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“実験都市”実現のために必要なクリエイティブの力──クロスメディアイベント「078」から考える

2018年06月13日



“実験都市”実現のために必要なクリエイティブの力──クロスメディアイベント「078」から考える | あしたのコミュニティーラボ
「まちに住み続けたい、だから自分たちで何かアクションしよう!」。そんな考えをもとに神戸に生まれた「実験都市」というコンセプト。その考えをまちで実現するためにはどのようなアクションが必要なのだろうか。
昨年そのコンセプトとともに立ち上がった「078(ゼロ・ナナ・ハチ)」が2018年4月27~29日の3日間、今年も神戸市で開催された。078で掲げるテーマの1つが「クリエイティブの力」。2008年10月、ユネスコ創造都市ネットワーク・デザイン都市に認定されてから「デザイン都市・神戸」を推進している神戸市だが、今年の078のオープニングセッションにおいて、神戸市長で078名誉実行委員長も務める久元喜造さんは「まちはまだ大きく変化していない」と提言。「駅前に高層ビルができるだけでは十分ではなく、神戸らしさを持ったまちづくりが必要」であると話す。「クリエイティブの力」がまちに加わることで、どんな「実験都市の実装」が起こるのか。078のセッションから探っていく。(TOP画像提供:078実行委員会)

2回目の「078」、メイン会場は6エリアに拡大

2回目となるクロスメディアイベント「078」。メイン会場は東遊園地、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)、関連イベント「COMING KOBE18」開催会場のみなとのもり公園に加え、今年は新たに3エリア(神戸ポートオアシス、メリケンパーク、神戸ハーバーランド 高浜岸壁)が加わった。各所で音楽、映画、IT、キッズ、食、ファッション、アニメという7つのテーマに関するイベントが催され、およそ7万人が集まった。

音楽フェスや学生による簡易健康診断、キッズパークなど、多様なエリアが展開された
音楽フェスや学生による簡易健康診断、キッズパークなど、多様なエリアが展開された

神戸市長で078名誉実行委員長の久元喜造さんは、開会式で078に求めることとして、以下のように述べた。「グローバルな規模で私たちの社会は指数関数的な変化を遂げています。そんななか、未来はどのように変わっていくのか──AIやIoTといった“すでに起こっていること”を飛び越え、それより先の未来を可視化することが、078で必要な大きな視点ではないかと思います」。

神戸市長で078名誉実行委員長 久元喜造さん
神戸市長で078名誉実行委員長 久元喜造さん

神戸市の実行計画「神戸2020ビジョン」のテーマである「若者に選ばれるまち」を背景に、「実験都市・神戸」へと変わっていく試みとして企画された「078」の意義を来場者が改めて共有できた。

開会式の後のメインステージで開催された「オープニングセッション」のテーマは「実験都市・神戸の未来展開〜クリエイティブ思考と完成のつながりがまちを変える」。出演者は久元市長のほか、株式会社ライゾマティクス 代表取締役の齋藤精一さん、神戸大学大学院工学研究科助教/未来道場の祇園景子さん、そしてコーディネーターは神戸大学大学院工学研究科准教授/減災デザインセンター副センター長の槻橋修さんが務めた。

オープニングセッションの様子。写真左から祇園景子さん、久元市長、齋藤精一さん、槻橋修さん
オープニングセッションの様子。写真左から祇園景子さん、久元市長、齋藤精一さん、槻橋修さん

出演者の1人、ライゾマティクスの齋藤さんは、東京理科大学工学建築学科を卒業後、コロンビア大学建築学科(MSAAD)で建築デザインを学んだ。その後もアメリカを拠点に建築家として活動するが、2001年の「アメリカ同時多発テロ」の後に建築プロジェクトが白紙になったり、「あれだけの被害を受けたにもかかわらず建築家たちが『次は何を建てるか?』などを話していたことにちょっと嫌気がさし」、アーティストへと転身。アメリカを拠点に活動するが、2003年に帰国した。その後、フリーランスの活動を経て、仕事上のパートナーだったクリエイター・真鍋大度さんと株式会社ライゾマティクスを設立している。

2006年に設立したライゾマティクスは、アートプロジェクトやインタラクティブ、メディアアート作品などで知られるクリエイター集団だ。設立10周年を迎えた2016年7月からはResearch、Architecture、Designの3部門を設立、新体制のもとで再スタートを切った。アーティストというレンズを用い、まだ世に出ていない問題を発信していく“アート”方面の仕事と、クライアントの問題解決を目指す“コマーシャル”方面の仕事の両面から、R&D活動やクライアントの課題解決を行っている。

クリエイティブは問題解決型と問題発見型の乖離を埋める

齋藤さんは、同日午後に開催されたセッション「実験都市の実装~テクノロジーとクリエイティブが未来を変える~」にも登壇。「まちに対して、デザインやクリエイティブができること」をテーマに90分のプレゼンテーションを行った。

文化都市として世界的に有名なオーストリアのリンツなどを引き合いに、都市におけるデザインやクリエイティブについてプレゼンテーションを展開した
文化都市として世界的に有名なオーストリアのリンツなどを引き合いに、都市におけるデザインやクリエイティブについてプレゼンテーションを展開した

斎藤さん曰く、まちづくりにおいて行政・自治体は「旗振り役」であり、まちのガイドラインをつくる人たち。しかし「この指止まれ」の“指”となる具体的なプランまでつくり上げることは難しく、そのつくる役割を担うのが「民間のデベロッパー」。しかし「行政がデベロッパー主導のもとでのまちを開発していくと、まちは一様に同じものになりがち」と指摘する。

そのうえで齋藤さんは、デザインやクリエイティブには「いろいろなものを“つなげる”力がある」と話す。

株式会社ライゾマティクス 代表取締役 齋藤精一さん
株式会社ライゾマティクス 代表取締役 齋藤精一さん

「行政やデベロッパーのような“まちをつくる側の人たち”は、マーケティング、経済、プランニング、安心・安全、コンテンツ、運営、広告・プロモーション等々、問題解決型の思考をベースとしたあらゆることを考えなければいけない。一方で旧来のデザイナー、クリエイターは、デザイン、エモーション、文化、歴史、機能、環境、ランドスケープ等々を持ち出しながら、まちを“こういうふうにしたい!”と、問題発見型の思考で主張をしだす。すると、2極化した両者の間に大きな溝ができ、関係性は乖離してしまうのです」(齋藤さん)

ライゾマティクスが担っているのは、この「両者の乖離」を埋めることだという。

その事例として紹介されたのが、2012年にオンエアされたauのテレビCM「FULL CONTROL」。CMでは百貨店の屋上から渋谷のスクランブル交差点を撮影。音楽に導かれるように渋谷のスクランブル交差点が人で埋まり、そこにDJに扮したサンタクロースが気球で現れ、スクランブル交差点が多いに盛り上がるという趣旨だ。

歩行者や屋外広告、ビジョンの映像はすべて「CGでつくった」という。“まちをつくる側の人たち”の事情からすれば道路交通法やそのための費用のことを考えなければいけないし「本当に道路を閉鎖することは不可能に近い」。しかしクリエイティブの力によって、道路を封鎖することなく、CMを見た人たちに「本当にまちがこんなふうになるならば」と思わせるに至った。

「“作る・造る・創る”という3つの“つくる”──とりわけ、0から1を創出することのできるデザイン領域の人たちがまちのなかに1人でも多くいれば、実験都市の実装は大きく前進すると思います。だからこそ、行政やデベロッパーの人たちはデザイナーやクリエイターの気持ちがわからないといけないと思いますし、反対に、我々の側も“まちをつくる側の人たち”のことを理解できる存在でありたいと考えます」(齋藤さん)

齋藤さんはそう述べたうえで、さらなる行政への期待として「最近はデザイン・シンキング(デザイン思考)の重要性も説かれているが、考えるだけではだめ。最終的には実践──クリエイティブ・アクションこそが大事」と続ける。

「実験都市においても実践や実装の部分にこれからも期待したい。そのためには行政の側が失敗を許容しなければいけないけれど、神戸はそのポテンシャルが十分にあるまちだと僕は感じています」(齋藤さん)

大人が心から楽しんでいれば、参加者に熱を与える

2日目のメインステージでは「クリエイティブを集める・育てるまちづくり」と題したセッションが行われた。

「クリエイティブを集める・育てるまちづくり」セッションの様子。(写真左から)一般社団法人イトナブ石巻 代表理事 古山隆幸さんと埼玉県秩父郡横瀬町長 富田能成さん、兵庫県西脇市長 片山象三さん
「クリエイティブを集める・育てるまちづくり」セッションの様子。(写真左から)一般社団法人イトナブ石巻 代表理事 古山隆幸さんと埼玉県秩父郡横瀬町長 富田能成さん、兵庫県西脇市長 片山象三さん

登壇したのは、過去にあしたラボでも紹介した埼玉県秩父郡横瀬町の横瀬クリエイティビティー・クラス、宮城県石巻市の一般社団法人イトナブ石巻、そして今年1月14日、兵庫県西脇市で開催された中学生×自治体×地域企業(農業従事者、販売業者等)による共創アイデアソン「ニホンのヘソン」の関係者だ。

「ニホンのヘソン」に参加した学生たち
「ニホンのヘソン」は市の進める「スイーツファクトリー振興事業」の対象である、いちごをテーマにしたアイデアソン。トレードショーの出展企業としても学生たちが主体的に参加し、アイデア展示・説明と体験会で、参加チームのアイデアを来場者に投げかけていた

3つの事例に共通するのは、地域の子どもたちが、地域内外からやってくる「大人」と交流し、社会やまちの課題を発見し、かつ、そのために必要なクリエイティブな解を見つけ、成果を自らが発信しているという点。そして「ニホンのヘソン」のような共創アイデアソンもまた「問題解決型」と「問題発見型」の人間が入り交じるコミュニティーだといえる。そこには、前述の齋藤さんが話す“まちをつくる側の人たち”と“デザイナーやクリエイター”の関係性と同様、両者の乖離を埋め、場を活性化させるような存在が必要となる。

神戸大学准教授で、078実行委員長 藤井信忠さんと株式会社富士通総研 佐々木哲也さん
神戸大学准教授で、078実行委員長 藤井信忠さんと株式会社富士通総研 佐々木哲也さん

モデレーターの藤井信忠さん(神戸大学大学院システム情報学研究科・准教授、078実行委員長)は、その存在こそが「大人」であると提言する。「大人自身がそういう場にいることを心から楽しんでいれば、参加者全員に熱を与えます。ある意味、自分の分身をつくり、他の人を巻き込むことで共感を生み、お互いを認め合う──そんな組織づくりが大事なのではないでしょうか」。

「『若者に選ばれるまち』は、若者に迎合することでは決してなく、色気のある大人がたくさんいて、若者がそういう大人に背伸びしてでも食らいついていきたい──そう思ってもらえるまちだと思っています」。これは、昨年あしたラボで取材した福岡壯治さん(神戸電子専門学校校長、078実行委員)の言葉だ。

トレードショー会場(KIITO)には、多数の企業が出展し、ユーザーの反応をもとに社会実装実験を行った。(写真左から)Pictoneを開発した原田直己さん、あしたラボでも取り上げた看工連携プロジェクトを推進している井上拓也さんと倉田優さん、IoTタンブラーを開発した吉村 智史さん
トレードショー会場(KIITO)には、多数の企業が出展し、ユーザーの反応をもとに社会実装実験を行った。(写真左から)Pictoneを開発した原田直己さん、あしたラボでも取り上げた看工連携プロジェクトを推進している井上拓也さんと倉田優さん、IoTタンブラーを開発した吉村 智史さん

3日間で約7万人を集めた2018年の「078」は来年も開催される予定だが、次回以降も「若者に選ばれるまち」という旗幟のもと、クリエイティブな視座を持つ「色気のある大人」たちがさまざまな実験を仕掛けていくことだろう。これからもあしたラボでは「078」と神戸市による「実験都市の実現」を追いかけていきたい。


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