かなけれなりません。「真面目さ」や「協調性」「外向性」が鍛えられる可能性が高いのです。

鶴 光太郎さん
「新しい環境のなかで挑戦することによって性格スキルが鍛えられる」と鶴さん

実際、長期に同質な環境で仕事をしている人より、転勤を経験している人のほうが性格スキルが高いという調査結果も出ています。

とはいえ、転勤を含め、職務、勤務地、労働時間があらかじめ決められていない「無限定正社員システム」を見直すのは、いま取り組まれている「働き方改革」の根幹であり、必然的な時代の流れです。

転勤や長時間労働のような旧来の雇用慣行に依存せず、社員にチャレンジの機会を与えるにはどうすればよいか。そうした発想の転換が企業には求められています。

人生を切り拓く「性格スキル」とは──慶應義塾大学 鶴光太郎さんインタビュー(前編)

鶴 光太郎(つる・こうたろう)

慶應義塾大学大学院商学研究科教授
1960年東京生まれ。1984年東京大学理学部数学科卒業。オックスフォード大学D.Phil.(経済学博士)。経済企画庁調査局内国調査第一課課長補佐、OECD経済局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員を経て、2012年より現職。経済産業研究所プログラムディレクターを兼務。内閣府規制改革会議委員(雇用ワーキンググループ座長)(2013〜2016年)などを歴任。主な著書に『性格スキル――人生を決める5つの能力』 (祥伝社新書)、『人材覚醒経済』(日本経済新聞出版社)などがある。


いいね!を押して
Facebookページをフォロー

あしたラボの最新情報をお届けします。

Twitterであしたラボ(@ashita_lab)をフォローしよう!

皆さんの感想をお聞かせください!





  • facebook
  •  twitter
  • RSS

Copyright 2018 あしたのコミュニティーラボ